天為ネット句会報2017年6月

 

天為インターネット句会2017年6月分選句結果

(作者名の後ろの点は互選点)
 ※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。また互選句は高点句から順に、同点句は句稿番号順に並べました。
 ※一部インターネットで表示できる文字に置き換えております。ご了承ください。

<対馬 康子最高顧問選 特選句>

天平の鴟尾を揺らしてあめんぼう        内藤芳生    (4点)
天平建築である唐招提寺金堂の大屋根の両端を飾る鴟尾は勇壮である。歴史の風雪の中でびくともしない大きな鴟尾を揺らしているのが、水の上のほんの小さなあめんぼうだという、虚実の飛躍は俳句ならではの醍醐味。(康子)

水面に映った天平の鴟尾とあめんぼうの生み出した水紋の絡みを瞬時に捕らえ、正に俳諧そのもの。観察と表現を楽しませてくれます。(仁)

荘厳な甍の屋根を飾る鴟尾、それが水面に映っている、それにアメンボウが乗って揺れた。天平時代と現代が重なり合う。(勘六)

火口壁なす黒牡丹夜が揉む           關根文彦
黒味がかった紫の花びらが重なり合っているその牡丹の美しさを、「火口壁なす」と捉えた斬新な表現に驚いた。地の底のマグマを抱くように、荒々しい滅びの美である。(康子)

<対馬 康子最高顧問選 入選句>

花街や朝は男が水を打つ            岡崎志昴女   (3点)

じゃがたらの花の上なる夜会の灯        早川恵美子   (3点)
じゃがたらの花と夜会の灯の取り合わせが意外性があり面白いと思います。(恵美子)

漱石の糠床発酵続く夏             武井悦子    (1点)

銀灰の白妙菊や水の月             松山芳彦    (1点)

一筆に鶴の生まるる青田風           早川恵美子   (1点)

一匕のアイスクリーム子規と虚子        妹尾茂喜

夏木照る塩打つ海の色の魚           關根文彦

風南より来たり夜を動かす           岡崎志昴女

<互選句>

海の色月の色して水母かな           佐藤博子    (8点)
海の色が月の色をしているという。そこに水母が浮いている。幻想的に感じられて面白い。(芳彦)    

詩的で綺麗な句ですネ(麻実)    

幻想的絵画的一句ですね。月の色が素敵です(早・恵美子)

父の日やファの音欠けしハーモニカ       安藤小夜子   (7点)
音の欠けたハーモニカ、良くありますね、久しぶりに出したのでしょうか、又は亡きお父様が吹いて居られた物でしょうか(孝子)

ファザーのファの音…なんとんなく淋しい句ですネ(麻実)

亡き父上の愛用のハーモニカをそっと吹いてみる作者。ファ音が欠けていることが一層寂しさを深めるようです。(明)

乗り換へるたびに薫風濃くなりぬ        和田 仁    (7点)
沿線の光景が見えてきます。(芳生)

乗り換えてだんだん田舎の奥深く入っていく様子が「薫風濃くなりぬ」に良く出ています、(貞郎)

渓流に沿って進んでゆく様を思い描いています 薫風が濃くなると表現された所に感動しました(温子)

自然の懐に近づくにつれ、車窓からの風がみどり濃く感じられる。風の変化を表現する事で、風景や作者の心情も伝わる。上手い一句である。(文)

ひさしぶりに帰郷するのだろう。本線から支線に乗り換えると、空わたる風は山あいの樹々の緑の葉を裏がえす。見なれた景が近づき、会いたい人の声が耳奥にひびく。胸に思い出がよみがえり、風の香が濃さをいちだんと増す。(茂喜)

都会を離れるにつれ緑と薫風に心安らぐ作者の気持ちが伝わってきます。(明)

荒鋤の土の匂ひの夏つばめ           石川由紀子   (6点)
力強い農村の風景が見えます(早・恵美子)

むせかえるような土の匂い、飛翔するつばめ、夏らしい光景だと思います(美春)

一雨の抜けて立夏の空青し           瀬尾柳匠    (6点)

梨咲くやシルクロードの点と線         西脇はま子   (5点)
シルクロードで、西域を意識させ、梨の花で楊貴妃のかんばせを思わせる、洒落た句です(志昴女)

定年はもうすぐですよ蝸牛           佐藤武代    (5点)
まるで蝸牛にも定年制があるかのような語り口が楽しい(柳匠)

蝸牛のようにコツコツと勤め上げられたのですね、ご苦労様です。(孝子)

梅雨兆す古き洋書のハトロン紙         杉 美春    (5点)
ハトロン紙の古い洋書とはどな本であろうか。哲学書、医学書、文学書。いろいろと想像が尽きない。梅雨兆す頃のうっとりとした日常の一齣。(はま子)

新しきシーツに替へて風五月          相沢恵美子   (4点)
気分一新…下五の風五月が効いていますネ(麻実)

季語がぴったり(美春)

新品のシーツというよりも、洗い立てのシーツを新しいシーツと言うこともあるので、後者の意味のように思う。五月の風にしっかり乾いたシーツに替える動作までもが見る。(はま子)

六月の貨車灰色の街に着く           土屋香誉子   (3点)
街のメランコリーを感じます。アウシュヴィッツの残像も頭に浮かびました。(博子)

テミスもつ金の天秤影涼し           髙橋紀美子   (3点)
テミスは正義の女神として、欧米においては司法の象徴ともなっている。テミスもつ金の天秤の影が涼しいと感じたところ、何か比喩てなものを感じられ面白い。(芳彦)

駱駝草咲く玄奘の旱道             鈴木 楓    (3点)
駱駝草を知らないのですが、玄奘のインドまでの苦難の多い長旅を慰める一助となった白い小花を思い描きました。(明)

三蔵法師も旅した西遊記の世界。旱道に駱駝草が咲いているという雄大な景色を思い描きました。(ユリ子)

黴の香や計算尺に指の痕            安藤小夜子   (3点)

鈴蘭の鈴振って風過ぎてゆく          鹿目勘六    (3点)

薔薇園千の品種の万のバラ           松浦泰子    (3点)
色々な品種を集めた薔薇が姸を競っている。それを千の品種の万の薔薇と表現した。巧みに薔薇園の華やかさが伝わって来る。(勘六)

石蹴つて夕焼け小焼け帰り道          中川手鞠    (2点)
男の子でも女の子でもなにか淡い郷愁を感ずる情景でしょうか。(ユリ子)

田植え機の音響かせて通り過ぐ         片山孝子    (2点)
田植え機の無骨な音が聞こえてくるようです。(博子)

さし汐に岩沈みゆく薄暑かな          阿部 旭    (2点)
和歌の感覚を見る思いです。(志昴女)

老鶯や一人暮しにやつと慣れ          佐藤武代    (2点)

フィッシャーマンズワーフのアメリカ花水木   米田清文    (2点)

麦笛や君が代を吹くがき大将          土田栄一    (2点)
がき大将の吹く麦笛の曲が意外や意外、君が代というのは泣かせます。(泰子)

回送電車ゆっくり進む夕燕           今井温子    (2点)
ゆっくりと進む回送電車の余白を、夏燕の素早い飛翔で彩り、めりはりのある情景に仕上げました。(仁)

梅雨の星森を揺るがす連太鼓          妹尾茂喜    (2点)
震える水滴を揺らすのが太鼓の音だという抒情性に満ちた一句(柳匠)

アマリリス耳を傾け噂好き           今井温子    (2点)

余花の雨星を残してあがりけり         瀬尾柳匠    (2点)
余花の雨が上がって星が瞬いていたというのはとても美しいと思います。(泰子)

若葉風ケルトの笛を吹く男           森山ユリ子   (2点)
アイリッシュの笛の音が聞こえて来るようです(早・恵美子)

半夏生この世に戻る白狐かな          佐藤博子    (2点)
半夏生は小さくて不気味な感じはしなかったのですが、この世に戻る白狐を連想ですか!(志昴女)

接骨木の花のこぼるる子規髪塔         浅井貞郎    (2点)
とても趣があり佳い句と思います。(相・恵美子)

にはとこの花、接骨木の花。密集した薄黄色の小花のこぼれるところに、子規埋髪塔がたたずむ。俳句革新を行った青年の足跡を讃えて子規堂が建てられ、三回忌に埋髪塔が建てられた。子規生誕150年、偉業は今も生きている。(茂喜)

海はるか日本語で来る夏便り          齋藤みつ子   (2点)
いまは外国に暮らしているのだろう。郵便受けの中に日本語の文字を見つけた。差出人は級友か、かつての職場の仲間か。島国の日本から届く便りはいつも海を越える。夏の便りと大洋の広がりが、読者の心も開放する。(茂喜)

花蜜柑回らぬ風力発電機            髙橋紀美子   (2点)
回らぬ風力発電機~原子力発電はもういらないけれど、自然任せての風力発電機は風まかせ~そんな時優しい花蜜柑の香りと白い花がゆっくり待とうと~  (文)

病院の鏡でなほす夏帽子            満井久子    (2点)
病院の鏡に映して夏帽子を直しているならきっと回復に向かっていらっしゃるのでしょう。明るさを感じます。(泰子)

夏野菜篭より緑あふれ出づ           室 明     (1点)

江戸へゆく径見えて来し桐の花         明隅礼子    (1点)

佐賀平野麦秋の道をゆく            嶋田夏江    (1点)
豊沃な佐賀平野の麦秋の中にいると弥生人の気分でしょうか?この後は熱気球、稲作と続く大地を想像しました。(博子)

踏青の歩幅大きく決断す            和田 仁    (1点)

見晴るかす野にぽつぽつと仙人掌花       満井久子    (1点)
「見晴るかす野」は広い荒野のメキシコでしょうか。30年も前に見たメキシコの景色を想いました。(ユリ子)

風紋の色浅くなり砂丘夏            あさだ麻実   (1点)
いつも山陰の暗い空を映していた砂丘が、夏を迎え明るく青い空になった。砂丘の色も空の色を反映して浅く変わった夏だ!砂丘夏の名詞切りが効いている。(文)

拝領の翁狩衣風薫る              松浦泰子    (1点)
「拝領の狩衣」とは先祖伝来の大切なものでしょう、季語風薫るが効いています、(貞郎)

琴を弾く人物埴輪麦の秋            竹田正明    (1点)
琴を弾く人物埴輪と麦の秋の取り合わせが情感あり。(芳彦)

芍薬の崩るる白を葬らん            江原 文    (1点)
芍薬の崩れ落ちるのを葬ると表現されたのに共感致しました。(孝子)

新聞紙丸めゐて蝿見失ふ            鹿目勘六    (1点)
蝿と新聞紙の取合せが笑いを呼ぶ(豊)

夏めくや山のホテルの灯のともる        岩川富江    (1点)

蘭州の雪解光の耳飾り             西脇はま子   (1点)

緑さす礼拝堂の木のクルス           佐藤律子    (1点)

見舞い状投函見あぐれば虹二重         室 明     (1点)

岩から岩ホップジャンプの雀の子        土田栄一    (1点)
岩から岩へ元気に飛び移っている子雀の様子が目に浮かんで来ます。可愛らしいですね。(相・恵美子)

七変化月の涙を玉とせり            原 豊     (1点)
季語「七変化」と「月の涙」の取り合わせが絶妙で美しい句となりました、(貞郎)

渾天を映す天池に夏は来ぬ           鈴木 楓    (1点)
天池は西王母が足を洗ったという伝説のある、深く澄んだ湖。、残雪の天山山脈が近々と迫る大景を渾天という語で言い切った。(はま子)

遠ざかる穂麦の浪や夜のとばり         竹田正明    (1点)

紫陽花のいつも後ろに声のする         江原 文    (1点)
不思議な感じがして好きな句です(美春)

正宗寺子規髪塔に緑雨うつ           浅井貞郎    (1点)

しばらくは離れにゐたり藍浴衣         明隅礼子    (1点)
簡潔な具象表現。しかし、人物の内面の綾を巧みに捕らえています。たっぷりと、かそけき情感に浸ることができます。(仁)

きらきらと軍事アンテナ金英花         土屋香誉子   (1点)
きらきらと光るものが軍事アンテナだという混沌とした世相をよく表した一句(柳匠)

青紅葉古刹清しく老いにけり          小高久丹子   (1点)
由緒ある寺社を楓の青葉が取り囲んでいる。時を重ねて古びた荘厳な建物が生きかえったように清々しく佇んでいる。(勘六)

以上

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