天為ネット句会報2017年7月

 

天為インターネット句会2017年7月分選句結果

(作者名の後ろの点は互選点)
 ※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。また互選句は高点句から順に、同点句は句稿番号順に並べました。
 ※一部インターネットで表示できる文字に置き換えております。ご了承ください。

<日原 傳 編集顧問選 特選句>

紫陽花の海とは違う藍の色        鹿目 勘六     (5点)
広がる海を背景にして咲く紫陽花を目にしているのであろうか。海の色に譬えられることも多い青い系統の紫陽花の色。言葉にすれば共に「藍」なのだが、同じ空間に置くとその色は違っているというのである。その違いとはどのような具合なのだろうかと、読み手の想像を誘う面白さがある(傳)。

基底に据えた詩性と抑制の効いた俳味が程良く調和。無理なく楽しめるマイルドで滋味のある一句。(仁)

一山に紫陽花がなだれ咲く寺を訪ねた日 どれも美しい青色、でもでも海のブルーとは違う 紫陽花にうずもれつつ句帳を開いておられる方を思い浮かべております(温子)

青い紫陽花、海の青とは違う藍色、と言われて思わず納得してしまいました!(志昴女)

同じ藍色でも紫陽花と海では違うと良く観察しましたネ(麻実)

六月の花の白さの別れかな           鈴木 楓   (1点)
送別あるいは留別の句。六月に咲く白い花は色々ある。沙羅の花、くちなしの花、山法師の花、蜜柑の花。大きなところでは、泰山木の花。ある人との別れの場面で偶然目にした花の白さがいつまでも記憶に残っているのである。白という色が二人の交流のさまを象徴するかのように働きだす(傳)。

<日原 傳 編集顧問選 入選句>

明易しダーツ刺されしままにあり        上脇立哉   (5点)
物語性がありますね(光男)

ほうたるや平家公達みな若し          松浦泰子   (5点)
季語は「ほうたる」。知盛とか宗盛など確かに若くして散って居ると思います。七盛塚や壇ノ浦などいろいろなことが思い浮かびました。(順一)

夕涼の斎庭(ゆにわ)神馬の速歩かな      室 明    (3点)
夕涼に斎庭の神馬など持ち出したところ珍しくて面白い。(芳彦)

季語は「夕涼」。神馬の「速馬」に感じ入りました。(順一)

駒草や強力雲に並びゐる            早川恵美子  (3点)
高山植物の駒草が一面に咲き誇っている景色と重い荷物を背負った強力が美しい花野に眼を細めひと休みしている様子が見えてきます。(明)

高山植物の女王と言われる駒草のお花畑に強力達がすっくと立っている様子が「雲に並びゐる」で目に見えるようです。(泰子)

色に音あらばマチスの夏祭           中川手鞠   (3点)

蛍雪の黴の一書の匂ひけり           内藤芳生   (3点)
蛍雪の一書であれば黴の匂いも懐かしいものでしょう、(貞郎)

まほろばの四神の眠る木下闇          浅井貞郎   (2点)
飛鳥辺りの貴人の古墳の長い長い静寂が思われます。(泰子)

緑の夜夜具に拡げし旅支度           小野恭子   (2点)
「夜具に拡げし」で旅行へのわくわくした思いが伝わってくる。緑の夜という季語が効いている(光男)

同じことをよくする私には、旅支度をしながら気持ちが徐々に浮き立つことまで思い出されました(律子)

旅を心待ちにする様子に共感しました。季語が美しいです。(博子)

運命を占うコイン日雷             小野恭子   (1点)
上句と季語の取り合わせが巧み。ドラマチックで臨場感あり。ハードボイルドなワンシーンとも捕らえることが出来ます。(仁)

白南風や北前船の入港図            竹田正明  (1点)

<互選句>

旱星赤き砂漠の闇ひろぐ            佐藤博子   (7点)
星に導かれて隊商が歩んでいく様子が見えます(早・恵美子)

赤き砂漠と闇、対照的に捉えているのが面白いと思いました(律子)

荒寥とした砂漠と旱星の赤。とてもポエティック。(ユリ子)

箱書は母の筆跡花菖蒲             あさだ麻実  (6点)
花菖蒲のお好きなご母堂様だったのでしょうか、母を偲ぶ心が伝わります(柳匠)

箱書に母の筆跡を見つけた。しかも花菖蒲と書いてあった。思い出に慕ったことでしょう。(芳彦)

リラの花ケルト十字架傾ぎをり         森山ユリ子  (4点)
古びた十字架を包み込むかにリラの花が咲き乱れている様子が見えてやさしさに打たれました(早・恵美子)

梅雨の蝶森のひかりを返しゆく         妹尾茂喜   (4点)
森の光を返しゆくが効いている。(豊)

梅雨蝶がほのかな光を返しているきれいな景が見えてきます。(相・恵美子)

梅雨の晴れ間の一瞬を一句にされたところが素晴らしい思いました(温子)

季語は「梅雨の蝶」。「森のひかり」が印象的でした。「返しゆく」に自然の能動性が顕在化して居るかと。(順一)

水打つて一手先読む床将棋           原 豊    (4点)
中7の表現が出色。簡潔にして臨場感あり。実に無理な気負いもなくダンディな表現です。俳句ならでの果汁を充分に堪能。(仁)

涼感が溢れています。(芳生)

彼の世から光のメール蛍かな          中村光男   (4点)
蛍火を彼の世からのメールと捉えたところが新鮮です。(芳生)

美しい蛍の光この世のものとは思えない天からの光のメッセージでしょう、(貞郎)

緑陰や木椅子に本と青年と           鈴木 楓   (3点)
小説の書き出しですか?(麻実)

六月の水の匂ひの伊都ノ国           佐藤博子   (3点)
私も古代史が大好き人間。中國文献に出てくる倭国の国名が心を揺さぶりますね。水の匂いとはスゴイ!(志昴女)

山野を洗い続ける霖雨に立ち、農耕民族のはるか弥生時代に想いをはせる。福岡県西方の糸島半島には、伊都ノ国があったという。『魏志倭人伝』に「東南陸行五百里到伊都國」とある。(茂喜)

白磁器に歓喜の色のさくらんぼ         鹿目勘六   (3点)
さくらんぼを出されて相好を崩す顔が見えるようです(柳匠)

思惟仏の膝の子蛙青く飛び           髙橋紀美子  (3点)
背中の青い子蛙。半眼に見開き、四肢吸盤を張り、仏の膝で何を会得したのだろう。蛙は決然と、一身を植田の水にあずけた。波乱の人生、もとい、蛙生の真っ只中へ。(茂喜)

思惟仏の膝から子蛙がぴょんと飛んだ飛跡が「青く」で青い放物線が見えて仏の加護が思われます。(泰子)

小さな野仏の御膝にいた子蛙が物音に飛び跳ねたのでしょうか。「青く飛び」が光景を鮮やかに蘇えらせていますね。(はま子)

梅雨雀いまも都電の走る町           西脇はま子  (2点)
都電の走る下町の景ならば、雨でも雀達の囀りが聞こえてきそうです。(博子)

樹間に街未知充満の梅雨晴間          關根文彦   (2点)
未知充満という言葉で活力ある街が想像されます。新鮮な句ですね。(相・恵美子)

樹間に見えるこの街が我が将来を決めてくれると、青年の心音は昂ぶる。東京に進学して初めて西郊の高尾山に登ったのだろう。緑陰から多摩・新宿、相模・横浜は遠望がきくところ。(茂喜)

飛石をひとつづつ踏み梅雨鴉          土田栄一   (2点)

逆縁の母の背中や黒揚羽            中村光男   (2点)
今、高齢化が進んで逆縁の親が増えたようです。この母も、長生きしなけりゃ良かったなんて悲嘆に暮れているのでしょう。背中に掛ける言葉がありません。(志昴女)

やはらかき風の染めたる貝風鈴         渡部有紀子  (2点)
やはらかな風が貝風鈴を染めたなど詩的。(芳彦)

一人居の冷え過ぎてゐる冷蔵庫         中川手鞠   (2点)

梅雨寒や素足の僧の経冴えて          片山孝子   (2点)
梅雨寒の日の様子を耳でも捉えている句だと思いました(律子)

草いきれ総出でかかる邑の径          岩川富江   (2点)

今年竹上野にパンダ生まれけり         土田栄一   (2点)
待ちに待ったパンダの誕生にぴったりの季語だと思います。(明)

かき氷埋蔵金を掘るごとく           松浦泰子   (2点)

初夏の貝殻を置く植木鉢            渡部有紀子  (2点)
いかにも初夏らしい情景です。貝殻の純白と水をたっぷり得たハイビスカスの赤い花、濃い緑の葉を想像しました。(明)

宇治金時京の都を一掬ひ            瀬尾柳匠   (2点)
京の都を一掬ひがとてもおもしろい。涼しさも口の中へどうぞ(豊)

宇治金時から、こんなに愉快な句が生まれるなんて、本当に俳句は面白いですね。(はま子)

長八のなまこ壁より熟るる枇杷         満井久子   (2点)
なまこ壁と枇杷の季語の取り合わせが効果的で風情のある句と思います。(相・恵美子)

道の先空を埋めゆく梅雨夕焼          佐藤律子   (2点)
梅雨の時の夕焼けはきれいですよね(みつ子)

「ハベルの塔」絵観てこの世の雲の峰      森山ユリ子  (1点)

瑠璃皿の水に浮ぶる金魚草           松山芳彦   (1点)
色合いが美しい。金魚草を戯れに1輪か2輪浮かべたのでしょうか・・。(博子)

ニュートリノくすくす笑ふつくづくし      小橋柳絮   (1点)
宇宙の彼方から来るニュートリノと地上の土筆、意表を突いた組み合わせが絶妙。この出会いを喜んで双方が笑っているのだろう。(勘六)

老鶯の声のきれぎれ雨募る           相沢恵美子  (1点)

ユニセフに心ばかりの単帯           今井温子   (1点)
国連児童基金へ日本らしい帯を寄付したという。ささやかだが子供を護るのに役立って欲しいとの思いが込められている。(勘六)

棋士めざす小学生の瞳の涼し          髙橋紀美子  (1点)

香水の青き切れ端シュリンクス         小橋柳絮   (1点)

老鶯と一人の刻を睦みをり           荒木那智子  (1点)

海峡にひびく歌声青月夜            嶋田夏江   (1点)

ががんぼの上がり下がりや夜の壁        土屋尚    (1点)
ががんぼの飛ぶさまを表現しました(清文)

家と垣の隙間行く子や雪の下          土屋香誉子  (1点)
家と垣の狭いところを抜けていく子の景が浮かびます(清文)

鳴ることを忘れ潮吹く海ほほづき        石川由紀子  (1点)

雨つぶと紛ふ紋様水澄             竹田正明   (1点)

香水や銀座通りをショッピング         佐藤武代   (1点)
ニナリッチを爽やかに付けて銀ブラ・・・・想像がいろいろ膨らむ句ですネ(麻実)

万緑や信仰心は直ぐ薄れ            石川順一   (1点)

青嶺背に鴟尾煌かす東大寺           室 明    (1点)
東大寺の大景を一句に纏めた。夏の山を背に悠久の歴史を持つ寺が聳えている。空間と時間の広がりを持った壮大で雄渾な句だ。(勘六)

ほらそこと蛇を指したりペンの先        満井久子   (1点)
「ほらそこに」と口語口調の上五、上手い使い方だと思う(光男)

虚無僧の古刹の寺や苔の花           片山孝子   (1点)

広島忌ドーム相似の昼の月           岩川富江   (1点)

父の日や柳行李を出してみる          佐藤武代   (1点)

青田波の沖へ里山母の風            妹尾茂喜   (1点)
沖へ流れる青田波、里山から吹いてくる風は母の匂いがするのでしょう、(貞郎)

聖なるは葡萄農家の春の燭           西脇はま子  (1点)

飲み続け三日空白ソーダ水           石川順一   (1点)

シボレーが埃をかぶり紫陽花寺         米田清文   (1点)

河鹿鳴き渓流の闇誘ひ出す           内藤芳生   (1点)

職引きてゆつくり啜る心太           高橋雪子   (1点)
余裕が出来て食べる心太はさぞや美味しいでしょう(柳匠)

夏帽を探せと迷子捜索隊            瀬尾柳匠   (1点)
夏帽子をなくされたのでしょうか。迷子捜査隊と大仰な表現が、この句の決め手。(はま子)

草涼し一笠一鉢一草庵             浅井貞郎   (1点)

自分史の途中青葉であつた頃          和田 仁   (1点)
一途な青春への回顧よく分かります(早・恵美子)

以上

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