<福永法弘同人会会長選 特選句>
神迎垣根を出づるつがひ矮鶏 相沢恵美子
神迎えは、神々が出雲から帰ってくるのを迎える神事だ。その日は仕事を休み餅を搗く土地もある。神迎えの神事に集うため人々は神社に集まるのだが、たまたま、矮鶏の番も垣根を出てきたというのである。まさか矮鶏が神事に出向きはしないだろうが、どこかユーモラス。 (法弘)
神社で飼っているのでしょう、チャボもお出迎えに参上。(春野)
恭子、紀美子
落葉掃く三昧境に到る迄 早川恵美子
掃いても掃いても落葉は減らない。それを面倒と思わずに、念仏三昧と同じ境地に達するまで続けるというのである。これぞ人生の達人。(法弘)
玲子、三枝子
<福永法弘同人会会長選 入選句>
茶の花や雨に農夫の納屋仕事 染葉三枝子
雨が降っても農民には休みはない。納屋で手仕事。雨に濡れる茶の花が侘しい。(法弘)
一年を通して何かと忙しい農家の人々。純白の茶の花が静かに安らぎを覚えさせてくれていると感じました。(明)
季語の斡旋が良い(早・恵美子)
春野、柳匠、道代
透析を止める決断冬銀河 野口日記
冬銀河が潔い決断に似つかわしい。(法弘)
決断を下す方も迫られる方も辛い。生き様を吐露した一句に胸が迫ります。(博子)
茂喜、芳生、 博子
脇役のベテランでありちゃんちゃんこ 早川恵美子
脇役陣がしっかりしているドラマは安心して見ていられる。笠智衆とか大滝秀治とか、ちゃんちゃんこの似合うベテラン俳優の名前と顔がすぐに浮かんでくる句だ。 (法弘)
勘六、香誉子
行く先を決めずに歩く小春かな 荒木那智子
一日1万歩、あるいは8千歩と人によって目標値はまちまちだが、健康のために歩く。コースが決まっているのは安心できて良いが、行き当たりばったりというのも何かしら発見があって楽しい。小春日であればなおさら、足取りも軽い。 (法弘)
小春の気持ちの良い日には行先を決めないで散策をしたくなる気持ちがよく解ります。(相・恵美子)
万記子
日の差さぬ病院の庭石蕗の花 森野美穂
石蕗の花は明るい黄色なのだが、どこか寂しい印象がある。病院の日の差さない庭に咲けばさらに寂しく感じるのは致し方ない。(法弘)
ツワブキの花が希望の黄色なのかもしれません。(順一)
孝子
道場の畳冷たき受身かな 山根眞五
柔道の道場。冷たい畳に叩きつけられると、たとえ受け身を上手にとったとしても、じんじん痺れる。(法弘)
若い頃柔道をやっていましたが早朝の寒稽古は本当に畳は堅く冷たかったのを覚えています、季語「冷たき」が動かない、(貞郎)
朝の練習で、初めて体が畳に触れた時の感触が伝わります。(酔猿)
駅裏は寺町通り初時雨 鹿目勘六
古くに栄えた街には、寺と遊郭が必ずあった。遊郭街が今に残っているところは少ないが、寺町は諸所に残る。初時雨の「初」に、その町の過去を懐かしんでいる風流を感じる。(法弘)
初冬のうら寂しい感じが表現されていると思う。(ユリ子)
コロナ禍や不要不急の酉の市 荒川勢津子
コロナ禍、不要不急の外出は控えてくださいと言われて、いろいろと見直してみる。毎年行っていた酉の市もその一つだという。確かにそうかもしれないがいささか寂しい。(法弘)
正明
夕焚火古き名刺もくべにけり 中村光男
名刺の数はサラリーマン人生で出会ってきた人の数。もはや役には立つまいが、捨てるに捨てきれない思い出だ。それを思い切って焚火に投げ込んだのだ。定年後一定期間を過ぎ、何かが吹っ切れたのだろう。(法弘)
日記
行く秋や口あく晋の武人俑 斎川玲奈
古代中国の王国のひとつが晋。長年、王墓を守ってきた兵俑だがすでに2000年が過ぎ去り、また一つの秋を見送っている今、さすがに飽き飽きして、ボーと口を開けているのかもしれない。(法弘)
<互選句>
初雪のニュース海峡越えて来る 鹿目勘六
スケールが大きく、冬の訪れに身の引き締まる感覚を感じた句でした。(美穂)
顔見世や昼夜の替はる京の街 泰山木
立哉
赤門に夕陽眩しき漱石忌 浅井貞郎
眞五、道代、立哉、悦子
冬星に負けぬ明るさ宇宙船 土屋香誉子
夜明けの空を流れていく人工衛星を良く見ます、ひときはおおきな光を放って行くのが宇宙線かな、季語『冬星」が効いています、 (貞郎)
芳生
ままごとのおかずを乗せて柿落葉 児島春野
子供たちの楽しそうな様子が思い浮かびます。(光男)
尚
宍道湖の沖へと映ゆる夕紅葉 竹田正明
眞五
雪見酒李朝陶磁に青み増し 内村恭子
那智子、日記
穭田に色の濃淡ありて風 瀬尾柳匠
手鞠、内・恭子
問はれたるパリの天気や今朝の冬 小野恭子
立哉
大根煮る味噌のかをりに富士を見ゆ 齋藤みつ子
近くの景と遠くの景が合わさった、心模様の伝わってくる句だと思いました。(美穂)
みのむしの宇宙をそつと覗きたし 嶋田夏江
景が大きくて夢が有ります。有馬先生も広大な宇宙に旅立ってしまわれましたね。蓑虫君見送っているのかな?(早・恵美子)
手鞠、旭
郵便バイク音に弾ける小春かな 阿部 旭
孝子、久丹子
水鳥の埴輪冴ゆるや博物館 原 道代
「水鳥の埴輪」から、悠久の地球の営みを覚えると同時に季語の揺るぎなさを思いました。(明)
冬銀河火の無き高炉聳え立つ 酔猿
冬銀河と聳え立つ高炉の影、美しく寒々とした光景が目に浮かびます(夏江)
火の消えた高炉の寂しい姿、冬銀河の季語がピッタリです。(光男)
てつお
クラークの像に真紅の毛糸帽 西脇はま子
北大を有名ならしめるあのセリフ(実は違うそうだが)のクラーク博士。寒いですね、毛糸帽子は如何?(志昴女)
勘六、由紀子
冬紅葉古き祠の釈迦如来 垣内孝雄
小・恭子、正明
北山の時雨れて京の通り雨 瀬尾柳匠
勘六
穏やかに大地に転びかりんの実 高橋紀美子
孝子、泰山木
欠礼に親族の名や茶が咲けり 山口眞登美
勢津子
ヴェルサイユ冬の日燦と鏡の間 森山ユリ子
治美、史子、三枝子、由紀子
写経する小筆の尖の秋の色 内藤芳生
旭
冬めけるアールグレイの紅茶かな 窪田治美
お句を拝見し、私も熱い紅茶を淹れて一服しています(勢津子)
鏡かと思へば同じ冬帽子 明隅礼子
おそらく見知らぬ方同士(もしかしたら、そうではなくて例えば兄弟姉妹のお子さま等だったりする光景かもしれないのですが)でも何か微笑ましくほっこりとする感じをおぼえました(美穂)
内・恭子
冬ざれや世界はマスク手離せず 佐藤律子
まさに冬ざれです(夏江)
治美
篁に冬日射し入る音したり 室 明
冬日が射し入る音を感じる、入るという表現が活きていると思います( 律子)
眞登美
黒々と寒々と朝杉木立 鉄谷 耕
正明
再会の約果たせずに冬紅葉 泰山木
再会のお相手はどなただったのでしょうか。理由をいろいろ考えてしまいます。(酔猿)
この春親友が他界しました。親しかった人がひとりずつ去りそれに耐えて生きる歳になりました。長生きは寂しくもありますね(作者がご高齢ならばですが)(勢津子)
また会おうね、の約束。果たせずに終わった友人知人がどんどん増えてきます。人生も冬の時期です。(志昴女)
銀杏散る子規球場の空碧く 武井悦子
楓
寅彦忌抹茶茶碗にカプチーノ 永井玲子
「抹茶茶碗」と「カプチーノ」の取り合わせが「寅彦忌」へ誘う。(孝雄)
匠子、悦子
武将らの駆けぬけし路地京時雨 高橋紀美子
幾多の武将らが覇権を争いここ京都の地で戦ってきたのか目に浮かびます(眞五)
てつお、香誉子
靴下に大小ありてクリスマス 森野美穂
尚、手鞠、柳匠、史子
炉話や座敷わらしの後ろ影 竹田正明
庭石にはこんもりと雪が積もっているのでしょうか 炉辺の話が聞きたくなった座敷わらし、目をつぶれば私は今遠野にいます (温子)
炉話に座敷わらしの後ろ影の表現はぴったりで、炉話を聞いてみたくなります。(相・恵美子)
芳生
月耿耿寒夜の柩門に入る 室 明
紀美子
ビーバームーン旅の川辺の立ち話 小髙久丹子
玲子
厄除けの丹塗りの鳥居冬晴るる 荒木那智子
日記
端坐して聞く心経も秋の声 内藤芳生
般若心経を聞いていらっしゃいますか。良く、聞くお経だからこそ、心を正して姿勢も正して聞きたくなる。どんなシーンなのかな。(志昴女)
初雪の映ゆる穂高や神の御座 染葉三枝子
悦子
媽祖廟の赤き蝋燭去年今年 西脇はま子
コロナ禍の世、媽祖様にお願いしたくなるような気持ち、よくわかります。(光男)
海風を赤手袋でやり過ごす 武井典子
赤手袋が印象的でした。暖房まで備わっているようなユーモラスな感じ。(順一)
風冴えて舫綱解く漁師の手 原 道代
眞登美
菊坂に蘊蓄を聞き時雨けり 鈴木 楓
文士の旧居跡等が多い菊坂に蘊蓄を聞いていると表現したところがよいです。時雨けりで句に趣があります。(相・恵美子)
冬の蝶高校生が二人来る 石川順一
制服姿の高校生二人、カップルかな・・と冬の蝶との取り合わせ、読者の読みの深さを誘う。(孝雄)
不思議な魅力のある一句です。(博子)
匠子、はま子、玲子、茂喜
白菜のこだわり持たぬ潔さ てつお
万記子
筑紫野の石人石馬欠け冱つる 佐藤博子
那智子
縄跳や遠くの富士も輪の中に 小野恭子
富士山の見えるところで、大人数で長縄跳びをしている風景を思い浮かべました。(酔猿)
絵画的。句の流れが心地よい。(ユリ子)
はま子、内・恭子、道代、那智子、史子、旭
飛鳥より出ることは無し冬田打つ 今井温子
出ることは無し、というのは例年のことなのかコロナ禍だからなのか、言い切る潔さを感じます( 律子)
泰山木
お歳暮はリュウグウの石はやぶさ2 石川由紀子
はやぶさ2の句を上手く詠まれましたね、はやぶさは残る燃料で百億キロ先の小惑星に向かって旅立ちました、日本のロケット技術は世界に抜きんでている季語「お歳暮」が決まっています、(貞郎)
万記子、茂喜
尾鰭つく苦労話やおでん酒 てつお
お酒の勢いでつい話も大きくなりますね。(春野)
三枝子
七五三橋の向かうのこと知らず 明隅礼子
山あり谷ありのこれからの吾子の人生を思い、ひたすら幸せを願う親の心が十七音に詰まっていると感じました。(明)
香誉子、尚
カフェラテは小春日の味異人坂 三好万記子
お洒落な感じが素敵(早・恵美子)
日差しが目に浮かびます(みつ子)
てつお
冬の野に夢の欠片の落し物 中川手鞠
誰の夢の落とし物っでしょう 欠片がいいですね。 (温子)
いい夢のようですね(みつ子)
冬至粥ヒマラヤの塩一摘み 酔猿
熱々のお粥さんにピンクのヒマラヤの岩塩の一欠けら 思い出の一頁をひもどいた私です (温子)
泰山木、由紀子、はま子
冬ざくら藤十郎の近松座 武井悦子
曽根崎心中のお初の縁の下のシーン、道行き。藤十郎の復活・襲名もろもろ。もっと演じ続けて欲しかったです。合掌。(博子)
久丹子
返り花夕闇がたに開きをり 垣内孝雄
夕闇がたと限定したのが返り花とよりひびき合っていいと思います( 律子)
治美
盤上の硝子のナイト冬北斗 石川由紀子
小・恭子
つぶやきのきこえてきさう冬桜 中川手鞠
冬桜とつぶやきあってます(みつ子)
「つぶやき」とは、現世のつぶやきか、それとも冬桜のものか、省略の効いた読みを委ねる句である。(孝雄)
赤門に夕陽眩しき漱石忌 浅井貞郎
うす紅ではなく赤の漱石忌ですね(夏江)
「夕陽眩しき」は漱石人生後半の作品の輝きと呼応しているように思う。(ユリ子)
絵具溶く紅葉且つ散る時の間を 山口眞登美
楓
一葉忌ほどよき角の金平糖 木村史子
ほどよきとは主観的な詠みぶりが金平糖を引き立てているようでした。(順一)
楓、柳匠、久丹子
一葉忌おもちゃの指輪の当たり籤 永井玲子
一葉の忌日で、おもちゃの指輪、さらに指輪そのものでなく籤であるところに、かなしみの通い合うものを感じました。(眞登美)
匠子
澄む水や落葉の嵩の知れぬほど 上脇立哉
紀美子
以上
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