天為ネット句会報2017年4月

 

天為インターネット句会2017年4月分選句結果

(作者名の後ろの点は互選点)
 ※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。また互選句は高点句から順に、同点句は句稿番号順に並べました。
 ※一部インターネットで表示できる文字に置き換えております。ご了承ください。

<対馬 康子 最高顧問選 特選句>

なつかしき人の靴音春の道           髙橋紀美子   (3点)
家族の帰宅の靴音は聞き分けることができる。「無事に帰ってきたな」と思う。 この句の靴音は亡くなった人のまぼろしの音だろうか。
柔らかな日差しあふれる春の道は、知らぬ間にそうしたなつかしい人と一緒に歩いている道なのかもしれない。(康子)

冬の間ずっと聞く事の無かった靴音が聞こえて来ました、コツコツでしょうか、春に成ったのだなぁと喜びが溢れていると思います。(孝子)

いつぞやの歌謡のワンフレーズ。メロドラのト書にして懐旧の一行。やすらぎの詩空間。そして希望。そして喝采。(仁)

寒い冬の間会えなかった人との再会。靴音でそれとわかり、作者の嬉しさが伝わります。(明)

やまあららぎ真っ暗に日本海流る        關根文彦
白い辛夷の花と漆黒の日本海の対比が何か象徴性をもたらす。 夜にあってなお白く際立つ辛夷の花が、隣国と接する日本海を、そして日本という国の行く末を照らす灯台のようである。「アララギ」という音が短歌結社誌を思い起こすことも、情感を広げている。(康子)

<対馬 康子 最高顧問選 入選句>

叱られてゐてもあまえる仔猫かな        土屋香誉子  (8点)
猫は可愛い。特に仔猫は愛しい。それは無垢な目とあどけない動作の故だろう。母猫より別たれた仔猫には、飼い主が母親なのだ。その母親に怒られても、甘えられるのは飼い主だけなのだ。(勘六)

平易な表現だが猫のかわいらしさと作者の愛情がよく出ている(美春)

子猫の愛らしさが十二分に表現されていると思います。(博子)

高麗川の響き美し雛の家            西脇はま子  (5点)
雛壇を飾っている家の周りののどかな景が見えて来て、きれいな高麗川の響きも聞こえて来ます。(相・恵美子)

声に出しても美しい句だと思います。季語の雛の家がまたがいいと思います(律子)

靴箱に小石を残し卒業す            竹田正明   (4点)

雀の子ヒマラヤ杉は腕ひろげ          荒木那智子  (3点)
ヒマラヤ杉の枝の広がりは雀さんの為にあったのですね。優しさの溢れる句です(早・恵美子)

千の風棲みつく万の犬ふぐり          鹿目勘六   (2点)
広々とした遊水池にわたりくる様々な春の風。土手には果てしなく犬ふぐりが広がっています。(明)

山雲の渓へ流るる木の芽かな          内藤芳生   (2点)

百千鳥銅鏡沈む池の底             髙橋紀美子  (1点)

佐保姫の糸の薄衣香のほのか          松山芳彦

死を凌ぐ子規の宝塔春惜しむ          浅井貞郎

真つ先に瀧へ近づく春手套           明隅礼子

<互選句>
自動ドアするりと抜けて猫の恋         和田仁    (7点)
するりと抜けてが大変巧みです(柳匠)

外で鳴いている猫の声につられて素早くドアを出て行った猫の様子が思い浮かびます。(相・恵美子)

都会の猫をよく表現していると思う。(ユリ子)

きっと現代っ子の猫、恋も打算的かな! (文)

朧夜や副葬品の青き石             明隅礼子   (5点)
どんな遺跡だったのでしょうか、副葬品の青い石はヒスイだったのでしょうか。朧夜の季語が生きています。(志昴女)

朧夜と青い石の取り合わせにどんな物語があったのか・・と、ロマンを感じます。(博子)

少年の言葉少なし黄水仙            安藤小夜子  (4点)
少年の生命への不安・愁思と未来への希望・野心とが複層・混在した内面世界を巧みに捉えている。メンタルな美学が心地佳く響く。(仁)

あふれけり焼き蛤の含み潮           小野恭子   (4点)
焼き蛤が焼けて、美味しそうな汁があふれ出る様子、良く出ていると思います。(孝子)

蛤を焼いていると含み潮が溢れ出て来た。素朴な観察がよい。(芳彦)

今まさに焼き上がる蛤の美味しさが滲み出ているようです(早・恵美子)

闇を解く魚板の一打春惜しむ          原 豊    (4点)
まだ暗い春の朝、合図の魚板が寺内に響き厳しい修行の一日の始まりです。春惜しむで闇が柔らかくなるようです。(泰子)

白木蓮同窓会報第一〇〇号           小高久丹子  (4点)
同窓会の会報が百号を迎えた。白木蓮の措辞からすると女子校の同窓会か。会報が発行されるのは年に一回程度とすると会は百年を迎えたことになる。会と会員の発展を願う気持ちが込められている。(勘六)

会報100号ならば、毎年刊行しても第1号は大正のはじめだ。卒業生の交流に努めてきた編集部に敬意を表する。白く分厚い花弁が青空に向かって開く木蓮の景から、すがすがしい同窓生のつながりを思う。祝会報百寿。(茂喜)

啓蟄や日差しを配る花時計           原 豊    (3点)
日差しを配ると言う表現が巧みです(柳匠)

花時計が日差し配っているこれが啓蟄であると言ったところが細やかな配慮があり、優しさがある。(芳彦)

鳥帰る村に真っ直ぐ続く道           江原文    (3点)

隅に貼るさくらの切手西行忌          渡部有紀子  (3点)

明日に蒔く花種今宵の深眠り          和田仁    (3点)
どんな花が咲くのでしょう?深い眠りを満喫した素敵な花です。(文)

春あけぼの清少納言の細き文字         内藤繁    (3点)

清明の戸を開け放つ仏間かな          嶋田夏江   (3点)

ふらここや大きくふくらむバブルガム      石川由紀子  (2点)
「ふらここ」「バブルガム」の取合せの効果か。春の解放感が良く伝わって来る。軽快に生きよ!とのメッセージか。(仁)

バブルガムが効いていて光景が浮かび、気持ちまでふくらみました(律子)

シジフォスの据えし大岩鳥曇          小橋柳絮   (2点)

目借時田守の神に銭一つ            阿部旭    (2点)

紫雲英野や摘んだ紫雲英を持て余す       中川手鞠   (2点)
興に乗って摘んでしまった紫雲英の花、子供の頃なら花飾りを作ったけれど、、、(志昴女)

一面の紫雲英野の美しさに思わず積み、さてどうしようかなと持て余す様子ですね、子供の頃は輪にして編み、髪に飾りましたよ。(孝子)

動物と生きると決めて入学す          佐藤武代   (2点)

読み進む久女の伝記春疾風           室 明    (2点)

佐保姫の蝶の出で舞ふ三笠山          松山芳彦   (2点)

貝母咲くまだ捨てられぬ妣のもの        佐藤武代   (2点)
母上が亡くなってからもう何年もたつのに遺品整理が出来ない、分かります、母上を愛しておられたのでしょう。(志昴女)

小さき窓花ひとひらの通り道          佐藤律子   (2点)

三代の女ばかりの花見かな           上脇立哉   (2点)

みすゞ忌の蝶に羽生え日を歩む         關根文彦   (2点)
アゲハチョウは、越冬した蛹から成虫が出て、7日間の光の中で一生を閉じる。蝶のきらめきに、童謡詩人金子みすゞを重ねたのがうまい。西条八十に絶賛されたみすゞは昭和5年3月に夭折した。500編余の詩が残った。(茂喜)

門前に鬼太郎茶屋や桜東風          武井悦子   (2点)
東風が吹くころ、東京・調布市の深大寺は賑わう。門前に鬼太郎茶屋がある。その街に永く住んでいた漫画家・水木しげる氏の「ゲゲゲの鬼太郎」に由来する。境内には、芭蕉、虚子、草田男、波郷など多くの句碑がある。(茂喜)

春雷や天井低き子の住まひ          小野恭子   (2点)

金文字の名入り鉛筆春を待つ         中川手鞠   (2点)
新一年生の入学に鉛筆に金で名前を入れてお祝いにいただいたのでしょう。弾むような希望を感じます。(泰子)

白毛女踊らむ風の雪柳            早川恵美子  (1点)
白毛女の長い白髪と雪柳がよくマッチしてイメージを広げていると思います。(ユリ子)

夜の新樹ピアノ二台のImprovisation     杉美春    (1点)
2台ピアノのジャズセッション!客席と演奏者が一体となった、濃厚でお洒落なひと時が繰り広げられたことでしょう。いいなぁ!一緒に弾きたいです(早・恵美子)

都府楼址礎石の窪の花の塵          内藤芳生   (1点)

花咲くや遥かセーヌの風の筋         妹尾茂喜   (1点)
花の頃、遥かに流れているセーヌ川ののどかさが心に響きます。(相・恵美子)

初花の一枝翳せるスカイツリー        相沢恵美子  (1点)

ひたむきに降りて積らず雪の果て       鹿目勘六   (1点)
ひたむきに降っても積もらないのが春の雪上手いです(柳匠)

一汁一菜明治は遠し啄木忌          土田栄一   (1点)

”月影”の名の梅にして白一重         岡崎志昴女  (1点)

春めくや貸農園の抽選日           満井久子   (1点)
「貸農園の抽選日」といっただけですが、「春めく」により抽選に当たるかどうかのどきどき、わくわく感が伝わってきます。当たるといいですね。(清文)

月島に路地裏多し春の泥           土田栄一   (1点)

復元の石棺の朱や蓬生ふ           今井温子   (1点)

花粉症五百羅漢の顔崩れ           内藤繁    (1点)
五百羅漢がひどい花粉症なのか、花粉症のひどい作者に対して五百羅漢の顔が崩れたのか、どちらにしても面白いと思いました(律子)

弾かれないピアノの上の小さき雛       中村光男   (1点)

女神とも思へる弥生の阿修羅像        阿部旭    (1点)

茎立ちや老父の畑の土笑ふ          岡崎志昴女  (1点)

競りあふて窓にぶつかる恋の鵯        土屋香誉子  (1点)
ひよどりが争っているところ。雄同士なのでしょうか、景が見えます。上五はウ音便になると思います。(清文)

若葉風椅子に沈みて読む便り         安藤小夜子  (1点)

緋連雀寄せて高尾の八重桜          土屋尚    (1点)

春泥の近道覚ゆるランドセル         満井久子   (1点)

ペダル漕ぐ脚陽炎の中より来         相沢恵美子  (1点)
陽炎と言う彼岸の彼方から自転車が来る。その定かならざる景色の中でペダルを漕ぐ脚が異界を超えて此岸に来ようとしている。脚にこの世に戻ってこようと意思と現実感がある。(勘六)

霾や観世音寺の鐘の声            松浦泰子   (1点)
観世音寺は福岡県太宰府市に立ち、日本最古の鐘がある。天智天皇時代の寺で中国からの渡来の跡もありそうです。季語がふさわしい。
(清文)

波高し比良八荒の山の宿           浅井貞郎   (1点)

パンドラのからつぽの箱花曇り        石川由紀子  (1点)

凧揚げのその先にある昼の月         中村光男   (1点)
ぴんと糸をはって大空高く上がっている凧の力強さと春の消えんばかりの薄い昼月の対比が面白いと思います。(明)

にはとりがにはとり追ふ春の庭        岩川富江   (1点)
春の庭の暖かくのんびりとした故郷の風景~(文)

花ぐもり六角堂の鳩太る           佐藤博子   (1点)
花ぐもりとふっくりと太った鳩がよく似合って、春ののどけさを感じました。(ユリ子)

柳生へと続く峠のわらび餅          今井温子   (1点)
峠の茶屋のわらび餅のほんのりとしたきな粉の甘味が疲れを癒します。奈良はわらび粉の名産地です。(泰子)

花冷えや縁切寺の石仏            竹田正明   (1点)

ひもすがらそぼ降る雨や山茱萸黄       荒木那智子  (1点)
終日雨がしとしとと降っている。そこに山茱萸の鮮黄色の小花が咲いている。情景が見えて来る。(芳彦)

花冷えや身にこたえきて又素顔        片山孝子   (1点)

ボブディランの歌詞読み返す遅日かな     土屋尚    (1点)
ボブディランの心情を汲み取ろうとする気持ちが季語にこめられていると思います。(博子)

以上

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