ネット句会報2014年11月

 

天為インターネット句会201411月分選句結果 (作者名の後ろの点は互選点)
 ※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。また互選句は高点句から順に、同点句は句稿番号順に並べました。

<日原傳編集顧問選特選句>
天平の甍に遊ぶ小鳥かな  内藤芳生  (2点)
「天平」は奈良時代の聖武天皇朝の年号(七二九~七四九)。この時期を中心に唐の文化の影響を受けた天平文化が栄えた。この時代に建てられた建物としては、唐招提寺の金堂や講堂、東大寺の三月堂などが現存する。そういった古い大寺の甍に小鳥がやって来て戯れているのである。井上靖に『天平の甍』という鑑真和尚の来日の顛末を描いた有名な歴史小説があり、「天平の甍」という措辞自体が我々に親しいものとなっている。その聞き慣れた言葉を活用して大きな句に仕立てた。(傳)

 

刳り抜かれ洞の嗤いの南瓜かな  加茂智子  (2点)
ハロウィンの南瓜を詠んだ句であろう。南瓜の中身を取り出し、ナイフで目・鼻・口に当たる箇所を刳り抜き、内側に?燭を灯す「ジャック・オー・ランタン」。悪霊を怖がらせて追い払うため、それなりの顔にこしらえるとのことである。「嗤」の字には、「あざわらう」の意がある。この漢字が一句の中でよく働いている。加えて「洞の嗤いの」という表現にも工夫があり、中が空洞のハロウィン南瓜の表情をうまく言い当てている。(傳)

ハロウィーンの南瓜「洞の嗤い」がおもしろいですね。(貞郎)

ハロウィンの南瓜の「わらい」は、単に「笑い」ではなく、見る人にとって色々に映るのですね。そういわれてみると南瓜に嘲笑されているようにも 思えてきました。(明)

<日原傳編集顧問選入選句>
魔女の服似合ふ妻なりハロウイーン  中川手鞠  (7点)
素敵な奥様ですね。(貞郎)

そうですか。よかったですね!(芳彦)

魔女の服は黒でしょうか、赤でしょうか。ハロウィーンの装いをした妻に見とれる愛妻家のダーリン。楽しい句です。(はま子)

 

佐渡深き塩屋の煙冬に入る  髙橋紀美子  (5点)
眼に浮かぶ風景に魅せられいただきました(夏江)

 

母に出す手紙短き夜寒かな  岡崎美代子  (4点)
人恋しい、母恋しい夜寒です。お元気ですか、と手紙を書き始めたものの、その先が続かない・・・(美春)

電報のようなはがきを受け取ったことがあります。(小夜子)

 

石の夢木の夢深き暮の秋  杉美春  (3点)
ものみな息を潜めて次の飛躍を模索する冬への入口。(柳絮)

石の夢木の夢が句を面白くさせている。(豊)

大自然と繋ぎ、心が落ち着いた秋を感じました。(劉海燕)

 

夕花野アイルランドの古き歌  安藤小夜子  (3点)
アイルランド民謡のメロディーが浮かんだ。夕暮れの花野との取り合わせも情緒がある。(ユリ子)

 

鬼の子の天地の間に漂へる  内藤芳生  (2点)
鬼が生んだ子だから天にも地にも住めず、木の枝にぶら下がっているのですね。いとあわれです(赳夫)

 

逝く秋や子規と鼠骨の六畳間  浅井貞郎  (2点)
子規の病気の看病に鼠骨が行った部屋が六畳間だったところが逝く秋との絡みがよい。(芳彦)

 

本当は風になりたき秋桜  上脇立哉  (1点)
コスモスに風はありふれたフレーズですが、風に吹かれるままではなく、自分が風になりたいのだと見たところに共鳴しました。自分の思いをしっかり持って生きたいという人の心を読んだ句だと思います。(明)

 

赤尾灯見送つてより秋深む  荒木那智子

<互選句>
月欠けて遡上の魚は命吐く  町野敦子  (9点)
命の不思議さ運命の理不尽さを思う。(柳絮)

命がけで産卵に来る魚でしょうか、欠けた月だけが見守る……説得力がありました。(美代子)

月欠けての季題が寂びた趣で、命吐く鮭の哀れさが心を打つ(文)

子孫を残すため命をかける。命吐くがいいです。(秀章)

インパクトがつよいです!生きるための一生懸命な姿に感心しました!(劉海燕)

わずかな月光にほんのり銀色に輝く川面。無音の世界の中で必死に遡上する鮭の命をかけた姿を思い感動しました。(明)

 

ハロウィンの魔女が次々皿洗ふ  澤田和弥  (9点)
ハロウィンの魔女はおかあさんだったのか、衣装のまま洗い物をしている光景が微笑ましい。(美春)

幻想と現実の時間のアンビバレンスを、面白く思いました。(博子)

かって南海の島ロタ島でハロウィンに出会い、扮装の児達にキャンデーを配ったりした事を思い出しました。(万里子)

皿洗いと仮装の魔女との取り合わせが面白い。「次々」洗う、というのが魔法のようでユーモラス。(ユリ子)

 

柿の実に色を残して夕陽落つ  竹田正明  (7点)
何時か見た事がある様な、ノスタルジア!(万里子)

柿の実を赤く染める夕暮、美しくも淋しくもある。(赳夫)

どこにでもある日本の典型的な平和な秋の風景ですが、ずっと見つづけて行きたい風景です。 (小夜子)

詩情を感じました。(麻実)

 

銀杏のぽとりと地球0番地  小橋柳絮  (5点)
対比の妙、省略の冴え、これぞ俳句!(繁)

「地球0番地」が面白いと思います、(貞郎)

 

四国嶺は五層六層鷹渡る  安光せつ  (5点)

 

稲刈って一日正倉院展へ  今井温子  (4点)
日本人の原点に戻ったような心安らぐ一日(せつ)

 

石蹴ってわが身に当る冬帽子  熊谷かをるこ  (4点)
真剣に生きようともがけばすべて自分に還ってくる。(柳絮)

蹴った石、放った言葉は、結局自分に帰ってくるのですね(美春)

そういう理不尽なことって腹が立つけれど、自業自得でクスッと笑える。ちょっと冬帽子が淋しいかな~(文)

突拍子の無い出来事これが読者をひきつける。(豊)

 

秋気満つ寒山寺より鐘の音  劉海燕  (4点)
秋深い寒山寺の鐘の音。風景が浮かび上がってきました。(編人)

 

廃校の廃材積まれ赤トンボ  柴﨑万里子  (4点)
廃校の廃材のリフレインが面白いが、そこに赤トンボを持って来て郷愁を誘う~ふっと笑って少し切ない。(文)

 

茹で卵つるりおでんを仕込む夜  染葉三枝子  (4点)
手慣れた表現、感服致しました。(万里子)

 

なほ細き糸を吐きたり秋の蜘蛛  明隅礼子  (3点)
細きというところに秋を感じます(夏江)

 

花嫁と帯解の子のすれ違ふ  西脇はま子  (3点)
いずれも女性の華やかな節目。幸せな生涯でありますように。(せつ)

 

ひもすがら鵙の声聞く畑仕事  竹田正明  (3点)
農村の秋の一風景ですね。懐かしい故郷 (編人)

自然と共にある畑仕事なのですね(夏江)

 

天高し奈良は正倉院日和  今井温子  (3点)
今年の目玉は……と毎年記事を眺めます、行けない年ばかりです残念。(美代子)

正倉院展の賑いの奈良。秋の高い青空が美しい。(ユリ子)

 

震災の海はべた凪鰯雲  芳賀赳夫  (3点)

 

龍淵に潜む太古のうすみどり  小野恭子  (3点)

 

騎馬戦や勝ち鬨一声秋高し  熊谷秀章  (2点)

 

吉野ヶ里弥生の味の猪を焼く  西野編人  (2点)
さもありなん、と。食べたくなりますね!(美代子)

弥生の味とは面白い(赳夫)

 

銀河濃し沖のはるかへ巨船の灯  内藤繁  (2点)

 

御蔭年の紅葉且つ散る五十鈴川  中川手鞠  (2点)
五十鈴川の清々しさと、神様から恩恵を賜った嬉しさが伝わってきました(博子)

 

冴え渡り月待つ石のうさぎの目  永井玲子  (2点)
帰りたき故郷の月をいまや遅しと待ち焦がれているのだろうか。(秀章)

 

秋うらら方寸世界の篆刻展  武井悦子  (2点)

 

秋の暮キャッチボールの音やまず  上脇立哉  (2点)
キャッチボールをしている人も、その音を聞いている人も、爽やかな秋の暮を惜しんでいるようです。(はま子)

 

小鳥来る太郎の赤き手の椅子に  杉美春  (2点)

 

職退きて円(まど)かなる日日秋惜しむ  土田栄一  (2点)
忙しかった日々から解放されて、円かなる日々、でも秋惜しむで、少し寂しさも感じられます。(孝子)

 

端倪の太筆構へ菊日和  早川恵美子  (2点)

 

朝の日矢切口美しき大刈田  渡部有紀子  (2点)

 

武骨なる男の訃報榠?の実  中村光男  (2点)
ちょっと即すぎのきらいもあるが、男の来し方に耽る作者の気持ちが滲んでいる(繁)

 

雄の向く方へ雌向く番鴨  土屋香誉子  (2点)
夫唱婦随、言葉は交わさずとも・・・。(秀章)

 

アルビノの混じりて眠る鴨の池  土屋尚  (1点)

 

おしろいの花を咲かせて柳橋  齊藤昭信  (1点)

 

そぞろ寒木乃伊少しく口開き  安藤小夜子  (1点)

 

バオバブの巨木のねむり星月夜  斎川玲奈  (1点)
深閑としたマダカスカルの夜景が眼に映る(豊)

 

火の恋の人形哭くや秋時雨  森山ユリ子  (1点)

 

旧坂を登る峠や石蕗の花  嶋田夏江  (1点)

 

漁火のティアラの如し秋の夜  中村光男  (1点)
漁火をティアラと見立てたのが効果的です。(芳生)

 

錦秋のメビウスジェットコースター  小橋柳絮  (1点)

 

秋の夜白き珊瑚は目を覚ます  町野敦子  (1点)
見ることのない世界ですが何となくありそうに思えるのは白い珊瑚のせいでしょうか。(せつ)

 

紅葉ふみ爪先上がり奥の院  髙橋紀美子  (1点)

 

山に巨石文明の街は雪催ひ  關根文彦  (1点)
句またがりの妙味があります。発想もユニークです。(和弥)

 

獅子舞の風のねぢれや秋祭  熊谷秀章  (1点)

 

耳遠きひとの大声銀杏の実  熊谷かをるこ  (1点)

 

秋の日をちりばめ流る隅田川  土田栄一  (1点)
幼いころ、戦前、戦後そして現在の隅田川。水面をきらきらさせて流れる隅田川はいつも身近な存在です。セーヌにもテームズにもハドソンにも負けません。(小夜子)

 

水澄むや歩き疲れし老いの貌  芳賀赳夫  (1点)

 

秋深し若き詩人に帰る時  加茂智子  (1点)
季語が効いています。句にストーリーがあります。(和弥)

 

初冠雪富士湧水の茶を立てリ  武井悦子  (1点)
初冠雪の富士を見ながらの茶会ですか。美しく豪華。(編人)

 

神輿舁く子を呼び戻す村まつり  安光せつ  (1点)

 

水飲み鳥窓にタバコ屋冬ともし  永井玲子  (1点)

 

縄文のあらき土面やそぞろ寒  浅井貞郎  (1点)

 

星飛ぶや新世紀にも奴隷の名  妹尾茂喜  (1点)

 

帯解の子をまん中にまん中に  西脇はま子  (1点)

 

大仏に冬日束ねて温めけり  齊藤昭信  (1点)
大仏のいる大和の光景が見えてくる。(芳彦)

 

茶畑の規矩のゆかしさ花零す  室明  (1点)

 

冬近し権現舞の歯打ちかな  安田孝子  (1点)

 

縄文の太めのビーナス豊の秋  石川由紀子  (1点)

 

拍手は其角にまけじ生姜市  あさだ麻実  (1点)
芭門十哲の第一人者といわれている宝井其角の拍手が聞こえて来るようです。それに負けない作者の拍手、さぞかし胸のすく様な見事なものなのでしょう。ぴりりと辛く爽やかな「生姜市」の季語も効いています。(はま子)

 

畑中の無人販売柿熟るる  嶋田夏江  (1点)

 

板厚き能楽堂の冬構  根岸三恵子  (1点)

 

父母と子の眠る古里冬に入る  滝澤たける  (1点)

 

木の実降る影と日向のあはひへと  明隅礼子  (1点)
韻律や言葉そのものの優しさが活きています。(和弥)

 

落葉焚く嵩の高さや屋敷林  室明  (1点)
焚火厳禁の地が多くなる昨今。屋敷とまではいかなくとも毎日落葉掃きをした頃が懐かしい(繁)

 

裏木戸を閉ざす茶室の秋思かな  安田孝子  (1点)

 

貯蔵庫の屋根をたたきて木の実降る  荒木那智子  (1点)
以上

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