天為ネット句会報2016年9月

 

天為インターネット句会2016年9月分選句結果

(作者名の後ろの点は互選点)
 ※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。また互選句は高点句から順に、同点句は句稿番号順に並べました。
 ※一部インターネットで表示できる文字に置き換えております。ご了承ください。

<日原 傳 編集顧問選 特選句>

銀漢や端は黄河の澄むあたり              瀬尾柳匠   (5点)
 中国の北部、黄河の流れる地方を旅し、銀河を仰いで想像をたくましくしているのであろう。黄河の流れは大昔にはもっと澄んでいたという。黄土高原からの水土の流失が黄河の含砂量を増やし、名の通りの濁った河となった。現在でもその源流の方を尋ねると清らかな流れに出会えるという。銀漢の端が懸る黄河上流の水は澄んでいることであろうと思いを馳せる。大きな句である(傳)。

 空間の広がり上手に表現している。(豊)

 銀漢と黄河の取り合わせ。スケールの大きな景。「澄むあたり」の表現が巧み。(ユリ子)

 雄大で素敵です(恵美子)

浪に入る亀ひとすじに月の浜              早川恵美子  (1点)
 海亀が産卵を終えて海に帰ってゆく姿を詠んだ句であろうか。今まさに海の浪に身を任せようという瞬間。背後の砂浜には海を目指して歩んできたひとすじの足跡が残り、そこに月光が差している。神々しい光景が想像される(傳)。

<日原 傳 編集顧問選 入選句>

長き夜の星に生死のある話               鹿目勘六   (14点)
 秋の夜長には気の遠くなるような宇宙の話はぴったりです。(泰子)

 昔々46億年前、太陽は生まれたそうな。太陽系銀河には兄弟星が2000億個ある。地球から見える星は8600個。あと50億年すると太陽は膨張して地球を融合し、赤色巨星となり、死ぬ。―おや、長き夜に星の命を尋ねた子はもう寝たよ。(茂喜)

 星にも生死はある。この長い話しをするには、長き夜が合っている。宇宙の壮大なロマン~(文)

 星の話をするにはぴったりの季語長き夜で頂きました。(麻実)

青空をぐいと押し上げ立葵               和田仁    (4点)

簾巻き大きく容るる富士の影              内藤芳生   (3点)
 清少納言の香炉峰を思わせて簾を巻くと富士の影が雄大です。(泰子)

肩に来てわれと眼の会ふ赤蜻蛉             土田栄一   (3点)
 小さな赤とんぼとどんなお喋りをなさったのでしょう。(明)

千字文の残り十文字秋の夜               満井久子   (3点)
 一つの事を成し遂げる努力に拍手 (豊)

桐一葉まだ明けきらぬ屋敷町              中川手鞠   (2点)
 静かな街散歩したくなりますね(みつ子)

さはやかや白磁に藍の花クルス             石川由紀子  (2点)

ひもすがら魯迅旧居の秋灯               荒木那智子

<互選句>

名月や十字架(クルス)の影を地に放つ          原 豊    (6点)
 伝統の風趣で巧みに味付け。中七下五の把握--キャラが立っています。静逸な情景がよく見え素敵です。(仁)

 名月がクルスを照らしその影が地に映っていたという。平凡だが清々しい光景。(芳彦)

 名画の素材みたいですね。じんと来ました(恵美子)

小指まで跳ね四辻の祭足袋               江原文    (6点)
 小指まで跳ね・・・・若さと勢いを感じ頂きました。(麻実)

これよりは継ぐ人の無き墓洗ふ             中川手鞠   (6点)
 故郷は遠くにありて思うもの… 今日、樹木葬とか散骨を考えるわが身に重ね感慨深い一句です(温子)

 子規は仰臥漫録のなかで「戒名などはなくもながと存候、自然石の石碑はいやな事に候」と言っている中七「継ぐ人の無き」が子規の遺言を象徴している。(貞郎)

金秋に映ゆるイコンや聖母像              佐藤律子   (5点)
 聖母像が映えていたという如何にも金秋らしい。(芳彦)

 イコンの聖母像は金泥で描かれて輝いているものが多い。「金秋」の季語によく合っていると思う。(ユリ子)

 幾多の奇跡の伝承を持つ「ウラジミールの聖母」を思い浮かべる。(柳絮)

介護十年阿修羅の住みて夏果つる            齋籐みつ子  (5点)
 親であれ、連れ合いであれ、病状が悪化して行くばかりの人の介護は心身ともに大変だ。長い介護で阿修羅と思えるようになったのは、介護される人か、介護する人の心に育ってきたものか(勘六)

御師宿の朝も夕も新豆腐                佐藤博子   (4点)
 伊勢御師を宿泊接待する農家の風土に根ざした飾らぬ信仰心。(柳絮)

 御師宿の素朴な感じが新豆腐でよく出ていると思います。(泰子)

啄木鳥や絵本館への森の道               森山ユリ子  (4点)
 絵本館への森の道、もう絵本を見ている様に思います。(孝子)

 森の中にある絵本館という夢のたくさん詰まった建物へ向かっている作者。しかもその耳には心地よい啄木鳥のドラムの響きが聞こえている。(明)

抽斗に千枚通し子規忌かな               浅井貞郎   (4点)

新涼や鴉の羽根の芯は白                渡部有紀子  (3点)
 よく鴉の羽根が抜け落ちていることがある。作者は鴉の真っ黒な羽根の付け根のところだけが、白いことを見逃さなかった。如何にも新涼の感じられる一句です。(はま子)

蟻よりも黒きものなき真昼かな             明隅礼子   (3点)
 夏の真昼に動くものはと見れば蟻だった。地べたを見ていないと考え付かない句だと思う。(柳匠)

 夏の昆虫の代表選手、働きものの蟻の存在感が、黒々と印象強い。(はま子)

エフェソスの女神色なき風の中             鈴木 楓   (3点)
 エフェソスのアルテミス神殿の豊穣の女神を吹き抜ける時の流れの色なき風。(柳絮)

落し水明日香の奇岩すり抜けて             今井温子   (3点)
 明日香には奇岩もあろうと想像でき、落し水の景がより具体的に浮かんできます(律子)

 古代からの変わらない景が目に浮かびます。(博子)

孫六の全霊で切る大南瓜                小野恭子   (3点)
 切れ味の良い包丁を持ってしても、大南瓜だから手強い・・でもさぞ美味しいことでしょうね。(博子)

送り火の先はさそり座白鳥座              安藤小夜子  (3点)
 星空へご先祖様が帰ります。尤も最近は田舎でも星座が見えない、、、せめて句でロマンを。(志昴女)

 死ねば星になる。それは生前の行いや人柄に相応しい星なのだろう。お盆に帰って来た魂は、果たしてどの星に帰って行くのだろう。死んでも生前の因果応報から救済されないのか(勘六)

 魂が星々に還っていくような物語を感じます(恵美子)

幼子の風捕まへて補虫網                瀬尾柳匠   (3点)

母ひとり子ひとり咲きて水中花             相沢恵美子  (3点)
 母と子二人の単調で淋しい生活。普段は言葉を交わすことも少ない。そのような暮らしに水中花が色彩と季節の変化を齎してくれた。母子の心を繋ぎ、二人の生活を見守るように(勘六)

塹壕の語り部百合の花白し               髙橋紀美子  (2点)
 戦争を語り継ぐ人もいよいよの高齢、塹壕の言葉も風化してしまいそうな思いで胸が痛くなります。楚々とした百合の花の白さに救われました。(温子)

 s20年6月27日沖縄忌、女子学生2百数10名の御霊を祀ったひめゆりの塔、季語「百合の花白し」が効いています。(貞郎)

軒先に並ぶ錆釘赤とんぼ                石川由紀子  (2点)
 古い軒先から浮き出た錆釘に赤とんぼが止まっている。懐かしい。風物詩。(はま子)

空蝉や死しても子らに好かれをり            高橋雪子   (2点)
 空蝉を手にした子の周りに、大勢の子供たちが集まって話している様子が浮かんできます。(孝子)

駄々っ子が泣ひてるやうに蝉時雨            齋籐みつ子  (2点)
 猛暑の今年、蝉時雨の声も泣いている子供の様に感じる夏でした。(孝子)

 駄々っ子が夏を惜しんで鳴く蝉時雨にマッチしています。(豊)

青鬼灯一合を砥ぐ手暗がり               芥ゆかり   (2点)
 一合を研ぐ手暗がり~この中七と下五で生活と、人生の匂いを感じる。一合と言う米の量も良い。青鬼灯の季語が効いています。(文)

秋めくや湖畔の木椅子時を止め             原 豊    (2点)

セピア色の記念写真や敗戦忌              森田まこと  (2点)
 敗戦忌・・・・・さらりと戦争反対を表現しているとこがいいですね。(麻実)

カリヨンの響く武蔵野秋あかね             根岸三恵子  (2点)

祥月や水滴光る白紫陽花                片山孝子   (2点)
 故人の好きだったお花を供え、中七の措辞で癒されていくような情景を感じました。(博子)

白檀の小さき三尊涼新た                佐藤律子   (2点)
 メンタルな重み、深みを題材の奥底に秘めた一句。清新な季語「涼新た」との取合せが効果的。この感性・・修練の賜か。簡潔に無駄なく響き合っています。(仁)

 静かに手を合わせたくなります(みつ子)

這ひのぼる夏蚕の熱気曲り屋に             江原文    (2点)

箒目に青きムクロジ深大寺               荒川勢津子  (2点)
 ムクロジは「無患子」と書き、亡き骸に通じる。ここは調布市の深大寺境内。作者は落下したムクロジの緑の実を見つけ、空を仰ぐその実に命のはかなさを重ねた。枝のムクロジはやがて黒い実となり数珠や羽根つきの球になる。(茂喜)

水引草水車の回はるそば処               根岸三恵子  (1点)
 信州のそば処には水引草がよく生えていて可憐。水車が回っているのは珍しく、情景が美しい。(ユリ子)

夏座敷足裏踏みしむ青畳                嶋田夏江   (1点)

みづうみの青を思へり夏料理              明隅礼子   (1点)

西向きの窓を守りて青ぶだう              土屋尚    (1点)

手入れ良き並木の街や小鳥来る             土屋香誉子  (1点)

磐を這ふ岩魚太古の飛沫浴び              小橋柳絮   (1点)
 太古の飛沫という表現は面白いと思います(律子)

世に一歩二歩も遅れて茱萸の酒             内藤繁    (1点)

覚悟ある言葉の重さ終戦忌               岡崎志昴女  (1点)
 毎年8月15日になると戦後生まれの我々も未来へ責任を持たなければとの思いが強くなる。まさにその覚悟を問うた句。(柳匠)

炎ゆる陽のまっくらに消え蝉死せり           關根文彦   (1点)

晩夏光ブリキ看板錆びしまま              佐藤武代   (1点)

シニアグラスシャンパン色に今朝の秋          小高久丹子  (1点)
 中七「シャンパン色」。詩的パンチが効いています。シニアになろうが、そのロマンチシズムまたはポエムをしっかりキープ。人生、まだまだ・・・。(仁)

啄木の憩ひし浜辺鳥渡る                竹田正明   (1点)

風の譜を奏づる如き虫の声               竹田正明   (1点)

泣き虫が一番でかい蝉捕ふ               和田仁    (1点)
 良かったね~もう泣かないね!(志昴女)

銀杏散る博物館に窓あまた               渡部有紀子  (1点)

杳杳と上る朝日に秋の波                嶋田夏江   (1点)
 杳杳と、という形容がよく合う秋の海から見る朝日でしょうか、大きな広がりのある句だと思います(律子)

新涼やオルガン坂に灯がともる             あさだ麻実  (1点)
 オルガン坂に灯がともり如何にも秋。(芳彦)

露けくも「仰臥漫録」未完なり             浅井貞郎   (1点)
 子規忌9月19日。享年34。子規は新聞『日本』に「仰臥漫録」を掲載した。明治34年9月・10月はほぼ毎日書き、中断の後、翌年6月・7月には「麻酔剤服用日記」を書いた。9月18日に容体悪化。子規は未完の大器となった。(茂喜)

片腿をはづし飛蝗の黙思かな              妹尾茂喜   (1点)
 沈思黙考。そうか、飛蝗よ、お前もか。(志昴女)

ギヤマンの灯の屈折や江戸古地図            小橋柳絮   (1点)
 灯の屈折を持ってきた事で江戸古地図の内容ありようが見えてくる。(文)

台風の進路指導の難しく                早川恵美子  (1点)
 昨今の台風の進路予想は困難。それを進路指導という言葉に置き換え軽いユーモアを添えた句。(柳匠)

空壜の流がるる朱夏の黄河かな             西脇はま子  (1点)

土器投げ一瞬の夢秋立つ日               満井久子   (1点)

一筋の煙霧は天に麦の秋                松山芳彦   (1点)
 広大な麦畑の一角で野良仕事に励む人々の光景でしょうか。どこまでも続く欧州の青空と麦畑を思い浮かべました。(明)

よさこいの踊浴衣の婆娑羅かな             佐藤博子   (1点)
 婆婆羅(ばさら)は平安時代の雅楽、舞楽の分野で自由な演奏法の事で現代では派手さが本義、よさこいにぴったりの季語浴衣ですね。(貞郎)

おしろいや沈黙深き六条邸               松浦泰子   (1点)

蠹魚一つなき高麗王の系譜かな             西脇はま子  (1点)

朝月や実柘榴の笑む庭に立ち              室 明    (1点)

<以上>

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