ネット句会報2014年5月

 

天為インターネット句会2014年5月分選句結果 (作者名の後ろの点は互選点)
 ※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。また互選句は高点句から順に、同点句は句稿番号順に並べました。

<日原傳編集顧問選特選句>

古書店にラジオ流るる昭和の日  根岸三恵子  (2点)

古書店の姿が変わりつつある。チェーン店が増え、ネットで古本を買うことも多くなった。扱う分野を絞って独自性を出す古書店も増えた。掲句は昔ながらの雰囲気を感じさせる古書店。「昭和の日」という季語がいい意味で付いている(傳)

 

田の神の祠に神酒と桜餅  上川美絵

田圃の一画に設けられた小さな祠。折々にお供え物をして、稲の豊作を祈るのであろう。祠の周囲に広がる耕された土の色。そのなかに置かれた桜餅の色が印象に残る(傳)

<日原傳編集顧問選入選句>

どくだみの白き十字や無言館  町野敦子  (7点)

中七の白十字に引かれました。(編人)

戦没画学生の美術館(無言館)とどくだみの白き十字の表現が心を打つ。(芳彦)

戦禍に散った画学生を悼む情が伝わる。(閑生)

 

つばくらめ子は笛の譜をさらひたる  明隅礼子  (4点)

御子が帰宅後、音譜を広げ 自発的に笛の練習をしている…優れた資質をもった少年の すくすくと成長されているご様子が微笑ましくも頼もしい。季語も相応しい(かをるこ)

 

敦煌の夏空深く飛天舞ふ  齊藤昭信  (3点)

夏空深くの季語がとても良い。(貞郎)

 

鶯のはや正調や戻り道  熊谷秀章

鶯も鳴き方を学習しているのです、その進歩は意外に早い。(貞郎)

 

象つなぐ鎖がらりと木の根開く  小橋柳絮

 

<互選句>

生き生きと水になりきり白魚かな  和田仁  (6点)

白魚をよく見ていましたね。作者の強い思いとよろこびから思わず中七と下五の間に切れを入れてしまわれたのでしょうね(繁)

水になりきってかえって白魚の存在がみえる。生き生きが良いと思います。(せつ)

 

潮鳴りや画布に波打つ春の海  和田仁  (5点)

ラウル・デュフィの奔放な明るい海辺の絵画を思い浮かべる。(柳絮)

 

蝦夷の湖万の帰雁の憩ひをり  西野編人  (5点)

北へ帰る雁の群れ、無事な旅を。(美代子)

まずこの大景を見たいと思いました。たぶんシベリアへ帰って行く何万もの雁が中継地点である湖でしばし羽を休めている。安堵しているのでしょう。(真弓)

 

よなぐもり針の回らぬダリ時計  渡部有紀子  (5点)

イラつく状況が推察されて面白い。(豊)

ダリの絵画「記憶の固執」の止まったままの時計。その時計とよなぐもりのどんよりとした空、春の気だるさを感じさせる。(ユリ子)

 

幽玄と無限の闇や薪能  髙橋紀美子  (4点)

幽玄は藤原基俊より日本の美観の基準であり永遠の価値観でもある。(柳絮)

 

母の日やいつも履かない靴を履く  佐藤武代  (4点)

日頃は大切にしまっている靴を、母に会うので気持ち嬉しく弾んでいる様子が微笑ましい(強)

普段履きではないおしゃれな靴、子に感謝をしているのでしょう。(赳夫)

母の日のプレゼント少し派手目かしらと思いながら・・・(小夜子)

 

古書店のあるじも居らぬ目借時  阿部旭  (4点)

いかにも目借時の、、、、古書店が相応しいですね!(美代子)

古書店がおもしろい(赳夫)

 

漁労具の鋭き矢尻燕来る  竹田正明  (4点)

鋭い矢尻がつばめの姿形と相まって表現に力を与えている。(ユリ子)

 

卯浪立つベンガラ美しき六角堂  髙橋紀美子  (4点)

震災後に再建された六角堂。白い波とベンガラのコントラストが美しい。時事的に読めば、「アジアは一つ」という岡倉天心の言葉が思い起こされる。日本人として美しくありたいものです。(秀平)

 

夕映えに田水の染まる暮春かな  荒川勢津子  (3点)

 

杜子春の碑にかたまつて菫草  鈴木楓  (3点)

杜子春の故事と可憐な菫草が重なり、雰囲気を作り出している。(ユリ子)

 

晴れをんな仲間に入れて野に遊ぶ  上川美絵  (3点)

 

長安の朝の鐘の音燕来る  董?  (3点)

清々しい朝の感じが燕来るで一層感じられます。(せつ)

 

花冷えや漆喰壁を塗り重ね  安光せつ  (3点)

春の浮き立つ気分とは無縁の黙々と働く職人の姿が目に浮かぶ。(閑生)

 

ふっくらと土耕して空仰ぐ  片山孝子  (3点)

「ふつくらと」に耕人の農に対する深い感謝と思いが秘められ、下五の修辞が満足感と同時に先行きに対する不安を的確に物語り、一句の完成度を高めています(繁)

 

片割れに片割れ重ね桜貝  山下閑生  (2点)

 

別れ来てさくら吹雪を浴びてゐる  熊谷かをるこ  (2点)

 

敦煌の白き豆粥薄暑かな  斉藤輿志子  (2点)

敦煌という場で豆粥の白さと薄暑を結びつけた感性が素晴らしい。(閑生)

 

天水の底が吾が世や蛙の子  原豊  (2点)

水田の中で育つことの多い蛙の子。景の大小をうまく表現。(編人)

 

千鳥ヶ淵亀の纏へる花衣  石川由紀子  (2点)

 

聖五月ストレイシープの白き雲  鈴木楓  (2点)

ストレイシープと白き雲取り合わせがよい。(芳彦)

けだるさの中から引き上げてくれる救いの手が差し伸べられるのでしょう。(真弓)

 

歯を持たぬ蛤口をあけしまま  小橋柳絮  (2点)

「歯を持たぬ」はまさに言葉の芸術。写生とは一味も二味も違います(繁)

 

遠き日に兄に貰ひし桜貝  加茂智子  (2点)

「遠き日」がすべてを締めくくり、兄に貰ったことが美しく詠まれています(強)

 

卯の花や未だ想ひの残る日々  西野編人  (2点)

卯の花の咲く夏になったものの大震災から三年、未だに悲しみが残る日々であることよと、読みました。(赳夫)

夏の初め何があったのでしょうか?(小夜子)

 

蘆若葉亀も集ひて甲羅干し  加茂智子  (1点)

我が家の近くの万葉の浦辺によく見ます。(編人)

 

琅?の沼を舞台に蝶の昼  早川恵美子  (1点)

美しい句です。(芳彦)

 

幟立て戦国の武威呼び戻す  内藤芳生  (1点)

 

陽炎の中へ紛るる牛の影  竹田正明  (1点)

 

余花の道板碑に見ゆる合戦日  満井久子  (1点)

古戦場にある板碑でしょうか、余花が身に沁みますね。(美代子)

 

陽に割れて真紅の牡丹風が揺る  關根文彦  (1点)

 

縄跳びの大波小波藤の波  安藤小夜子  (1点)

 

鶯と朝練の声それぞれに  上脇立哉  (1点)

鶯は美しい音色を聞かせ、生徒達は鶯の声に耳を傾ける余裕もなく練習に励んでいる。交わらない所がおもしろいです。(真弓)

 

逃げ水やフォッサマグナを横切れり  山下閑生  (1点)

 

長安を囲む城壁凧日和  董ろ  (1点)

 

シャガールの夕暮れ時の春の「月」  浅井貞郎  (1点)

シャガールは、通常は幻想的な青色の空が特色ですが、春の夕暮れの月にもってきたところの表現が良いと思われる。(強)

 

大時計止まりしままの春の寺  西脇はま子  (1点)

 

聖堂の鴟尾高々と夏近し  根岸三恵子  (1点)

 

春風や靴音高き銀座角  菅野強  (1点)

下五の銀座角で頂きました。(麻実)

 

真白なYシャツまぶし入社式  内藤繁  (1点)

 

常緑の参道抜けて花の径  柴﨑万里子  (1点)

 

松の芯玉砂利光る京都御所  森山ユリ子  (1点)

 

初夏や焼きたてパンの食べ放題  佐藤武代  (1点)

新緑の街に焼き立てパンの香りが。食欲をそそります (紀美子)

 

処方さるる散薬にがし昭和の日  満井久子  (1点)

 

春驟雨打つ椅子にある赤電話  妹尾茂喜  (1点)

 

花冷えや大涌谷の黒玉子  永井玲子  (1点)

 

桜蕊踏みつ母校のチャイム聴く  荒川勢津子  (1点)

 

その船に赤子の見ゆる花見かな  明隅礼子  (1点)

「赤子」が印象的です。(和弥)

 

菰巻きを解けば血の色牡丹の芽  芳賀赳夫  (1点)

牡丹の新芽を「血の色」とは ショックですが…やがて満開の牡丹が妖しいまでに華やかで美しく 観るものをやや不安定な心地にさせることから この表現に納得 (かをるこ)

 

句に逢ひに句友に逢ひに青田径  内藤芳生  (1点)

季語青田径がきいています。(貞郎)

 

花筵海を眼下に一の宮  荒木那智子  (1点)

 

家康の諸手広げし楠若葉  あさだ麻実  (1点)

若き日の家康公を思います。(和弥)

 

春雨や枝に点点粒となり  齋藤みつ子  (1点)

春雨を良く写生してますね。点点粒となりの表現気に入りました。(麻実)

 

マカロニグラタンは昭和の匂ひ朧月  中川手鞠  (1点)

戦後、マカロニグラタンとコロッケとハンバーグそして中村屋の肉まんまさに昭和の匂いでした。(小夜子)

 

ハミングの零るる日和青き踏む  芳賀赳夫  (1点)

 

シヤガールの乳牛ふはり春の雲  永井玲子  (1点)

ステキな景です。(和弥)

 

クローバー満ちて聖鐘正午告ぐ  須田真弓  (1点)

 

カラヴァッジオの部屋小走りに春の闇  熊谷佳久子  (1点)

ルーブルでしょうか。カラヴァッジオの凄惨の絵画が並んだ部屋は足早に観たことを思い出しました。 (紀美子)

 

カエサルの借金ほども花ミモザ  小高久丹子  (1点)

 

おぼろ月ルナールの蝶出て舞へり  荒木那智子  (1点)

印象派光の讃歌のやわらかい幻想的な浜辺の風景が見えてくる。(柳絮)

以上

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