天為ネット句会2015年12月分選句結果 (作者名の後ろの点は互選点)
※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。また互選句は高点句から順に、同点句は句稿番号順に並べました。
※一部インターネットで表示できる文字に置き換えております。ご了承ください。
<対馬康子編集顧問選特選句>
空爆に空爆ポインセチアかな 佐藤博子 (2点)
「空爆」を詠んだものに関悦史氏の「人類に空爆のある雑煮かな」の句があるが、この句はクリスマスシーズンに街を彩る
赤いポインセチアに淡々と反戦の思いを重ねた。訴えることが強いほど、余計な言葉は不要なのである。(康子)
海底の林檎まさぐるヴィーナスの手 小橋柳絮
ミロのヴィーナス像の欠けた両腕を復元しようという試みはロマンである。左手に神の食べ物である黄金の林檎を持って
いるという俗説が伝わっている。この句は「海底」という次元を越えた場所に、ないはずの腕が動いているところが
面白い。日々の強さや哀しさを自ずと醸し出した。
ただ「まさぐる」という言い方が気になった。たとえば「ヴィーナスの手を海底の林檎かな」ではどうだろうか。(康子)
<対馬康子編集顧問選入選句>
小春日は薄紙かさねあふところ 渡部有紀子 (5点)
小春日のほの暖かい感じが詩的に表現されている。(美春)
新藁の甘き香まとひ馬眠る 石川由紀子 (4点)
新藁の香は実に心を安らげてくれるものだと思います。ふかふかの新藁を入れてもらって、とても幸せそうな馬の様子が
見えます。(明)
夕顔の返り咲く街波郷の忌 室 明 (2点)
雪虫の二枚の翅の薄みどり 西脇はま子 (2点)
杉玉を掛け替え蔵の師走かな 武井悦子 (2点)
天地の合わせ鏡や冬来る 加茂智子 (2点)
人は灯の地階へ林泉は冬鳥群れ 關根文彦
魏の使者も海鼠も来る若狭かな 早川恵美子
凩を避けて鳥獣戯画の鳥 内藤 繁
大粒の勾玉赤し狐火も 荒木那智子
<互選句>
ひやかしが手締めとなりし酉の市 安藤小夜子 (6点)
買う気はなかったがちょっと覗いてみた。百戦錬磨の売り手との掛け合いで縁起熊手を買うはめに。そして笑顔で周囲の
手締めを受けている。明るくめでたい一句。(かをるこ)
温め酒また観る東京物語 土屋 尚 (6点)
往年の方が次々亡くなり寂しいですね(みつ子)
森抜けて黒き手套のひと来たる 明隅礼子 (5点)
物語が始まりそう。神秘的な感じがする。(美春)
七五三まず団栗を拾い出す 岡崎志昴女 (4点)
天真爛漫な子供心の面目躍如。(柳絮)
寒卵ひとつはドラゴンかも知れず 杉 美春 (4点)
把握のバリエーションの中での不気味さ卓越。(柳絮)
秒針に加速度ついて十二月 中川手鞠 (4点)
雪吊りや幽かな風を奏でをり 阿部 旭 (3点)
雪吊りに幽かな風が吹いて、穏やかな曲を奏でている。長閑な光景が見えて来る。(芳彦)
紙漉くや水のリズムに数え唄 松山芳彦 (3点)
わたしの知っている数え唄かしら?なんか聞こえてきそうですが(みつ子)
あつあつの鯛焼きを提げ産見舞い 今井温子 (3点)
私もあったかい鯛焼き大好きです(みつ子)
風邪声を謝るラジオ深夜便 中村光男 (3点)
地球儀の光と翳や銀杏散る 原 豊 (3点)
地上に落ちた銀杏の葉は光に映えて大変美しい感じが出ています。(貞郎)
山門は風の抜道石蕗の花 石川由紀子 (3点)
中七の「風の抜け道」が大変良いと思いました。(貞郎)
北塞ぐ生れたてなる仔牛小屋 佐藤武代 (3点)
生まれて間もない仔牛が寒くないように隙間風が入らないように、小屋を手入れする。いずれは売られていくさだめかも
知れないが、まずは小さな命にそそぐ愛と思いやりがうれしい。(かをるこ)
熱燗を酌みて腸までの距離 小野恭子 (3点)
これって実感ですよね。健康の証ですよね。忘年会は大いに梯子をし、盛り上がり、発散しましょう。少々、酔ってます。
すみません。(仁)
紫を一刷毛したる蕪かな 土屋香誉子 (3点)
一刷毛という表現で蕪のみずみずしさが思い浮ぶ。(ユリ子)
小春風小さき真珠の耳飾り 森山ユリ子 (2点)
季語小春風が大変良いと思います。(貞郎)
木枯や歩荷通ひし塩の道 竹田正明 (2点)
木枯の中を歩いて荷を運んだ昔もあったのだなあ!この塩の道を・・遠い昔を思い浮かべる詩情はよいと思う。(芳彦)
歌人眠る山ふところの冬紅葉 満井久子 (2点)
林檎箱ひらけば母の走り書き 妹尾茂喜 (2点)
気負いの無い表現に、母として当り前のことを当り前にしている情愛の深さが伝わってきます。(仁)
番号で素性知れる世雁渡る 荒川勢津子 (2点)
権力による一元統治。雁の自由が羨ましい。(柳絮)
綿虫や世界遺産の製糸場 根岸三恵子 (2点)
群馬県の富岡製糸場と絹産業遺産群は、昨年6月、世界遺産一覧表に記載された。1872年に日本近代化の模範工場として
建てられ、1987年に操業を停止した。その工場に青白い光をあてながら雪虫が浮遊している。(茂喜)
馬車道に瓦斯燈ともり日短か 森山ユリ子 (2点)
開国によって横浜港が開かれ、外国人は居留地へ馬車で往来した。街路には我が国初の瓦斯灯がともった。往時の
さんざめく姿は早くも暮れてしまった。150年の時の流れが早い。(茂喜)
小雪や号鼓の桴の握り艶 西脇はま子 (2点)
短日やワイングラスの逆さ吊り 武藤スエ子 (2点)
厳戒の街にマロニエ落葉舞ふ 熊谷かをるこ (1点)
短い言葉で時勢をよく表現していると思う。「落葉舞ふ」は不安な気持ちも感じさせる。(ユリ子)
紅葉散る険しき道の奥の院 満井久子 (1点)
技巧に走らない率直な描写です。しかし、何をどう捉えるかと言う詩人の美意識が働いているような気がします。(仁)
一文字や並ぶ素数の無限大 江原 文 (1点)
鼻風邪や勝気の妻の甘え声 中村光男 (1点)
神仰ぎ新米祝ふ里の膳 原 豊 (1点)
退廃の甘き香りや憂国忌 中川手鞠 (1点)
冬晴れや不動の巖を長元坊 安光せつ (1点)
灯されぬバルバラの塔冬の星 小高久丹子 (1点)
潮騒に飽きし少女の耳袋 小野恭子 (1点)
潮騒、少女、耳袋の取り合わせがよい。(美春)
目印に竹立てておく冬構え 片山孝子 (1点)
浮舟の墓とは知らず紅葉寺 今井温子 (1点)
良く見れば座敷わらしが屏風絵に 松山芳彦 (1点)
掘り起こす蒟蒻玉のたくましき 根岸三恵子 (1点)
嵐峡の時雨を下る小舟かな 内藤芳生 (1点)
時雨るるや人間と言ふ毀れもの 和田 仁 (1点)
修院の運河に眠る大白鳥 鈴木 楓 (1点)
運河のほとりの修道院と白鳥。見たことのある光景を想い出させた。(ユリ子)
喪亡の銀漢母に手を引かれ 小橋柳絮 (1点)
桜坂下りてけふは憂国忌 佐藤博子 (1点)
極月や皇帝ダリヤ輝ける 嶋田夏江 (1点)
極月の紺碧の空に向けて薄紫の花を咲かせている皇帝ダリヤは堂々として名前の通りであるという詩情は
よいと思う。(芳彦)
女房の小言のひとつ放屁虫 上脇立哉 (1点)
切株は厳父の座なり虎落笛 和田 仁 (1点)
錦絵の秩父巡礼冬紅葉 竹田正明 (1点)
カーテンを替へ東京の冬構 杉 美春 (1点)
宝船傾ぐ人波三の酉 江原 文 (1点)
身に沁むや噛み砕くといふ業もあり 加茂智子 (1点)
行列の人下を向く寒さかな 小高久丹子 (1点)
酒場まだ準備中なり初時雨 上脇立哉 (1点)
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