ネット句会報2013年5月

 

天為インターネット句会 2013年5月

<有馬主宰選特選句>

朧夜の闇解き放つ来迎図  竹田正明  (4点)

朧夜の闇を明るくしてくれる阿弥陀来迎図ということで宗教的な詩情あり。(芳彦)

 

木の鋤に打ちし飛鳥の春の土  滝澤たける  (2点)

春の土がたいへん巧みに表現されていると思います。(清文)

 

氷見の海望む棚田や風光る  杉山良  (2点)

 

春風や船絵馬にある青き空  池永寛  (2点)

 

苗売りの来てゐる朝の毘沙門天  根岸三恵子  (1点)

 

斐伊の野に大き足跡籾下す  宮本よしえ  (1点)

「籾下ろす」が効いている。丁寧な農作業が目に浮かぶ。(伊予人)

 

遷座祭近し神馬に月おぼろ  宮本よしえ  (1点)

 

縄文の紅の竪櫛 春深む  西脇はま子  (1点)

 

<有馬主宰選入選句>

笛の音に子は春風となつてゆく  明隅礼子  (6点)

 

鍵束に見知らぬ鍵や蝶の昼  明隅礼子  (6点)

なにやら妖しい感じがします。(香誉子)

蝶の昼がよりミステリアスな感じを醸してて面白い。(游)

鍵束を持つ職業なのか、それとも個人的なキーホルダーなのか。突然一つ鍵が増えたらミステリーです。 (西藍)

 

草笛を吹く還暦に大志あり  今井温子  (5点)

ガンバレ(朗人先生)

還暦ですか。若くていいですね。 私と一回り違います。 この一句、大いに共鳴するところがあります。私も12年前、 長年の夢であった 『あきつしま道』 (日本列島徒歩縦断吟行)を決行しました。 大志の実現を祈ります。 (高甫)

そうだ!!(美代子)

何歳になっても草笛を吹くのは夢があって良いことです。(和男)

 

北国の空はいびつに木の根明く  安田孝子  (4点)

空はいびつでも木の根は春が来るとまん丸に開くのでしょうか。(真弓)

北国の長い冬が明けるころの空は本当にいびつなんだろうと思わせるリアリティーがある。季語の斡旋も絶妙だ。(渭水)

 

黒牛の曳かれて行くや穀雨の日  武藤スエ子  (4点)

穀雨の日に黒牛、この発想は田園生活をよく表現されたと思います。水墨画の如しです。(董?)

 

熊穴を出て韃靼の風仰ぐ  橋本和男  (4点)

モンゴル平原の雄大な情景が目に浮かびます(豊)

 

草餅や江戸下町の鐘の音  齊藤昭信  (3点)

味覚と聴覚の取り合わせ。子規の句を想起する。(ユリ子)

 

縄文の朱塗り深鉢夏兆す  滝澤たける  (2点)

山内丸山出土の漆塗り土器であろうか。当時の鮮やかな朱色を鮮明に残している。夏兆すが効いている。(柳絮)

 

腰越の波の声きき白子干す  原豊  (2点)

 

春深し麒麟は長き影を持つ  松浦泰子  (2点)

 

石切場の荒き山肌放哉忌  杉山良  (1点)

 

舌出すや馬刀貝馬鹿貝北寄貝  朱月英

 

潤ませり春の雨降る汨羅かな  劉海燕

中七下五は佳し。上五は要再考。(朗人先生)

 

<互選句>

雁風呂や屋根に石積む風の村  芳賀赳夫  (14点)

雁風呂を焚くような過疎の村には屋根に石積がしてあった。詩情がある。(芳彦)

強風とてさえぎるもののない、だだっ広い浜辺の寒村を巧みに描写。雁風呂がそこに住む人々の人情を映し、ほっとさせます。 (高甫)

季語が効いてますね。(美代子)

雁風呂は季語でしか知らないが、後に続く描写で情景が呑み込める(佐和)

北国で昔みた漁村の風景(西藍)

自然とともに生きている人々が感じられました。(香誉子)

 

蒲公英や月の大河に絮飛ばす  早川恵美子  (9点)

蒲公英の綿毛と月の大河。あまりにも大きな対比の感性が好き。本当に何時かは月の大河に届きそうに思える(佐和)

 

柳絮飛ぶ長安はるか空海忌  荒尾保一  (8点)

「長安はるか」は常套。より適切な語を。(朗人先生)

西安の旅で柳の散る風景を見ました。唐で学んだ空海と結びつけた所に引かれました。(編人)

空海は唐長安青龍寺密教第七祖惠果和尚より遍照金剛の灌頂名を受ける。柳絮を見て往時におもいをはせる。(柳絮)

柳絮の飛ぶ光景はどこか古の異国めく。柳絮・長安・空海忌で役者がそろって出来た! という感じ。(大久子)

遣唐使の時代イメージ(西藍)

 

路地裏は昔のままや江戸風鈴  安藤小夜子  (5点)

「昔のままや」は常套。(朗人先生)

吹きガラスによる涼やかな音、良いものはいつまでもすたらないものです。(豊)

「路地裏」に目をやられた余裕が素晴らしい。(強)

 

天平の古道に濡れて落ち椿  宮本壮太郎  (5点)

落ち椿は古道にさらに詩的な雰囲気を与えると思います。(劉海燕)

 

かくも小さき龍太の机春の蝉  津久井紀代  (5点)

 

郭公に目覚むる阿蘇の靄ふかし  西野編人  (4点)

早起きは三文の徳、高原の朝靄のなかから聴こえて来る郭公の声、羨ましい情景です。(豊)

己と郭公その背景に大阿蘇景の大きな句です(貞郎)

朝靄の阿蘇の夏はいいですね。郭公や鶯の声が聞こえてくるような。(游)

 

花冷や指に残りし弦の跡  江原文  (4点)

弦の跡はいつも残るかもしれませんが、花冷が効いています。なるほどと思ってしまう句です。(真弓)

弦楽器を弾いた跡、花冷の指がちょっと痛い? そんな風情が伝わってきます。(游)

 

みづうみを舟の行き交ふ春祭り  永井潤子  (4点)

開放的な明るい感じが春祭の感じを出しています。(清文)

上五中七の淡々とした叙述で、春祭がより明るく感じられました。(香誉子)

 

ぶらんこを待つ子が数を数へたる  土屋香誉子  (4点)

子供が数を数えながら順番を待てるようになり、それに気付いた喜びが春の訪れと相まって良く伝わってきます。(正明)

まだ幼子と思っていた子がちゃんと待つことも、さらに数えることも出来ている!!! 親の嬉しい驚きが見えてくる。(大久子)

 

夕空はフラミンゴ色や春惜しむ  石之敦子  (3点)

夕空をフラミンゴ色としたところ面白い。(芳彦)

フラミンゴの色は幸せを運んでくるような春の色、夕空に淡い色が広がり、春を惜しむ気持ちが湧いてきます。(紀美子)

「フラミンゴ色」と詠まれた感性は素晴らしい。(強)

 

万緑の底に嵯峨野の沈みけり  山下閑生  (3点)

すごい想像力です。嵯峨野の美しさや夢幻さをよく描いていると思います。(劉海燕) 

 

売れもせず耕しもせず雲雀上ぐ  岸田晶  (3点)

親が死んでしまうと、如何にこうした休耕田が多いことか。お陰で雲雀にとっては格好の棲みかである。 現代の世相をシニカルに描いた一句。 (高甫)

売れもしないし、耕すこともない。どうにもならないやるせなさを吹き飛ばすかのように、雲雀が上がった。 少しは気が晴れたでしょうか。(真弓)

 

猫の席夫より上座山笑ふ  中坂和子  (3点)

おかしいけど本当のことでしょうね(みつ子)

我儘な猫のこと。山笑うが愉快。(紀代)

 

百千鳥いよよ伏目の伎芸天  内藤芳生  (3点)

百千鳥が来て賑やかな中、端正で福徳の天女が遠慮がちが佇む様がつつましやか。(ユリ子)

 

独り身の自由不自由更衣  安藤小夜子  (3点)

自由と不自由をレフレインしたところが面白い。(紀代)

やっぱり不自由ですね。(和男)

 

植木より新茶褒めたる庭師かな  須田真弓  (3点)

この感じがよくわかる。好みに任せて花木を増やしてしまい様式等ほど遠くなってしまう。庭師さんの困惑が見えるよう。(大久子)

仕事が終わってホット一息出された新茶がよほど嬉しかったのでしょう(貞郎)

 

思惑の貌をもたげて山椒魚  橋本和男  (3点)

いかにも思惑ありげな山椒魚、でも貌って、、、、よくわからない。(美代子)

 

四君子の水墨画展風光る  劉海燕  (3点)

四君子とは(竹・蘭・梅・菊)のこと水墨画の墨色・筆触・筆勢・運筆などの基本となる。筆勢の妙が見えてくる。(柳絮)

四君子って、梅蘭竹菊のことでしょうか。風光る日に、この四君子の水墨画展を見に行きました。その光景が目の前に浮かぶようです。(董?)

 

空知野にシベリアの風雁帰る  中田秀平  (3点)

少し暖かくなったシベリアの風に乗り雁帰る。大景に引かれました。(編人)

空知野に吹く風のどこかに春の兆しあり、それをシベリアの風と言うのでしょうか。(正明)

 

記憶より小さき山河 青嵐  熊谷かをるこ  (3点)

幼いころ過ごした故郷に久しぶりに帰ってみると、昔は山も河も威風堂々としていたと思っていたのに、自分が成長したためか過疎化のせいか、ずいぶん小さくなったようだ。(渭水)

 

一杯のブラツクコーヒー夏近し  齋藤みつ子  (3点)

いかにも夏を迎える健康的風情(白蜂)

 

桜しべ乗せてホームの送迎車  石川由紀子  (3点)

読めば読むほど心温まる句ですね(白蜂)

 

梨の花白きヌヴェール尼僧院  森山ユリ子  (2点)

ヌヴェールに行ってみたくなった。「白き」が気になる。(伊予人)

 

予定表のひと日を空けて春惜しむ  上川美絵  (2点)

春を惜しむ直接な行動を取るでしょうか。いいですね。(劉海燕)

 

風走る湖国につづく麦の秋  山下閑生  (2点)

 

連凧のほしいままなり天つ風  満井久子  (2点)

 

百千鳥砂に残せる置手紙  原豊  (2点)

砂浜に残していった鳥たちの足跡を置き手紙と見た所が夢があって素晴らしい(貞郎)

 

縄文より弥生へと竹皮を脱ぐ  西脇はま子  (2点)

 

縄文のあらき土面や土匂ふ  浅井貞郎  (2点)

縄文人の土面より土が匂ふ、歴史の重さに土の新鮮な匂ひがするのは面白いと思います。(董?)

 

鳥雲に使ひ回せし西語辞典  町野敦子  (2点)

 

青鷺の墓守となる五山かな  町野敦子  (2点)

鎌倉五山かと思いました。鶴岡八幡(五山ではないが)の源平池で靑鷺を幾度か見た記憶があります。(清文)

 

水底の貝の舌出す聖五月  江原文  (2点)

 

天守より殿様気分花の雲  石田游  (2点)

 

初つばめ聖橋よりバスに乗る  染葉三枝子  (2点)

橋の名前が活きています。(和弥)

 

見たくもあり見たくもなくて蝌蚪の紐  松村三冬  (2点)

 

桜散る地に着くまでの小さき旅  中坂和子  (2点)

 

行く春の港に遠く買ふ切符  大澤久子  (2点)

ロマンを感じる句ですね。(和男)

 

ヒマラヤの塩たつぷりと馬刀の穴  佐藤武代  (2点)

馬刀貝を掘るにはいくつかの方法があるが,貴重なヒマラヤの塩を穴にほりこんで馬刀貝を採った。しかもぜいたくにた っぷり使ったところがおもしろい。(渭水)

 

雉鳴いて大函嶺を淋しうす  内藤芳生  (1点)

 

老桜枝の限りの花に立つ  熊谷秀章  (1点)

 

鈴木其一の迦陵頻伽の絵馬涼し  斉藤輿志子  (1点)

句全体の勢いと美しさがいかにも琳派。(和弥)

 

落椿土を褥の余年かな  熊谷秀章  (1点)

落椿は美しいものですが、やがては朽ちていきます。この美しさを余年と言ったところに、椿への優しさが伝わってきます。(正明) 

 

葉書大ほどの戸開け恋の猫  枝松洋子  (1点)

 

冥きより銀積み出す春の海  池永寛  (1点)

 

浮雲や土手のすかんぽ食みし頃  染葉三枝子  (1点)

 

春雨や来世の約束忘れまじ  渡部有紀子  (1点)

 

母の日や亡母に見せたきこの一句  土田栄一  (1点)

読者に同感誘う思う素晴らしい作品です。たとえ入選などの句でなくとも日々詠んだ句を母に聞かせたい気持ち溢るる素直な感性の作者も立場を変えれば、きっとそのような状況に恵まれる方と思われます。(強)

 

賑やかし艶やかなりし花見人  佐藤博子  (1点)

 

二千人分の飯釜寺若葉  安光せつ  (1点)

二千人分と大きくでたところが面白い(紀代)

 

風光る四郎の十字架同仁賦  三宮隆宏  (1点)

 

地下鉄の地上へ上り花を浴ぶ  荒木那智子  (1点)

上昇と下降の邂逅(繪里子)

 

祖父の世の種木の葡萄芽吹きけり  大澤久子  (1点)

力強い自然の営みに驚嘆(白蜂)

 

新樹光巣箱の形の鳩時計  内藤繁  (1点)

緑豊かな光の中で時を刻む鳩時計。巣箱という言葉で、森のイメージにまで広がります。(ユリ子)

 

遷宮を祝ぎて舞ひたる夏神楽  上川美絵  (1点)

出雲大社では60年に一度の遷座祭でにぎわっているが、夏神楽で、奉祝の感じがたかまっている句。   (よしえ)

 

新樹の夜来世を信じてみたくなり  永井玲子  (1点)

夜の静謐の中で、そう思われた雰囲気が伝わってきました。(博子)

 

若き日の母チューリップに似ていたり  植田彩芳子  (1点)

 

支えられ薄墨櫻花は葉に  岸田晶  (1点)

 

桜蘂命投げ出し懺悔かな  齋藤みつ子  (1点)

 

佐保姫と仏陀を拝す蔵王堂  蛭川晶代  (1点)

青の蔵王権現を祀る蔵王堂と何千本もの山桜、美しく壮大な吉野の春の景色が広がります。(紀美子)

 

黒釉にぽつと点れる花菜漬  朱月英  (1点)

厚く黒い重量感のある器にぽっと点るほどの花菜漬。黒と黄のコントラストが鮮やかに目に浮かぶ。(佐和)

 

行く春の遙かを照らす岬の灯  津久井紀代  (1点)

出雲の美保の関の岬で見た風景を思い出しました。(編人)

 

固まりを離れし蝌蚪の二三匹  佐藤博子  (1点)

 

見ず知らず集めてバスは花の山  上脇立哉  (1点)

 

花は葉に歴史と云ふはオツペケペー  三宮隆宏  (1点)

下五の大胆さに一本!(和弥)

 

歌垣の山の白無垢春の雪  小橋柳絮  (1点)

 

燕来る美術館にモネの庭  吉野巨楓  (1点)

 

闇迫る山の辺の道濃山吹  松村三冬  (1点)

山辺の道をゆっくり歩きたい。「闇迫る」が気になる。(伊予人)

 

ゐもり親し聞得大君聖地かな  武藤スエ子  (1点)

 

みほとけの耳の飾りや華鬘草  米田清文  (1点)

 

春の雲いつか寝てゐるマッサージ  土屋尚  (1点)

 

トンネルの狭間の駅や遅桜  安西佐和  (1点)

 

たんぽぽや子等の選びし分かれ道  岡崎美代子  (1点)

 

スカラベの確かな一歩春銀河  永伊予人  (1点)

 

うららけし額のめがね探しゐて  石川渭水  (1点)

以上

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