天為ネット句会報2016年8月

 

天為インターネット句会2016年8月分選句結果

(作者名の後ろの点は互選点)
 ※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。また互選句は高点句から順に、同点句は句稿番号順に並べました。
 ※一部インターネットで表示できる文字に置き換えております。ご了承ください。

<対馬 康子 編集顧問選 特選句>

語り部の影は河童に夏の夜                江原 文    (5点)
 囲炉裏の火に映しだされた語り部の影はさては鬼婆、ではなく河童であったという面白さ。人をかどわかす河童だがその無邪気さやさみしさが夏の夜の昔話を膨らませる。 誰にもあるに違いない、幼いときに聞いた少し怖い「おはなし」の思い出というものがなつかしい。(康子)

 想像すること、夢を膨らますことが子供たちには大切。(豊)

誘蛾灯命の音を拾ひけり                 佐藤博子   (3点)
 誘蛾灯の青白い光に誘われて集まる虫たちが、羽音をたてている。生から死へ命のはてるかすかな音。だが、「「命の音」を奪ひけり」ではなく、「拾ふ」ということに、生ある万象への讃歌のまなざしが感じられる。(康子)

 誘蛾灯に体当たりして果てる虫たち。その微かな音を「命の音」と思う作者の感性が素晴らしいと思います。(明)

 誘蛾灯の灯りのもと、虫たちが寄ってくるその羽音なりを命の音と詠まれたのは素敵だと思いました(律子)

<対馬 康子 編集顧問選 入選句>

素戔嗚に荒きもてなし夏祭                松浦泰子   (3点)
 荒ぶる神に荒きもてなしをするとはなかなか(柳匠)

銀河濃し孔廟鎮墓の一角獣                鈴木 楓   (2点)
  ユニコーンが銀河を渡っていくようで夢が有る (恵美子)

星合のめいめい光る魚の尾                渡部有紀子  (1点)
 七夕の日に水族館に行かれたのでしょう。その日を祝うように魚の尾が光って見えた。(芳彦)

鳥獣の絵より抜け出しましら酒              中川手鞠   (1点)
 鳥獣戯画より抜けて出た鳥や獣の酒宴。猿の醸した酒を酌み交わしながら盛り上がるのは、山野の環境破壊の話か、その憂さ晴らしのためか(勘六)

登山靴の洗ひ場並ぶ始発駅                荒川勢津子  (1点)

港町宙舞ふ木っ端ケンカ山車               片山孝子

乱鶯の中やひとすぢ砂の道                土屋 尚

宵宮へ水櫛で髪なだめつつ                石川由紀子

紫陽花忌人居ぬ森に燈が吊られ              關根文彦

<互選句>
真直ぐに風が畳んでゆく夏野               芥 ゆかり  (6点)
 細い草草が大きく広がる夏野のこのような光景を見た覚えがあります。「風が畳む」という表現に魅かれました。(明)

 「畳んでゆく」という措辞より、風が過ぎると葉先の色が変わり、夏野が一枚の絨毯のように畳まれてゆくように見えると詠んだ、爽やかな高原の風景。(はま子)

 「畳んでゆく」という措辞に惹かれました。(博子)

 夏野とは青春の形見~そこを真直ぐな風がたたんでゆく、青い春を感じます。いいね~(文)

手花火を持ち手花火の子らの輪に             安藤小夜子  (5点)
  子供には子供の世界があり、簡単に仲間になったり仲間外れにされたりする。この場合は手花火を持っことが条件のようですね。お風呂上がりの浴衣の子供たちが輪になって、手花火をしている懐かしい光景です。(はま子)

コルビュジェの円柱にしむ蝉時雨             西脇はま子  (4点)
 松材の木目を浮き立たせた円柱に蝉時雨がしみいる。(柳絮)

 コルビュジェの西洋美術館が世界遺産になったがその円柱に浸み込むように蝉しぐれが感じらた。(芳彦)

遠くより迷子の知らせ花火果つ              根岸三恵子  (4点)
 花火大会が終わり、迷子の知らせが聞こえてくる少しもの悲しい様子が感じられます。(孝子)

夕立消すヘッセの深き轍跡                竹田正明   (4点)

 それでも心の轍を洗い流すことは出来ない。(柳絮)

初めての男料理や胡瓜もみ                満井久子   (4点)
 胡瓜もみが初めての男料理とはなかなかです(柳匠)

 胡瓜もみでもいいですよ頑張ってください(みつ子)

焼酎の向こう側なる愚痴を聞く              今井温子   (4点)
 旦那様でしょうか、飲みながら愚痴を言い、それを聞いている奥さまも楽しそうですね。(孝子)

 確かにちょっとお酒がはいると愚痴りたくなりますね、ほどほどに(みつ子)

 愚痴を聞くなら、やっぱり焼酎でしょう、という説得力がありました(律子)

みちのくの木魂船魂たままつり              妹尾茂喜   (3点)
 魂祭は、先祖の霊を祀るものだが、みちのくでは山や海の霊も万物の霊を祀るのだと言う、悠久で壮大な一句だ(勘六)

ビルごとを呑まんとばかり雲の峰             齋籐みつ子  (3点)
 視覚による物の比較で夏の雲の大景を描いている。(豊)

 肩の凝らない、俳諧ならではの把握(飛躍、おとぼけ)が楽しめます。「はったり」尽し(?)の一句とも取れますが。(仁)

 ビルごとを呑まんするように雲の峰が大く感じれた。雄大ですね。(芳彦)

浴衣着て千畳敷の星と逢ふ                早川恵美子  (3点)
 千畳敷では天の川を挟んでベガ(織女)とアルタイル(牽牛)にも会えたでしょう、季語「浴衣着て」が最高ですね、(貞郎)

にらめつこ強き金魚と暮らしをり             上脇立哉   (3点)
 出目金でしょうか、飄々とした様子に思わず笑ってしまいます。(泰子)

 一匹だけになった金魚。作者は毎日、餌を一つまみやりながら、この金魚に話しかける。金魚は「忘れないでね」と、睨み返すのだろう。小さな金魚と作者の強い絆が感じられる。(はま子)

青垣の青田の中の大鳥居                 松浦泰子   (3点)
 何より言葉の調子がいいですね。おおらかな風景が目に浮かびます。(志昴女)

朝市や手ばかり盛に茄子胡瓜               阿部 旭   (3点)
 大らかに手ばかり盛で新鮮な野菜を売っている様子が良い (恵美子)

梅雨しぐれキリンの首の置きどころ            和田 仁   (3点)
 どこに置いたものかと思案するキリンまでもが浮かびました(律子)

 あの長い首をもてあましているキリンの思案顔が浮かぶ。しかしこのキリンが擬人化されていたとしたら又面白い!梅雨時雨が効いています。(文)

花石榴ピカソの妻の耳飾り                森山ユリ子  (3点)

シャガールの馬に乗る夢キャンプの火           小橋柳絮   (3点)
 濃い青空のもとでのキャンプ、シャガールの馬が出てきて乗った夢を見たという、楽しい句だ。(光男)

蔵書売り三畳にある涼しさよ               佐藤武代   (2点)

カンナ燃ゆ近づきすぎた少女A              安西佐和   (2点)
 表現をさらりと言い止めたセンスのよさが窺えます。モダーンでデリケート。韻文としての広がりを感じとれます。(仁)

 カンナとは燃える恋か!少女Aは作者か?ちょっと情緒的過ぎるきらいもあるが、面白い!現代俳句的(文)

鶏絞めて命尊き終戦日                  原 豊    (2点)
 すべての命は尊いけれど他の命を頂かなければならない生物の宿命はせつないです。(泰子)

吾子走り去るは茅の輪の向かう側             明隅礼子   (2点)

紅浅き太古の蓮の香かな                 阿部 旭   (2点)

下町の勝気な娘かき氷                  石川由紀子  (2点)

茄子の花何の構へもなく歩む               小野恭子   (2点)
 何の構へもなくと茄子があっていると思います(みつ子)

多摩川の瀬音かすかに夕涼み               土田栄一   (2点)

下駄の音スキップしてゐる浴衣の子            齋籐みつ子  (2点)
 浴衣を着てはしゃいでいる様子が「スキップして」という措辞で上手く表されている。 (光男)

蝉時雨止まずキリシタン殉教碑              荒木那智子  (2点)
 賛美歌のようにも聞こえてくる蝉時雨。殉教者を悼む気持ちが表現されていると感じます。(博子)

家失せし浜の最も明易し                 鹿目勘六   (2点)
 まだ復興していない浜に一番に朝日が届く様子が思われます。(泰子)

 東日本大震災の後の浜辺でしょうか。季節ごとに心の痛みは新たになります。(志昴女)

青蔦や臍うつくしきエヴァの像              西脇はま子  (2点)
 ふくよかな張りのある立体。人体像のボリュームの焦点。(柳絮)

芥子咲くや胸に弾痕女神像                内藤 繁   (2点) 
 どこの国でしょうか。あるいは長崎などの空襲の名残でしょうか。祈りと信仰の対象である女神に銃弾が浴びせられる世界が悲しいです。(志昴女)

噴水の揺れを子が追ひ犬が追ふ              中村光男   (2点)
 風が吹いて噴水が揺れています。周りを子供と子犬が走っている景が浮かんできます。(孝子)

赤坂に舞の稽古所竹簾                  根岸三恵子  (1点)

海猫や錆び尽くしたるトタン小屋             芥 ゆかり  (1点)

結界の柵を飛び交ふ草蛍                 松山芳彦   (1点)
 闇に舞う蛍の乱舞はあの世この世を行き交幻想の誘う(ユリ子)

パリ祭の血の記憶新た今世紀               岡崎志昴女  (1点)
 2016年のこの日ニースの美しい蒼が赤く染まりましたね。(小夜子)

星霜の霧喰ふて来し山椒魚                早川恵美子  (1点)
 生きた化石と言われる山椒魚が上五中七で見事に表現されていると思います。(明)

虹を見て幼クレヨン持ち来たり              高澤克朗   (1点)

空に星庭に蛍の二人酒                  中川手鞠   (1点)
 星、蛍、二人酒、この取り合わせが素晴らしい、季語の蛍が光っています。(貞郎)

百合化して蝶となりけり巫女溜り             荒木那智子  (1点)

荒川の土手の嵩上げ草いきれ               土屋香誉子  (1点)

開聞岳朝夕拝し薯を掘る                 室 明    (1点)

夏座敷曲がり曲がりの風の道               山口美鈴   (1点)

空蝉や流人の島の墓の上                 中村光男   (1点)
 空蝉と流人と墓。少し言いすぎかも知れないが、この世の虚しさが感じられる(ユリ子)

山の日や登頂バッチの古帽子               内藤繁    (1点)

多摩川を越えて相模や鮎の飛ぶ              岡崎志昴女  (1点)

病友は死出を語りぬ雲の峰                高澤克朗   (1点)
 一病息災。ときに多病息災。大丈夫、誰よりもはびこります。下五「雲の峰」に諧謔があり、遊びがあります。俳諧の精神を忘れず、自在に楽しく、笑っちゃいましょう。(仁)

泳ぎ子のだんだん人と思はれず              明隅礼子   (1点)

幸村のいざ大坂へ落し文                 内藤芳生   (1点)
 メタファーとしての「落とし文」が効いていると思いました。(博子)

風鈴市つづうらうらの風音も               佐藤博子   (1点)
 地方によって風鈴は、音色が違う金属、ガラス,陶器など風鈴市の音色は、地方の風まで運んで来るのだろう。(豊)

夕風の抜けて茅の輪の終ひかな              瀬尾柳匠   (1点)
 「茅の輪の終ひ」という表現に、すべてが浄められ新たな夏を迎える心のけじめを感じる(ユリ子)

白シャツに黒いスーツに目の涼し             小高久丹子  (1点)
 就職活動中の大学生でしょうか?若さ清々しさを感じます。(小夜子)

はは繕ひし古蚊帳の縫い目かな              嶋田夏江   (1点)

盂蘭盆会水子の膳に哺乳びん               佐藤武代   (1点)
 盂蘭盆は、死んだ人を偲び悼み祀る行事。この世に生を得ることの無かった儚かった命にも鎮魂と再生を願う母の祈りがある(勘六)

釣荵母の口癖「ありがとう」               小野恭子   (1点)
 ありがとうを言える人が少なくなりました。釣り忍も。素敵なお母様ですね。(小夜子)

シンバルを叩くサテゥロス月夜茸             小橋柳絮   (1点)

片蔭の出来るを待ちて床屋行く              土田栄一   (1点)

日傘ゆれ渡し舟ゆく帝釈天                武井悦子   (1点)
 10年前柴又を訪ねた、駅には寅さん像が出迎えてくれた、帝釈天の前を過ぎて矢切の渡しに着いた舟は片道100円で渡してくた船頭さんの使う櫂の音が懐かしく季語「日傘ゆれ」が素晴らしい(貞郎)

長梅雨の明けて青空白き雲                小高久丹子  (1点)

雲の峰越さば天国あるべけれ               上脇立哉   (1点)

わがままを言へる人あり夜の団扇             満井久子   (1点)

小糠雨白磁風鈴しづもりて                室 明    (1点)

清元の高き裏声盆芝居                  髙橋紀美子  (1点)
 盆芝居に清元とはなかなかに粋(柳匠)

隅田川音ずっしりと大花火                安藤小夜子  (1点)

以上

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