天為ネット句会報2017年3月

 

天為インターネット句会2017年3月分選句結果

(作者名の後ろの点は互選点)
 ※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。また互選句は高点句から順に、同点句は句稿番号順に並べました。
 ※一部インターネットで表示できる文字に置き換えております。ご了承ください。

<日原 傳 編集顧問選 特選句>

トナカイを捌く石刃冴返る           髙橋紀美子  (2点)
博物館などで「石刃」を目にし、遥か昔に思いを寄せたのであろう。狩猟生活が中心であった時代、この石刃はトナカイの解体に使われたのではなかろうかと想像をたくましくしたのである。「冴返る」という季語の働きで、リアリティーの感じられる句となった(傳)。

真白なるアオザイ美しき卒業子         鈴木 楓   (2点)
近年、大学ではベトナムからの留学生が増えていると聞く。卒業式に民族衣装で臨む留学生。アオザイの真白な色が印象的。清楚な卒業子の姿が想像されてくる(傳)。

<日原 傳 編集顧問選 入選句>

畏まる膝に擦り傷雛の客            中川手鞠   (7点)
腕白坊主の男の子も今日は雛祭りに呼ばれて雛段の前で膝を正して畏まっている。微笑ましい。子は色々な経験をして育って行く。(勘六)

ほほえましい、遊び仲間の雛の客ですね。(志昴女)

「膝に擦り傷のあるやんちゃな子が畏まって座っている様子がとてもかわいい。(貞郎)

ものの芽のみちて芙美子の終の家        佐藤博子   (4点)
林芙美子には家探しの小説があるなど住いには強い思い入れがあったようです。その思い入れが「満ちるものの芽」に表れています。(清文)

芙美子の終の家は庭広く美しい。芽吹きは殊に生命力を感じる。(ユリ子)

蝋梅の黄のあはあはと昏れ残る         内藤芳生   (4点)
日没後、残光に照らされた美しい時間が30分ほど続きます。その中に残る蝋梅の美しさを感じました。(博子)

吊雛伊豆七島の晴れわたり           土田栄一   (3点)

春ショール飛行機雲は淡く溶け         杉美春    (2点)
春とはいえまだ肌寒さが残っている空に飛行機雲がゆっくりと溶けて行く。長閑な春を待ち望む気持ちが春ショールという季語で上手く表されている。(光男)

春ショールと飛行機雲の取り合わせが、春のうららかさを言い得ていると思います。(ユリ子)

日に一句子規の日めくり春めけり        あさだ麻実  (2点)
私も毎年子規の日めくりカレンダーを買っていますが、毎日めくって一句を鑑賞することはあまりありません、それ故に「日に一句」と季語「春めけり」の取り合わせが素晴らしい。(貞郎)

雛の間へ小さき灯りを運びゆく         明隅礼子   (2点)
小さき灯りという言葉が子どもの小さな夢や希望も表していると感じました(柳匠)

小さき灯り、という表現が雛の世界を想像させていいと思います(律子)

春泥の仔犬矢となり珠となり          早川恵美子  (1点)
泥をつけ元気に飛び回っている仔犬の様子が目に浮かんで来ます。(相・恵美子)

バリケード無き大学の朧かな          安藤小夜子  (1点)

すぐ終はる猫の点滴二月尽           小野恭子   (1点)

<互選句>

硝子拭き春の山河を整へる           和田仁    (8点)
硝子窓を磨いて冬の汚れを拭き取ると外の景色が鮮やかに迫って来る。その色は確かな春の到来を実感させる。(勘六)

こういうことはよくやりますよね。例えば私の場合、富士を整えるとか。(芳生)

硝子拭きをして春の山河を整えたという発想は面白い。硝子が明治の硝子のように歪んでいたのかなあ!(芳彦)

作者が硝子を拭いている様子と硝子に写っている山河の景が見えてきます。(相・恵美子)

冬の間曇っていた硝子を拭いてくっきり春の山河が見えてくる様子がよくわかります。(泰子)

「山河を整える」という措辞より、作者は自らを春を司る女神になった様に表現した。春になった喜びの躍動感の感じられる句。(はま子)

マカロンの春の七色魔女の皿          鈴木 楓   (5点)
魔女の皿という表現がたいへん面白い(柳匠)

メルヘンチックでいいですね。(麻実)

味噌蔵の梁を震はせ春の雷           今井温子   (5点)

味噌蔵の梁は太く大きなものであろう。その梁を揺るがすような落雷であった。震わせという言葉でその驚きを上手く表している。(光男)

仕込み終えたばかりの味噌樽がびっしり並んでいる蔵に雷が響き渡っている様子がよく描かれていると思います。(相・恵美子)

薄氷へ落つ新しき鳥の羽根           明隅礼子   (4点)
「薄氷」と「鳥の羽」の取り合わせが、とても美しく新鮮に感じられる。(はま子)

薄氷へふわふわと落ちて行く鳥の羽の景が美しいと思いました。(博子)

春潮や虚子の句碑古る門司の町         嶋田夏江   (4点)
九州の俳句界のお話、杉田久女をすぐ思い浮かべるのです。(志昴女)

歴史を踏まえた佳句と思います。(清文)

揚げたてに塩を一振り蕗の薹          瀬尾柳匠   (4点)
大地から芽を出した蕗の薹。紫色を解いて浅黄色を覗かせた物を採って春の到来を舌で味わう。アクの強い蕗の薹の天婦羅は塩が合う。(勘六)

美味しそう、と一瞬のうちに思わせる句だと思います(律子)

坪庭に日差し集まり桜草            荒川勢津子  (3点)
結句がやや、、、とおもいましたが。句のリズムが良いですね。(志昴女)

中庭の光を集めた桜草を見ると、時空を超えたサクラソウが蘇る。家康が愛でた花びら、一茶の詠った「草のサクラ」、荷風が見つけて書いた花びら。桜に代わって咲く五弁花、サクラソウ。花も人も冥利に尽きる。(茂喜)

国境はフリーパスなり蝌蚪の国         和田仁    (3点)
蝌蚪の国には国境がない。”自由に行き来ができて好いなあ”という気持になったという情景を表した発想が率直でよい。(芳彦)

心はや野にある如し西行忌           浅井貞郎   (3点)
春は花便りに旅心を誘われますね。西行でなくてもそわそわしてしまいます。(泰子)

橋の名も町も変らず猫柳            満井久子   (3点)
川が流れ変化の早い現代に、名も変わらない橋。おだやかな郷愁を感じる。(ユリ子)

靴ぬげば靴下もぬげ雛祭            西脇はま子  (3点)
ひな祭りの華やいだ様子が伝わってくる,「靴下も脱げ」が大変面白い。(貞郎)

小流れを跳んでひと叢犬ふぐり         満井久子   (2点)
小流れを飛び越したらそこは犬ふぐりの咲き乱れている草地。青い小さな星がちらばっている情景に驚いている姿が目に浮かぶ。(光男)

雑味がなく、素直に情景が浮かんできます。(仁)

歳時記を旅の鞄に西行忌            浅井貞郎   (2点)

一斉に時計鳴りだす針供養           小野恭子   (2点)

鷹鳩と化し水玉模様の豚二頭          佐藤武代   (2点)

一両車河津桜の濃き紅に            土屋香誉子  (2点)
海岸線をゆく電車の影一両がいま潮鳴りとともに桜並木に吸い込まれ、車体も音もみるみる花の濃き紅色に変わる。花の精の謳歌だ。河津桜は名花・桜の先導役で、伊豆半島では2月初旬から楽しめる。(茂喜)

一列に並ぶ堂塔牡丹の芽            石川由紀子  (2点)
堂や塔の並ぶ大きな寺院でしょう。夏には牡丹が咲き競う。(清文)

寒行の布施米零す小さき櫃           松浦泰子   (2点)

春の風絵本のピーターラビットに        荒木那智子  (2点)

門灯の代りに点る桃の花            あさだ麻実  (2点)
春の夕闇、その家ではまだ門灯を点さない。しかし薄紅色の桃の花が盛りになる今は、まるで門灯のように辺りを照らし出している。人と桃花のかかわりは長く、弥生時代の遺跡の桃の核や陶淵明の桃源を思い出す。(茂喜)

門灯は点けないほうが。(小夜子)

割らぬやう薄氷触るる薬指           松浦泰子   (2点)
美しい薄氷でしょう。薬指が効いています。(小夜子)

佐保姫に透かし模様の枕紙           中川手鞠   (2点)
佐保姫に透かし模様の枕紙と洒落た句になりました。こういう句は好きです。(芳彦)

子猫にも声を掛けゆく通学路          安藤小夜子  (2点)
外連味なくヒューマン。(仁)

ある高さより湧いて来る牡丹雪         鹿目勘六   (1点)
まさにこの通りです。(小夜子)

隧道の先の原発春の雪             米田清文   (1点)

自転車で来て寝ころびぬ春の浜         土屋尚    (1点)
春の日射しを浴びながら、潮騒を聴こうとやってきた近くの海。砂も程良く温まっていることでしょう。(博子)

炬燵寝の起きて淋しき三時かな         片山孝子   (1点)

折り紙折る指先に春来りけり          高橋雪子   (1点)
日常の何気ない生活の中に埋もれている詩。作者は見逃すことなく拾い上げた。(はま子)

春一番我が身いくども立て直し         相沢恵美子  (1点)
立て直そうとしてもなかなかに立て直せない我が身と春一番の取り合わせがなかなか愉快です(柳匠)

水温む実朝の海のたりかな           土田栄一   (1点)

春暁やひんがしの空独り占め          佐藤律子   (1点)

築山の細りゆく径白椿             森山ユリ子  (1点)

コーヒーの香りに芽吹くロッジかな       阿部旭    (1点)

馬具付けし埴輪嘶く厩出し           竹田正明   (1点)
埴輪の馬さえも厩出しに嘶いて駆け出しそうな春の明るさ、清新さが眼の前に広がります。(泰子)

津軽路の林檎の花と岩木山           鹿目勘六   (1点)
青森の春の景が目に浮かび上がって来ました。(麻実)

春の月上るほかなし海の上           瀬尾柳匠   (1点)
月が上っていくのをユーモラスに捉えていて面白いと思います(律子)

沿道に舞ふ紙吹雪春隣             高橋雪子   (1点)
マラソンの応援でしょうか?頑張れがんばれという気持ちが紙吹雪に合っています(みつ子)

白梅や老いの背伸ばし歩むべし         岡崎志昴女  (1点)

佳きことを促すやうに芽吹く木々        相沢恵美子  (1点)
その通りです。信じましょう。(仁)

春一番演歌ばかりのレコード屋         米田清文   (1点)
演歌好きの私は中七の演歌ばかりので頂きました。(麻実)

マスクしてルパンの目して行き違ふ       小橋柳絮   (1点)

馬の子の跳ねて驚きまた跳ねて         内藤繁    (1点)

麦踏や肩に食込む負い紐            佐藤武代   (1点)

以上

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