天為ネット句会報2018年4月

 

天為インターネット句会2018年4月分選句結果

(作者名の後ろの点は互選点)
 ※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。また互選句は高点句から順に、同点句は句稿番号順に並べました。
 ※一部インターネットで表示できる文字に置き換えております。ご了承ください。

<福永法弘同人会会長選 特選句>

水俣の海の銀波や鶴引きぬ           室 明     (3点)

水銀で汚染され、多くの被害者を出した水俣の海。ヘドロは埋め立てられ、表面上は平穏な海が戻った。鶴引きぬ→鶴が引く。(法弘)

さまざまな事を思い起こさせる水俣の海 平成も終わろうとしている今の穏やかさを伝えている良いお句と思います (温子)

槌跡の青の洞門呼子鳥             竹田正明    (1点)

菊池寛の『恩讐の彼方に』で広く世に知られた青の洞門。固い岩肌に残る槌の跡が生々しい。呼子鳥が癒しきれない罪を呼び起こすかのよう。(法弘)

いごつそうの立志の国の春岬          石川由紀子   (1点)

土佐の桂浜の龍馬像はアメリカの方角を向いているそうだ。<春風や闘志抱きて丘に立つ>(虚子)の一句を思う。いごつそうの→いごつそう。(法弘)

<福永法弘同人会会長選 入選句>

町の名に廓の名残春の月            小野恭子    (9点)

吉原も玉の井も地図から名前が消えた。今も残るのはどこだろう ?春の月が良い。男に極楽、女に地獄。(法弘)

旅をするとよく考えますね。古の匂いが残る街の名前があると懐かしい。住む人だけでなく、旅人にも、町の名前は大事です。(志昴女)      

涅槃図の次第に見ゆる堂の闇          染葉三枝子   (5点)

涅槃図を掲げることにより、末法の世の闇に少し燭光が射したような。(法弘)

暗闇の堂内に目が慣れてくると様々なものがみえて来ます。(中嶋)

涅槃図の細かい描写と御堂の暗さが良く表れています。(孝子)

飛花しきり時間通りにきたるバス        安藤小夜子   (4点)

バスは通常遅れるもの。それが、飛花を楽しんでいるときに限って定刻に来るなんて。(法弘)

もう少し飛花を楽しんでいたい気持ちを、上手く表されていると思いました。(博子)

漣の脚こそばゆし種案山子           早川恵美子   (4点)

こそばゆしが発見。(法弘)

種案山子の脚がこそばゆいとはユーモアがあります。(相・恵美子)

水を張った苗代に立つ種案山子に春風が漣を送っている状況が見えてきます。中七から作者の優しい気持ちが伝わります。(明)

山笑ふ遮光土偶の大眼鏡            高橋紀美子   (2点)

宇宙人説もあった遮光器土偶。そんな騒動を笑うかのよう。(法弘)

強東風の辻ゆっくりと引売り女         染葉三枝子   (1点)

逞しい母の姿を感じる。ゆっくり慌てず、地に足をつけて。(法弘)

摩崖仏椿一輪竹筒に              阿部 旭    (1点)

長く続く信心の景色が見える。(法弘)

黄砂降る羽毛恐竜眠る丘            竹田正明

研究が進むにつれ恐竜の姿もずいぶん変化した。羽毛を纏っていたなんてお釈迦様でもご存知あるまい。(法弘)

チューリップ前世の誓い思い出す        森野美穂

どんな誓いをしたのだろう。「生まれ変わっても一緒になろうと約束しました」と松田聖子が言っていたのを思い出した。誓い→誓ひ、思い出す→思ひ出す。(法弘)

<互選句>

風光る本も眼鏡も草の上            小野恭子    (9点)

春の柔らかい日差しと風を受け止め、視角から触覚へ移る間合いがよい。(豊)

読む者を引き込んでいく臨場感があります(温子)

本も眼鏡も草の上・・気持ちのいい外の風景を思います。本は暫し置いて・・。(美穂)

広い原っぱで何もかも忘れてそよ風と青空を楽しんでいる作者のゆったりとした姿が目に浮かびます。(明)

牛小屋の藁の呼吸や水温む           原 豊     (7点)

私も子供のころは牛がいました。あの牛小屋の匂いを思い出します。(志昴女)

暖かくなり、牛小屋に積み上げてある藁の匂いも感じ始める、それを藁の呼吸と詠まれたのは新鮮でした(律子)

新しい藁の匂いもして春が来た感じがします。(中嶋)

藁の温もりを呼吸と表現為さったところが素敵です(早・恵美子)

木の香たつえんぴつ揃へ入学子         武井悦子    (6点)

入学おめでとうございます (温子)      

「入学子」と「えんぴつ」の取り合わせが面白い、上5の「木の香たつ」も新鮮でとても良いです。(貞郎)

己が影踏み寒開けの象の足           小橋柳絮    (6点)

寒さに耐えた象の哀れさと、春に向かう喜びを感じました。(博子)

春の海人魚はあわになりました         森野美穂    (5点)

人魚はあわになったとはでも、きっとそうですね(みつ子)

春の海は大好きです、穏やかな波が打ち寄せて泡立っています、あれは人魚があわになったのですね、素晴らしい、(貞郎)

香煙は本能寺より朝桜             今井温子    (4点)

歴史を感じさせる一句です(早・恵美子)

国会はいつも大荒れ四月馬鹿          佐藤武代    (4点)

四月馬鹿では済まされないですが・・・(みつ子)

明け際の闇のほつれ目梅ふふむ         小橋柳絮    (4点)

闇のほつれ目とは!素敵な表現だと思いました(律子)

蟻穴を出てみづうみの光りそむ         明隅礼子    (4点)

彼岸の雨兜太よ濡れて逝き給へ         岡崎志昴女   (3点)

現代俳句の重鎮兜太先生のご冥福を祈ります。(豊)

春霞汽笛の響く町に住み            嶋田夏江    (3点)

人の死も星の死も春雪に似て          鹿目勘六    (3点)

人の死が春の雪に溶けてしまったとは(みつ子)

幣を巻く蛤石に花の影             荒木那智子   (3点)

蛤のように滑らかな石に里人は心を託しているようです。この石の上に花が影を落として静かな空間と時間が交差して永遠を紡いでいるかのようです。(宙)

桜の精が乗り移って高山の蛤石の魔力が発揮されたのかも・・・物語を感じます(早・恵美子)

修二会の火真っ青な竹振り上げて        高橋紀美子   (3点)

松明竹の真っ青に気付かれたようですね。修二会の12日間で130数本が入るようで全国から松明竹が届くようです。毎年2月10日に京田辺の松明講の竹送りも復活して41年になりますいつも参加しています。「竹送り」も角川俳句第5版で項目されました。(中嶋)

乗っ込みの鯉の背びれや神田川         岡崎志昴女   (2点)

「神田川」と言っただけで歌が聞こえてきます、そこえ乗っ込みの鯉の背びれが見えるのです、春が一杯溢れる素晴らしい句となりました。(貞郎)

陽炎に椅子ひとつ置き午後になる        内村恭子    (2点)

芽吹き出す柿の木にある霊気かな        石川順一    (2点)

子を宿す山羊の眼やさし花ミモザ        嶋田夏江    (2点)

ビショップの斜めに走る春の雷         石川由紀子   (2点)

チェスの駒「象」の斜め走りの一手で逆転勝利。春の雷が明るく響く。(柳絮)

いつの間に髪のはね癖古雛           満井久子    (2点)

花吹雪絵馬からからとカラカラと        安藤小夜子   (2点)

絵馬のからからとカラカラで花吹雪の美しさが出ていると思います。(孝子)

雛流す御手洗川に袖濡らし           佐々 宙    (2点)

雛を濡れないように籠に入れて流したが、袖口が少し濡れてしまった。繊細な気持ちが表現されていると思います。(相・恵美子)

刑務所塀越えて並木の花明かり         荒川勢津子

高い刑務所の塀の上から桜並木がわずかに見え、桜の季節には住人の心にも喜びがーー。この喜びを花明りの五字に託した所がよいです。(宙)

突けばすぐ息吐きだして紙風船         瀬尾柳匠    (2点)

京菓子の桜尽しの小筥かな           西脇はま子   (2点)

やわらかい色・形・味わいは和の心。小筥は雅の完結した空間。(柳絮)

繊細な京の干菓子、しかも「桜尽くし」から、花の季節への日本人の喜びが伝わります。(明)

万愚節まこと三鬼の忌なりけり         西脇はま子   (1点)

医者でありつつ波瀾万丈の人生かつ多芸多才、人間的にも魅力あふるる三鬼にぴったりな一句と感じ入りました。(博子)

緋桜のここに在るとは知らざりて        加茂智子    (1点)

こんなに美しい緋桜、如何して気づかなかったのだろう、吃驚する緋の色だったのですね。(孝子)

花の雲中を電車が来て止まる          荒木那智子   (1点)

山茱萸の花の終わりの風に会ふ         佐藤律子    (1点)

桜湯やかそけき色の花ひらく          中川手鞠    (1点)

アルストロメリア浅き春かなうすみどり     小髙久丹子   (1点)

水鏡の起伏あらはに花筏            渡部有紀子   (1点)

荒城の月歌ふて花見仕舞ひけり         永井玲子    (1点)

どこのおじさま達でしょう、今どき荒城の月とは!(律子)

碧空や光りとどむは蝶の翅           武井悦子    (1点)

夜桜は全力疾走して過ぎる           石川順一    (1点)

黒潮と桜前線北上す              鹿目勘六    (1点)

夜桜や家並の低き市庁街            土屋香誉子   (1点)

蝋石の似顔絵残る春の宵            中村光男    (1点)

ドレープを二つ寄するや花筏          佐藤律子    (1点)

光沢があり厚みがある花筏が想像されます。「ドレープ」の語で素敵な句になったと思います。(相・恵美子)

春ふはり雀ふはりと土に下る          上脇立哉    (1点)

擬態語ふわりの連続で、春の軟らかさがより鮮明に感じられる。(豊)

浮桟橋踏めば強東風揺れ返す          満井久子    (1点)

若狭なる本地垂迹水送り            中嶋昌夫    (1点)

野馬走る尻谷岬は草青む            原 豊     (1点)

野馬が走る尻谷岬、知りませんでした。よくそんな場所に行かれましたね!題材に一票!(志昴女)

湯上りの香り仄かや春の月           瀬尾柳匠    (1点)

昼下り牧神を呼ぶ虻の声            室 明     (1点)

「牧神の午後」という名曲のような、田園風景の中に一匹の虻がやって来て牧神を呼んでいると感じたところが作者の心の豊かさを表現しています。(宙)

明日香寺の古の声鳥交る            今井温子    (1点)

山桜西行似雲の墓に散る            浅井貞郎    (1点)

桜をこよなく愛した西行。西行を慕った似雲。山桜の花弁に二人の心のゆかしさが映える。(柳絮)

以上

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