<福永法弘同人会会長選 特選句>
開拓使の卓に鹿肉白鳥肉 髙橋紀美子 (1点)
臨場感たっぷりの句だ。鹿や白鳥をどかと机上に置いた音が聞こえる。北海道開拓史の役人には幕末維新を戦い抜いた薩摩の志士上がりが多い。薩摩隼人は人前ではめったに笑わないが、貴重な肉を前にしてちょっと片頬(かたふ)が緩んだ顔が見える。(法弘)
厳しい暮らしの開拓者の食卓に今日は鹿肉と白鳥の肉がのぼって何かいいことがあったのでしょう。(泰子)
四天王にひれ伏す邪鬼や乱れ萩 原道代 (1点)
島で平和に暮らしていた鬼は、ある日突然、桃太郎の侵略を受け、傷つけられ、財産を奪われた。邪鬼はみちのくの土着の民で、四天王は都から来た侵略軍だ。乱れ萩は必死の抵抗の証。(法弘)
「乱れ萩」の季語で古代の色んな事を想起します。広々とした奈良のお寺の一景ですね。(博子)
<福永法弘同人会会長選 入選句>
狗尾草に低き風吹く獺祭忌 杉美春 (4点)
子規も庭の狗尾草が風に吹かれるのを病床から見下ろしたことでしょう。(明)
鱗雲糸で仕切れる造成地 渡部有紀子 (4点)
鱗雲は見ようによっては糸で仕切られて居るように見えますね、それを造成地に見えるというのは面白い、季語「鱗雲」が効いています。(貞郎)
伸び縮む椋鳥の群やはらかに 土屋尚 (3点)
終活てふ書籍の嵩の露けしや 内藤芳生 (2点)
夕月夜ジャズ聴くために並ぶ椅子 荒木那智子 (1点)
コンサートの始まりを待つ胸の高鳴りが伝わってきます。(智子)
日帰りの旅も終りの秋夕焼 小髙久丹子
整列す延期重ねし運動会 土屋香誉子
穴に入る蜥蜴嘆きの壁抜けて 小橋柳絮
<互選句>
体重計踏絵のごとくそつと秋 満井久子 (13点)
「食欲の秋」が、心象も交え巧みに表現されています。「秋」到来を実感をもって納得。(仁)
踏み絵のごとくが下五を引き立てている。(豊)
馬肥ゆる秋、そして人も……ユーモア溢れる句だと思います(律子)
食欲の秋ですものね。女性ならすっごくよく分かる心情です!!(早・恵美子)
裏富士の夜のしんしんと黒葡萄 小野恭子 (7点)
夜に見る黒い富士の山シルエットと黒葡萄との取り合わせに荘厳さを覚えました。(温子)
裏富士の見える辺りの静けさが季語によってさらに闇の色の深めたと感じました。(博子)
焔立つ一揆の村の鶏頭花 松浦泰子 (7点)
「一揆の村」と「鶏頭花」の取り合わせが面白い季語が効いています。(貞郎)
一揆のあった村の鶏頭花が炎のように激しい赤である様子を端的に表現されていると思います。(相・恵美子)
鶏頭花の赤色が、目に浮かびます。(智子)
この虫はセロの音色や賢治の忌 荒木那智子 (6点)
虫の集きにチェロに似た音を聴きつけ、宮沢賢治の『セロ弾きのゴーシュ』を思い出したのだろう。これは賢治が死の直前まで推敲を重ねた作品、未完のまま、昭和8年9月21日永眠。享年37。(茂喜)
菓子箱にあしらふ草も京の秋 内村恭子 (5点)
季節感の溢れた京の和菓子を包む秋草の印刷された包装紙。京都らしい繊細な美の感覚がある。(勘六)
由緒正しい老舗のお菓子が目に浮かびます(早・恵美子)
月すでに天心にあり俳聖堂 浅井貞郎 (5点)
取り合せが素敵です。見事な景です。作者の美意識を感受。(仁)
巻き戻す時計の針や秋の虹 明隅礼子 (4点)
巻き戻しているのは淡い思い出でしょうか。季語によって想像が膨らみます。(博子)
薄紅葉夕日に照りし摩崖仏 原 道代 (3点)
薄紅葉の中に夕日に照り出された摩崖仏があるという。良い景色です。(芳彦)
長月や窓に釘打つ日の記憶 高橋雪子 (3点)
台風の前のあわただしい様子、何と無く興奮した子供の頃思い出しました。(小夜子)
ラジオからの台風情報に昔はよく窓に板を打ち付けたものですね。近頃の家には釘は打てません。(泰子)
捨案山子軽トラックに乗せられて 佐藤武代 (3点)
捨案山子であるが、乗せられての表現に大仕事を終えた感謝の念が込められている。(勘六))
様々の衣装や形で田圃を賑わせていた案山子が稲を刈った後、用がなくなりトラックで運ばれて行く。案山子の哀れさがよく表現されていると思います。(相・恵美子)
霧の宿真夜も聞こゆる瀬音かな 明隅礼子 (3点)
真夜も、という言葉で瀬音が一段と立ってきました(律子)
深秋の静けさを感じます。(明)
坂鳥やザビエルも越ゆ喜望峰 早川恵美子 (3点)
北方から渡ってきた小鳥がまた峰を越えて行く厳しさから大航海時代の男たちの危険に満ちた旅に思いを馳せているのでしょう。(泰子)
劇団員科白をぽつり言ひて秋 内村恭子 (3点)
舞台第一幕の緞帳があがり、最初の科白、例えば「どんぐりだ」。その一語から秋季公演の初日がはじまり、秋を背景にした物語が展開する。まるで連歌発句に似ていて、おもしろい。(茂喜)
雨後の道影の一歩を月が追ふ 原 豊 (3点)
雨後の道影の一歩に月が追いかけて来るという。ロマンチックですね。(芳彦)
あきつ湧く雨のあがりし前穂高 小野恭子 (3点)
雨が上がり穂高を背に蜻蛉の空が広がる。この大景のどこまでも日本の秋が広がっている。(勘六)
生前も死後も畦には曼殊沙華 鹿目勘六 (3点)
私は田んぼの畔に咲く真っ赤な花を思いました。”死に変わり、”生き変わりして”伝えてきた田んぼに、咲く曼殊沙華です。(志昴女)
何代も続く農家の稲田と畦に咲く曼珠沙華を思いました。(明)
子規も聞き虚子も聞きたる鉦叩 西脇はま子 (3点)
稲妻や角折れミノタウロス像 小橋柳絮 (2点)
稲妻と角折れたミノタウロス像が重なりが面白い。(ユリ子)
俤の青き権現茜掘る 佐藤博子 (2点)
何ごとも過ぎてゆきにし虫の声 上脇立哉 (2点)
毎日が一月があっという間実感です(みつ子)
新月やアラビア文字をなぞりたる 和田 仁 (2点)
わが影のひたひたと待つ居待ち月 齋藤みつ子 (2点)
ひたひたと言う動きと居待ち月の取合せが面白い。(豊)
残月やうだつに上がる屋根瓦 原 豊 (2点)
鵙猛る活断層の上らしく 和田 仁 (2点)
甕の闇鈴虫の音の細りゆく 染葉三枝子 (2点)
うそ寒や電話の主の鼻濁音 荒川勢津子 (2点)
「うそ寒」の様子が電話口の鼻濁音を通してよく伝わってきます。作者の電話の主への労り、思いやりも・・・(仁)
一般的に鼻濁音が上手に発音できることがいいアナウンサーと言われるとか。しかし作者はこの発音に油断できないものを感じたらしい。季語が効いてますね。(志昴女)
懐かしむ時は一人の虫時雨 加茂智子 (2点)
何方か、亡くなられた方を思い出しておられるのでしょうか。偲ぶときは言葉なく一人、がいいですね。(志昴女)
天高し蹄の音と歓声と 佐藤武代 (2点)
趣味で生き趣味を通すや菊の酒 あさだ麻実 (2点)
文机に革鞄置き柿二つ 渡部有紀子 (1点)
蓮池の風にまどろむ敬老日 染葉三枝子 (1点)
露けしや絵説写経の般若面 鈴木 楓 (1点)
山の端に夕陽炎へ立つ野分過 岡崎志昴女 (1点)
私は海釣りがすきで特に秋は水平線に沈んで行くデッカイ真っ赤な太陽をよく見た、「夕陽炎へ立つ」が良いですね。(貞郎)
野のデュエット曼珠沙華と韮の花 室 明 (1点)
秋場所や腕捻りで金星を あさだ麻実 (1点)
売りに出す家の裏庭さねかづら 中川手鞠 (1点)
サネカヅラノの美しい紅色の実が「売りに出される家」の哀感を引き立てている。(ユリ子)
しんがりは二時間遅れ虫時雨 中村光男 (1点)
ぶらぶらと丸山検番良夜かな 松浦泰子 (1点)
天水の銅桶に満ちて式部の実 阿部 旭 (1点)
川沿ひの地名アイヌ語鮭遡上 竹田正明 (1点)
本山は吾が身に遠き曼珠沙華 瀬尾柳匠 (1点)
御身体の具合でお参りが出来ないのかもしれません。でも気持ちは通じていますよ(早・恵美子)
松手入半年のちに壊す家 土屋香誉子 (1点)
風聴けば信州りんごの便りかな 武井悦子 (1点)
風を聴く――雲の流れ、山膚の陰、野のけむり、樹木の葉ずれ、草のゆらぎ、洗濯物のゆれ。そして電話音に「林檎、送ったよ」と旧友の声。耳をすませば、風の流れで秋が熟れゆく。(茂喜)
黄昏の迫る神苑鹿の声 満井久子 (1点)
フィヨルドの冬オーロラの碧の網 松山芳彦 (1点)
美しい光景ですね。(智子)
漆黒の山前景に秋落暉 安藤小夜子 (1点)
漆黒の山を前景にして、これを押し出すように秋落暉が見えるという。良く句と思う。(芳彦)
秋津島北より染まる秋の色 佐藤博子 (1点)
狛犬の胸に休めるいぼむしり 小髙久丹子 (1点)
パイプオルガン和音響くや秋澄めり 佐藤律子 (1点)
秋は空気が澄んいて教会でしょうかよく響きますね(みつ子)
黄昏の藍に追わるる秋夕焼 中川手鞠 (1点)
菊酒酌む陶淵明の独り酒 鈴木 楓 (1点)
距離保つことの大切曼珠沙華 室 明 (1点)
世間体ばかり気にする灸花 今井温子 (1点)
馬車道の瓦斯灯点り秋の風 森山ユリ子 (1点)
ガス灯はいつみても郷愁を感じます。秋雨にぬれたガス灯は最高です。(小夜子)
子が描く虫の音銀線迸る 關根文彦 (1点)
ゴーギャンの天より零れ黄鶺鴒 早川恵美子 (1点)
綺麗な黄鶺鴒が飛んでくる様子が見えて来て、鳴き声も聞こえて来る様です。(相・恵美子)
弾む声ふり返り見る秋夕焼 片山孝子 (1点)
嘶ける高麗の栗毛や葛の風 杉 美春 (1点)
輪郭をひときはに上弦の月 岩川富江 (1点)
改めて月をゆっくり観たくなりました(律子)
なつかしきヘクソカズラを嗅いでみる 嶋田夏江 (1点)
遠花火見るのが怖ひといふひとと 中村光男 (1点)
雲流る鳥海山や稲の波 武井悦子 (1点)
実りの秋。麓の村から祭笛も聞こえてきそうです。(小夜子)
以上
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