ネット句会報2013年11月

 

天為インターネット句会2013年11月分選句結果 (作者名の後ろの点は互選点)
 ※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。また互選句は高点句から順に、同点句は句稿番号順に並べました。

<有馬主宰選特選句>
オアシスに色なき風や西夏文字  齊藤昭信  (5点)

面白い字を書かれた書を、中国旅行のお土産にいただいた。それが西夏文字であった(温子)

西夏の文化は砂に消えましたが、いまだにオアシスに残っている西夏文字はその時代の繁栄を語っているようです。まるでオアシスのように、頑丈に生気を世の人に見せています。(劉海燕)

 

天草の帰るつばめに祈る鐘  西野編人

<有馬主宰選入選句>
十三夜琉球家譜の菓子百種  西脇はま子  (4点)

 

霧冷えの長江の夜の汽笛かな  董?  (4点)

「霧冷ゆる長江の夜の汽笛かな」「冷え」を「冷ゆる」という連体形に(朗人先生)

霧冷えの中を長い汽笛がいつまでも続くようです。一枚の絵を見ているようです。(真弓)

 

杜甫廟の高き甍や銀杏散る  董?  (3点)

 

しぐるるや小督の塚も嵐山も  内藤芳生  (2点)

宝生能高倉天皇と小督の想いを偲ばせる「想府蓮」の琴の音。「廻鶻」への望郷の念も交えて寂びた琴の音のように時雨の足音が走り過ぎる。(柳絮)

嵯峨野の風景が物淋しく、小督の塚で増幅されていると思います  (赳夫)

 

豪農の男鬼門や実南天  上川美絵  (1点)

豪農の男鬼門に実南天が植えてあるのでしょうか。それとも切れ字で切れて取り合わせでしょうか。実南天の赤さが活きていると思います。(和弥)

 

人麻呂の海ひろらかに鳥渡る  宮本よしえ  (1点)

 

秋暑し背に藁積む象の鼻  染葉三枝子  (1点)

 

<互選句>
月渡る甕に息づく藍の華  早川恵美子  (9点)

月が渡ってゆく、甕の中の藍が色を深めて華が咲いている、詩情あり。(芳彦)

 

地方紙の包む自然薯内祝  永井玲子  (8点)

ほのぼのと嬉しい気持ちがこちらまで伝わります。俳句が共感の詩であることがよく判ります。(美代子)

内祝のほのぼのした関係が目に浮かびました。(博子)

 

行く秋の火を赫赫と村の鍛冶  鈴木楓  (7点)

一心に注ぐまなざしに「行く秋」が効果的です。(真弓)

手で仕事することと機械で仕事すること。差があると思う。行く秋の村のどこかで鍛冶をする師匠がいたんだね。行く秋はやや寂しいが、火を赫赫と、心に仕事への熱心さ、鍛冶に集中する姿が浮かぶ。文明が発達しつつあるなか、村の鍛冶はとてもえらいと思っている。素朴な力がいっぱいある句だと思う。(董?)

文字(赫赫)で鍛冶の場の鉄を打つ音、温度、職人さんの声などを想像出来、まさに文字と言葉で絵を描くことが出来ると感じさせられた句でした。(敦子)

 

いつしかに南画に入りし紅葉舟  内藤芳生  (5点)

 

雲海に沈む山影富士薊  竹田正明  (5点)

薊が、影のグラデーションをむらさきに染めました。(繪里子)

 

鯨尺もちて思案の夜長かな  佐藤博子  (5点)

夜長の思案。さり気なく佳い雰囲気を表出。鯨尺が効いています。(仁)

 

湖面より低き刈田や余呉の風  今井温子  (5点)

 

拾ふたび母へ渡してゆく木の実  明隅礼子  (5点)

何とも可愛らしい。子どもは大切なものをお母さんに「しまっておいて」と預けるが、拾っているうちに取り留めもなくなっている様子がよくわかる。(大久子)

 

亡き父の時計勤労感謝の日  須田真弓  (5点)

24時間時計によって動いている日常。遺された時計と勤労感謝の日の取り合わせによって父への想いが描けた。(紀代)

この句は季語が勤労感謝の日で、日本の祝日の一つでもある。時計というものは時を計ったり時刻を教えてくれたりする道具である。世界中にも時計は男の身分や地位などを象徴すると思われるが、亡き父の時計は家伝の宝物になるのだろう。それとも家のどこかに置かれるのか。勤労感謝の日に、亡き父の時計を眼にして、チクタクチクタクとまだ動いている時計であろう、それとも動けない時計であろう。どっちにしても父の一生の勤労を思い出したのだろうか。やや寂しい句であるが、季語の勤労感謝の日が響いて、父への感謝の暖かい気持ちが伝えてきた、日常的な光景が好きである。(董?)

さぞや働き者のお父様だったのでしょう (麻実)

 

蟋蟀の宇宙は狭き甕にあり  原豊  (5点)

蟋蟀の世ではなく、宇宙である。宇宙は無限かつ広大である。その宇宙はただ狭き甕にありとは、妙な組み合わせだと思う。無限広大な空間と狭き甕の空間は一体になる。この間、ニッチ論という理論を読んだ。まさに、その甕は蟋蟀の宇宙であり、ニッチでもあるのだろう。甕からみれば、人間の飼う、闘蟀であろう。昔、北京で闘蟀が盛んだったが、高価の飼い甕もあれば、普通の甕もあった。今も骨董屋などで昔の甕がよく見られ、珍しい蟋蟀が甕で宝のように飼われた。その狭き甕に生まれ、生きて、闘い合い、死ぬ。狭き甕は宇宙そのものとなる。下五を「瓦礫かな」に添削してみると、自然の中の蟋蟀が思われるのだろうか。蟋蟀も我々もニッチを探しながら、一生を送るのであろう。(董?)

 

みくまりの一筋もまた鮭の道  大澤久子  (4点)

渓流の奥まで鮭が上って来た風景を細かく表現されています。(編人)

山よりの分水流、川を遡り上流の砂の底に産卵する鮭一筋もまた鮭の道、の中七、が良い。(文)

 

蛇穴にクレオパトラに逢いて後  小高久丹子  (4点)

 

大役を済ませば釣瓶落としかな  安藤小夜子  (4点)

下句「釣瓶落とし」の据わりが良く安堵の感がよく伝わって参ります。(仁)

 

絵硝子の最後の審判秋寒し  森山ユリ子  (3点)

実際に見たことはありませんが、「秋寒し」が効いていると思います。(真弓)

最後の審判を描いた絵硝子には確かに秋の寒さを感じます。(芳彦)

 

蛇穴にアダムとイヴをすり抜けて  永井潤子  (3点)

蛇に唆されたイヴ、イヴに唆されたアダム、神の罰を受けてすごすご穴へと引き籠もる蛇の思案顔。(柳絮)

神の命に背いて人類最少の罪を犯したアダム、、その禁断の実を食べろと唆した蛇、その蛇がアダム、とイヴをすり抜けて穴に入る。面白い!(文)

 

佐比売野の牧のなだりに濃竜胆  宮本壮太郎  (3点)

 

七味購ふ釣瓶落としの善光寺  荒川勢津子  (3点)

 

祝ぎごとの大門開ける菊日和  安光せつ  (3点)

開いた大門の内側から菊の香りと華やぎが広がっていく、いかにもおめでたい感じが出ている。(大久子)

 

星月夜敦煌に来て夜光杯  齊藤昭信  (3点)

中国の秋の旅。疲れが癒されます。(編人)

 

釣り糸のもつれをほぐす秋日和  嶋田夏江  (3点)

 

木の実降る校庭に立つトルストイ  大下亜由  (3点)

校庭に立つトルストイと、木の実のギヤップが良い。この偉大な思想家に木の実が降る~(文)

 

野ざらしの句碑白々と萩の風  武藤スエ子  (3点)

 

鵙の贄白く光りて忘らるる  松山芳彦  (3点)

 

お戯れをと艶然の秋扇  熊谷秀章  (2点)

 

ひと枝に日のあたりゐる木守柿  三雲繪里子  (2点)

 

ひょんの笛吹けば空しき風の音  根岸三恵子  (2点)

ひょんの実からどんな音がでるかは忘れてしまいましたが、この句は童心に満ちています。(正明)

空洞になった木の瘤を吹けば、むなしい風の音がすると、上手いなと思います。 (赳夫)

 

マリンバの弾けるリズム木の実落つ  石川由紀子  (2点)

 

砧打つ音にはあらね棺を閉づ  伊藤高甫  (2点)

お身内、夫を亡くされたのでしょうか。夫恋の砧にはあらで棺の釘を打つ、身に染みる感慨があります。(美代子)

 

黒々と轍の続く苅田かな  阿部旭  (2点)

 

秋日濃し針一つなき日時計  内藤繁  (2点)

なるほど、日時計に針がありませんね。 (赳夫)

 

秋深む蘇州運河悠々と  劉海燕  (2点)

名勝地蘇州の運河の悠々とした景が、抒情的である。(ユリ子)

 

宍道湖に白鳥来しとセツの声  宮本よしえ  (2点)

 

錫丈を先立て甘藷まつりかな  津久井紀代  (2点)

錫杖を先立てて行く甘藷のお祭りとは何とも滑稽。ぜひとも拝見してみたい。(大久子)

 

小春日の醪弾けし醤油蔵  鈴木楓  (2点)

 

泉水の光あつめて照紅葉  江原文  (2点)

 

単線は刈田の中を海へ行く  石川由紀子  (2点)

ぽつんと単線車が行く。広々とした刈田のその先は海。まさに秋の景。(ユリ子)

 

風鐸に一握の風古都の秋  今井温子  (2点)

 

独り言多くなりけりそぞろ寒  佐藤武代  (2点)

 

尿前の関に栗の実拾ひけり  荒木那智子  (2点)

 

反りて立つ薬師如来や天高し  渡部有紀子  (2点)

 

秋思ふと不動通りに比翼塚  根岸三恵子  (1点)

 

ひとの眼を避けるに使ひ秋日傘  熊谷かをるこ  (1点)

 

マリアナの海のうねりや芒原  小橋柳絮  (1点)

 

もてなしの美女の案山子や窯の里  西野編人  (1点)

 

りんご食ふ目もと優しきカンガルー  染葉三枝子  (1点)

 

飴色に小芋煮染めし真砂女かな  斉藤輿志子  (1点)

 

烏瓜灯る旧家の鬼門かな  吉野巨楓  (1点)

赤い烏瓜が、人気のない鬼門を照らす。旧家であるから、鬼門と言えども立派なのであろう。(ユリ子)

 

液晶に踊る音符や銀河濃し  大下亜由  (1点)

雑景を省略。純度の高いメルヘン。(仁)

 

柿の実の陶の器に菊膾  滝澤たける  (1点)

 

雁渡る鯛伝説の語りごと  斉藤輿志子  (1点)

 

貴婦人の総帆展帆天高し  松浦泰子  (1点)

海王丸 4檣バーク型帆船 全長97㍍ 全幅13㍍ マスト高46㍍ 快晴のもとその優美な姿はまさに海の貴婦人である。(柳絮)

 

古酒新酒仕事を了へし父と子に  吉野巨楓  (1点)

仕事のあと、父と子で対酌するイメージをくれ、なんだか日本の名歌「北国の春」という歌を思い出しました。とても暖かい感じでした。(劉海燕)

 

秋晴れや司馬道に降る日の光  劉海燕  (1点)

 

紅葉谷ふいに汽笛のひびきけり  荒木那智子  (1点)

 

高野山薄紅葉して奥の院  森山ユリ子  (1点)

奥の院という言葉は私にとって、結構日本風に感じられます。しかも、「薄紅葉して」はすばらしいと思います。だんだん赤くなる紅葉は山の中の日本的な建物とあいまって、これからの風景は楽しみだという実感を与えてくださいました。(劉海燕)

 

散るもみぢ昨日の憂さを忘れけり  齋藤みつ子  (1点)

 

秋燕の朱雀門より旅立ちぬ  永井潤子  (1点)

 

身に沁みて父の遺愛のモンブラン  津久井紀代  (1点)

父の愛した遺品のモンブランが未だに残されている。父の事が想い出されて身に沁みる想いを感じます。(芳彦)

 

青空に弾ける子等の声と栗  山本光華  (1点)

 

秋木の実二歳半の児よくしゃべる  岡崎美代子  (1点)

 

染まりつつ紅葉明かりにひらく文  大澤久子  (1点)

 

竹の春子規の墓標の緑なる  浅井貞郎  (1点) 

 

朝寒や橋のま中に八咫烏  三雲繪里子  (1点)

 

朝霧に四方を包まれ創世記  和田仁  (1点)

 

秋蝶の迷ひ込みたる閨の闇  石之敦子  (1点)

秋蝶のかそけき美しさが表現されています。(和弥)

 

天地に著き聖痕稲光  和田仁  (1点)

 

渡る蝶しばし休めよふじばかま  嶋田夏江  (1点)

浅黄斑が高原のふじばかまに集まっている景が優しく表現されています。平地のふじばかまにも秋蝶は良く集まって来ます。(正明)

 

冬晴れや湾を行交ふ船の礼(国旗の揚げ降しの敬礼)  原豊  (1点)

 

南禅寺微かに聞こゆ秋しぐれ  菅野強  (1点)

秋しぐれは音もなく降ってきますが、心を整えればその音さえ聞こえてくるのでしょうか。(正明)

 

猫抱いて日向ぼつこの仲間入り  齋藤みつ子  (1点)

 

風を得て赤のきらめく鳥威  あさだ麻実  (1点)

 

白萩や藤村書斎を抜くる風  満井久子  (1点)

 

末枯や湖に続けるけもの道  熊谷佳久子  (1点)

草が枯れて来るとけもの道もよく見えてきます。湖の幸が好物。(編人)

 

蜜梨は手児奈が井戸のかをりして  渡部有紀子  (1点)

 

木犀や時候のことば書きはじむ  明隅礼子  (1点)

 

夜食には蒟蒻が良きお年頃  早川恵美子  (1点)

下五が好きです。(和弥)

 

友病んで色無き日々の夜長かな  山本光華  (1点)

 

余生みな夫に残して花木槿  芳賀赳夫  (1点)

お友達が旅立たれたのでしょうか、残された方は長生きしてください。(美代子)

 

路地裏の子等を呼ぶ声暮早し  松浦泰子  (1点)

 

櫻紅葉 特急通過の最寄駅  熊谷かをるこ  (1点)

以上

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