天為ネット句会報2016年10月

 

天為インターネット句会2016年10月分選句結果

(作者名の後ろの点は互選点)
 ※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。また互選句は高点句から順に、同点句は句稿番号順に並べました。
 ※一部インターネットで表示できる文字に置き換えております。ご了承ください。

<対馬 康子 編集顧問選 特選句>

雁渡し蒼き谷川岳に耳                 小野恭子
訪れたことはないが、谷川岳に猫の耳のかたちに見える双耳峰があるという。初秋、まだ雪降らぬ峰々に吹く風の季節の移ろいを、そして渡りくる鳥のはばたきもその大きな耳が聞いているかのようである。澄み渡る空気の山の景が美しく切り取られている。(康子)

このむくろ音管として秋の風              杉 美春
秋の虫だろうか、蝉だろうか、秋の風に吹かれて音を響かせているむくろ。「この」と言うだけで具体的にはわからない。それ故に、人間のなきがらをも想像させて切ない。芭蕉の「むざんやな甲の下のきりぎりす」の哀感に通じる。(康子)

<対馬 康子 編集顧問選 入選句>

鶏頭は律さんの花高く咲き               あさだ麻実  (3点)

母のもの羽織る夕べの秋の風              鈴木 楓   (2点)
秋が深まり風も肌寒くなって行く。そして昔の事も偲ばれる。日が傾いて来ると寒さと旧懐の情が募って来る。その様な時は、母の形見の羽織の温かさに優しかった母を懐かしむ。(勘六)

蛇を踏む素足のマリア霜の花              渡部有紀子  (1点)
なんとなく怖い寒さ。マリアさん、裸足で蛇を踏んで気味悪くはないですか?(志昴女)

勤行の声して霧の光堂                 浅井貞郎   (1点)
霧の光堂の奥から僧侶等の太い読経の声が聞こえてくる。厳しいが清らかな世界。(ユリ子)

落ちゆける鮎に吉野の摩崖仏              今井温子   (1点)

婚の荷の見えて来たりし松手入             明隅礼子   (1点)
いいお日和ですね、松のお手入れにも、婚礼にも。(志昴女)

鵙高音一途に那智の滝落とす              早川恵美子

秋声の聞こえて青き淵に立つ              米田清文

<互選句>

杭一本あれば太平赤とんぼ               竹田正明   (8点)
人間で言えば小欲知足と言うことかなそれが出来れば世界は平和になると思います(貞郎)

極楽とんぼと言われるほど、赤とんぼの身になれば楽な世の中ではないけれど、とんぼの習性をよく捉え、諧謔味溢れた一句に仕上がった。(文)

杭一本で満たされる赤とんぼの境地になりたい(美春)

鏑矢の風切る音や秋高し                荒木那智子  (6点)
流鏑馬―馬を走らせながら鏑矢で三つの的を射る神事。放たれた鏑矢は風を受けて鋭い音を出す。晴れわたった秋空に、馬蹄の音と鏑矢の音と観衆のどよめき。かつて開戦の合図につかわれたという鏑矢は、騎馬民族としての遺産である。(茂喜)

じゃんけんのグーのかたさや青蜜柑           中川手鞠   (6点)
独創的で独自の味わいを表出。気負いなく洒脱で読み手を楽しませてくれます。ソフトで洗練された一句です。(仁)

季語の青蜜柑がぴったりこの句を引き締めていますネ。頂きました。(麻実)

この石も先祖の一人秋彼岸               瀬尾柳匠   (6点)
秋彼岸で訪れた昔からの墓域。時代を反映した色々な墓石が並ぶ。その最も古いものは自然の石を置いただけ。苔むした石も正しく先祖が眠っている証なのだ。(勘六)

歳月を経て丸くなり、ただの石になった墓石。墓石も老いて惚けて自然に戻るのです。無常感と作者の詩心がしっかり伝わって来ます。(仁)

ひさしぶりの墓参。立ち並ぶ墓石のそばに、大きめの野の石がひとつ置いてある。この世のひかりを見ずに逝った児なのか。彼岸にこそ思いめぐらす家族累代への追懐である。時の経過とともに語る人も少なくなり、だれもやがて目をとじて、石となる。(茂喜)

花街の袋小路や実むらさき               土田栄一   (5点)
花街の袋小路に実むらさきが成っていた。如何にも花街の袋小路の風情が感じられて良いと思います。(芳彦)

うすもみぢ道曲がり行く和紙の里            満井久子   (5点)
薄紅葉の道と和紙の里の取り合わせが効果的に風景を広げてくれる(ユリ子)

和紙の里とうすもみぢの取り合わせが素敵です。(明)

ムツクリは雨風の音鮭溯る               西脇はま子  (5点)

秋扇ひらけば源氏物語                 西脇はま子  (4点)
扇を開けば何とも華やかな源氏物語。秋の扇のうら悲しさを吹き飛ばすような絢爛豪華な世界が見えました。(柳匠)

扇の金箔に源氏物語の一景。華やかさと秋の静寂を併せ持つ世界で、言い得ていると思う。(ユリ子)

下ろし金の目立てのリズム秋澄めり           室 明    (4点)
食材の味・香を生かす江戸職人伝統の感覚の冴え。(柳絮)

意外な物の意外な部処に着眼。このしたたかさが俳諧性を強烈にアピール。上五中七に魅かれます。下五の取り合せについてはノーコメント。(仁)

道具がよいと料理する時間も楽しい。仄かな香りや音に喜びを感じる一句に共感しました。(博子)

コスモスや息はづませて遅刻坂             松浦泰子   (4点)
遅刻坂という呼び名がよくわかる。コスモスが効果的。(清文)

急かされて登校した昔。今も尚?(小夜子)

地球儀は直径三寸獺祭忌                あさだ麻実  (4点)
獺祭忌にぴったりの句と思います。(立哉)

病む子規にとって外の広い世界への思いは想像を絶する切なさ。小さい地球儀は尚更切ない。(泰子)

子規の遺品にアムールの石と地球儀があり、子規庵を訪れるたび見ていました。その地球儀の直径が三寸であると詠んだ、作者の飾らない素直な写生の眼に感心しました。(はま子)

星月夜ボトルシップが真帆揚げて            和田 仁   (4点)
ボトルを抜け出して宇宙空間を翔る快速クリッパー。メルヘンの世界。(柳絮)

千年の岩屋の暗し秋の雷                浅井貞郎   (3点)

名月を掲げて楡の大樹かな               森山ユリ子  (3点)

初あらし靴失ひし子と帰る               明隅礼子   (3点)
あらしの中で靴が脱げたのでしょうか。いろいろ想像しておもしろい。(泰子)

靴を失って、しょげてた子を包む親の優しさに心がほんのりしてきました。(博子)

ひらがなで聴く虫のこえ谷戸の寺            江原文    (3点)
ひらがなで聴く・・・・・この表現で頂きました。(麻実)

草むらを出て蟷螂は風を聴く              上脇立哉   (3点)
かまきりがちょっと首をかしげた姿勢を想像しました。哲学者めくあの様子が好きです。(明)

まつすぐの道はさみしい林檎喰う            江原 文   (3点)
種田山頭火が再生して天為の同人になってくれるといいですね、季語林檎食うが良いと思います(貞郎)

この程度のさみしさは林檎を食べることで癒されますネ。それも小ぶりの林檎を丸かじり。。。。。想像膨らみます。(麻実)

無骨なる武州藍染野川澄む               石川由紀子  (3点)

病棟の長き廊下や秋灯                 阿部 旭   (3点)
暮れなずむ空に挑むかの如く病棟の廊下に灯が点る。まるで完治の日が遠くないと暗示しているような気がする。(柳匠)

叡山の一山一寺霧の中                 原 豊    (3点)

名工の硯かがやき秋の水                満井久子   (2点)

子規庵に下がる糸瓜の五六本              高橋雪子   (2点)
9月19日に子規が死んだ。その絶筆が糸瓜三句。根岸に保存されている子規庵では、庭に糸瓜が実り当時のままの風情を伝えている。(勘六)

結核の子規が糸瓜の水を飲んで養生していたので今も子規庵に糸瓜が5、6本下がっていたという。今もほんとに糸瓜が成っているのですか?(芳彦)

潔く捨てればかくも秋麗                安藤小夜子  (2点)
余分なものも屈託も捨てればすっきりして、美しい秋の日を楽しめるはず。(美春)

八幡に弓を射る音秋澄めり               根岸三恵子  (2点)
秋祭りでしょうか、五穀豊穣を祝うかに弓の音が響く。子どものころを思い出しました。(柳匠)

流鏑馬の迫力は想像以上。秋の澄んだ空気のなかで弓を射る音は気高く響きます。(泰子)

絵硝子の聖母の青に秋気満つ              渡部有紀子  (2点)

鰯雲空に音符を拡げたり                瀬尾柳匠   (2点)
空に音符上手な言い表し方本当に音符が何の歌かしら(みつ子)

ジパングは黄金の国豊の秋               鹿目勘六   (2点)

授かりし嬰児のごとく葡萄受く             上脇立哉   (2点)
やや児のごとくが下五を引き立たせています。(豊)

日に五便のみのバスなり鰯雲              相沢恵美子  (2点)

澄んだ広い空に鰯雲、バスを待つ田舎ののんびりとした景が浮かびます。(孝子)

丹念に風の撫でゆくすすき原              石川由紀子  (2点)
ススキが泳いでいる様あまり強くない風が好きです(みつ子)

野分吹く夜は淋しい象の鼻               和田 仁   (2点)
象の鼻がいいです。(志昴女)

中七五の、フレーズが良くて頂きました。季語がちょっと気になります。 (文)

添水鳴る古刹に風の渡るとき              鈴木 楓   (2点)
漢詩の一節を投影したような景。古刹の静けさの中、聴覚を研ぎ澄ませた句。(豊)

名月や大聖堂の銀の屋根                森山ユリ子  (2点)

後の月万年筆で書く手紙                中村光男   (2点)
秋の終わりにのぼる月を愛でる、十三夜。秋の幸、豆や栗をそなえる。おもむろに万年筆を取り出して手紙を書く。書きながらその手紙を読む大切な人を思う。かつていっしょにこの月をながめた人なのだろう。このごろ少なくなった手紙、万年筆に光をあてたひらめきが楽しい。(茂喜)

衣被つるりと剥けて母の味               土田栄一   (1点)

薔薇一輪もらひて帰路の星月夜             佐藤博子   (1点)
薔薇一輪と星空の美しさが良くマッチしています。(豊)

浮世絵の年増の腕秋扇                 米田清文   (1点)

秋さびし座り机を窓に向け               土屋香誉子  (1点)
机を窓に向け外の景色を見るだけで、少しは淋しさが薄れる気持ち、良く分かります。(孝子)

空谷の風を捉へて鷹柱                 岩川富江   (1点)

皂莢(さいかち)や陽を惜しみつつ身          早川恵美子  (1点)
皀莢が陽を惜しんで身を捩っていたという。面白い。(芳彦)

小言いふ妻そばにゐて巨峰剥く             中村光男   (1点)

信濃より来て赤濃しや秋桜               岡崎志昴女  (1点)

尾長啼きさらに深まる秋湿り              阿部 旭   (1点)

曼珠沙華一花は白無垢装ひて              山口美鈴   (1点)
曼珠沙華私も大好きな花のひとつです。白もいいですよね(みつ子)

林檎剥く希臘の長き紀元前               髙橋紀美子  (1点)

ロンドンの濃霧よ記念館消すな             妹尾茂喜   (1点)
記念館下車駅と同じ地下鉄の北の方に住んでいたことがあります。何回も足を運びました。記念館が無くなって寂しいですが、濃霧に消されることなくブルーブラークは残ると思います。(小夜子)

いつまでも尾の気になりて青蜥蜴            片山孝子   (1点)
まだ夏の暑さが残る昨今。蜥蜴の尾の瑠璃色に魅入られると共に再生を願う気持ちに共感しました。(博子)

秋の日の野菜乱切りラタトウユ              小野恭子   (1点)

鰓呼吸浅くなる夜秋黴雨                杉 美春   (1点)
水槽の魚の呼吸が浅くなる夜、実際は魚ではなく作者の何らかの心の葛藤が息苦しくしているのか?秋黴雨ならなおの事!  (文)

島国の嵐に耐へし今年米                武井悦子   (1点)

乾燥機フル回転で九月尽                安藤小夜子  (1点)

湖のいろ織りし紬や九月尽               岡崎志昴女   (1点)
藍染めの藍の階調。水の深さ空気の密度によるグラディーション効果。(柳絮)

天平の三尊拝し九月果つ                根岸三恵子   (1点)

奇跡とは盲ひし人の秋の奏               加茂 智子   (1点)
辻井伸行のピアノは本当に不思議です、ラフマニノフのピアノ協奏曲をオーケストラと共演出来るとは本当に奇跡です(貞郎)

天高しポール歩行の腰延し               荒川勢津子  (1点)

一渓の高きに燦と銀杏散る               妹尾茂喜   (1点)

水澄むやタピストリーの時間軸             小橋柳絮   (1点)
ジョルジュ・サンドが言及したことで一躍有名になった「貴婦人と一角獣」のタピストリーが思い出されました。季語「水澄む」と措辞「時間軸」は、この句を一層、詩のある魅力のある作品にしています。(はま子)

秋深し二十世紀の鉄の錆                松浦泰子   (1点)

秋刀魚の骨きれいに取つてくれし子           佐藤武代   (1点)
食事の支度で忙しいお母さん。先に焼き上がった秋刀魚を食卓に並べておくと、子供さんが、きれいに骨を取ってくれた。何時もお母さんにしてもらったことを、子供さんが真似したのでしょう。お子さんの成長と優しさが伝わってくる微笑ましい作品です。(はま子)

朝鈴や茶房の椅子は川に向け              荒木那智子  (1点)
涼やかな虫の音、川に面した喫茶店。気持ちの良い光景です(美春)

ベーシスト奏でる音の深き秋              佐藤律子   (1点)
秋は、音楽の響きが一段と胸に響く季節だと思います。まさに「音の深き秋」と言えましょう。(智子)

東京を遠く遠くに星月夜                小高久丹子  (1点)

水口や刈り取る稲穂の軽さかな             武井悦子   (1点)

鰯雲草原を抜け長き貨車                相沢恵美子  (1点)
吟行先でこのような光景を目にしたことがあります。どこまでも続く鰯雲と広々と続く草原は今、秋、真っただ中、一年中で最も爽やかな時季です。(明)

婚の荷の見えて来たりし松手入             明隅礼子   (1点)
いいお日和ですね、松のお手入れにも、婚礼にも。(志昴女)

障子貼る日溜りごとに猫のゐて             芥ゆかり   (1点)

以上

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