ネット句会報2013年8月

 

天為インターネット句会2013年8月分選句結果 (作者名の後ろの点は互選点)
 ※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。また互選句は高点句から順に、同点句は句稿番号順に並べました。

<有馬主宰選特選句>
唐詩聞く杜甫草堂の雨蛙  劉海燕  (11点)

雨蛙の顔が自然と共鳴する詩聖の化身に見えてくる。(柳絮)

雨蛙が面白い。(せつ)

雨蛙がどんな姿で杜甫の詩を聴いているのか想像すると面白い。(豊)

 

ふるさとはものの影濃し水を打つ  明隅礼子  (8点)

日差しの強い日続く地域のふるさとなのだろう。また、ものの影が濃いというところに、ふるさとに対する想いも感じられる。(有紀子)

田舎は緑陰が多く。寛いで水打っている帰省人   (佐和)

中七に巧みに表現された心情と水を打つという行為の取り合わせが絶妙。(閑生)

 

夏満月奄美の珊瑚放卵す  西野編人  (5点)

近年ダメージが大きい奄美の珊瑚の回復を祈りたい。(閑生)

 

対岸は耶蘇の里なり草の花  熊谷佳久子  (3点)

ひっそりとして存在していることの美しさに憧憬します(秀平)

 

七夕竹雁木の街に低くあり  山下閑生  (2点)

低くありと写生が効いています。(せつ)

 

夏富士の紺深まれる水車かな  内藤芳生  (1点)

 

朝涼し潮の香届く深き路地  宮本壮太郎

 

蝶の羽背負ふ小蟻の道遠し  阿部旭

 

梅雨晴や三連水車よどみなく  嶋田夏江

 

風知草夫と坐れば猫も来て  あさだ麻実

<有馬主宰選入選句>
ヘラクレス大暑の空へ弓を射る  吉野巨楓  (9点)

大暑とヘラクレスの取り合わせが面白くて頂きました(温子)

猛暑に負けない英雄の力強さが良く表現されていると思います。(ユリ子)

 

五箇山や縄目もしるき新豆腐  山下閑生  (9点)

世界遺産合掌造り集落のこと。縄目が風土性を象徴している。(柳絮)

東京子は柔らかく滑かな絹ごし豆腐を好む人が多いが、概して田舎のお豆腐は硬くて厚ぼったい。田舎育ちの亡夫から「縄で縛ってもらって豆腐を買って帰った」という話を聞いて驚いたものです。ユネスコの世界文化遺産に登録され ている合掌造りの里 白川郷・五箇山の新豆腐もまた硬くて厚ぼったく歯ごたえ食べごたえがあり、大豆の香が強かったことでしょう。厨房に届くまで、やはり縄で縛って運ばれたのでしょうか(かをるこ)   

日本の原風景といわれる五箇山の田舎豆腐は、荒縄で縛っても落ちないほど硬い。その豆腐に縄目がはっきりとついている、いかにも新豆腐らしい。(渭水)

 

茅舎忌や書棚の隅の赤き医書  宮本よしえ  (5点)

茅舎と医書が響いているのは、茅舎が重い病気を患っていたからでしょうか。(清文)

 

ブロンズの地獄門より蝉の声  竹田正明  (3点)

 

差潮の砂にしみ入る晩夏かな  杉山良  (3点)

晩夏の頃の上げ潮が砂に消えゆく様子に涼しさが強く感じられます。(正明)

 

夏の潮間合い正しく漁船  土屋尚  (2点)

私事:時折、船を操舵する者として、微妙な「間合い」こそ極めて肝要。趣味も生業も人間関係も万事。(仁)

 

黒塗の輪島の盆や葛ざくら  齊藤昭信  (2点)

輪島塗と和菓子が涼しげです。(清文)

輪島塗を称するには、木の素材、製法など細かい制約があると聞く、その輪島塗の盆の漆黒と葛ざくらのうすく透けた餡の色合がいい。  (渭水)

 

鞘堂に棲み古したるやぶ蚊かな  芳賀赳夫  (2点)

 

しやぼん玉黒船の来し港かな  西脇はま子  (1点)

 

夏木立少しときめく糸電話  石之敦子  (1点)

 

顔黒き羊の群や霧の牧  土屋尚  (1点)

 

湯の町や月山和紙の絵燈籠  荒木那智子  (1点)

 

不忍池の浮葉に独り蟹戯る  滝澤たける

「戯る」ではなく、「遊ぶ」でどうか。(朗人先生)

 

大いなる鋼の農具にうの花  中田秀平

 

涼風や枡目の街のバルセロナ  佐藤博子

<互選句>
吊るされて日々好日や唐辛子  早川恵美子  (8点)

日当たりのいい壁に、真っ赤になった唐辛子は“日々好日”!(美代子)

 

シナ海へメコンの濁り大南風  江原文  (5点)

大景を詠んですがすがしい。措辞が的確。(紀代)

雄大な光景、メコンは確かに濁っている、マルグリット・デュラスの小説を思い出しました(美春)

メコンの濁り、という表現で海の景が大きくなった。(ユリ子)

 

ひとと居て人に疲れる熱帯夜  熊谷かをるこ  (5点)

ひととの楽しい会話も時には熱くなりますね(みつ子)

この景、納得。老いてますますその感強し。(紀代)

 

嘘一つ二つと重ね髪洗ふ  杉美春  (5点)

嘘は消えないけど、せめて心のわだかまりだけでも洗い流したいという気持ち、まさにそうですね。(秀章)

 

琵琶塚の弦を爪弾く蓮の風  滝澤たける  (5点)

不忍池の蓮風が弁天堂の琵琶塚の弦を爪弾く。江戸が匂って来ました。(編人)

 

母衣蚊屋の赤児の匂ひ畳みけり  枝松洋子  (5点)

赤子の匂いが感じられる(美春)

すくすくと育つ赤ちゃんとそれを見守る母親の幸せそうな様子が目に浮かびます。(秀章)

 

ひまはりの万の合唱とどろけり  妹尾茂喜  (4点)

一面のひまわり畑、燦燦とふりそそぐ太陽、力が漲っています。(小夜子)

場所はトルコのひまはり畑が一面に広がる光景か。それが合唱しているかの如く感じましたという。同感です。(芳彦)

 

稲妻や海をはさみしアイヌ墓  安田孝子  (4点)

中七の措辞により、大和民族に同化され消え行くマイノリティーの悲哀が切々と伝わって来る。(仁)

先日の新聞報道でしりました。~アイヌ遺骨研究の犠牲~遺骨の管理不備との事、子孫の方々の悲しみと、怒り、大和朝廷への不信感、アテルイ痛恨の想い!(文)

アイヌの歴史と稲妻が合っているような(美春)

季語が効いていると思いました。(香誉子)

 

黒ビールひそと語れば謀反めく  内藤繁  (4点)

黒ビールとくればそんな感じがする。(佐和)

起こりそうな妖しげな雰囲気、黒ビールがよく合っています。(秀章)

 

風道や石工は石に三尺寝  安光せつ  (4点)

観察力と表現に脱帽します。  (美代子)

 

火口湖へ一本の径露涼し  武藤スエ子  (3点)

 

蚊遣焚くぽつり介護の話など  佐藤武代  (3点)

一日の疲れが癒され、日ごろ人にあまり話すこともない介護の話など、愚痴としてではなく、しみじみと語れる、そんな蚊遣りの火や香りが、伝わってきます。(敦子)

 

海の日や父の遺品の和西辞書  永井潤子  (3点)

海の日と和西辞書が響いています。(清文)

海外に憧れ語学を学んでおられた父上でしょうか。海の日という季語と合っていると思いました。(ユリ子)

 

脅したり騙したりして夏芝居  米田清文  (3点)

脅しや騙し合いの場面がある演目がいかにも夏芝居らしい。(有紀子)

子役への大人の思いが上手く伝わってきます。子役の困惑した顔が浮かびます。思わず笑みがこぼれます。(文)

 

薫風や唐玄宗の馬球場  董?  (3点)

 

手のひらを零れ銀河のひと欠片  小橋柳絮  (3点)

 

退院の虹の輪を行く松葉杖  早川恵美子  (3点)

退院のうれしさがよくわかります。(香誉子)

 

文晁の波も逆巻く夏の果  大下亜由  (3点)

石山寺縁起の荒波を泳ぐ白馬と少女の場面が思い浮かぶ。(柳絮)

 

藍浴衣 写楽の寄り目真似てみる  熊谷かをるこ  (3点)

おしゃれな感覚に魅せられました。(編人)

ユーモアあふれる浴衣姿の、、、、おっさん?カッコいい方であれ! (美代子)

我ながら良い男振り? (せつ)

 

恋文を仕舞ふ小箱や青りんご  中坂和子  (3点)

机の上に小箱が大切そうに置かれていて、何が入っているのか大変気に掛かります。(正明)

そんな日も有りました(温子)

 

ガラス戸に忍者の如き守宮かな  阿部旭  (2点)

ガラスに真っ黒くぺったりと吸い付いた守宮、紛れもなく忍者。(紀代)

 

ザビエル城バスクの夏の雲流れ  森山ユリ子  (2点)

スペインのバスク地方に行かれたのですね。良かったですね。(芳彦)

 

ときめきの風鈴の音の透きとおる  岸田晶  (2点)

 

炎昼や仁王我慢の力瘤  原豊  (2点)

 

河骨や上野に戦後の歴史あり  津久井紀代  (2点)

 

茄子の花疲れたる身にそつと触れ  和気千穂子  (2点)

千に一つの無駄も無い茄子の花パワーをもらいましょう(麻実)

 

銀の匙添へてメロンの運ばるる  杉山良  (2点)

お洒落なガラスの器に銀のスプーンを添えてメロンの香りがただよってきます。(小夜子)

 

山みずの樋を滴る峠茶屋  土田栄一  (2点)

山の情景を良く掴んで涼しさを感じさせる句である。(豊)

 

出荷され牛舎は空に夏の蝶  佐藤武代  (2点)

手塩にかけて大事に育てた牛、その甲斐があって良い値が付いたのでしょう。安堵感と寂しさが感じられます。(小夜子)

 

星合に珊瑚の産卵海赤く  髙橋紀美子  (2点)

4つの言葉どれをとっても詩になる美しい景色 (佐和)

 

病葉や歳相応の診断書  竹田正明  (2点)

 

本殿の太き勝男木夏盛ん  宮本壮太郎  (2点)

屋根の勝男木のピンと張った太い列を見て夏の力強さを感じます。(豊)

 

夕立や瀬田の唐橋太鼓橋  石川由紀子  (2点)

広重筆の「近江八景」にも描かれた瀬田の唐橋…日本三名橋・日本三古橋の一つである。 その瀬田の唐橋か゜今、夕立で濡れている、通行中のひとも濡れている。リズミカルで明るい詠みぶりに惹かれました(かをるこ)

 

緑蔭は翅休めたる心地かな  嶋田夏江  (2点)

「翅休めたる心地」と詠まれたことで、夏の緑陰の涼しさ、爽やかさが、一層強く感じられました。(敦子)

 

珈琲のミルクの渦や天の川  西脇はま子  (2点)

日常に詩心あり。叙情精神が生活に根付いており清新。(仁)

ミルキィウエィの名前がふっと頭に浮かびました。(博子)

 

アイス・カフェなぜか無言になりにけり  植田彩芳子  (1点)

 

シャボン玉両手ひろげて来る子かな  津久井紀代  (1点)

 

?羽だけを遺すわれは遺さず  澤田和弥  (1点)

潰したのは誰で、われは蝉の羽だけは潰さないのか。(西藍)

 

夏の灯の本に支倉使節団  澤田和弥  (1点)

2013年は遣欧使節から400年記念に当たり(我が家の先祖が分家した時代です。)交流促進のために俳句を募集されていますね。夏の灯に支倉使節団の本とは、時期を得て共感を覚えるよい句だと思いました。(よしえ)

 

安産石どかんと据わる青葉かな  永井潤子  (1点)

 

塩飴を舐め日盛の街中へ  中坂和子  (1点)

本当に暑い。「よしっ!」の掛け声の代わりに塩飴を口中にポンと含ませるのを機に戸外へ。真夏に外出する時の気持ちがよく出ています。(敦子)

 

夏の星大草原に枕せり  妹尾茂喜  (1点)

 

夏負けと退屈そうに医者が言ふ  安西佐和  (1点)

中七の諧謔が愉快です。こちらはつらいと言うのに(笑)(和弥)

 

嫁ぐ日へ黄繭の絨毯織りにけり  町野敦子  (1点)

まさかあなたが黄繭の絨毯を織ったのではありませんね。何処かトルコ辺りで嫁ぐ日へ黄繭の絨毯を織っている所見られたのですね。何とも仄々としたところ見付けられた。(芳彦)

 

海引いてさみしき広さ原爆忌  石川渭水  (1点)

引き潮のあとの殺風景な風景が廃墟と重なります。(西藍)

 

海霧や霧笛届かぬところまで  安澤西藍  (1点)

 

帰省子の元気を少し分けもらふ  齋藤みつ子  (1点)

たくましくなって帰って来た子を、安堵とともに感心している気持が感じられました。(香誉子)

 

空つぽの繭をほどきて指真白  渡部有紀子  (1点)

白い繭玉の中の空虚を指が触れた感じ。(西藍)

 

行々子SOSを打つてゐる  中田秀平  (1点)

 

思ひ出は所詮思ひ出石鹸玉  芳賀赳夫  (1点)

所詮で納得してしまいました。そして石鹸玉で決まりですね(麻実)

 

舎利殿に僧の提唱沙羅の花  斉藤輿志子  (1点)

 

獣らの行軍に似て青田波  三雲繪里子  (1点)

 

水中花身じろぎもせず夜に浸る  關根文彦  (1点)

 

水馬の彼岸へ浮かぶ青龍寺  董?  (1点)

 

星祭宇宙船から見る地球  中村光男  (1点)

 

生身魂受く折鶴の三次元  枝松洋子  (1点)

 

束ね髪似合ふ女の素足かな  鈴木楓  (1点)

 

足跡はレゾンデートルなめくじり  小高久丹子  (1点)

 

大暑満月牙を磨きて紅引いて  小高久丹子  (1点)

凄い迫力ですね。たった17音で、この迫力。圧倒されました。(和弥)

 

昼さがり晩夏の蝶の無言館  森山ユリ子  (1点)

長野の上田市の丘の上にある無言館~戦没画学生の絵が展示されています。8月のみならず一度は訪れてみたいところです。なんともきな臭い昨今は、尚のこと!晩夏の蝶が効いています。(文)

 

長茄子五種類の切り方学び  劉海燕  (1点)

脱力系のような、不思議な魅力のある句です。(和弥)

 

釣堀の糸の沈まぬ極暑かな  米田清文  (1点)

 

念入りに貌洗ふ猫夏の夕  吉野巨楓  (1点)

ミステリアスな色気を感じさす句ですね。特に中七の貌洗う猫のカオが顔でなく貌としたところが成功。(麻実)

 

白鷺の降りず安土の青田飛ぶ  上脇立哉  (1点)

安土の広々とした青田の上を悠然と白鷺がいつまでも飛んでいる、白と青の対比と調べのいい句である。(渭水)

 

白桃の夜は青き血を巡らする  小橋柳絮  (1点)

 

氷山のかすかな軋みかも白夜  柴崎万里子  (1点)

白い静寂に包まれた北欧の夜の微かな音さえ句材にされた佳句。(閑生)

 

黙しては茄子の紫朝の雨  安澤西藍  (1点)

 

夕星や平城京のこぼれ萩  齊藤昭信  (1点)

京都の夕方の史跡の静かさが伝わって来ました。(編人)

 

揚花火希望と涙と諦めと  中村光男  (1点)

花火を見上げていると色々の思いがこみ上げてきます(みつ子)

 

流灯に呟く合掌土偶かな  宮本よしえ  (1点)

以上

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