天為インターネット句会2015年8月分選句結果 (作者名の後ろの点は互選点)
※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。また互選句は高点句から順に、同点句は句稿番号順に並べました。
※一部インターネットで表示できる文字に置き換えております。ご了承ください。
<対馬康子編集顧問選特選句>
思ひ出の濡れてゆきたる白雨かな 明隅礼子 (6点)
白い雨の中、過ぎ去った記憶が濡れている。時間というものの無常。夕立ちに濡れた日の思い出ではなく、思い出が濡れていく、という抒情性ある捉え方に惹かれた。(康子)
秋の風どこへ消へたか捜しをり 齋藤みつ子
何を捜すのか、消えてしまった秋の風そのものか。一方で、この句は上五で切ればそこにいろいろな思いが入ってくる。
以前、欧州の旅で私は「冬木立不明の色を探しけり」という句を作ったが、その時のような失われゆくものたちへの哀感を感じた。(康子)
<対馬康子編集顧問選入選句>
亀の子の出てくる出てくる蓮の陰 佐藤博子 (2点)
ビードロに映してゆがむ写楽の手 小橋柳絮 (1点)
桑の実や抽斗あまた菓子箪笥 石川由紀子 (1点)
人声の先に降りくる船遊び 内藤芳生 (1点)
急流下りか、湾内一周か、何にしても非日常の興奮した楽しさの伝わってくる句でした。(博子)
男滝女滝の音たのしめる座敷かな 山田節予 (1点)
名瀑の近くに宿をとり、この夏の猛暑で疲れた体を癒しているのであろう。男滝女滝の音の違い聞き分けているうちに深い眠りについた(繁)
蓮香るお伽の酒や象鼻杯 中川手鞠 (1点)
雅な遊びですね。「お伽の酒」と見立てた処が、良いと思いました。(博子)
かぶと煮の椀をはみ出す梅雨入りかな 和田仁
乾かして桑を与へし夏蚕かな 岡崎志昴女
台風の海を見てゐる一家族 安光せつ
日を入れて森の深きに螢川 妹尾茂喜
木船の蓮の実を剥ぐ童子かな 劉海燕
<互選句>
ヴィーナスと名付けし猫と三尺寝 荒木那智子 (6点)
素敵な名前のにゃんこ、色白なんでしょうね!(志昴女)
洗練されたユーモア(ユリ子)
愛する猫ちゃんとの関係が良く分かる一句ですネ。(麻実)
うかうかと老いて夏草繁るまま 熊谷かをるこ(6点)
「うかうかと老い」がよい、共感できる。庭の草取りもままならないという意味なのかもしれないが、むしろ夏草とは作者自身の姿かと思う。老いてなお盛んに句作し活動しているのだろう(美春)
大阿蘇の雲千切れ来る草いきれ 原 豊 (6点)
雄大な阿蘇の景色が目に浮かび、草の匂いが漂ってくるような、気持ちのよい句(美春)
本好きの笑はない子や浮いて来い 髙橋紀美子 (6点)
「笑はない子」に悲しみを感じる。季語の選定も効果的で詩情がある(美春)
奥歯から繋がる記憶青山椒 杉美春 (5点)
ピりり、は奥歯から…ですか!(志昴女)
青山椒がきいている(豊)
青山椒カリッと噛んだときの香り、味どんな記憶でしょうか。(小夜子)
虚子の間の海峡望む晩夏光 嶋田夏江 (5点)
虚子の間の先に海峡望まれる。そこに晩夏光が照らしている。美しい写生。(芳彦)
虚子が訪れた旅館か料亭のだろうか、今も「虚子の間」として保存されている一間がある。晩夏光あふれる海峡の眩さの中に虚子の在りし日の姿が彷彿とする。(はま子)
美しい情景を調べよく詠まれていると思いました(ユリ子)
広重の夕立身の芯までブルー 小橋柳絮 (5点)
ゴッホやモネを魅了したヒロシゲブルー。心身ともに涼しくなりなした。(はま子)
廃船の舳先沖向く雲の峰 石川由紀子 (5点)
廃船の舳先の沖に夏特有の峰のように高く立つ雲が見えるという美しい写生。(芳彦)
廃船の哀れさがなくよい。考えてみれば小生も「廃船」だ!夢と野心を捨てずに真直ぐ前を向いて歩み続けよう!勇気をいただいた。作者に心から感謝!(繁)
過疎の地を豊かに流れ青田風 内藤繁 (4点)
豊かな自然の風景がすがすがしいです(夏江)
見得を切る團十郎の裸足かな 荒木那智子 (4点)
山百合や空襲は只逃げるのみ 荒川勢津子 (4点)
私も防空壕へ逃げた記憶があります。もうこういうことは無いことを願います。(みつ子)
落し文手塚治虫のサイン入り 西脇はま子 (4点)
自在に人類の未来を描いた手塚治虫。来世から現世へのメーセージや如何に?(柳絮)
思わずニヤリとする楽しさです(夏江)
台風過沖より戻る海の色 安光せつ (4点)
台風一過、新しい空と海が安堵感を与えてくれます。徐々に明るくなる様子を中七で上手に表現なさっていると思います。(明)
あの空はやたらに青し敗戦忌 あさだ麻実 (3点)
もう空襲は無い。見上げた空の青く眩しかったこと、終戦忌ではなく敗戦忌が複雑な気持ち現れています。(小夜子)
リラの香や十字架傾ぐケルト墓地 森山ユリ子 (3点)
行水や兄弟喧嘩始まりて 上脇立哉 (3点)
懐かしい絵柄ですね(みつ子)
三伏や東京メトロ路線地図 小野恭子 (3点)
暑い地上を避けて地下に地下に潜り込む貴方の行先はどちら?(温子)
なるほど、あの網の目のような路線図は実に暑さを押し込めているようだと納得しました。(明)
大福帳手に小狸の陶涼し 阿部旭 (3点)
風涼し縄文遺跡の切り通し 浅井貞郎 (3点)
北国には縄文時代の遺構の多くが、まだまだ手付かずのまま眠っております。その大遺構に佇ち、遙かなる先住の民に思いを巡らせば、古代の自然からその無垢の光・彩りそして風をたっぷりと賜る気分になれます。さらに古代の民の汗の匂いさえ心地佳いものに感じられて来ます。上五「風涼し」に先住の民に対する労り、善意を感じ取れました。(仁)
ことごとに異見の奴と酌むビール 岡崎志昴女 (2点)
こんな光景目にして男の人って無口ではないんだと思ったことがありました。この関係続くんでしょうね。(小夜子)
骸骨の標本の揺れ雷渡る 中村光男 (2点)
骸骨と雷の取り合わせが功を奏し、雷の大きさも感じられる(ユリ子)
玉の汗大胆に行く一万歩 小野恭子 (2点)
健康には歩くのが一番とかいって万歩計をつけて歩くのがはやっている。しかしこの暑さだ。ちょっと歩いても汗が出る。その暑さの中、「健康のため」といってむきになって歩いている。そういう情景が目に浮かぶようだ。(光男)
渓流の子ら手づかみの山女かな 西野編人 (2点)
いつも渓流で遊んでいる子は石の下に潜んでいる山女を手づかみに出来るのでしょう、涼しそうで、楽しい句ですね。(貞郎)
検番のありし通りや凌霄花 嶋田夏江 (2点)
江戸川の花火山下清の絵 武井悦子 (2点)
駄菓子屋の鼠花火や路地遊び安藤小夜子(2点) 山下清と言えば、花火のちぎり絵。浅草生まれの清には、江戸川の花火が一番の様に思えます。(はま子)
秋近し中棹の音の文弥節 室 明 (2点)
絶壁に佇む廃城夏の月 松山芳彦 (2点)
駄菓子屋の鼠花火や路地遊び 安藤小夜子 (2点)
季語鼠花火が良いですね、なつかしい句です。(貞郎)
俳人に取り囲まれて蛇遁走 佐藤博子 (2点)
箱庭の酒亭に真赤な酔ひ人形 内藤繁 (2点)
斑鳩の土塀に消ゆる蝉の声 竹田正明 (2点)
岩に染み、心に沁み、斑鳩土塀に浸み、巡る季節の蝉の声。(柳絮)
野良猫に餌やる朝やアッパッパ 佐藤武代 (2点)
昨今、様々なシーンで動物の都合(?)、人間の都合に対する深慮遠謀により、餌やりが禁じられるようになりました。掲句は、飽食を満喫しているオバサン(?)の行動心理を、さり気なくシニカルに的確に表出してくれました。深く考えさせると言うより、巧みに、あっけらかんと笑える俳諧の一句に仕上げてくれました。(仁)
網戸越し甲虫の腹逞しき 髙橋紀美子 (2点)
アウトバーン一直線に夏の空 杉美春 (1点)
花合歓の羽化うながして櫂の音 小橋柳絮 (1点)
あんまりな暑さわたしも蚊も無口 小高久丹子 (1点)
確かに暑さのせいで蚊が居なくなります、それは蚊が無口になってしまったのですね、面白い。(貞郎)
バオバブの花咲けば寄る雀蛾も 土屋尚 (1点)
雨は地に銀河を描く花槐 關根文彦 (1点)
夏潮や島に錆びたる難破船 根岸三恵子 (1点)
渇筆の勢ひ余る金亀虫 早川恵美子 (1点)
簡略に過ぎたる自画像風薫る 和田仁 (1点)
思いのほかの自信作では!あっ失礼、俳句ではなく自画像が!自分の顔を描くとなるとどうしても欲がでる。手直しを繰返し、余分な筆は加わる。「簡略に過ぎたる」に満足感が漂い、折からの薫風で高揚した気持ちを和らいでいる(繁)
帰省子の背の見上げたる男前 齋藤みつ子 (1点)
漆黒の海をささげて洗硯す 伊藤高甫 (1点)
七夕の短冊に用意した墨が多かったのでしょうか、祈りの気持ちでしょうか。捧げる、に心が感じられます。(志昴女)
蹴り上げるボールの先に虹の橋 阿部旭 (1点)
一瞬を切り取る情景描写俳句の真髄(豊)
水槽の五線譜揺らす水海月 原 豊 (1点)
海月と言うと山形県の加茂水族館。実は今夏、知人の力を借り海月を自宅の水槽で飼ってみました。悪戦苦闘しております。さて、掲句の中七「五線譜揺らす」が的確で、水槽の海月のホログラフィックな行動様式を上品に過不足なく表現しております。感覚の冴えを感じ取れます。(仁)
星月夜探査機いまも宙翔くる 内藤芳生 (1点)
聖堂のステンドグラス西日濃し 満井久子 (1点)
曝書せる百科辞典は革表紙 根岸三恵子 (1点)
いまどき本形式の百科事典など流行らない。インターネットの時代になっている。しかし自分は高い金をはたいて揃えたのだ。それも革表紙のもの。捨てるに捨てられない。時代錯誤だといわれてもこれからもずっと所蔵してゆくつもりだ。そんな気持ちが表れている句である。(光男)
浮かべたる花に蝶来る日向水 武藤スエ子 (1点)
風鈴の硝子工房火の匠 鈴木楓 (1点)
緑さす縄文土器の縄目かな 浅井貞郎 (1点)
冷房の部屋に手足を伸ばす猫 佐藤武代 (1点)
この暑さ、猫だって暑いのだ。外から帰ってきて猫も文明の利器のおかげをこうむっている。猫のほっとした顔が目に浮かぶようだ。(光男)
漣や彼の世の湖の月見草 早川恵美子 (1点)
さざ波が湖面にある後の世に月見草が咲いているという想像の景色。そうあると良いのですが。(芳彦)
老鶯や原爆の図に合掌す 西脇はま子 (1点)
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