天為ネット句会報2019年2月

 

天為インターネット句会2019年2月分選句結果

(作者名の後ろの点は互選点)
 ※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。また互選句は高点句から順に、同点句は句稿番号順に並べました。
 ※一部インターネットで表示できる文字に置き換えております。ご了承ください。

<福永 法弘 同人会会長選 特選句>

枇杷の花スリッパ古き勝手口          森野美穂    (6点)

表玄関にはお客様用に立派な上履きを揃えてあるけれども、勝手口で主婦が使うのは、使い古しの、それこそビニルのスリッパ。慎ましい生活に枇杷の花が和す。(法弘)

地味な枇杷の花に「古いスリッパ」と「勝手口」がよく合っていてよいと思います。(相・恵美子)

白い割烹着の母が、配達にきたお米屋さんや酒屋さんと話をしていた昔を思い出しました(博子)

誰それの踏みし道なり藪柑子          妹尾茂喜

龍馬脱藩の道、長州志士の萩往還など、歴史に名を残した人たちの通った道も、今は寂れて、藪柑子の赤い実が侘しく実るのみ。(法弘)

 <福永 法弘 同人会会長選 入選句>

捨つること出来ぬ一書も年用意         瀬尾柳匠    (4点)

かつて耽読した一書。今すぐに読みたい気分ではないが、いつか再び読むことがあるかも知れないと思うと、捨てるに捨てられず。年用意も一向に捗らない。(法弘)

大切な書なのですね。(智子)

この本もこれも・・・と進まない年用意!!(宙)

みちのくの数多の星の別れ霜          松山芳彦    (3点)

みちのくの初春の夜空はこよなく晴れて、あまたの星がうるうる瞬く。冬の名残もそろそろ失せて、春たけなわとなりゆく気配。(法弘)

灯の下の頁繰る音雪催             渡部有紀子   (2点)

静かに読書に耽っている。外はしんしんと更けて雪催い。(法弘)

ものの芽の芽吹きていゐたり子規の庭      浅井貞郎    (2点)

写生を提唱した子規。その教えに忠実に眼を凝らせば、子規の愛でた庭に春の芽生え。(法弘)

子規の庭に春の到来を感じる一句 (宙)

龍宮の日々を煙に磯竃             早川恵美子   (2点)

浦島太郎も、竜宮に未練を持たず、さっさと玉手箱を焼き捨てるべきだったのに。だが、馴染んだものを焼き捨てるのはどこか切ない。たとえ、春を迎える準備であったとしても。(法弘)

気嵐に沈む海峡波の音             竹田正明    (2点)

酷寒の北国。気温が水温よりも低いため、海峡から靄となって立ち上る水煙。寂しさの募る光景に、波音までが切なく響く。(法弘)

気嵐とは北海道留萌地方の方言で厳冬期凍結しない海上に霧が発生する幻想的な現象で冬の季語「気嵐」が効果抜群(貞郎)

駅長の三毛猫なでて暖かし           今井温子    (1点)

駅長に任命された猫を撫でて癒しのひと時。暖かさを感じるのは、春になっ たせいだけではない。(法弘)

入試の日近づいて来るどんとの火        鹿目勘六    (1点)

入学試験一発で人生の方向が決まる。残酷だけども仕方が無い。どんなに準備万端でも、何が起きるかわからないのが試験。入試日が近づくにつれて不安も募る。どんとの大きな火の粉を浴びて、不安を一気に吹き払え!(法弘)

勢いよく焔立つどんとの火を、入試が近づいてくる緊張感に見立てたのでしょうか、心情的によくわかります(律子)

初電話たわいなきこと笑ひ合ふ         小髙久丹子   (1点)

女同士の電話。笑う角には福来る。笑いは長寿の妙薬。新年早々よりお目出度い。(法弘)

小走りに雪の畦道バスを待つ          片山孝子

遅れそうなので雪の畦道を急いでバス停まで。でもまだバスは来ない。バスも雪で遅れているのだ。(法弘)

<互選句>

手に重き秀衡椀の治部煮かな          高橋紀美子   (7点)

「秀衡椀」と「治部煮」、まさしく郷土の人が育んできた「重い」ものです。(孝雄)

デパートの岩手物産展で、豪華絢爛たる秀衡椀を見ました。秀衡塗は藤原秀衡が作らせたと言われています。きっと、美味なる治部煮を召し上がられたのでしょう。(はま子)

金沢名物の治部煮、麩や鴨肉のなんと美味しそうなこと。(玲子)

治部煮とは前田利家が治部小輔に馳走になったものとの説に由来するのでしょうか (昌夫)

ぼろ市に兵児帯黒く吹かれをり         佐藤律子    (6点)

兵児帯は黒が多いです。しかし最近は兵児帯そのものが街で見かけない。古着屋の店先に師走の寒風に吹かれて靡いている、チョット寂しい姿がよくわかります。(志昴女)

辿りつく卒寿の衿恃春立てり          土田栄一    (6点)

卒寿の矜恃に拍手を送らせていただきます。 (温子)

九十歳の春ですね羨ましいかぎりです (昌夫)

乱世経し天目茶碗冬銀河            染葉三枝子   (6点)

天目茶碗と冬銀河の取り合わせがよい。(芳彦)

本能寺・大寶殿宝物館で、信長所持の天目茶碗を見ました。乱世を経た玉虫色の耀変は将に冬の銀河そのものでした。(はま子)

戦国時代の国宝級の茶碗でしょうか茶を嗜んでみたいものです (昌夫)

菰の陽に白をつくして冬牡丹          森山ユリ子   (6点)

白をつくした冬牡丹に詩情あり。(芳彦)

風邪の床休めば休めることばかり        土屋香誉子   (4点)

遠ざかる昭和平成牡丹雪            内藤芳生    (4点)

牡丹雪の静けさのなかで、たくさんの人が感慨深く思うでしょう。(ユリ子)

蕗の薹闘志秘めたる少女棋士          中村光男    (4点)

蕗の薹が開く前のと少女の闘志があっていると思います(みつ子)

話題の少女棋士の闘志は寒の土から静かに生れ出る蕗の薹の秘めたる力のようです。(明)

勇ましいですね。(智子)

春隣海図の端に龍のゐて            内村恭子    (4点)

海図にちょこなんと龍!良いですね~楽し気な航海が出来そうです(早・恵美子)

みづうみの虹すぐ消ゆる三日かな        明隅礼子    (3点)

「虹すぐ消えて」の表現が良いと思いました。冬の虹は儚く消えてしまいますね。(ユリ子)

賑やかだった正月も終わりの三日、心あそばせている静寂の時間を感じました。(博子)

大佛の微笑む飛鳥雲雀東風           中嶋昌夫    (3点)

日本最古の仏像でありながら国宝に指定されていない飛鳥大仏。お顔を拝ししずかに祈りをささげます。田園の中にあって雲雀の声をきくのも飛鳥ならではの景です  (温子)

大寒の水白刃の光あり             岡崎志昴女   (3点)

白杖を小さくたたむ四温の日          石川由紀子   (3点)

暖かく明かるい一日...読む人の心も和みます (宙)

願掛けの舞妓の素顔節分会           佐々 宙    (3点)

舞妓さんと節分会の取り合わせが良い、何を願掛けしたのでしょう?(貞郎)

未来図へ一針一針春の色            齋藤みつ子   (3点)

希望する未来に向けて一針一針縫うごとく、一日一日明るく暮らすさまが浮かびました(律子)

刺繍糸を春の彩と表現為さったところに惹かれました(早・恵美子)

豚足を一本買ふて春節祭            相沢恵美子   (3点)

豚足を一本買って春を祝う。いいですね。(玲子)

蕗の薹のその儘がよし香りよし         松山芳彦    (3点)

散歩中、去年と同じ所に蕗の薹が顔を出しているのを見つけました。「その儘で良し香よし」は色々な解釈がありますが、太陽を燦燦と浴びて香を放つている蕗の薹は摘んだりせず、其の儘見ているだけで至福の喜びです。(はま子)

手を擦ること忘れをり冬の蝿          石川由紀子   (2点)

寒すぎてなのか、弱々しい冬の蝿の姿が浮かびました(律子)

鬼餅の月桃の葉の芳しく            西脇はま子   (2点)

ウニムーチーを包む葉っぱを上手に言い止めていらっしゃると思いました(早・恵美子)

初夢の路地に溢れる子等のこゑ         内藤芳生    (2点)

子達がゲームと塾とに忙しい現代では、路地に溢れる子等の声を聞くことはなくなってしまった。作者はその子等の声を初夢で聞かれたようだ。初夢という季語の夢が哀しい。(武夫)

日向ぼこ夫のゐる場所ねこの場所        荒木那智子   (2点)

ユーモラスな句だと思いました。夫と猫を同一視して居るのか、それとも客観的な事実を冷厳に描写したのか、あるいはそれら両者を等分加味したのか、愉快で興味深い句だと思いました。(順一)

宝恵駕を囲む人垣城下町            嶋田夏江    (2点)

にぎわう大阪の今宮戎、「宝恵駕」が活きています。(孝雄)

城下町の新年の賑いが上手く表現されているとよいと思います。宝恵駕を取り囲んでいる人々の様子が見えて来ます。(相・恵美子)

青空や長須鯨の裏がへる            佐藤博子    (2点)

ニュースで見ることも、浜に打ち上げられた鯨と「青空」との取り合わせ、深い思いが生まれます。(孝雄)

4Kの真白き雪の冷気かな            加茂智子    (2点)

大荒れの初場所明日へ四股を踏む        染葉三枝子   (2点)

今年の初場所は大荒れでしたね、しかし新しい大関、横綱誕生を目指して力強四股を踏んで出発してほしいものです、「四股を踏む」が良いです、(貞郎)

冬空にビュッフェの線の梢かな         中村光男    (2点)

着膨れのポケットあめ玉探す指         野口日記    (2点)

飴玉を探す指は自分の脳でもあったのでしょう。ポケットの中が着膨れの為に宇宙と化しているような感覚に襲われたのかもしれません。(順一)

お飾りを雀呼び寄す日射しかな         上脇立哉    (2点)

天焦がす業火となりしどんとの火        鹿目勘六    (1点)

針供養終え来てなんば花月かな         今井温子    (1点)

竹送り二月堂へと列なして           中嶋昌夫    (1点)

嬰児の大き丸描く新日記            中川手鞠    (1点)

幼児はたしかに筆を持たせると○を描きますね。人間、本来「角」が無く穏やかなことを好むのではないでしょうか。。。(明)

旅心揺さぶられをり西行忌           浅井貞郎    (1点)

読初や聖書に添へるマリアの手         小髙久丹子   (1点)

かつて治安維持法のあり冬帽子         内村恭子    (1点)

七福の一福残し馬肉屋へ            相沢恵美子   (1点)

一福残し馬肉屋へとはなんとも面白い納め方だと思う(玲子)

海風や流人の魂か水仙花            森山ユリ子   (1点)

強い海風を受ける岬には、水仙花が群生していることが多いですね。流人の魂に思いを馳せたところに共感を覚えました。(明)

創世記三章読めり虎落笛            野口日記    (1点)

お祝ひのお包み広げ春を待つ          原 道代    (1点)

春も包みにふんわり詰まっているイメージで、楽しくなる一句です(博子)

初法衣萌葱浅黄の僧が行く           阿部 旭    (1点)

厳かな僧侶の行列に色彩を加えたことで、美しい句になっています。(ユリ子)

春風をいざなふ音や時鳴鐘           室 明     (1点)

方舟の如くただよひ浮寝鳥           渡部有紀子   (1点)

鳩睦むうすき紅梅咲きそめて          土屋 尚    (1点)

春浅し砂浜薄き有磯海             片山孝子    (1点)

有磯海は岩が多いところですね。砂浜はほぼ無い。その荒涼と浅春の寒さが似合う光景です。(志昴女)

二袋マスクを請ひて安堵かな          窪田治美    (1点)

ひどい風邪を引いて居たので、一つでは不安だったのでしょう。会社で配って頂いたのかもしれません。安堵感を客観視できていると思いました。(順一)

咳き込めば夜の静寂を実感し          石川順一    (1点)

大寒や干潟さへぎるもののなし         荒木那智子   (1点)

遮るものがない干潟の寒々しい様子が直ぐに読み取れました。ピリッとした寒さを感じます。(相・恵美子)

遠き日の中也の小雪降りし夜          鈴木 楓    (1点)

冬入日対角線に月を置く            瀬尾柳匠    (1点)

作者は冬入日を見て、月がその対角線上にあると見たのであろう。月を置くという表現が個性的で佳い。(武夫)

大寒のスーパームーンの皇居かな        佐藤博子    (1点)

ふるさとは玻璃のビル群初御空         中川手鞠    (1点)

ガラス張りのビル群の中で暮らされていらっしゃる方で、ここがふるさとだという感慨を元旦の朝に抱かれたのであろう。現代の正月を感慨を込めて詠まれた秀句と思います。(武夫)

寒梅や母の鎌倉東慶寺             垣内孝雄    (1点)

輪蔵を支へる神鬼の面冴ゆる          阿部 旭    (1点)

万物が生まれる前の春隣            高橋信治    (1点)

参りました!万物が春になって生まれ出る、その春を待つ気持ちを、逆に”生まれる前”と表現なさったのですね!(志昴女)

あをさ蕎麦幼なじみの七十年          荒川勢津子   (1点)

寒の朝南部鉄瓶たぎるなり           武井悦子    (1点)

秘湯の宿のいろりを思い浮かびます(みつ子)

消え侘びぬ雪兔ほど白ければ          森野美穂    (1点)

「雪兎ほど白ければ」としたところ詩情あり。(芳彦)

白楽天愛でし貴婦人寒牡丹           武井悦子    (1点)

以上

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