天為ネット句会報2019年11月

 

天為インターネット句会2019年11月分選句結果

(作者名の後ろの点は互選点)
 ※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。また互選句は高点句から順に、同点句は句稿番号順に並べました。
 ※一部インターネットで表示できる文字に置き換えております。ご了承ください。

  <日原 傳編集顧問選 特選句>

環濠の屋敷守り継ぎ豆を干す          今井温子    (3点)

周囲に濠をめぐらした屋敷。その屋敷の庭に筵が広げられ、昔ながらに豆が干されている。古い歴史を負った家なのであろう。「守り継ぎ」という言葉がそれを言い当てている(傳)。

山襞に雲の湧きつぐ寒露かな          内藤芳生    (2点)

「寒露」は二十四節気の一つ。陽暦では十月八日、九日ごろになる。かつて中国では雲は山中の岩石から生ずると考えられていた。掲句の上五中七の表現は、そのようなイメージを思い起こさせる。秋の深まったころの大景を詠んだ作(傳)。

都会にいると山襞に雲の湧きつぐ景を見る機会は乏しい。十月半ばの季語寒露のピリッとした感覚が好い。(武夫)

毎朝眺めてる丹沢連山のような秋の景。季語と調べが素敵だと思いました。(博子)

  <日原 傳編集顧問選 入選句>

孤高なる五重の天守望の月           染葉三枝子   (3点)

五重の塔の頭上に名月が掛かり素晴らしい秋の夜景です、(貞郎)

やや寒にバタークッキー作りたり        石川順一    (2点)

バタークッキーの香りがしてくるようです (光男)

父の田の出水声のむ崩れかな          岡崎志昴女   (2点)

今年は自然災害が大変でした、心よりお見舞い申しあげます、季語「出水」が厳しいですね(貞郎)

背高泡立草開墾の碑をかくす          土屋香誉子   (2点)

今日の過疎の地の状況が見事に表現されている。(明)

妖精の遊ぶケルトの水の秋           松山芳彦    (1点)

霧晴れて立山連峰指呼の間           浅井貞郎    (1点)

小夜時雨萩の城下のなめこ壁          垣内孝雄    (1点)

秋没日ひかりの欠片残し消ゆ          瀬尾柳匠    (1点)

半眼の千手観音秋意かな            佐藤律子

文章はてにをは大事山椒の実          佐藤律子

コスモスや僅かに傾ぐ道祖神          原 豊

閑谷の楷の大樹の冬めける           妹尾茂喜


  <互選句>

勾玉の形(なり)に百合根の炊きあがる     室 明     (7点)

百合の根のふっくらした感じが勾玉のという措辞で感じられます (光男)

形容の仕方が素晴らしいです(早・恵美子)

ふかし芋内緒話にはや尾鰭           今井温子    (7点)

内緒話の尾鰭に対し、季語ふかし芋が何とも味わいがあり、俳諧味が感じられる。ふかせば、芋も話も膨れるのである。(武夫)

滑稽味があってふかし芋という季語がよく効いている (光男)

蒸かし芋を片手にああだこうだの噂話、人の口に戸は立てられないものですね。(柳匠)

色鳥や踏み心地よき鞍馬石           佐藤博子    (4点)

美術展卒寿の母のパステル画          中川手鞠    (4点)

私の母も60過ぎてから絵をはじめ80過ぎて賞を取ったのでおもわずいいなあと(みつ子)

パステル絵を描く卒寿のお母さま。素晴らしいですね。澄んだ秋の日もふさわしく思います。(ユリ子)

20年前職をひいた後、夫は 油絵のサークルで沢山のお仲間(大半は女性)の中で美術展出展に励んでいました 卒寿のお母様のパステル画拝見させて頂きたいです (温子)

秋草や万葉仮名の憶良歌碑           西脇はま子   (4点)

秋草と万葉仮名の憶良歌碑とが呼応して、清澄だと思いました。(ユリ子)

松手入鋏の音の降るばかり           渡部有紀子   (4点)

軽快な鋏の音が聞こえるようです。(美穂)

鋏の音が印象的でした。(順一)

達人に伐られていく松の姿が眼に浮かぶようです。(博子)

帰り花見るとき細き目となりぬ         上脇立哉    (3点)

帰り花を見る時の心の動きが感じられました(眞登美)

金木犀香り沈めて雨の径            阿部 旭    (3点)

普段は芳香に誘われ必ず金木犀の花を見るこの道、雨で香らずつい通り過ぎてしまわれたかも…(春野)

雨の日の香りの立ち方を『沈めて』と表現されているのが素敵だと思いました。(律子)

小さき風大きく揺らす萩の花          土田栄一    (3点)

萩の花の小さき風と大きくゆらゆら揺れている様子がよく出ていると思いました(みつ子)

新米や羽釜の蓋の焦げの跡           石川由紀子   (3点)

新米の炊き上がるのを待つ心地、何故ですかね羽釜の蓋は焦げていますね。(昌夫)

幼児の手の団栗も夢を見る           鹿目勘六    (3点)

素敵な句ですね。私もどんぐりと一緒に夢を見ましょう。(志昴女)

手に握られた団栗、どんな夢を見るのでしょう?想像が膨らみました。(律子)

山頂の思ひ思ひの向きの秋           山口眞登美   (3点)

以前経験した山頂の爽快感を思い出し、思わず大きく息を吸いました。(春野)

団栗に頬膨らます栗鼠太郎           中村光男    (3点)

団栗を夢中で食べている栗鼠の姿が良く描かれています、栗鼠太郎がよいですね、(貞郎)

コスモスの原に風湧く泉あり          上脇立哉    (3点)

風湧く泉とは風流な。(順一)

東京の中の青空鳥渡る             児島春野    (2点)

ふと見上げた高層ビルの隙間から除く青空へ渡り鳥、まさに絵に描いたような句。(柳匠)

今朝は冷えますね と挨拶 高層ビルの谷間から見る澄んだ青空。季語の鳥渡るが生き生きと感じられます (温子)

売れ残る墓地の区画や吾亦紅          土屋 尚    (2点)

吾亦紅の侘しさを感じます。(美穂)

木犀や末の娘の嫁支度             染葉三枝子   (2点)

「木犀」「末の娘」「嫁支度」時の流れとその深みを木犀の香が優しく包む。木犀を「記念樹」と詠む。(孝雄)

中黒点足して夜業を終へにけり         内村恭子    (2点)

夜遅くまでかかって、綿密に原稿のチェックを終えた人の安堵感が伝わります。(明)

綿虫と一緒に潜る仁王門            竹田正明    (2点)

枯木星精神文化研究所             室  明    (2点)

小高い丘の上に立っている白い研究所と枯木に透けた星の輝きの綺麗な景が見えて来ます。(相・恵美子)

折紙の郵便切手鳥渡る             高橋紀美子   (2点)

ひとひらの織部の色や柿落葉          渡部有紀子   (2点)

十月の祝砲十月の高御座            長濱武夫    (2点)

令和の天皇皇后に万歳三唱  (温子)

新しい御代に期待もこめて言祝ぐ一句。(博子)

石蕗の花牧の仔牛の黄の耳標          石川由紀子   (2点)

石蕗の花と黄色の耳標の取り合わせが良いと思います。仔牛の様子も想像できます。(相・恵美子)

振り向けば一人となりて秋の暮         児島春野    (2点)

ちちろ鳴く闇夜の川に出漁す          原 道代    (2点)

コオロギの鳴く声の中仕事へと。(順一)

ジャグリング高く銀座の小春空         森山ユリ子   (2点)

木犀やここより道は二筋に           山口眞登美   (2点)

都電行く面影橋や街小春            鈴木 楓    (2点)

都電と面影橋、「面影橋」の歌のせつなさも添う「街小春」、今夜はワインを楽しみたい。(孝雄)

店ごとに栗たく蒸気中津川           高橋紀美子   (2点)

中津川は恵那栗の集積地、美味しい栗のお菓子が沢山。私も見に行きたい。(柳匠)

あららぎの実赤し苦し噛み当てし        岡崎志昴女   (2点)

赤い一位の実は美しくて、つい口にしますね。(ユリ子)

時雨来る湖北に在す観世音           鈴木 楓    (2点)

湖北、浅井三代の統べし国。戦敗、自刃など現世に観世音は在す、「時雨来る」と作者は詠う。(孝雄)

湖北は観音信仰の篤い所、戦国時代は村人が池に沈めたりや土に埋めて観音様を守ったとの事。(昌夫)

白壁の塀乗り越えて青蜜柑           永井玲子    (1点)

抱返り瀬音微かに溪紅葉            武井悦子    (1点)

菩提寺の遊女の句碑の敷松葉          中嶋昌夫    (1点)

鳥去つて水引草の揺れつづく          明隅礼子    (1点)

渋柿のたわわを晒し風収む           荒川勢津子   (1点)

渋柿の揺れる光景が見えるようです。(美穂)

立枯るるもの男郎花女郎花           西脇はま子   (1点)

田の神の戻る外山や眠り初む          中嶋昌夫    (1点)

いよいよ冬に。田の神様も山の神に戻ります、そして眠りに入ります。穏やかな冬になりますように。(志昴女)

秋深む花舗に色濃き花並び           内村恭子    (1点)

威高なる伎楽面より秋の雷           竹田正明    (1点)

秋惜しむ夜のロビーやカルテット        片山孝子    (1点)

分断のここにもありて秋気満つ         加茂智子    (1点)

何の分断のことだろうか、具体的には判らないが、秋気は満ちているのである。人間界の小ささと、自然の雄大さの対比が効いている。(武夫)

ウェールズに求む本有り鳥渡る         小髙久丹子   (1点)

新しき時代の息吹菊香る            嶋田夏江    (1点)

天皇のご即位に向けて「時代の息吹」の言葉と菊香るの季語が実に相応しいと思います。(相・恵美子)

学芸会の稽古場よぎる蜻蛉かな         明隅礼子    (1点)

山間の学校でしょうか。緑にも水にも恵まれた学舎を思い浮かべました。(明)

雨湿る赤道儀室虫の闇             相沢恵美子   (1点)

ざんぶりと血抜きの川や猪の肉         瀬尾柳匠    (1点)

情景がよく見えます(早・恵美子)

うさぎやの耳つき名刺栗鹿の子         榑林匠子    (1点)

キーボード打つ指止まる秋思かな        森野美穂    (1点)

栗御飯一膳に栗多すぎて            片山孝子    (1点)

あるある、と思いました。つい欲張る季節の味ですね(律子)

凩にふたつの耳と口と鼻            垣内孝雄    (1点)

一里塚ひときは高し榎の実降る         永井玲子    (1点)

老父母は息災であり照紅葉           中川手鞠    (1点)

子規庵の畳に座せり鵙日和           野口日記    (1点)

鴎外忌寂莫として無縁坂            内藤芳生    (1点)

赤げらの樹々打つ音の谺して          森山ユリ子   (1点)

ゆく秋や手擦経本膝に置き           土屋香誉子   (1点)

どなたかの供養に経を読んでいらっしゃるのでしょうか。手ずれした経本がまた懐かしい味わいです。(志昴女)

霧深しポリスの笛の射込まるる         早川恵美子   (1点)

以上

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