ネット句会報2015年9月

 

天為インターネット句会2015年9月分選句結果 (作者名の後ろの点は互選点)
 ※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。また互選句は高点句から順に、同点句は句稿番号順に並べました。
 ※一部インターネットで表示できる文字に置き換えております。ご了承ください。

 

<日原傳 編集顧問選特選句>
風にのせ放つ小籠の月鈴子       佐藤博子   (3点)
「月鈴子」は鈴虫の異名。「月鈴児」「金鐘児」ともいう。小籠に飼って鳴き声を楽しんだ鈴虫を自然に返そうと草むらにでも放ったのであろうか。「風にのせ放つ」という措辞も優雅だが 掲句にあっては「月鈴子」という字面が働いている。「風」「月」「鈴」という三つの漢字が作用しあって、一句全体の雰囲気づくりをしている(傳)。

鹿笛に湖一面の鎮まりぬ        西脇はま子  (1点)
周囲を山に囲まれた湖を想像する。山の方から鹿をおびきよせる為に吹かれる「鹿笛」の音が聞こえる。その音が止むとあたり一帯は再び静寂に包まれる。「鹿笛」の存在によって静けさが一層読み手に迫ってくる感じがする。「湖一面」に焦点を当てて終わる叙法も成功している(傳)。

<日原傳 編集顧問選入選句>
台風の目の中にゐて嬰ねむる      佐藤武代   (5点)
年々凶暴さを増す台風ですが、赤子の安心しきって眠る様子と台風との取り合わせに思わず微笑んでしまいました。(明)
台風からも世間からも守られて子は育つ、いつか台風と向き合う日まで!それまで十分に眠り、力を蓄えておいて下さい。(文)

松手入れ鋏の音の暮れそむる      室 明    (4点)

追分の辰雄旧居の白桔梗        森山ユリ子  (3点)

湯の町の遅き朝なり蝉しぐれ      上脇立哉   (2点)
すべての時間がゆったり流れる湯の町の蝉しぐれ。極上の音楽ですね。(博子)

どこからか夕餉の匂ひ茄子の花     嶋田夏江   (1点)
抑制を効かせ、さり気なく仕上げております。取り合わせの相乗効果もあり、気負いの無い、さらりとした感触・情感さらに沈静した風情・俳味さえ感じさせる洗練された作品となっております。(仁)

ひぐらしや百度納めの糸こより     石川由紀子  (1点)

朱の強き随神門や涼新た        根岸三恵子  (1点)

幌涼し日本生れの人力車        武藤スエ子  (1点)

一列に荒川を見る帰燕かな       土屋 尚

<互選句>
短夜を獏に喰はれてしまひけり     江原 文   (6点)
ひょとして人生の大事な時間を食われてしまったりして。(柳絮)
あ~あ、もう朝か、夢ばっかりの夜だったが、、、、思い出せない。笑。(志昴女)

太文字のどぜうが揺れる夏暖簾     阿部 旭   (6点)
炎暑の町で目に付くのれん。長い夏を乗り切る活力になりそうな、力強い太文字。(ユリ子)

デラウエア子の片言に一つづつ      小野恭子   (5点)
片言の幼い子の口元にデラウェアを一粒づつ運んでいる、子育の頃の楽しさが一杯感じられます。(はま子)
日に日に言葉を増やす幼子の様子が見えます。(豊)
作者の子供への愛を感じました。(麻実)

一刷毛の雲に帰雁の影宿す       原 豊    (5点)

理科室に骸骨残し夏休み        上脇立哉   (5点)
子らは夏、学校を離れて自宅や避暑地に休む。「理科室の骸骨」は眼窩と口を開いて見送るばかり。作者は静かな校舎におもしろい景を見つけた。(茂喜)

秋の声さざなみ一つ一つから      中川手鞠   (5点) 
聞こえない声を聞き取る繊細な詩的感性。(柳絮)

十三夜板戸の重き家に生れ       熊谷かをるこ (5点)
田舎では伝統、歴史、代々の重さが違いますよね、、、、歴史を刻む板戸のきしり音が聞こえそう。(志昴女)
~板戸の重き家に生れ~この中七、下五によりこの句の物語が出来上がった。古い旧家かはたまた何かいわくのある歴史を背負っているのか?十三夜の季語がその事を語ってくれる。もの寂しい月夜~(文)

朽ちてゆく舟も池畔を涼しげに     武藤スエ子  (3点)
「朽ちてゆく舟」に秋の寂しさを感じます。(海燕)

白百合を少年抱へ黙祷す        あさだ麻実  (3点)
少年はどんな悲劇を背負って黙祷に来たのか。わたしは御巣鷹の尾根に墜落した航空機事故を思う。死没者名簿にある坂本九氏の名前を忘れない。(茂喜)
少年と白百合の取り合わせが斬新。いつもは活発であろう少年。黙祷という言葉で、句に奥行きと静けさが生まれたと思う。(ユリ子)

聖堂でバッハ聴きゐる星月夜      和田 仁   (3点)
「トッカータとフーガ」は星月夜にピッタリですね。(貞郎)

銅鐸の鳴りし出雲や雁来る       西野編人   (3点)
長い間銅鐸がどのように使われていたか不明であったものが、最近鐘として鳴らしたのだと判明との新聞記事を読みました。澄んだ出雲の空に遙か昔、その穏やかな音色を響かせたと考えるだけでロマンが生まれます。雁もまた、当然のように古代より大和の国へ、秋を知らせにやってきたのですね。(明)
出雲の雰囲気が出ている。(芳彦)

墨東の橋を数へて秋扇         渡部有紀子  (3点)
花街帰りの遊び人か、はたまた永井荷風か?江戸や明治の風情を思いおこさせる。秋扇の持つ季語が想像を膨らませ面白い!(文)

夢いくつ破れて処暑の水流す      岡崎志昴女  (3点)
小生の気持と同じ。(芳彦)

蜻蛉来て浮桟橋に影を置く       今井温子   (3点)
蜻蛉の儚い一瞬の影から、この川の流れの穏やかなひと時を想像しました。(明)
浮桟橋に翅を休めている蜻蛉の影が、くっきりと見えてきます。初秋の風の輝きが感じられます。(はま子)

朝顔や廚に母の立ち姿         中川手鞠   (3点)
暖かい場面です。(海燕)

首伸ばし亀の潮よむ良夜かな      早川恵美子  (2点)
いかにもいかにも。これからどこへ?竜宮へ?(志昴女)

万葉の歌風に揺れ鉄風鈴        片山孝子  (2点)

いきなり海はまゆうの崖分け入れば   安光せつ   (2点)

裸婦像の伸ばす弓手や秋の天      鈴木 楓   (2点)

過疎の地の雀のをどる大稲田      内藤 繁   (2点)

細やかに和菓子のやうに夏料理     土屋香誉子  (2点)

使はれぬ牛舎や白き曼荼羅草      斎川玲奈   (2点)

遠花火故山の杜を透かしけり      内藤芳生   (2点)

吹かれては萩のこぼれし真間の川    武井悦子   (2点)
薄倖の美女・手児奈を美しい調べで詠まれていると感じました。(博子)

秋暑しら抜き言葉のセールスマン    佐藤武代   (2点)

蛇穴に入る衣擦れの音を曳いて     西脇はま子  (2点)
衣擦れの音にひかれました。(豊)

句碑多き湖畔の村や秋桜        満井久子   (1点)

黒蝶の別れと思う今朝の秋       小高久丹子  (1点)

軒丸に菊の御紋や月の宿        斎川玲奈   (1点)

新涼の水道水がほとばしる       岡崎志昴女  (1点)

陽は秋の風は竪琴エディンバラ     早川恵美子  (1点)

山畑の風のささやき秋たちぬ      竹田正明   (1点)

薬師寺の塔くろぐろと星月夜      内藤芳生   (1点)
綺麗な星月夜が目に浮かぶ。(芳彦)

地を掴み蝉這えば星降り注ぐ      關根文彦   (1点)
短い生涯を力一杯生ききる、その姿を諸天が見守っている、いい句ですね。(貞郎)

休暇果つ餓鬼大将の初恋も       小野恭子   (1点)

ハーモニカ空に吸はれて夏休み     江原 文   (1点)
おおらかな青春の憂愁に素直に共感。(柳絮)

遠花火此処に泊つる日数へけり     明隅礼子   (1点)

乾坤の冷えそむ夕べ茜富士       鈴木 楓   (1点)

じゅんさいのとろりと咽ど涼新た    安光せつ   (1点)
あのゼリー状に包まれた蓴菜を食した時の咽の感触に共感を覚えます。ひらがなの措辞に「とろり感」が出ていると思いました。(博子)

間人媛の墳墓小暗き放生会       今井温子   (1点)

炎熱の扉を押せば記念祭        熊谷かをるこ (1点)
日本の夏には国の悲しい記念日が並ぶ。沖縄、広島、長崎、敗戦…炎熱の各地で慰霊の会が開かれ、不戦と平和を誓う。(茂喜)

家事終えて旅の本ある処暑の卓     荒木那智子  (1点)

炎帝の直下ゴジラの孵化兆す      小橋柳絮   (1点)

松風や浜ひとすぢを秋没日       妹尾茂喜   (1点)
私は海が大好きでこの句から伊良湖の恋路ヶ浜が浮かんできます。早く行きたいなー(貞郎)

女にはコサイン不要となめくじり    小高久丹子  (1点)

漁火の天の底なる星月夜        中村光男   (1点)

黒塗りの下駄履く娘秋の色       土田栄一   (1点)
この秋の色とはお祭りのことですね。(麻実)

句碑の字のにはかに白し秋の風     荒木那智子  (1点)
俳諧ならではの飛躍した感性の世界を遺憾なく表現しております。しかも古典にも通じる抑制された叙情・詩情を確と担保しており、読み手の五感に佳く響きます。確信犯のなせる淡白にして骨太の情景描写と感受致しました。(仁)

天使魚笑ひさざめくジャズ喫茶     小橋柳絮   (1点)

猫の背の驚きやすき韮の花       土屋香誉子  (1点)

銅鐸の響きし出雲秋深む        西野編人   (1点)

鼈甲の金彩笄十七夜          石川由紀子  (1点)

海の宿フランス窓の夏の朝       劉 海燕   (1点)
両開きのフランス窓を思い切り開けると、朝の海が大きく広がっている。すがすがしい景色が浮かぶ句。(ユリ子)

梅花藻の流れに浮沈水の綺羅      松山芳彦   (1点)
水の綺羅で梅花藻の状況が見える。(豊)

木賊刈る等身大の供養塔        渡部有紀子  (1点)

以上

ホームへもどる 句会報へもどる