天為ネット句会報2017年1月

 

天為インターネット句会2017年1月分選句結果

(作者名の後ろの点は互選点)
 ※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。また互選句は高点句から順に、同点句は句稿番号順に並べました。
 ※一部インターネットで表示できる文字に置き換えております。ご了承ください。

<日原 傳 編集顧問選 特選句>

川風に寄席の囃子や漱石忌              妹尾茂喜   (1点)
寒い川風の吹くなか、聞こえくる寄席の出囃子に心を寄せる。漱石忌は十二月九日。そういえば漱石も寄席が好きであった。漱石と子規が親しくなったきっかけは、どちらも寄席が好きであったことによるという話も思い出される(傳)。

年番と言ひて父行く年籠               荒木那智子
「年籠」は神社や仏寺に参籠して新しい年を迎える行事。掲句の父はその年の世話役に当っているのであろうか。その口吻から地元の人々に信仰され、支えられている小さな社での年籠のさまが想像されてくる(傳)。

<日原 傳 編集顧問選 入選句>

海のもの炙りつつ売る歳の市             松浦泰子   (5点)
海のものを炙っている香ばしい匂いがして来るようです。(相・恵美子)

賑やかな歳の市の情景が「炙りつつ売る」という措辞で上手く表わされている。(光男)

12月の中頃から大晦日まで寺社の境内に新年を迎えるための神棚・門松・裏白・干し柿などの草物、俎板・包丁などの台所道具、鎌・鍬・鋤などの農具を売る市が立つ。たこ焼き・お好み焼き・杏飴などの露店も人の足を止める。掲句の上五「海のもの」と大雑把に詠んで、如何にも歳の市らしい雰囲気を掴み取っている。(はま子)

去年今年雷門の大提灯                内藤 繁   (5点)
雷門の「大提灯」に着眼。江戸俳諧を加速的に想起。「大赤提灯」のインパクトに一句の存在感が一気に当確域に。テンションが上がります。(仁)

普段見慣れている雷門の大提灯。云われてみれば去年から今年もぶら下がっている恐らく来年も其のままであろう。雷門の大提灯と去年今年の取り合わせが良いと思う。(芳彦)

観音様に着く前にカウントダウン?(小夜子)

浅草寺を訪れる人々を常に見守っている大提灯は季語にぴったりです。(明)

富士のぞむ窓は閉ざさず冬構             満井久子   (2点)
うらやましい窓から富士が見える私も閉めません(みつ子)

富士は冬こそ美しい、その窓は閉ざせません。(泰子)

六角堂寂と五浦の冬三日月              室 明    (1点)

植木屋の帰り支度や年の暮              森田まこと  (1点)
植木屋さんの長い脚立を持った後姿と季語の年の暮れが良くマッチングして、多分頑固で腕の良い職人さんだと思いました。(孝子)

行く年の卒寿の母の寝顔かな             中川手鞠   (1点)

梯子乗り谷覗きする出初式              竹田正明

鑁阿寺の猫の鼻さき冬日濃し             西脇はま子

寒風や膠煮ている古梅園               今井温子

山茶花のしづかに昏るる多摩郡            内藤芳生

<互選句>

針箱に母生きてをり餅飾る              内藤 繁   (7点)
お母様の想い出の針箱。今年も元気で新年を迎えられたよと呼掛けられているようで好きです(早・恵美子)

生前のお母様ご愛用の針箱にお餅を飾る様子が切なく美しいと思います。(泰子)

餅を飾る様な立派な針箱の持ち主であった、この句のお母さんは生前、デパートなどで、御振袖や留袖などの仕立職人をされていたのでしょうか。「針箱に母生きてをり」から母を慕う気持ちと深い尊敬の念が感じられます。(はま子)

鶏鳴を赤く染めたる初日影              渡部有紀子  (5点)
小高い丘の上に初日の出を見るために集まった人々の黒い影がある。山の端に初日がのぼれば互いの顔が真っ赤に染まり、歓声があがる。折から鶏鳴が聞こえ、その声も赤く染められているという。めでたさの発想がおもしろい。(茂喜)

酉年の年頭にふさわしいおめでたい一句だと思います(律子)

元旦の黎明の美しさとめでたい鶏鳴のイメージに共感しました。(博子)

皹割の指じょんがらの棹走る             早川恵美子  (5点)
津軽三味線の厳しい生活に根差した様子がよく表現されています。(泰子)

普段は厳しい寒さの中きつい仕事をしている人が無心に津軽三味線を弾いている姿は心打たれるものがあります。(明)

鉛筆をみな尖らせて冬に入る             明隅礼子   (5点)
鉛筆の芯の尖りと初冬の張りつめた気配とが良く合っていると思いました。(志昴女)

無人駅下りてふるさと冬ぬくし            齋藤みつ子  (5点)
無人駅とふるさとの取り合わせが素晴らしく季語「冬ぬくし」が効いています(貞郎)

過疎の地となった故郷の駅の寂しさの一方で、風景や友の暖かさが下五から感じられます。(明)

火打石も神棚も売る年の市              米田清文   (5点)
本来神聖な神棚モ売られている、というおかしみが良いですね。(志昴女)

落葉掻く一天の蒼掻き寄せて             内藤芳生   (5点)

膝掛の配られてゐる通夜の席             土屋香誉子  (4点)
逝く年の夜に読経の続く集会所。席には膝の寒さをぬくめる膝掛が配られている。作者は取りも敢えず式場にかけつけたのだろう。生前の交友をふりかえりつつ棺の中の冷たさを思う。膝掛だけを言い、生あるものの滅亡と悲しみを詠った。(茂喜)

冬銀河ゆっくり回すオルゴール            石川由紀子  (4点)
銀河の下、老母が子や孫を思い出しながらオルゴールを回している。そんな情景を思い浮かべます。メルヘンチックな句です。(光男)

冴え冴えとまたたく銀河、それは太陽系の様な惑星が1千億個集まって出来ているとか。その銀河は、地球の自転により天球を動いて行く。しかしオルゴールの音色が、銀河を廻していると感じた所に壮大なロマンがある。(勘六)

漱石忌奈良の土産の陀羅尼助             松浦泰子   (4点)
漱石は胃腸を病んで苦しんだと聞きます。陀羅尼助を服用していたかもしれません(清文)

機嫌よくプリンタの吐く賀状かな           土屋 尚   (4点)
プリンターで打ち出している賀状。トラブッたら大変。スムーズに終ってほしいという願望が、「機嫌よく吐く」という措辞で上手く表されている。(光男)

人工知能が発達して「もう嫌だ」っていったらどうしよう・・なんて世界まで想像しました。(博子)

あれやこれ一日(ひとひ)に納め大晦日         佐藤律子   (4点)
あれやこれに正月準備の忙しさがよく描けていると思います(柳匠)

その次の人も触れゆく毛皮店             小野恭子   (3点)
目を引く豪華な毛皮、多くの人が触れてみるが買うには至らない。余りに高価すぎるのか、それとも日本人の価値観が堅実になったからか、一般の人から無縁な世界にそれは存在している。(勘六)

凩や野面の色を吹きこぼし              瀬尾柳匠   (3点)
野面の色を吹きこぼしが凩の情景を強くしている。(豊)

野面の色を吹きこぼしがすごく効いてます(みつ子)

旭光をひきゐて来たる冬かもめ            和田 仁   (3点)
不忍池に冬かもめが舞う明るい朝をイメージしました(清文)

鶴舞ふや一歩踏み出す北の春             原 豊    (3点)

赤い靴浜の波止場や聖樹の灯             山口美鈴   (3点)
港町横浜ロマンチックな聖夜を連想させる句(豊)

斯許りの日向に広げ暦売               相沢恵美子  (3点)

着ぶくれの漢平和を語りけり             佐藤武代   (3点)
着ぶくれの漢とは誰を指すのか?それによっていかようにも取れる面白い句だと思います(律子)

老いて着膨れているが、安保反対等と活動した若い時もあった。歳を重ねた今、孫子のためにも世界の平和を護らなければとの想いが強くなった。若い時の情熱の熾火が未だ心に残っている。(勘六)

文字の無きページの日あり日記果つ          安藤小夜子  (3点)
まさに『果つ』という言葉の選択が全てを語ります。(律子)

文字の無き・・の措辞に想像の膨らむ一句でした。(博子)

山はみな眠りに入り墓参り              齋藤みつ子  (2点)

かぶら蒸両手で包む塗りの椀             石川由紀子  (2点)
大好きなかぶら蒸大事に塗りの椀で出している様子が分かります(みつ子)

先客は皮のジャケットレノンの忌           小野恭子   (2点)

くっきりと遠富士の浮く初み空            荒川勢津子  (2点)
新幹線の窓から見た初富士は素晴らしかった、季語初み空が良いと思います、(貞郎)

湯豆腐や昔むかしの物語               森田まこと  (2点)
さらりと滋味たっぷりに表現。下句「昔むかしの物語」の意表を突いた?表出に練達の含蓄を感受。存分に含みのある巧者の一句。(仁)

湯豆腐鍋を囲んで懐かしい昔の話に花が咲く、とても共感が有りました。(孝子)

息白し朝市前のおにぎり屋              荒木那智子  (2点)
白い息に加え、握っているおにぎりからの湯気も見えてきます。(相・恵美子)

倹約も芸の内なり去年今年              原 豊    (2点)
倹約のつましい生活を「芸」といったところに俳味を感じます。また去年今年によりつましさの持続の生きざまがあります(清文)

障子貼るかつて覚えし技をもて            嶋田夏江   (2点)
同じことを年暮れにしました。今では珍しい事ですね。(孝子)

布団の綿入れ、洗い張り、障子貼りなど将来の為と母に手伝わされました。今出番のあるのは障子貼りだけです。懐かしい昔思ひ出しました。(小夜子)

ジャズの夜の跳ねて街ゆく冬帽子           米田清文   (2点)

母二人をりし日々あり室の花             土屋 尚   (2点)

かしましく女三代初飛行               中川手鞠   (1点)

川風に寄席の囃子や漱石忌              妹尾茂喜   (1点)

歌留多詠む平安の灯の彩被り             關根文彦   (1点)

寒雲やライオンときに風を恋ふ            佐藤博子   (1点)
いかにも百獣の王らしい雰囲気です。(志昴女)

俯瞰するビルの東京初日影              竹田正明   (1点)

わが干支の鶏飛翔せり初詣              高橋雪子   (1点)
酉年生まれの作者が初参りして、その酉すなわち鶏を見つけて、今年は特にがんばろうと誓っている。酉の吉方は西、刻は午後6時前後。洞察力があり、頭の回転が速い酉年生まれ。酉年の人は今年生きのよい句に恵まれるだろう。(茂喜)

よべ狸滑りけむとぞ落葉径              上脇立哉   (1点)
調子が良いですね(早・恵美子)

酒飲めぬ妻も一口玉子酒               鹿目勘六   (1点)
妻も一口に夫婦の愛情がよく描けていると感じます(柳匠)

改札をピツピツと通り暮の街             佐藤武代   (1点)
改札口で駅員が切符に鋏を入れていた時代は遠い昔のことになってしまった。今はJRでも私鉄でも自動改札でカードを接触すればピピッと云う音と共に改札口が開く。このスピード感が暮の街に相応しく思われる。(はま子)

父が搗き祖母が丸める鏡餅              岩川富江   (1点)

除夜の鐘江戸は鬼門の寛永寺             鈴木 楓   (1点)
程よく確認を促すような下句「江戸は鬼門の寛永寺」の響きが心地佳い。上句「除夜の鐘」と共振し、雑味のないノスタルジックな情緒世界を創出。(仁)

日を浴びてひつじ田の青ツンツンと          片山孝子   (1点)

蕪村忌やココアの香る根岸庵             あさだ麻実  (1点)
子規は牛乳にココアを入れて飲むのが好きだった、蕪村忌の12月25日には多くの友人が根岸の子規庵に集まった。作者はココアを飲みながら在りし日の子規とその仲間の事を偲んだのでしょう(貞郎)

小さき富士富士見橋より小晦日            小高久丹子  (1点)

注連作り正座は出来ぬ膝立てて            山口美鈴   (1点)
正座は出来ぬに風雪に耐えてきた人生がよく現れていると思います(柳匠)

時雨るゝに旧家のもてなし煎茶会           片山孝子   (1点)

さし寄りてさねさし相模師走の茶           岡崎志昴女  (1点)

元朝の旭日を拝し夫たてり              武井悦子   (1点)

聖餐の皿に残りし鳥の骨               髙橋紀美子  (1点)

冬めくも公園将棋続きをり              嶋田夏江   (1点)

水蛸の大き頭をお歳暮に               今井温子   (1点)

山河の響きあひゐる冬の鳶              西脇はま子  (1点)

逝く年の玻璃戸を叩く風の音             鈴木 楓   (1点)

お内儀はすっぴん美人花八ツ手            和田 仁   (1点)
お茶葉屋のお内儀(かみ)さんなど商品に匂いを移さない様にすっぴんでしたね。花八つ手が下町らしいです。(小夜子)

刈萱を竹筒に注す茶室かな              松山芳彦   (1点)
わびさびの真骨頂ですね。風情あります(早・恵美子)

空風の浜忠敬の歩のごとく              妹尾茂喜   (1点)

美しき葉の一枚を手に落葉掻             満井久子   (1点)

空高く鳶翔んと蕪村の忌               浅井貞郎   (1点)

以上

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