ネット句会報2014年3月

 

天為インターネット句会2014年3月分選句結果 (作者名の後ろの点は互選点)
 ※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。また互選句は高点句から順に、同点句は句稿番号順に並べました。

<有馬主宰選特選句>
春寒き宋の都の粥白し  董?  (5点)

春寒と白い粥の変わらぬ長い伝統。宋の都の朝食を思う。(ユリ子)

 

禅寺の門の高さや桐の花  今村奈緒  (4点)

 

オペラ座の裏恋猫のこゑ長し  山下閑生  (3点)

恋猫も声を長くして歌っているのでしょうか。オペラ座が効いています。(真弓)

 

胡同の鵲の巣や胡弓の音  董?  (2点)

古びた街に胡弓の音。昔の旅を思い出す。(編人)

 

春光やベッキオ橋の金細工  熊谷佳久子  (2点)

フィレンツェの街の中央を流れるアルノ川に掛かるベッキオ橋には宝飾店がずらりと軒を連ねている。店々の金の宝石に春日が射す光景が目に浮かぶ。(ユリ子)

 

中原の春三日月はほのぼのと  齊藤昭信  (2点)

広い中国の春の夜景が美しく表現されています。(編人)

 

春雪や菓子パン好きの子規なりき  西脇はま子  (1点)

 

春の雁音戸の瀬戸に羽休め  渡部文子

 

<有馬主宰選入選句>
引く鶴に袖振り翳す舞踏俑  西脇はま子  (4点)

自然の形をかり、或はとおして象徴する技法で表している句ですね。(豊)

 

鳥帰る月峻険の嶺に置  原豊  (2点)

ただし「置」ではなく「置き」に。(朗人先生)

美しい句です。(美代子)

 

春淡し農家の壁に鋤置かれ  劉海燕  (1点)

 

堅雪や翡翠の夜明け空知野に  中田秀平

 

謝肉祭仮面を脱ぎて影しづか  江原文

 

緋の絹の角をきつちり吊し雛  渡部有紀子

 

葡萄酒に映る切子や春浅し  阿部旭

 

<互選句>

三猿のかたちに老の日向ぼこ  和田仁  (13点)

上五の表現が面白い。(編人)

「三猿のかたちに」がおかしみを誘います。噂話でもしているのでしょうか。日向ぼこの楽しさと快適さが伝わってきます。(真弓)

言い得て妙(赳夫)

俳句のおもしろさ感覚の鋭さがみえます。(豊)

世間のわずらわしさに目を瞑り日向ぼこをする、いいねー平和で。(貞郎)

我が家に象牙で作られた小さな三猿がありました。猿の丸まった背中とお年寄りの背中が重なり、何かとても懐かしくなりました。(加茂智子)

その通りですね(栄一)

 

叱られてひたすらに吹くしゃぼん玉  上川美絵  (12点)

誰もが記憶にある、子供のころの失意の心ですね。(美代子)

泣きたいのを我慢して涙をこらえてシャボン玉を吹いているのだ、男の子だから。(貞郎)

親などにきつくしかられ、言葉にならない悔しさや悲しさをこめて、吹いているのでしょうか。とてもいじらしくなりました。(加茂智子)

遠い昔に覚えがあります。最近は吹かないしやぼん玉もある様ですが、吹いてこそ。(小夜子)

シャボン玉ですから、叱られたのは子供!? ひたすらに吹くが、子の心をあらっわして、この子供の素直さが出ています。(奈緒)

 

如月の息もて磨く銀の匙  松浦泰子  (7点)

 

教会に戦禍の壁や菫咲く  山下閑生  (6点)

菫咲く頃、教会に行ったのでしょう。その教会に、戦禍の壁があり、宗教的な雰囲気に、戦禍の壁を見ながら、菫咲くのを見たのでしょう。(董?)

どこの国かわかりませんが、過去の戦禍かはたまた現在のものか、菫によって静かで平和な時が来ることが期待されます。(真弓)

戦争の傷跡が残る教会の壁。その壁に春の兆しのスミレの花が咲く。平和のよろこびを感ずる。(ユリ子)

 

海老蔵の隈取弾む春芝居  髙橋紀美子  (4点)

春芝居で主役をやり、海老蔵もどきの隈取が喜々として楽しい句。(奈緒)

 

少年の会話短し早春賦  安藤小夜子  (4点)

春浅し、少年の会話短しを良く受けていると思います。(赳夫)

男の子は長い会話は苦手、少年の初々しい感じが、季語と上手く合っている。(文)

 

生き方は春の風なり素数なり  齋藤みつ子  (4点)

素数という表現が妙味がありすばらしいです。ただ「なり」の繰り返しが少し気になります。(強)

私もこんな生き方をしてみたいです。(麻実)

 

足もとのかろき日となり犬ふぐり  満井久子  (4点)

 

六朝の亀の陶硯冴返る  斉藤輿志子  (4点)

冴返る春、書道に励んだのでしょう。六朝の亀の陶硯が座右にあるのだと思います。今日は何を書こうと、早春の詩か、それとも早春の賦か、早春の句でもよかろう、とても面白い句だと思っています。(董?)

中国の硯の歴史は古く六朝時代には多獣脚円形陶磁硯がかなり多いと言われています。発掘された亀の形もその一つでしょう。冴返ります。(赳夫)

 

ブリキの金魚籠一杯に雛の店  吉野巨楓  (3点)

 

酒瓶の蝮逆立つ涅槃西風  早川恵美子  (3点)

蝮なんて言葉にしただけで気味悪いのですが、これは瓶の中。涅槃西風が効いています。(奈緒)

 

大山の稜線青し牡丹雪  永井玲子  (3点)

 

猫の恋邪魔立てをする首の鈴  石川由紀子  (3点)

「猫の首に鈴」という言葉をふまえて鑑賞したい句です。やはり猫にとってはありがたくないものなのですね、首の鈴。(有紀子)

 

風花の睫毛に消ゆる義経堂  芳賀赳夫  (3点)

 

母ゐますごとく草餅焼きにけり  熊谷佳久子  (3点)

これも自分のかも。素直な詠みが心に沁みます。(強)

母恋いの句ですね、胸に響きます。(美代子)

 

あたたかやごはんのお櫃なでてみる  嶋田夏江  (2点)

 

ヴァチカンの寒空に立つ十二使徒  森山ユリ子  (2点)

 

雛の間にあまたの首の挿されある  澤田和弥  (2点)

 

フランスへ春の船荷や土佐の柚子  安西佐和  (2点)

海外に住む日本人にとって何よりの品。海外赴任時代を思い出しました。(閑生)

 

ワッフルを鯛焼として異国の夜  内藤繁  (2点)

たしかに海外に行くと懐かしくなる食べ物、鯛焼きに見立てたワッフルが面白い!(文)

餡なき無念如何にせん(隆宏)

 

遠雪崩コーヒー沸々湧いてゐる  上川美絵  (2点)

 

下書きをして書く手紙春の雪  安藤小夜子  (2点)

季語春の雪が効いてますネ(麻実)

 

芽吹きまだ風に鞭振る柳の枝  石川由紀子  (2点)

忘れましたが、何か自分の句のように思える。あるいは自分の作品かも。素直な表現が美しい(強)

表現の妙風に鞭振るが句を大きくしている。(豊)

 

街道に村の名掲げ百千鳥  須田真弓  (2点)

 

曲り家の馬鎮もりて春の闇  町野敦子  (2点)

静まりかえった厩舎で短い睡眠を貪る馬の景がうまく描写されています。(閑生)

 

曲水の宴を刻せし蘭亭序  斉藤輿志子  (2点)

王義之の曲水の宴での名士41人による詩作を書いた率意の書で現在でも規範となる品性を備えた格調高い行書体。(柳絮)

 

山吹や揺れが奏でるヴィバルデイ  菅野強  (2点)

 

邪馬台の魔鏡投象寒明ける  松山芳彦  (2点)

 

春耕土寡黙な父の鍬浅く  菅野強  (2点)

老父が衰えた力で黙々と畑を耕している、「鍬浅く」の措辞に万感の想いを感じます。(閑生)

 

春雪や雄叫ぶタロとジロの像  妹尾茂喜  (2点)

東京タワーにありますね(栄一)

 

雪だるま目鼻落として美男なり  岡崎美代子  (2点)

目鼻立が整った顔は美男子とされますが、目鼻を無くてみたらという発想が面白い。いや、目鼻が落ちるくらい溶けたということは「水もしたたる・・・」??(有紀子)

たしかに、自分好みの目鼻ではなったろうに!着眼が面白い!(文)

 

爪先の少し上がりし春の靴  荒木那智子  (2点)

 

腹出して寒山拾得のどけしや  荒木那智子  (2点)

中国唐代の隠棲詩人の強固な自己疎外者としての矜恃がそのとらわれない風体や笑顔に集約されている。(柳絮)

 

無口なる湯守の法被春の雪  松浦泰子  (2点)

湯守の法被と春の雪の組み合わせがよい。(芳彦)

 

鞦韆がふたつ光を揺らしをり  明隅礼子  (2点)

春らしい暖かい写生の句ですね。「光を揺らしをり」、光を流動化する表現です。この句から、子供たちの笑声が聞こえるようです。(董?)

 

あかがねの神獣鏡や龍天に  竹田正明  (1点)

 

フクシマの禁野荒涼デージ咲く  三宮隆宏  (1点)

重要なissueがあると感じました。(和弥)

 

マンボーの銀の気泡や風光る  早川恵美子  (1点)

 

阿蘇九重もやに浮かびて笑ひをり  西野編人  (1点)

 

海人の杜太古の亀の像も鳴く  西野編人  (1点)

 

蟹乗せてますますうまし蓬餅  加茂智子  (1点)

前代未聞の味ならん(隆宏)

 

器みな使ゐてこそや木の芽和  佐藤武代  (1点)

「使ゐ」ではなく「使い」(朗人先生)

 

亀鳴くやゼロの偶数とも不思議  満井久子  (1点)

数理論の定義には0除外して考える場合もあるが現実的には偶数として処理している。まさに不思議である。(柳絮)

 

血しぶきの空の断面虎落笛  小橋柳絮  (1点)

季語がたいへん響いています。(和弥)

 

公魚や風に吹かれて釣り上がる  土田栄一  (1点)

 

勾玉に土鈴もならぶ風二月  松山芳彦  (1点)

 

合い寄る眼すでに意志ある仔猫かな  江原文  (1点)

 

山城の崖より雪解雫かな  根岸三恵子  (1点)

 

残雪やコーヒー豆をミルで挽く  窪田治美  (1点)

やの切れがイイですネ。コーヒーの香りを感じました。(麻実)

 

自焼するキリン時間を凍結し  小橋柳絮  (1点)

ダリのキリンは多く詠まれていますが、「自焼」と表現した句は初めて見ました。この実験性を高く評価したく存じます。(和弥)

 

車ごと還らぬひろし津波忌よ  熊谷かをるこ  (1点)

津波忌は歳時記にはないが3月の季語として今月から入れるべきだ。(貞郎)

 

若冲の雉絞り鳴く寒山寺  あさだ麻実  (1点)

 

春雲の四方に水音樹林照る  關根文彦  (1点)

 

焼き立てのパンの香りや春の朝  阿部旭  (1点)

朝美味しそうな匂い早く食べたいですね(みつ子)

 

雛飾る座敷の女さんざめく  嶋田夏江  (1点)

なぜか、年を重ねるごとに、昔ながらのしきたりがいとおしくなります。祝われる女の子以上に、祝う大人たちの方が賑やかで華やぐのは不思議な感じですが、良くわかります。(加茂智子)

 

早春の大和の風に八一歌碑  今井温子  (1点)

會津八一は奈良の古跡古美術を詠んだ歌人として知られていますが、古刹と知られる寺院を中心に歌碑が建立されています。奈良県内には15基の自筆歌碑が建立されています。どの歌碑に早春の風が吹いていたか知りませんが、八一歌碑と早春の大和の風との組み合わせに詩情が感ぜられてよい。(芳彦)

 

草青む江戸名水の柳の井  根岸三恵子  (1点)

 

鳥の群れひるがへりたり春立つ日  明隅礼子  (1点)

鳥も喜んでいる春ですね(栄一)

 

展示絵の虎は猫似で水温む  岡崎美代子  (1点)

 

梅寒し金彩壺の鏨跡  吉野巨楓  (1点)

金彩壺の鏨跡を梅寒しとしたところ詩情あり(芳彦)

 

蕗味噌に諾う余生八十路坂  三宮隆宏  (1点)

蕗味噌のおいしさがわかるようになったのは何時の頃からだったかしらと考えました。余生などでなく味の発見の未来に。(小夜子)

以上

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