天為ネット句会報2017年9月

 

天為インターネット句会2017年9月分選句結果

(作者名の後ろの点は互選点)
 ※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。また互選句は高点句から順に、同点句は句稿番号順に並べました。
 ※一部インターネットで表示できる文字に置き換えております。ご了承ください。

<日原 傳 編集顧問選 特選句>

鬼の子を月に吊りたる神の杉          早川恵美子   (10点)

「鬼の子」は蓑虫。神木の杉の枝から垂れているのを月明りのなかで発見した。「月」と「神の杉」を登場させ、小さな蓑虫の姿を堂々と歌い あげた (傳)。

神の杉の存在が如何に雄大であり見えないものがそこに見える表現がすばらしい。(豊)

神の杉が効いていますね。静謐な情景が浮びます(光男)

静かな月夜の情景、蓑虫も心地よさそうに揺れています。(明)

大西日飛ぶ鳥長き脚揃へ            渡部有紀子   (4点)

西日の差す夏の空を飛ぶ脚の長い鳥とは、鷺の類であろうか。垂らした脚を揃えて飛びゆく姿が大西日を背景に美しいシルエットとして思い浮かぶ(傳)。        

大西日のなかで鳥の脚はさらに長く影を曳いている様子が思われます。(泰子)

百日紅農村の昼しづかなる           片山孝子    (3点)

盛夏の農村の真昼。農家の人々は昼飯を終え、昼寝をしているのであろうか。人の居る気配が全く感じられない家々。掲句の百日紅は農家の庭先で大きく育ち、豊かな花を咲かせているに違いない(傳)。

人の気配を感じない農村の夏の昼。でも百日紅は綺麗に剪定され咲き誇っていることでしょう。(博子)

<日原 傳 編集顧問選 入選句>

新涼の手桶を鳴らす牛の乳           渡部有紀子   (8点)

山を背に小さな牧場の朝のひと時を想像しました。人の手で乳を搾る音が涼やかに響いています。(明)

秋あつし谷中銀座のおかめ蕎麦         小野恭子    (7点)

東京下町の庶民感覚、情緒を表出。しゃれっ気、遊び心もスパイスとして程良く効いてをり、一句の構成にスキなし。思わず「いいね!」を二度押し。表出された情景、情緒に、とっぷりと浸れます。(仁)

狭くて古い佇まいの谷中銀座の蕎麦屋でおかめ蕎麦を啜っている様子が見えて来ます。暑かったのでしょうね。(相・恵美子)

車座に木椅子の並ぶ賢治の忌          荒木那智子   (6点)

少しいびつな木の椅子が車座に並べられている、その人待ち顔の手触りが賢治の忌にぴったりです。(泰子)

別々の道ゆく二人草雲雀            中川手鞠    (4点)

新涼や仮名和歌刻む土師器出づ         室 明     (2点)

ゆつくりと重湯を啜る雨月かな         佐藤武代    (1点)

薫風や切り株に座し隠岐を見る         和田 仁     

初秋の石鎚山の鎖かな             岩川富江

今一度読む「みずうみ」の秋思かな       髙橋紀美子

蝉時雨薄命多き明治人             上脇立哉

秋の虹消えぬまま雨降り出しぬ         明隅礼子

<互選句>

玉眼の阿弥陀三尊萩日和            髙橋紀美子   (5点)

秋の日ざしに阿弥陀さまの玉眼が美しい。「琥珀の眼」の阿弥陀様を見たことがありますが、神秘的でした。(ユリ子)

阿弥陀三尊の目が玉眼である。その玉眼がきらきらと輝いている。今日は良い日だ萩が綺麗に咲いている。(芳彦)

新涼や病衣に朝の風抜けて           瀬尾柳匠    (3点)

病気で入院しているのでしょう。入院中に着る病衣に浅の風が吹き抜けていった。これを感じて新涼だと思った。大変ですが良い詩ですね。(芳彦)

減反の目立つ村あり大花野           荒木那智子   (3点)

下北の闇を熱するねぶたの灯          原 豊     (3点)

闇を熟するという表現に参りました(柳匠)

八月の空へ祈りの鳩翔ばす           鹿目勘六    (3点)

鳩に託す平和の祈り、大切なことですね、八月の空が良いです,(貞郎)

8月は地震、台風、炎熱、旱魃など天地異変の多い月。加えて、広島忌、長崎忌、敗戦忌の人災は72年間心に闇をおろして安らぐ時はない。自らを問い、祈りを白い鳩に託す。(茂喜)

逝く夏を見送る今朝の交叉点          中川手鞠    (3点)

信号を待っている空の陽射しが少し和らいでいるのを感じた。色々な思い出を遺して季節は、夏から秋へ移ろって行く。(勘六)

交差点に立ち渡って来る風の気配などで夏が終わったと感じ、秋に向かい少し気持ちを新たにしている作者の様子が見えて来ます。(相・恵美子)

魂の抜けて程よき藁ぼっち           早川恵美子   (3点)

雲の湧くケルンの影や岩桔梗          竹田正明    (3点)

大きな秋の雲。ケルンの影と岩桔梗。大きな景、清涼なイメージです。(ユリ子)

雲の「動」とケルンの周囲の清楚な岩桔梗の「静」の対比、登頂の喜びが伝わります。(明)

素麺を茹でる老々介護かな           今井温子    (3点)

“言わずもがな”。老夫婦の諦念の境地にして深い絆。無駄・雑念を削ぎ落とした老境。静逸な情感の中にユーモア、息抜きも感じられ、存外、前向きな強靱な一句とお見受けしました。(仁)

素麺を茹で、水でもみ洗い、好きな薬味で食べる。これが老と老、二人暮らしの昼食だ。我が国最古の素麺は奈良県の三輪からはじまったという。いま日本は、金婚カンと鐘鳴らす老々の身のあふれ出す途上である。(茂喜)

山荘の白き木椅子に一葉落つ          森山ユリ子   (3点)

木の椅子に座ろうかなと思うとそこに葉が先にちょっと遠慮しますね(みつ子)

静かな中に清々しさを感じます。(相・恵美子)

気怠げに鴉二度啼く残暑かな          阿部 旭    (3点)

この暑さ。烏でなくても”気怠く”なります、、、、さすが!(志昴女)

この鴉作者の身代わりかな、私も2度啼きたくなった事があります。残暑が効いていますね。(貞郎)

居待月牛のしつぽも揺れてをり         妹尾茂喜    (3点)

静逸な情景描写に良質のユーモアをコーディネート。情景描写に徹し、過分な表現、雑味が無く素直に癒されます。この一句ならではの存分な余白に読み手を遊ばしてくれます。“おもてなし”の一句として好感。(仁)

空中ブランコ一番に触るる秋          内村恭子    (2点)

真っ先に秋に触れるブランコ・・童話的寓話的世界を想像しました。(博子)

刀匠の一意専心花常山木            鈴木 楓    (2点)

木洩れ日の磐座ひらり秋の蝶          染葉三枝子   (2点)

逆上りいちにいのさん鉦叩           石川由紀子   (2点)

紅薔薇の言い訳できぬほどの色         和田 仁    (2点)

水澄めり右は横浜絹の道            阿部 旭    (2点)

横浜絹の道がいいですね(光男)

耳の水すぽつと抜けて夏終はる         中村光男    (2点)

学帽の白線二本けさの秋            瀬尾柳匠    (2点)

この学帽は、今の中学生のものだろうか、それとも旧制中学校のものだろうか。青春は一度しかない、良く学び良く遊べよ。(勘六)

チャルメラの記憶はるけき夜長かな       佐藤博子    (2点)

蓮の実のとんで白洲次郎邸           相沢恵美子   (2点)

黒い蓮の実が水中に飛んで、屋敷跡に残る白洲次郎の事績に思いを込めた。正子夫人と共に昭和18年に郊外に移り住んだ。連合国軍最高司令官に「従順ならざる唯一の日本人」と言わせ、原則の軸を守った次郎。旧白洲邸・武相荘は東京・町田市にある。(茂喜)

川音の宇治十帖や晩夏光            松浦泰子    (2点)

源氏物語の一人いろいろ感じます(みつ子)

鹿肉の暗き血の色吉野かな           松浦泰子    (2点)

ウ~ン、鹿肉の血の色は確かに暗いです。それが吉野。脱帽です。(志昴女)

鹿肉の生々しさが「暗き血の色」で表されています(光男)

秋暑しタクシー運転手無口           相沢恵美子   (2点)

手裏剣の小さき的や夏終はる          明隅礼子    (2点)

ふはふはと舞ふ月光や貝割菜          松山芳彦    (1点)

夏潮の流れに対ふ貨物船            嶋田夏江    (1点)

黄金虫夫に読書の刻来たる           西脇はま子   (1点)

下五に夫に注ぐ愛情を感じました。冒険小説を連想する季語も魅力的です。(博子)

風の音の遠きに桃の実たわたわと        妹尾茂喜    (1点)

虫高音月の崩場は濡れてゐる          關根文彦    (1点)

「”月のガレ場”が濡れている」情景がいいと思いました。初の5字はも少し変えられそうな気がします。(志昴女)

陽を浴びて艶生き生きと蝉の殻         土屋 尚    (1点)

確かに蝉が脱け出して間もない殻は、生き生きとした色艶を持っている。雌伏期間の長さに比べ、この世で啼く時間は短い。(勘六)

宙天にラピスラズリや揚花火          中村光男    (1点)

百余年の凱歌の暁鐘獺祭忌           浅井貞郎    (1点)

百余年の凱歌の晩鐘が鳴り響っている。子規忌である。素晴らしい。(芳彦)

虫の音に溢るる一歩フェリー着く        原 豊     (1点)

フェリーの乗船場を降りたら薄暗い埠頭から虫の声がするというまるで高倉健の映画を見るような一句(柳匠)

子規逝きしあの日の空や寝待ち月        浅井貞郎    (1点)

身じろぎもせず炎昼の石仏           鹿目勘六    (1点)

暑い中何を考えているのでしょうか?私にも心中わかります(みつ子)

わが皿に来たる縁や香魚反る          諸中一光    (1点)

小流れに涼を求めて峠行く           あさだ麻実   (1点)

石垣に形そのまま蛇の殻            あさだ麻実   (1点)

菩提樹の大きな陰に秋を待つ          内村恭子    (1点)

箱バスの廻る公園法師蝉            荒川勢津子   (1点)

色鮮やかな箱バスでしょう。真夏の賑わいが去り、法師蝉が鳴く秋の公園を思い浮かべます。(ユリ子)

戻りきて鳴く樹にあまた蝉の殻         土屋香誉子   (1点)

爽やかや生前にして形見分け          今井温子    (1点)

新涼の新しくせしティーコージー        安藤小夜子   (1点)

孤児で生きしその後の永さ沖縄忌        岡崎志昴女   (1点)

居留地の男声合唱長崎忌            嶋田夏江    (1点)

この句を読んだ時に長崎忌でウイーン少年合唱団が歌っているような不思議な感覚を得たので推しました(柳匠)

火祭の夜の雲燃やす篝かな           内藤芳生    (1点)

夏の夜空に燃え上がる火柱、雲まで燃えているように見えますね、「雲燃やす」がよいです。(貞郎)

球体の鋳物に結ぶ秋神籤            佐藤律子    (1点)

神籤を結ぶのが球体の鋳物、そのひんやり感が秋らしく思えます。(泰子)

台風ののろりのろりと飯を食む         佐藤武代    (1点)

 

以上

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