<日原 傳 編集顧問選 特選句>
日向ぼこ河馬のあくびを見て帰る 内村恭子 (2点)
冬の天候のおだやかな日に動物園に行ったのであろう。日溜りで日向ぼこをしてのんびりと過ごす。目にしたものと言えば、河馬があくびをしていた情景が真っ先に思い浮かぶというのである。句全体にただよう長閑な感じが面白い(傳)。
忙中閑 こんな一日があってもいいですね。(温子)
動物園の河馬。何かユーモアな感じと季語の「日向ぼこ」の感じがうまく調和して居ると思いました。(順一)
牛日の一人にもどる昼餉かな 佐藤博子 (1点)
正月休みに帰省していた子どもや孫たちが去って、また元の暮らしに戻り、一人で昼餉をとっているというのであろう。「牛日」は一月五日をいう。元日から八日に至る日々を、それぞれ鶏・狗(いぬ)・猪(ぶた)・羊・牛・馬・人・穀の日と名付けた言い方。その「牛日」という季語がうまく収まった一句(傳)。
1月5日、家人は仕事や学校に出てまた静かな日々が戻ってきた様子がよくでていると思います。(泰子)
<日原 傳 編集顧問選 入選句>
初暦眼医者歯医者の日を記す 土屋香誉子 (5点)
分かるな~まずは通院の予約を書き込む、お互いそんなお年頃~(志昴女)
ひとり居の八十路の松を飾りけり 荒川勢津子 (4点)
「今年も健康で無事暮らせますよう」にという作者の祈りが伝わって来ます。(相・恵美子)
永年の慣習やめられませんね。(小夜子)
人生を楽しむゆとりと、凛とした佇まいを感じる一句。素敵です。(博子)
賄ひの光る一升初炊ぎ 早川恵美子 (3点)
寒柝やしんがりの子と手をつなぎ 石川由紀子 (3点)
星空の輝く夜道を、寒柝を打ち町内の夜回りをする。小学1年生くらいの元気な子も、だんだん遅れがちとなり、ついにはしんがりとなる。そんな子の悴んだ手を、矍鑠とした老人の手が確りとつないでくれた。(はま子)
ラッパ吹き少し老いたり社会鍋 内村恭子 (3点)
社会鍋のラッパ。若者がいなくなり、年の暮れの喧噪のなか、清らかさとともにわびしさも観じる。(ユリ子)
玲瓏と聖鐘わたる初御空 森山ユリ子 (2点)
冬の靄レゴ積むやうに街の影 中村光男 (2点)
深紅とはかくまで深き冬薔薇 嶋田夏江 (1点)
合奏の音は一つに六連星 瀬尾柳匠
<互選句>
美しく立つことしばし初稽古 土屋香誉子 (11点)
踊りでも武芸等でも立ち姿が基本になる。初稽古ともなれば、尚更その基本を確認しながら精神を集中して行くのだろう。厳粛な中に晴れがましさを感じる句だ。(勘六)
芸事の能や日本舞踊、お茶、武道などもその立姿と一歩で技量のほどがわかるとか。初稽古のすがすがしい美しさがよくでていると思います。(泰子)
美しく立つって素敵な表現ですね舞の基本を上手に言い止めていらっしゃいます(早・恵美子)
年末年始暫く休んでいた稽古、日本舞踊でしょうか、立ち姿も難しいものなのですね。(孝子)
蒟蒻の思はぬ重さ年の市 高橋紀美子 (7点)
思はぬ「重さ」と言う主観。ここからずっしりと句の思いが伝わって来ました。(順一)
切干の日向の匂ひ裏返す 荒木那智子 (6点)
しみじみと郷愁を覚えるやさしいお句です。(温子)
日向の匂ひが、切干大根にピッタリの表現だと思います。(孝子)
一陽や過去を五ミリにシュレッダー 松浦泰子 (6点)
シュレッターを用いたところが面白いです(早・恵美子)
三毛猫の腹の下なる歌留多かな 中川手鞠 (5点)
歌留多とりに三毛猫も参加している、あるいは人がするのをただただじゃましている、どちらの光景も想像できました(律子)
みんなが歌留多に夢中になつて、かまってもらえない三毛ちゃん、「吾輩はここにあり」と歌留多の上にどっかり腹這いとなったのです。(はま子)
新聞の豊かに厚し寝正月 上脇立哉 (5点)
勝手な推測ですが、まさか、新聞を枕にして「寝正月」?と考えて仕舞えるところがこの句の工夫的なところかと。(順一)
冬薔薇風の研ぎゆく赤き棘 石川由紀子 (5点)
薔薇の赤い棘が北風に研ぎ澄まされてゆくという北風の冴が感ぜられて良いと思う。(芳彦)
冬のきびしい風のなかでも、棘の色は赤く美しい(ユリ子)
煮凝や真夜のしづかな雨の音 明隅礼子 (5点)
外気の冷たさや静謐を感じますが、煮凝りを当てに静かにお酒を飲んでいるようにも感じるし・・心惹かれる一句でした。(博子)
独楽回る八方の峰傾けて 内藤芳生 (4点)
八方の峰傾けてとはまた大きく表現されてお正月らしいです。(泰子)
手のひらにのるほどの、小さな独楽が唸り声をあげ勢い良く廻りながら、八方の峰々を傾けると謳いあげた。雄大で堂々とした、この上なくお目出度い句。(はま子)
ちゃんちゃんこ今日の終りの薬飲む 満井久子 (3点)
記念とす君に貰ひし冬帽子 瀬尾柳匠 (3点)
想い出に残した冬帽子には、どんなストーリィが?(小夜子)
記念とすに、大切な人からの贈り物又歳と共に心に沁みる物ですね。(孝子)
いつの頃のことなのでしょう?それが青春ただ中の高校生であったとしても、高齢となった今現在であっても素敵だなと思いました(律子)
山寺の法灯消えず岩凍てり 妹尾茂喜 (3点)
山寺の法灯が消えずに岩が凍てついているとの表現が山寺の凍てる寒さが良く表現されていると思う。(芳彦)
気ままなる時を刻みし古時計 染葉三枝子 (3点)
ず~っと気ままに生きてきたことを古時計だけは知っている、そんな風に読みました(律子)
寒菊や西陽四角な蔵の窓 岡崎志昴女 (3点)
まだ介護されるに不慣れ去年今年 今井温子 (3点)
最近になって介護を受けられるようになったのですね。まだ自力で何でも出来た頃の記憶が鮮明なら、介護される自分を受け入れがたい気分なのでしょう。いつか我が身も。(志昴女)
外出の神父冬帽ポアロめく 森山ユリ子 (2点)
神父様の帽子にポアロ。クリスティ好きなかたの発想でしょうか?私はデヴィッド・ス-シェ演じるポアロ思い出しています。(小夜子)
遣羽子の打たれくるくる放物線 中川手鞠 (2点)
初雪と思う間に消ゆ東京よ 小髙 久丹子 (2点)
大年のガラス戸透けてカシオペア 安藤小夜子 (2点)
つくづくと浅学の身やだいこ引く 永井玲子 (2点)
「浅学の身」と「だいこ引く」の取り合わせが面白く、句が引き締まっている思います。(相・恵美子)
骸骨の顔して迫る枯蟷螂 中村光男 (2点)
枯蟷螂が骸骨の顔して迫って来るという表現がユーモアがあり面白い。これ以外何か深い意図があるのか伺い知れないが。(芳彦)
日本海に開く港や初明かり 妹尾茂喜 (2点)
本屋にて思ひ思ひの師走かな 加茂智子 (2点)
虎落笛また頓服を飲みにけり 佐藤武代 (2点)
頓服を飲むという行為に対して季語が効いています。(芳生)
親知らずの歯がずきずき痛むのでしょうか?眠れぬ夜の長いこと、誰もが経験することです お大事になさってください。(温子)
水兵となつて一列冬かもめ 西脇はま子 (2点)
波に身を任せている鴎、冬の海の厳しさの中で生きている命がある。しかし、その姿を「かもめの水兵さん」と見た童心にポェジーを感じた。(勘六) 長い
寒風の中、錨鎖の輪っかに一羽づつ並ぶかもめ。その姿は、まさに整列した水兵さん。カメラマンの詩心も誘うようです。(博子)
灯籠燈灯る寒暮の鞆の浦 原 道代 (1点)
忘却の彼方に小さき昼の火事 永井玲子 (1点)
G線のアリア終章時雨けり 小橋柳絮 (1点)
おでん酒お国訛りを憚らず 鹿目勘六 (1点)
風花や勿来の関のカフェテラス 竹田正明 (1点)
冬麗や微動だにせぬ停泊船 相沢恵美子 (1点)
船もゆっくり日向ぼこしているのでしょうか(みつ子)
シンデレラの靴冴え冴えと宝石店 荒木那智子 (1点)
日本海しょっつる鍋に酒酌まむ 武井悦子 (1点)
寒さを吹き飛ばしてください(早・恵美子)
冬の日や置きえに零る鳥の影 阿部 旭 (1点)
千年の礎石の光る大旦 鈴木 楓 (1点)
酒臭き男が隣十二月 松浦泰子 (1点)
極月には、忘年会と称して酒を飲む機会が多い。いや酒飲みが、口実に作っては堂々と飲む機会に恵まれている。小生等も、酒を飲まない人様に迷惑を掛けていることだろう。大いに反省。(勘六)
平成の歳晩の墓子と清む 荒川勢津子 (1点)
地方によっては大晦日にお墓を洗うところがあると聞きました、作者の場所がそうなのですね。子孫が受け継いでお墓を洗ってくれるのはご先祖にとっても嬉しいことでしょう。(志昴女)
冬の灯をはやばや点けて戸締りす 片山孝子 (1点)
高層の居間より冬の遠花火 土屋 尚 (1点)
我が家もマンションの窓から年越しの花火が少しですが見えます。居間から年越しの花火いいですね(みつ子)
鰤しゃぶや氷見の潮を寄せ返し 高橋紀美子 (1点)
晩年の世に磨かれて枯瓢 早川恵美子 (1点)
北吹くや脳を撮られし音今も 満井久子 (1点)
悴みてただ一文字の書けぬなり 明隅礼子 (1点)
詩書俳書ホコリまみれの年用意 原 豊 (1点)
うつされずうつさぬように大マスク 岩川富江 (1点)
冬日燦燦ねむつてばかりコビトカバ 小野恭子 (1点)
冬日を浴びてかてかになって眠りつづけているコビトカバの様子が目に浮かんで来ます。(相・恵美子)
奥山の師走狐の声冴ゆる 松山芳彦 (1点)
「神水」てふ冬日に青し弁天池 原 道代 (1点)
雨だれの幽かに聴こゆ聖夜かな 佐藤律子 (1点)
実朝の浜に貝寄す初日燦 渡部有紀子 (1点)
どこまでも銀河濃くなる飾羽子 關根文彦 (1点)
以上
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