天為ネット句会報2018年3月

 

天為インターネット句会2018年3月分選句結果

(作者名の後ろの点は互選点)
 ※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。また互選句は高点句から順に、同点句は句稿番号順に並べました。
 ※一部インターネットで表示できる文字に置き換えております。ご了承ください。

<日原 傳 編集顧問選 特選句>

一回り大きくなりて合格子           相沢恵美子  (3点)

希望の学校に合格した子の姿を見て、親も受験の重圧から解放されるとともに、子の成長を実感したのである。受験勉強に励む過程で、いろいろ考えることもあり、体だけでなく心も成長したのであろう(傳)。

大学や高校ではなく中学に合格されたのでしょう。希望校に見事合格した学校の制服を着た途端急に大人びた。作者の値千金の喜びが伝わってくる。(はま子)

凍鶴忌落ちゆく夕日見てゐたり         左京     (2点)

「凍鶴忌(いてづるき)」は日野草城の忌日。草城は昭和三十一年一月二十九日に五十四歳で亡くなった。代表句〈高熱の鶴青空に漂へり〉に由る命名という。落ちゆく夕日を見ているのは作者であるわけだが、「凍鶴」もその場に居て、「鶴涙」までが聞こえてくるような思いに導かれる(傳)。

<日原 傳 編集顧問選 入選句>

待春や縁切寺の大鋏              佐藤武代   (6点)

「大鋏」は何に使うのだろうと気にかかりました。(順一)

瞬きは星のつぶやき立子の忌          中川手鞠   (5点)

春の星空のうるんだ瞬きが美しく、立子忌とよく合っています。(泰子)

三月三日は星野立子の忌日ですね{瞬きは星のつぶやき」何と美しい措辞でしょう、立子の忌にふさわしい。(貞郎)

星の瞬くのを呟きと見た感性に敬意。呟くのは、生きているから。死んだ立子の魂が、あの星で句を生み出そうと未だ伸吟しているのかも知れない。(勘六)

貝寄風やクメール文字の貝葉経         室  明(3点)

季語と言葉の取り合わせが良くきれいな句に仕上がっていると思います。(相・恵美子)

椰子の葉に書かれた貝多羅経が、貝寄風に運ばれてきたようでロマンを感じます(早・恵美子)

幾世経し享保女雛の唐衣            鈴木 楓   (3点)

雅で豪華な女雛の唐衣が、目に浮かびました。(博子)

春光やスープに沈むレンズ豆          小野恭子   (2点)

ハーケンの谺響きて凍つる滝          内藤芳生   (2点)

冬山の厳しさ、緊張感を音とともに表現されていて情景が浮かびました(律子)

雛の灯消して女雛の白仄か           松山芳彦   (1点)

幾曲り来て古戦場犬ふぐり           満井久子

陽炎や西陣織の機の音             松山芳彦

香焚きて泪の茶杓利休の忌           武井悦子

<互選句>

ほどけゆく絹のリボンや雪解川         渡部有紀子  (6点)

すんなりと納まりました(夏江)

絹のリボンの輝きと雪解川の明るさがよく響きます(早・恵美子)

雪解川をほどけゆくリボンに喩えた表現が美しい(ユリ子)

雪解川を、絹のリボンに譬えて妙。ほどけゆくの措辞にも心惹かれる。(はま子)

寄席の木戸くぐれば笑ひ春めきて        満井久子   (5点)

笑いも春いいですねいい事がありそうです(みつ子)

お笑い芸人がテレビを占拠しているが、やはり我々には落語が好ましい。その人を笑わせて泣かせる話芸の中には、明るさと麗らかさがある。(勘六)

寄席の気取らないあたたかな雰囲気と「春めきて」の季語がぴったりです。(ユリ子)

歳時記を旅の鞄に西行忌            浅井貞郎   (5点)

吟行への旅でしょうか、期待が膨らみます。(順一)

葉脈をぷちつと噛んで桜餅           中川手鞠   (5点)

共感!関西人としては道明寺粉で作るもちっとした桜餅です!(律子)

青春の切れ端春の古本屋            染葉三枝子  (4点)

古本屋の雑然とした佇まいには、若い日の混沌としたものを感じるさせるものがある。それは未だに身の何処かに巣食っている。(勘六)

古本屋というのは、時を遡る不思議な空間だと思います。(智子)

春の穏やかな日差しと古本屋。すこし気だるい感じと甘酸っぱい青春が程よくまじりあった秀句だと思いました。(美穂)

兜太逝く涅槃図にまだ空のあり         高橋雪子   (4点)

尊敬する俳人の金子兜太氏、涙するものは私だけではない。志は受け継ぎましょう。(志昴女)

作者は兜太先生のため、涅槃図に空きを創ってさし上げたのでしょう。深い鎮魂の気持ちが伝わってくる。(はま子)

一手はや春を掴みて千手仏           和田 仁   (4点)

子へ送る米味噌醤油春の星           瀬尾柳匠   (3点)

子を思う親心の一つ一つを、柔らかな煌めきの春の星に置き換える感性が素敵です。(博子)

春浅き遠つ淡海の鏡凪             鈴木 楓   (3点)

遠つ淡海、、、、の言葉が美しいですね!(志昴女)

車窓からでしょうか。淡海の凪が遠く見える。(ユリ子)

人の世は一炊の夢涅槃西風           高橋雪子   (3点)

年を重ねると実感です(みつ子)

「一炊の夢」であるがゆえに一日一日を大切に生きていきたい、季語涅槃西風が効いています。(貞郎)

春耕や海にせりだす千枚田           浅井貞郎   (3点)

まだ冷たい潮風の感触や匂い、波の音まで聞こえるよう。千枚田の土の匂いも鮮やかでしょう。(泰子)

運慶の仁王目を剥く春の雷           内藤芳生   (3点)

春燈や決めかねてゐる形見分          土屋香誉子  (2点)

春燈・・その明かりの下での形見分。春であるのに、形見分を思うその対比に惹かれました。(美穂)

雛飾る小さき空箱つみあげて          渡部有紀子  (2点)

氷上のダッシュ刹那を奪ひ合ひ         中村光男   (2点)

「刹那を奪ひ合ひ」が上手い表現ですね。(芳生)

鍵盤の指が走れり春の星            原 道代   (2点)

「指が走れり」の言葉で躍動感を表し、「春の星」の季語で句かぴたりと収まっていると思います。(相・恵美子)

兜太逝く梅散る庭の青鮫も           松浦泰子   (2点)

果てしなき子育て談議つくしの子        染葉三枝子  (2点)

これはもう、楽しい句。子育て談義をしている間にも、ニョキニョキと土筆は生えてきます。理屈ではないところに生命が育つ気がして、とても楽しく思いました。(美穂)

小指ほどの雛を折る母米寿かな         原 道代   (2点)

小指ほどの雛を折ることができる、それは米寿のお母様がお元気なこと、また雛の日を楽しみにされているということ、佳い句だと思いました(律子)

貝寄風や難波に果てし夢の跡          佐藤博子   (2点)

此の橋を長しと思ふ春の風邪          明隅礼子   (2点)

難儀して渡れば何があるのか。主観の思ひが煩くない句。(順一)

梅咲いて無音の花火広がれり          中村光男   (2点)

守一の猫の絵葉書き日脚伸ぶ          西脇はま子  (2点)

伸びやかな猫の肢体と、守一の生き方を感じ取ることの出来る季語だと思います。(博子)

和布刈る松明揺らぐ祭祀かな          竹田正明   (1点)

熟睡子の寝返り一つ春の雨           小野恭子   (1点)

斑雪野やいくたびも貨車過ぎりたる       荒木那智子  (1点)

サーフボード夕日に磨く春隣          内村恭子   (1点)

ラジオより激し国論春炬燵           永井玲子   (1点)

朝刊の入試回答青き春             安藤小夜子  (1点)

入試を受けた学生は翌日の朝刊に載る回答がとても気になる。「青き春」の言葉が効いていると思います。(相・恵美子)

薄氷や板碑の裏の荒削り            石川由紀子  (1点)

恋人の距離には遠き猫と猫           上脇立哉   (1点)

にやり。恋人と言えどもそこにはある距離が、、、(志昴女)

「光あれ」紋白蝶の湧く原野          早川恵美子  (1点)

神々しいような光景が目に浮かびます。(智子)

めらめらと恋の炎や御神渡           左京     (1点)

春愁やアボカドの種にぶつかる         森野美穂   (1点)

百均に春爛漫の棚のあり            加茂智子   (1点)

ふらここやインドの少女金の靴         森山ユリ子  (1点)

金の靴が春の喜びを表現しているようで明るく楽しい句ですね(早・恵美子)

一燭に春を灯して観世音            和田 仁   (1点)

ドビュッシーながるる午後や菫の香       武井悦子   (1点)

闘いの貌美しく冴え返る            小髙久丹子  (1点)

バリケード無き大学や春一番          安藤小夜子  (1点)

殉教の道に降り散る椿かな           嶋田夏江   (1点)

赤い椿が鮮やかに目に浮かびます。流された血の色であり、殉教者に手向けられた故郷の花でもあるのでしょう。(泰子)

若布干す那須与一の祈り岩           今井温子   (1点)

万屋の公衆電話や春の塵            阿部 旭   (1点)

兜太逝くトラック島の風の墓碑         妹尾茂喜   (1点)

2月20日(兜太の忌)の夜98才で天寿を全うした兜太、素晴らしいご生涯でした、心よりご冥福を祈ります。「トラック島の風の墓碑」の措辞は兜太にふさわしい追悼の名句です。(貞郎)

脂ぎる暗き冬日を置く樹間           關根文彦   (1点)

如月や兜太の去りし日本に           岡崎志昴女  (1点)

大きな喪失感を感じます。(智子)

白梅は枝垂れ鏡花の筆塚へ           竹田正明   (1点)

天地の小さき喝采クロッカス          森山ユリ子  (1点)

かくかくと枝張る梅の香りかな         阿部 旭   (1点)

以上

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