天為ネット句会報2019年8月

 

天為インターネット句会2019年8月分選句結果

(作者名の後ろの点は互選点)
 ※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。また互選句は高点句から順に、同点句は句稿番号順に並べました。
 ※一部インターネットで表示できる文字に置き換えております。ご了承ください。

  <福永 法弘 同人会会長選 特選句>

夕焼の奥より帰る父を待つ           鹿目勘六    (5点)

昭和の戦後の働く大人は、日暮れには帰ってきて、夕食は家族団らんが当たり前だった。父が帰ってこなければ夕食が始まらないから、家の外に出て、父の帰りを待つ子供たち。夕焼けを背にした父の影はとても大きく、家族を包みこむ。(法弘)

家の前で父を待つ、可愛い幼子を思います。(春野)

幼い日に勤め帰りの父を門のところで待っていたこと、この空いっぱいの大夕焼けで思い出したのでしょうか、、、、(志昴女)

盆過ぎの淵に河童を見たと言ふ         今井温子    (4点)

子供の頃、夏休みにはいつも、家の前を流れる大きな川で泳いでいたが、盆を過ぎると急に水が冷たくなり、泳ぐ子は次第に少なくなっていった。淵には河童が潜み、子供を引きずり込むから危ないと、大人によく脅されたものだ。今は川で泳ぐ子はほとんどいなくなり、河童も手持ち無沙汰かもしれない。盆過ぎという季語がとても良く効いている。(法弘)

ははあ。旧盆が過ぎると、一気に秋になり妖怪たちも元気になりますね。青緑に澄んだ深い淵、コワいけどカッパは見たいな~(志昴女)

盆過ぎの川辺には出てきそうなカッパ。仲間に入りたい子カッパかも。。。(博子)

<福永法弘同人会会長選 入選句>

四つ辻の金魚の家と覚えおく          明隅礼子    (6点)

下町情緒溢れる目印の家。境涯俳人・富田木歩が大久保に姉の家を訪ねたときに作った句〈門あらず木立涼しき家ときく〉を思い出した。(法弘)

ふうむ、そういう覚え方、、、、私は芙蓉の家とかバラハウス、と覚えるのですが。窓辺に水槽でも飾っているのでしょうか。池ならカラスにやられるぞ!(志昴女)

探しあぐねたお宅、次回は迷わずに「四つ辻」「金魚」を目印に「覚え置く」(孝雄)

鮮やかな金魚が印象的な様子が伝わります。(美穂)

「四つ辻」と金魚で風情の見えてくる上に、方向音痴な私には忘れがたい一句となりました。(博子)

華清池の白き貴妃像白雨かな          土田栄一    (3点)

中学生の頃、『長恨歌』を暗記しようと頑張ったことがあった。その名残で、今でも時折、断片的に思い出す。「春寒くして浴を賜ふ華清の池。温泉、水滑らかにして凝脂を洗ふ」。白い大理石は、脂の乗った肌そのものだろう。白い肌が白雨を弾く。(法弘)

雷鳴をともない、急に降りだす大粒の雨。激しさの中に、楊貴妃の美しさも浮かぶ。(ユリ子)

夕暮の似合ふ一皿湯引鱧            土屋 尚    (2点)

夕暮れになって暑さが一段落した京の町。鱧でビールといきますか。(法弘)

蛇衣を脱ぐ約束を果たすごと          明隅礼子    (1点)

一肌脱ぐと約束したのかもしれない。面白い発想の句だ。(法弘)

『約束を果たすごと』、蛇の律儀な一面を見た思いです(律子)

雷渡る山の神社のおいぬ様           長濱武夫    (1点)

犬神、すなわち、狼を祀っている神社なのだろう。ニホンオオカミが最後に目撃されてから100年以上経つという。生物学的には絶滅したのかも知れないが、魂は不滅。(法弘)

近頃は男もすなる日傘かな           石川由紀子

これほど暑いと、男のやせ我慢も限界だ。日傘が必要。男物も売られるようになった。(法弘)

油蝉タトゥーの腕に止まりけり         中村光男

刺青というとヤクザめくが、白人系の外人を中心にタトゥーはお洒落、あるいはアートとして定着しているようだ。しかし、せっかくの白い肌に、あまり芸術的ともいえないタトゥーが入っているのは、どうかとも思う。油蝉が止まっているのは、なんとも珍妙な光景だ。(法弘)

自慢なる高き鼻より日焼けせり         上脇立哉

低くても日焼けをするが、高い鼻は尚更なのだろう。赤鼻のトナカイにならないように気をつけて。(法弘)

端居して目で追うている風の道         児島春野

大して広くない幅だろう。いかにも涼しげな一本道。(法弘)

飯饐える昭和も遠き世となれり         中嶋昌夫

今なら、ラップに包んで冷凍保存するが、冷蔵庫の普及する前の時代はそうはいかない。なるべく涼しいところに、お櫃に布巾を濡らして掛けておく。食べる前にはもちろん、饐えていないかどうか、くんくん嗅いで安全を確かめなければならない。「明治は遠くなりにけり」どころではない、昭和もずいぶん遠くなった。(法弘)

<互選句>

大病の話し切り出す水羊羹           野口日記    (8点)

大病の話のきっかけは水羊羹というのが面白いですね。(柳匠)

大病が風邪ぐらいに思えるから面白い。(玲子)

水羊羹でなくては、大病の話は切り出せません。ゼリーもダメ。餡蜜もダメ。ましてやかき氷などもってのほか、切り出せなくなってしまいそう。(手鞠)

水羊羹で、話すのが辛い話の糸口を・・その時のお気持ちを思います。(美穂)

果断な決断に水羊羹の季語が映える。(順一)

思いが高ぶっても黒文字で切る水羊羹の沈黙の時間を思い、救われる気分です。(博子)

江戸ふうりん門に塩盛り神楽坂         垣内孝雄    (7点)

京都の花街でもよく見うけます。白い三角錐の盛塩に四季の風情を感じます。(昌夫)

神楽坂の情緒が、ふうりんと塩盛りでよく表現されていると思いました。(ユリ子)

黴の香の夢育みし同人誌            内藤芳生    (6点)

ほろ苦い青春の思い出ですね。(春野)

古びても新たに蘇る思い出。(順一)

夏合宿マジックで描く戦略図          内村恭子    (5点)

ラグビーとかサッカーの合宿でしょうか、ホワイトボードにマジックで戦略を書いている光景が見えるようです。(柳匠)

元気の良さと溌溂とした若々しさに満ちた魅力のある句である。何の夏合宿なのだろうか。オリンピック選手の強化合宿だろうか、企業の戦略会議なのだろうか。マジックで描く戦略図という手掛りだけでは謎が残り、読み手の想像が膨らむ。(武夫)

万緑を透かしガラスの美術館          森山ユリ子   (5点)

万緑とガラスの美術館がよく合っていて綺麗な景が目に浮かびます。(相・恵美子)

セミナーを終へ夏蝶と成る少女         早川恵美子   (5点)

ワンピース姿に思われます。(智子)

解放感と溌剌とした生気を感じます。(ユリ子)

電卓も秤もなくてスイカ売り          永井玲子    (4点)

伝統的なスイカ売りの姿が目に浮かびます・・・(宙)

百歳へ一歩一歩と酔芙蓉            西脇はま子   (4点)

どうぞお健やかな日々でありますように 季語の酔芙蓉がとても良いと思いました (温子)

百歳を目標に生きることが長生きの秘けつかも。(昌夫)

力強い一句。お酒はほどほどに!・・・(宙)

片蔭や膝に納まる旅鞄             小野恭子    (4点)

旅慣れた方であろうか、ふいに思い立った旅であろうか「膝に納まる旅鞄」が物語る。片蔭が優しく包む(孝雄)

風鈴と並びてるてる坊主かな          西脇はま子   (4点)

長い梅雨でしたね。てるてる坊主から風鈴へ、夏本番ですね。微笑ましい「景」です。(孝雄)

樹々渡る仏法僧の袈裟の碧           中川手鞠    (3点)

一度も出会ったことの無い仏法僧ですが、青緑が美しいのでしょうね。名前に因んで羽を「袈裟」と表現なさったのが素敵です。(明)

仏法僧を袈裟の碧と表現したところがよいと思います。まさに仏法僧の飛んでいる姿であると思います。(相・恵美子)

強がりの満身創痍生身魂            中嶋昌夫    (3点)

御尊父でしょうか?我が家もそうです。気持ちはまだ元気という事で、良しとしております(笑)。(春野)

蚊を打つて駒打つ路地のへぼ将棋        鈴木 楓    (3点)

諧謔味があって面白いと思う。 (光男)

人情味ある下町の情緒、情景が浮かんできます。(手鞠)

水中花君の手紙の倒置法            小野恭子    (3点)

倒置法が効いていますね。(柳匠)

少しミステリアスな感じ。ぞくぞくします。(智子)

彩雲を見上げたる夏京都御所          原 道代    (2点)

彩雲さぞきれいな雲でしたでしょう。京都とあってると思います(みつ子)

梅雨楽し三つの児等が傘さして         上脇立哉    (2点)

盆の月浴びて無人の一草庵           浅井貞郎    (2点)

ちょっと寂しいですが一草庵とあってると思います(みつ子)

ありし日の山頭火を忍ぶ盆の月の光。美しい一句・・・(宙)

駿河路の沢音高し花山葵            永井玲子    (2点)

沢音と花山葵の白が涼しさを感じさせてくれます。(明)

飛魚や群青の海纏ひくる            嶋田夏江    (2点)

日記帳開けば火蛾のすぐ寄り来         内村恭子    (2点)

~すれば~するという句形は理屈があると全く面白くないが、この句には全く理屈は感じられない。中七に置く季語も難しいが、この句では成功している。火蛾の力だろう。(武夫)

炎帝に挑むがごとき紅き唇           小髙久丹子   (2点)

勝ち気な女性なのでしょう。(智子)

どきつく赤い口紅は暑い夏には鬱陶しく感じるもの、それを炎帝に挑戦するとは面白い表現だと思う。 (光男)

さくらんぼ二つの鼓動重なりて         森野美穂    (2点)

二つの鼓動の重なり?さくらんぼの甘酸っぱさが想像を掻き立てます(律子)

蜘蛛の糸ひとすぢ透けて水の上         佐藤博子    (2点)

緑蔭のベンチひとりの知足かな         荒川勢津子   (2点)

初めは道徳っぽさが気になった。しかし、中七の「ベンチひとりの」という措辞が魅力的で何故だろうかと惹かれる思いがした。もしかして、連合いに先立たれたのであろうか等思うと、この句を詠んだ想いの深さと人生が感じられ、最終的に頂くことにした。(武夫)

人寄りて虫も寄りくる夜店の灯         佐藤律子    (2点)

川筋や車椅子押し遠花火            荒川勢津子   (1点)

乗り換えは二回夏山近づけり          野口日記    (1点)

距離感とワクワクする気持ちを感じました。「近づけり」で山の大きさも感じます。(美穂)

夏萩より這い出る2匹猫神社          原 道代    (1点)

猫萩とも言われる夏萩の中から2匹出てくるのが、猫神社らしいと思いました(律子)

蚊の柱天に届くるかくれ里           松山芳彦    (1点)

蚊柱が天まで届くとは迫力があり凄みを感じます。隠れ里ならではの景ですね。(相・恵美子)

星空へ天牛瑠璃の羽広げ            高橋紀美子   (1点)

空蝉の眼や飛びたてる影を視る         土屋香誉子   (1点)

確かな写生の目を感じました (温子)

あめんぼう己の力頼みとす           相沢恵美子   (1点)

夜の秋桂離宮の月見台             荒木那智子   (1点)

七夕や路地より匂ふ煮物の香          相沢恵美子   (1点)

矮性のひまはりの皆北を向く          土屋 尚    (1点)

向日葵の向日性には何時も勇気付けられます。(順一)

睡蓮の一つ開きて庭静か            片山孝子    (1点)

梅雨空や子亀は寺の池を出る          岡崎志昴女   (1点)

万緑や告別式の深き礼             瀬尾柳匠    (1点)

蝦蟇鳴くや手児奈霊堂暮れなづむ        武井悦子    (1点)

海猫鳴くや弁財天の使とて           高橋紀美子   (1点)

平等院の扇の芝や蛍の夜            妹尾茂喜    (1点)

錦帯橋を煌き潜る秋の川            室 明     (1点)

宇治金時暖簾を降ろす老舗茶屋         瀬尾柳匠    (1点)

人情の残る町並み釣忍             鈴木 楓    (1点)

松蔭の留魂録や天高し             浅井貞郎    (1点)

雲海に鎮もる阿修羅盧舎那仏          今井温子    (1点)

雲海に阿修羅神々しいですね(みつ子)

雨蛙鳴くや雲湧く浅間山            竹田正明    (1点)

雨蛙と浅間山の取り合せが面白い。(昌夫)

蠅取リボン蠅にもあるや運不運         佐藤律子    (1点)

無人家にカンナの燃えて立ちにけり       中村光男    (1点)

昭和の頃はどの家にも見られたカンナ。今の世相を如実に伝えています。(明)

                                 以上

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