天為ネット句会報2016年5月

 

天為インターネット句会2016年5月分選句結果

 (作者名の後ろの点は互選点)
 ※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。また互選句は高点句から順に、同点句は句稿番号順に並べました。
 ※一部インターネットで表示できる文字に置き換えております。ご了承ください。

<日原 傳 編集顧問選 特選句>

須磨琴の淡き木目に春惜しむ           渡部有紀子   (5点)
「須磨琴」は細長い一枚の板に一本の弦を張った一弦琴。在原業平の兄の行平が須磨に流された時に庇の板を用いて一弦の琴を作り、 つれづれを慰めたことによりその呼称を得たという。 「淡き木目」に焦点を当てて「須磨琴」の存在感が出た。古典の世界を踏まえた優雅な一句である。「須磨」「淡き」「春」という各句の頭に置かれた言葉のなかのア音が響きあっていることも指摘できよう(傳)。

在原行平が左遷されてた須磨の地で一弦の琴を作って弾いた伝説の須磨琴。その琴の木目が淡いと詠んだ、作者の優雅な感性が、春を惜しむ美しい一句になった。(はま子)

須磨琴の淡き木目に春を感じた。きっと愛おしい春でしょう。感受性の高い方と思います。面白いです。(芳彦)

空を濃く塗る子八重桜の真下           關根文彦
掲句に登場する子は満開の八重桜の下に坐って写生をしているのであろう。八重桜は他の桜に比べて花期が遅い。八重桜の背景として春も闌けた頃の青空の色が想像されてくる。「空を濃く塗る」という行為は「八重桜」の花の重量感に相ふさわしい感じがする(傳)。

<日原 傳 編集顧問選 入選句>

絵タイルの青き汽船や燕来る           高橋紀美子   (6点)
横浜の絵タイルを思い出します(みつ子)

綺麗な句ですね。涼しさが感じられます。スペインあたりの青い絵タイルでしょうか。(志昴女)

港町の舗道に嵌め込まれた絵タイルの青い汽船。此の青い汽船を目指して今年も燕がやって来たのでしょう。(はま子)

文政の山門閉ざし松の芯             根岸三恵子   (3点)
描き割りみたいだけど、深閑として景が決まっています (恵美子)

麦青む男体山を遠く置き             小野恭子    (3点)

クピドの矢逸れ春眠の末娘            小橋柳絮    (3点)
今年の矢先は鉛でないようにお祈り申し上げます。(小夜子)

嗣治の小さきチャペルや聖五月          鈴木 楓    (1点)
ノートルダム・ド・ラ・ペの嗣治の白さのことさら映える壁面が目に浮かぶ。(柳絮)

星一つ額に子山羊生まれけり           西脇はま子   (1点)
羊だったらイエス様!?生誕劇の一場面を思います (恵美子)

牧羊神パンの葦笛青き踏む            石川由紀子   (1点)

<互選句>

過去の音未来の音も種袋             今井温子    (10点)
夢見るささやきの音は未来を包含する幸せの音に違いない。(柳絮)

音にこだわって種袋の音が耳元で鳴るような(柳匠)

種というものの本質を捉え、それを種袋を振る音で表している上手い句だと思う(光男)。

耳元で中身を確かめる種袋。去年の思い出と現在に居る自分、そして今年への期待を込めて。何気ない動作にこんなこと考えるってすごいですね(小夜子)

種袋からどんな花が咲くのか?どんな思い出が生れるのか?音に託す作者の想いメルヘンです。(文)

種袋の音に発想と気付きの面白さで頂きました。(麻実)

さざ波は海のゆりかご桜貝            瀬尾柳匠    (7点)
こんなゆりかごにゆられて昼寝がしたいです(みつ子)

ゆっくり揺れる波はまるで揺り籠のようです。(允孝)

さざ波と季語桜貝の取り合わせが良いと思いました。(貞郎)

樹木医の木槌やさしく花は葉に          石川由紀子   (5点)
「木槌」の措辞より樹木医のやさしさが伝わってきます。花も葉もきっと、「ありがとう」とお礼を言っているでしょう。(はま子)

カンパスに夏めく雲を一つ足す          今井温子    (5点)
気負いのない描写が一句の情景を無理なく共有させてくれます。隠し味として俳味(薬味)の具合も程よく、練達の安定感のある作品として楽しめました。(仁)

もう夏の到来を感じる日もあり、空も違ってきたと感じます(律子)

初夏ののんびりとキャンバスに向っている姿が髣髴とされる好句だ(光男)。

画布に実景を描きあげたが、どこか物足りないものがある。移りゆく夏の季節のいのちあふれるものとして、空の一隅に雲をひとつ描き足した。画想を実現するための知恵である。(茂喜)

薫風が追ひ越して行く交差点           中川手鞠    (5点)
追ひ越してゆくが風の吹き抜ける様をよく詠んでいる(柳匠)

中七の追い越して行くで頂きました。(麻実)

流鏑馬の射手の眼光春の雷            岩川富江    (4点)
眼光はまさしく春の雷のようですね。(允孝)

中七と下五の取り合わせがすばらしい。(豊)

桃の花鈍行でゆく甲斐の国            中村光男    (4点)
鈍行で行くが車窓いっぱいの桃の花を想起させる(柳匠)

花筏吉野川から紀ノ川へ             あさだ麻実   (4点)
川の名前は上流から下流、海にそそぐまでに名前が変わる場合がよくあります。特に吉野川から紀ノ川は歴史風土ともに情緒たっぷりで、そこの花筏の美しさをいっそう思わせます。(泰子)

上手く地名を活かした綺麗な句です。花筏の季語が効いています。(文)

揚雲雀声の縫ひゆく空の丈            西沢けい子   (4点)
中七からどこまでも続く青い空を真直ぐに上がる雲雀が想像できます。(明)

屏風絵の散華の飛天阿国の忌           原  豊    (3点)
屏風の天女も阿国も、観客にとっては美しい飛天だったのかしら。彩色の色も思い浮かびます。(志昴女)

屏風絵の吉祥天の左右の肩に舞う飛天と阿国の取り合わせが面白いとおもいます、NHKドラマ真田丸にも登場しましたね、話題性があります。(貞郎)

砂山の風遣り過ごす島薊             武藤スエ子   (3点)
薊はほんのりと紅色をしていて、優しく見えますがたくましさも併せ持っています。強い砂山の風をじっとやり過ごしている情景が見えます。(明)

啄木の里へ近道濃山吹              荒木那智子   (3点)
行った事はないがきっと穏やかな里だと思います(みつ子)

黒猫とジギルとハイド春の闇           鈴木 楓    (3点)
黒猫とジキルとハイドが春の闇にいるとは春の闇も賑やかで魅力的になって来て、素晴らしい。(芳彦)

亀鳴くは迎への合図龍宮門            内藤 繁    (3点)
実際亀が鳴くことはありませんが、迎への合図という表現、そして行き先は龍宮門というのが面白いと思いました。(律子)

春満月芝神明の力石               高橋紀美子   (2点)

城ヶ島大橋掠めつばくらめ            根岸三恵子   (2点)

アマリリス無限無窮の鏡の間           中村光男    (2点)

葉桜に触れて産着のそよぎ居り          安藤小夜子   (2点)
新緑の中、これから育つ産着の赤子がいる景が美しいと思いました (律子)

葉桜の新鮮な緑色と真っ白な産着の対比が美しいと感じました。(明)

重たげに棕櫚の花咲く空き家かな         阿部 旭    (2点)
棕櫚の花は黄白色の房をなして咲く。ところがその家は空き家だという。棕櫚の花の派手さと空ろの対比が面白い(光男)。

西行の庵もあらん花の山             浅井貞郎    (2点)

若き日の着物手放す卯月かな           結菜やよひ   (2点)

変声期の子の四肢長しソーダ水          江原 文    (2点)

地中海見ゆる聖堂つばくらめ           森山ユリ子   (2点)
聖堂はきっと白壁でしょうね。水彩画のような明るさを感じました。(博子)

春愁の目鼻モジリアニの女            小橋柳絮    (2点)
アンニュイな雰囲気を無駄なく簡潔に捉えております。イメージがしっかり共有出来ます。(仁)

ちるさくら旅の途中の日記にも          明隅礼子    (2点)
「ちるさくら」ひらがな表記が大変気に入りました。(麻実)

日記帳に花びらが挟まれていたのでしょうか。それとも宿の窓から舞い込んできたのでしょうか。物語がふくらむ句です。(博子)

花筏昨日の風が贈りくる             岡崎志昴女   (1点)
とても詩情的で美しい(やよひ)

鮮やかや仙人掌と遭ふ群鶏図           佐藤律子    (1点)

蒔く種に足で土掛く拍子かな           土屋香誉子   (1点)
日本版 種まく人(小夜子)

陽炎を叱ってゐたる怒髪天            和田 仁    (1点)
そうかぁ!陽炎に怒髪天は怒っているのか。ついぞ知らなんだ。だけど、陽炎の立たない日はどうして怒っているのかな。滑稽味があり楽しい。陽炎に、現世の乱世的浮薄さを象徴させているのか。(克朗)

越えて来し山へ近づく花の雨           明隅礼子    (1点)

メーデーや四千年の中国史            高橋雪子    (1点)

セルを着て昭和の人になりにけり         高橋雪子    (1点)
日本画より油絵、絹より毛織物等々好む時代、明るい未来を感じていた時代があった事を思い出させてくれる句です。(博子)

大地震や白隠の世も春荒れて           荒木那智子   (1点)

花冷や最後の旅と夫は言ふ            あさだ麻実   (1点)
身近に毎年これが最後と言いながら海外旅行に出かける人が居ます、なかなか最後は来ないようです。面白い句です。(貞郎)

倶会一処面想ひ出たたむ花衣           安藤小夜子   (1点)

ことごとく地を指す枝垂の桜蕊          渡部有紀子   (1点)
「ことごとく地を指す」に、枝垂桜の枝振りの美しさ、花の見事さを思い描くと同時に、その下にこぼれ落ちている桜蕊の対比。(ユリ子)

春のなゐ銀杏城もつひに落つ           妹尾茂喜    (1点)

詩人老い朝寝の夢に頼りけり           土屋 尚    (1点)

夕桜父の遺影に一升瓶              佐藤武代    (1点)
亡くなられた父上へ、心残りは一緒に酒を酌み交わすことが少なかったこと。せめて彼方で心置きなく飲んで待っていてください。(志昴女)

桜散る曲がれば基地のバリケード         江原 文    (1点)
さり気なくウィットを効かせた日常感覚の作品として素直に受容出来ます。対象の選択が巧み。(仁)

西新宿ビルの谷間の青嵐             小高久丹子   (1点)
新宿はいまや新都心である。新宿定礎は、豊島と多摩との境にある「中の野原」で、室町時代に紀州から流れ着いた鈴木九郎に始まるという。十二社の森の大池に黄金と大蛇の伝説がある。(茂喜)

震災や地に心にも揺れる春            結菜やよひ   (1点)

春濤の大きく隠す富士の山            内藤芳生    (1点)
北斎の浪裏富士が浮かびます。大きく隠すとあるのが春らしくて良いと思います。(泰子)

青空をビル棲み分けて昭和の日          小高久丹子   (1点)
街はビルの直線で区切られ、人は隙間から青空を見あげる。思えば都会という人工美をつくりあげたのは、先の東京オリンピック以後の「昭和の時代」である。「昭和の日」になって9年。(茂喜)

花電車ゆく上海の南京路             西脇はま子   (1点)
上海の南京路は今も大賑わいだと思うが、そこを飾り立てた花電車が行く華やかさ。(ユリ子)

竹林の熊谷草や鳶の笛              竹田正明    (1点)
竹林の熊谷草は何処か知りませんけど、鳶の声が聞こえて来たとは長閑で面白いと思いました。(芳彦)

浦浦に南蛮の風夏来る              松浦泰子    (1点)

便箋に記す便りや花の冷え            瀬尾柳匠    (1点)
日常の所作を分かりやすい表現で上手く纏めていると思う。素直ですっと入る良句。(克朗)

雲流れ日光三猿風薫る              武井悦子    (1点)

惜春の波音暗き集魚燈              小野恭子    (1点)
惜春の切なさが滲んでいます。少し暗いかな!(文)

月光や真夜のロビーの武者人形          武藤スエ子   (1点)
月光の射す真夜中の無人のロビーに置かれている武者人形は動きだしそうな不思議な感じがします。(泰子)

嫁菜飯力抜きたる八甲田             早川恵美子   (1点)

夏の風幼児帽子追ひかけて            齋藤みつ子   (1点)
幼子の情景が眼に浮かびます。(豊)

黄蝶の花弁と化する神の技            妹尾茂喜    (1点)
花に擬態する蝶まさに神の業ですね。(豊)

つちふるやご先祖様の墓を守る          嶋田夏江    (1点)

着信の震へるポケット鳥曇            満井久子    (1点)

白妙のハンカチの花長恨歌            竹田正明    (1点)
比翼の鳥・連理の枝の象徴としてのハンカチの白い花とその枝振り。(柳絮)

藩校の一つを遺し鶴の引く            早川恵美子   (1点)

若夏や豊明殿に笙澄めり             原  豊    (1点)
笙の響きと季語がぴたりと決まっているように思いました (恵美子)

紅牡丹夜も女身佛彫る漢             關根文彦    (1点)
彫師の執念が心にずばんと圧し掛かる凄い句。伎芸天のような女体像を見るとき、彫師の心情の変転を思うが、これを発句にするとこのような表現となるのか。紅牡丹の季語もマッチしている。やはり、蝋燭下の「夜」コツコツか。(克朗)

春昼や港出船のドラ太し             満井久子    (1点)

<以上>

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