天為ネット句会報2017年5月

 

天為インターネット句会2017年5月分選句結果

(作者名の後ろの点は互選点)
 ※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。また互選句は高点句から順に、同点句は句稿番号順に並べました。
 ※一部インターネットで表示できる文字に置き換えております。ご了承ください。

<日原 傳 編集顧問選 特選句>

燕来るアンデルセンの切り絵かな        竹田正明    (3点)
童話作家として有名なアンデルセンはたくさんの切り絵を作ったことでも知られている。その生地であるデンマークのオーゼンセ市にあるアンデルセン博物館には数百点の切り絵が収蔵されているという。それを目にしての作か。燕は童話に似つかわしい素材であり、アンデルセンの代表作の一つ「親指姫」にも登場する。「燕来る」という季語が後に来る内容にうまく即くかたちで働いている(傳)。

氷川丸の黒き船腹昭和の日           髙橋紀美子   (2点)
横浜の山下公園の桟橋に係留されている氷川丸は昭和五年の竣工。シアトル航路に就役して活躍した。しかし、戦時中には海軍に徴用され、特別病院船に改造。船体は白色に塗装され、船腹に緑色のライン、船体の真ん中と煙突に赤十字が描かれたという。戦後、引揚病院船として使用された時代を経て、貨客船に復帰。再びシアトル航路などに就役したのち、昭和三十五年に引退した。現在目にする黒い船腹は、病院船として白く塗り替えられた時代もあったのだと、戦時を生き延びた氷川丸の曲折のあった経歴に思いを寄せたのである(傳)。

氷川丸に昭和の日の取り合わせがぴったり。(ユリ子)

<日原 傳 編集顧問選 入選句>

春光や一机一硯子規の部屋           浅井貞郎   (12点)
子規の根岸の家も松山の家も質素な佇まいだ。いや、昔は皆そうだった。そのような家で維新と近代日本を作り上げる若者が育っていった。子規もその一人だ。(勘六)

5月5日は、子規の「日本新聞」最後の連載「病牀六尺」の第1回掲載日、「この六尺の病牀が余には広過ぎる」と書き出す。連載未完のまま同年、明治35年9月19日没、享年35。作者は、今年150歳になる子規翁と対座している。(茂喜)

簡素な子規の部屋に春の光が豊かに差し込んでいる光景が浮かびます。(泰子)

子規の部屋の描写が中七の一机一硯・・・上手い。(麻実)

一机一硯で、子規の人生すべてを言い得ていると思った。質素の中に厳しさを感じる。(ユリ子)

柿若葉流るる雲の速さかな           安藤小夜子   (2点)

本棚に典礼聖歌リラ咲けり           鈴木 楓    (2点)

風光る桜の色のドロップス           瀬尾柳匠    (2点)
カランカランと鳴るドロップの缶のなかみ 出てきたのはピンク 後幾つあるのかな?(温子)

病室の窓にモビール風光る           瀬尾柳匠    (1点)
そろそろ退院なのでしょうか?モビールと季語の取り合わせに生命力を感じます。(博子)

埴輪かわく青葉若葉の風の中          佐藤博子    (1点)

句を記すペン先ひかる新樹光          相沢恵美子   (1点)

かりそめに麦笛吹けば父恋し          内藤芳生    

<互選句>

眠り落つ腕に風船結ばれて           土屋香誉子  (10点)
遊び疲れて風船を手に眠ってしまった子の様子がよく描かれていると思います。(恵美子)

腕に風船を結ばれているのは幼子でしょうね。大人の場合もあり得ます。どちらも長閑です。(泰子)

ふらここをぐいぐい漕いで恋をする       和田仁     (7点)
ぐいぐい漕いでにひたむきな恋が見えた(柳匠)

眩しさを感じる若さと勢いのある句 その恋にエールを送ります(温子)

青春と言うブランコ漕いで高く高く頑張れ!青春(麻実)

見得を切る千両役者白牡丹           土田栄一    (5点)
白牡丹開くと本当に見事ですね。美しさにエネルギーが溢れ”成田屋!”と思わず一声。(小夜子)

山の蝶のせてゆきけり花筏           明隅礼子    (5点)
花筏が流れて何処へ行くのであろうか。行き先は分からないが山の蝶が花筏に乗っている。益々行き先が知りたくなる。(芳彦)

山裾の清流を思い浮かべました。蝶も桜の花びらの美しさに魅かれて花筏での川下りを楽しんでいることでしょう。(明)

ゆったりとした美しい句ですね。(貞郎)

花に魅せられた山の蝶は、どこまで流れていくのか?美しい景です。(博子)

花筏に蝶が乗る景が美しい。(ユリ子)

行く春や猫の居座る四畳半           小野恭子    (5点)
夏近い晩春の物憂い感じが出ています。にゃんこが居座って、、、(志昴女)

まるで猫が春を惜しんでいるようで面白い(柳匠)

狭い所を十二分に楽しんでいる猫の様子がよく分ります。(恵美子)

風光る自転車を吊る自転車屋          満井久子    (4点)
全く当たり前の光景ですが、そこが面白い(柳匠)

卯月まで一駅と言ふ縄電車           和田仁     (4点)
今年の卯月朔日は4月26日、縄電車にたとえて「一駅」と言ったところが面白い。(清文)

「卯月まで一駅」という、発想が素晴らしいと思います。こんな縄電車なら私も一緒に乗りたいですね。(はま子)

菖蒲湯の銭湯に行く探険隊           中川手鞠    (4点)
いたずら盛りの小学生たちが興味しんしんで銭湯に向かう光景が見えてきます。下五が効いていると思います。(明)

子どもの日、泥んこになるまで遊んでそのまま銭湯に行くことになった探検隊、可愛いですね。(泰子)

海はるか胡蝶の夢の続きかな          妹尾茂喜    (4点)
言葉の調子が好きです。胡蝶とか夢、はるか、とても気持ちをゆすぶられます。(志昴女)

荘子の見た胡蝶の夢の続きを見られているのでしょうか、羨ましい限りです。(はま子)

茅葺に桜吹雪や楽医門             岩川富江    (3点)
素敵なワンショット。彩が見事。フンイキが出ています。(仁)

草餅の季節に逝きし母なりき          嶋田夏江    (3点)
訥々と詠われていることで、亡くなられた母への思慕が強く感じられ、季語「草餅」から母の優しさと、香しさが感じられます。(はま子)

子規庵で求めし種子や糸瓜蒔く         あさだ麻実   (2点)
子規の絶句は糸瓜三句。その糸瓜の種を子規庵で買って蒔いた。病と壮絶に闘いながら新しい俳句の地平を開いた子規への想いが込められた句だ。(勘六)

糸瓜は黄色い花が咲きぶら下がっておおきくなっていく日々それを眺めながら子規の事を偲びつつ句作に励むいいですね。(貞郎)

まだ長き初夏の鉛筆みどり色          渡部有紀子   (2点)

唐門の金色に染み鳳蝶             西脇はま子   (2点)

若葉闇ルオーのピエロ泣いてをり        森山ユリ子   (2点)
深い悲しみを隠す笑みもあります。ルオーの絵の内面を感じました。(博子)

裁縫の母のチャコ痕子供の日          松山芳彦    (2点)

甲比丹の渡来し海桜散る            西脇はま子   (2点)
長崎の輝く島々と青い海、そこへ絶え間なく散る桜、実に美しい景色です。初めてこの光景を目にしたオランダ人もきっと余りの美しさに驚嘆したことでしょう。(明)

麦笛やがき大将を先頭に            荒木那智子   (2点)
昔は身近に麦畑がありガキ大将もいた。今は生活は便利になり悪童も少なくなった。しかし子供達にとって本当に幸せな時代になったのか?(勘六)

梵鐘の園に余韻や春惜しむ           荒川勢津子   (2点)
梵鐘の国というから恐らく中国。中国の古楽器の鐘で、寺院で用いるつりがねの余韻が春を惜しんでいる。長閑な雰囲気が感ぜられる。
(芳彦)

せせらぎに沿ひて菫の花つづく         鹿目勘六    (2点)
小川の水音を聴きながら、紫の五弁花に歴代の詩を引き寄せている。芭蕉は〈山路来て〉、蕪村は〈骨拾ふ〉、一茶は〈菫咲く川〉、漱石は〈菫程な〉、青邨は〈菫濃く〉、朗人は〈菫つみ〉、赤人は〈春の野に〉、西行は〈荒田の畦に〉等々。(茂喜)

風薫る大和の寺の帯祝             松浦泰子    (2点)
奈良市の少し南部に帯解寺があり 美しい新緑のこの季節にはことにお子様を授かりたいと願う方や安産祈願にと参ずる方が絶えません 無事のご出産を念じています(温子)

青ぬたに佳き小葱とてもらひけり        岡崎志昴女   (2点)
青い野菜を酢味噌に和えたもの。饅は、沼田のようにどろどろしている意なのか。風そよぐ畑道に葱を見つけて話がはずんだのだろう。葱を上げた人も貰った人も共に佳き笑顔である。中七の措辞がうまい。(茂喜)

ほつほつと卯の花の白咲きそめぬ        内藤芳生    (1点)
ほつほつとがいい(みつ子)

菜の花や空にミサイル海に軍艦         小高久丹子   (1点)
菜の花の明るさと緊迫する世界情勢の対比(清文)

しんと冷えわたつみの声読む花明り       關根文彦    (1点)

子育ての時短勤務やフリージア         米田清文    (1点)
簡潔にして意外な取合せが魅力。清楚なフリージア・・着地が見事。(仁)

青年の瞳涼やか余花の寺            中川手鞠    (1点)
如何にも初夏に相応しい青年の涼やかな瞳。その視線はどこへ?(志昴女)

若冲の石仏二十躑躅咲く            高橋雪子    (1点)
絵が浮かびます(みつ子)

虚貝耳を澄ませば夏の音            原 豊     (1点)

太閤と一緒に愛でる桜かな           齋藤みつ子   (1点)

鏝絵の龍赤き気を吐き青葉闇          内藤繁     (1点)

バラ垣を訪へば仔犬が転び来る         今井温子    (1点)
駆け寄って来た仔犬に思わず微笑んでいる作者の様子が見えて来ます。(恵美子)

チューリップ初心忘れて崩れをり        中村光男    (1点)

ここと決め乾杯の輪や八重桜          片山孝子    (1点)
とにかく乾杯!乾杯!花より乾杯?(仁)

ムスカリの遺跡寄り添ふ藍の傘         松山芳彦    (1点)

幼児のこごみて見入る小米花          室 明     (1点)
かわいらしい景。「こごみて見入る小米花」と「ko」の音のならびが心地よい。(清文)

春朝手のリハビリに米を研ぐ          満井久子    (1点)

春惜しむ紅茶ポットに砂時計          松浦泰子    (1点)

夕暮の手児奈伝説呼子鳥            竹田正明    (1点)
下総国葛飾郡真間にいたという伝説上の美女。多くの男子に言い寄られ、煩悶して投身。人を呼ぶような鳴き声をする鳥カッコウが
鳴いている。伝説を俳句にしたところなかなかのもの。(芳彦)

日の光吸ひ尽くしたる白牡丹          土田栄一    (1点)

祖母の手の皺を数へて古茶を汲む        高橋雪子    (1点)

ゆれゆれて満天星の花手古奈堂         武井悦子    (1点)

春昼の地に響きあり象の恋           妹尾茂喜    (1点)

手話ダンス歌ふ指先風光る           石川由紀子   (1点)

身長の二センチ伸びて曼愚節          佐藤武代    (1点)

烏帽子岩とは良き名なり潮まねき        内藤繁     (1点)

野遊びの腰に三つの味噌握り          原 豊     (1点)
私もお握りを持って吟行に行きますが味噌握りはおいしそうでいいですね。(貞郎)

春潮の流れも速き古戦場            嶋田夏江    (1点)

手を伸ばす妊婦万朶の八重桜          中村光男    (1点)

以上

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