天為インターネット句会2015年7月分選句結果(作者名の後ろの点は互選点)
※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。また互選句は高点句から順に、同点句は句稿番号順に並べました。
※一部インターネットで表示できる文字に置き換えております。ご了承ください。
<日原傳編集顧問選特選句>
夏ゆふべ影絵のやうに子が来たる 明隅礼子 (8点)
夏の日の夕暮れ。西に傾いた太陽の光を受けて、近づいてくる子どものシルエットが浮かびあがる。夏の夕日の強さを感じさせる作。あるいは「影絵のやうに」という措辞はもっと心理的な感覚を表現しているのかもしれない。幻想的な感じを帯びた一句である。(傳)
一句の色調を抑制し、さらりと淡白に仕上げております。朱夏の鬱陶しさが払拭され、心地好ささえ感じます。ごく自然な
ありのままの一句ですが、この時期、この素の感性が魅力です。(仁)
夕焼けを背にして帰る子どもの姿がたよりなく見える。夏の夕暮らしい景色だと思った。(美春)
子供を待つ親のホッとした心が感じられる。イメージが美しいと思いました。(博子)
中七の影絵のやうに…写生が効いていますネ。(麻実)
黙黙と歩荷行き交ふ大夏野 根岸三恵子 (2点)
「歩荷(ボッカ)」は重い荷を担って山に登る人。登山用語として夏の季語に収める歳時記もある。掲句の歩荷たちは山の麓の野原を歩いているのであろう。「行き交ふ」とあるから、これから長い山路に向かう歩荷が、山から下りて来た歩荷とすれ違ったりもするのであろう。重い荷物を背負い黙々と働く歩荷の姿が「大夏野」という舞台を得て大景として描かれた。(傳)
<日原傳編集顧問選入選句>
馬洗ふ谷川の瀬の青こだま 西脇はま子 (3点)
青こだまという言葉に魅かれました。(明)
白南風やダンスシューズの銀の鋲 杉 美春 (2点)
バーゼルの路面電車や新樹光 松山芳彦 (1点)
新樹光で整然とした街の佇まいと輝きが表現されているのでは。(ユリ子)
万緑のしづくのやうな蜻蛉玉 荒木那智子 (1点)
プラチナの色なき光夕薄暑 小高久丹子
夏の空城壁高き旧市街 満井久子
海紅豆背にマイムの指の先 佐藤博子
精霊の棲むカレリアの新樹光 早川恵美子
<互選句>
共に見てひとりひとりの蛍かな 安光せつ (8点)
螢を見つめるひとりひとりにそれぞれの思いがあり、物語があるのだろう。螢のはかない美しさと、人の孤独感がよく合って
いると思う。(美春)
蛍狩では、確かに皆それぞれに無口になりじっと胸中に行き交うものを思っているような気がします。その光景を17音で
上手に表現なさっている点に感心しました。(明)
ひとりひとりの蛍…で頂きました。(麻実)
壁の染みひとつ動いて蜘蛛となる 上脇立哉 (7点)
今日の事なんだかんだと天花粉 小野恭子 (5点)
天花粉パタパタたたきながら子供の頃を思い出します。(みつ子)
幼稚園児がお母さんに天花粉をつけてもらいながら今日一日の出来事を楽しそうに話している光景を思い浮かべました。(明)
水底の銀貨に触れず水馬 早川恵美子 (4点)
水馬にとって、水底の金貨・銀貨あるいは素敵な耳飾り・首飾りを目の当りにしても触れることさえ出来ません。水馬の
未練たらしく動き回っている様子が目に浮かびます。物語性があり、ちょっといじって遊ばせて頂きました。感謝!(仁)
相続のことには触れずかき氷 今井温子 (4点)
梵鐘の一打の余韻著莪の雨 鈴木 楓 (4点)
梵鐘の響きが著莪の雨に濡れ、山野を駆け巡る。一句の情景が詩情豊かに読み手に伝わって参ります。古典俳句にも通じる
此の叙情性を素直に受容したい。(仁)
「梵鐘の一打の余韻が著莪の雨を誘っているようだ」としたところがよい。(芳彦)
アカペラの古城にひびき夕涼し 満井久子 (3点)
遠き日の尋常唱歌かたつむり 安藤小夜子 (3点)
「尋常唱歌」と「かたつむり」が響き合い、郷愁を誘う。(ユリ子)
何処からかムンクの叫び梅雨夕焼け 荒川勢津子 (3点)
やあ私も叫んでます毎日の介護疲れで。(みつ子)
原罪に由来する圧迫感。梅雨夕焼けの血の色はまさにムンクの叫びである。(柳絮)
教材の骸骨うごく暑さかな 荒木那智子 (3点)
金魚玉躁の目ん玉鬱の口 小橋柳絮 (3点)
球形のガラス鉢をのぞき込んでいた昔を思い出しました。言葉とリズムがよいと思います。(博子)
消しゴムで消したき記憶ソーダ水 今井温子 (3点)
誰にもある消しゴムで消したき記憶にソーダ水で表現したところあっぱれ。(芳彦)
季語ソーダ水が効いてますネ。(麻実)
焼き鮎の骨抜く指の香かな 阿部 旭 (3点)
焼き鮎の香ばしい香りが指に移って本当に美味しそうです。(貞郎)
銘板に誰某二歳沖縄忌 妹尾茂喜 (3点)
きざはしを登り新樹の蕪村墓碑 浅井貞郎 (2点)
これといふ穢れなけれど夏祓 西脇はま子 (2点)
日本の神事・祭事に心引かれる年となりました。平常な日々の中の幸せを感じ、共感できる句です。(博子)
サングラスして吾が輩はもう他人 和田 仁 (2点)
夏の夜の沙翁の劇や星きらら 中川手鞠 (2点)
花ユッカ生涯処女を貫けり 佐藤武代 (2点)
回忌済み座敷にぽつんと扇風機 安藤小夜子 (2点)
何回忌でしょうか…ぽつんと扇風機で、皆さんがお帰りになられた後の寂しさが込みあげて来ます。(孝子)
座敷に残された扇風機が、法事のざわめきの名残りを感じさせる。(ユリ子)
虚無僧の奏で新樹の森までも 片山孝子 (2点)
虚無僧の奏でる尺八の音色と新樹の森の取り合わせが良いと思います。(貞郎)
泰然と海鵜立ちけり世阿弥の忌 佐藤博子 (2点)
「花伝書」は日本人の価値観を集約したもの。海鵜に孤高の哲人の面影を見る。(柳絮)
大観の富士の魂魄夏の雲 阿部 旭 (2点)
虹立つやロングドレスの照る坊主 内藤 繁 (2点)
てる坊主は何故かロングドレスになりますね。晴れて良かったですね、光景が目に浮かびます。(孝子)
捩花の螺旋を伝ふ雨雫 荒川勢津子 (2点)
囀りや山路に馴染む膝のばね 安光せつ (1点)
”火宅の人”生れしホテルや蔦茂る 根岸三恵子 (1点)
漢の根源に巣くう理不尽さを覆い隠して蔦茂る神田駿河台山の上ホテル。(柳絮)
ガラス窓擦る音髪切虫上へ 土屋香誉子 (1点)
サーカスのピエロ悲しや半夏生 土屋 尚 (1点)
でで虫の世界は一尺日は暮れる 土田栄一 (1点)
地球儀かな?一回り世界一周いいですね、のんびり廻ってみたい。(みつ子)
夏霧や箱根山越へ海に入る 中川手鞠 (1点)
如何にも雄大な景です。(貞郎)
夏野より見ゆる家なり風が棲む 明隅礼子 (1点)
もう誰も住んでいない家には夏野を渡る風が吹き込むのだろう。風が棲むという表現に詩があると思った。(美春)
茅花野の穂絮を染むる大夕焼 室 明 (1点)
茅花の穂絮が夕日に染まっているという美しい景色を旨く纏めた。(芳彦)
形代のその名に一つずつの息 小野恭子 (1点)
五月雨や水漬かむばかり浮御堂 内藤芳生 (1点)
佐渡に古る五重塔や鴨足草 室 明 (1点)
須磨浦のポンポン蒸気明易し 土田栄一 (1点)
水無月や雨のはぐくむ大八洲 岡崎志昴女 (1点)
重い空押し上げて咲く日輪草 齋藤みつ子 (1点)
草猛る関八州は五月晴れ 岡崎志昴女 (1点)
地震多発鯰のひげも頼りなし 安光せつ (1点)
竹夫人納戸に独り寝してゐたり 石川由紀子 (1点)
沈下橋渡るライトや明易し 髙橋紀美子 (1点)
梅雨寒やケッチャップ多めのオムライス 佐藤武代 (1点)
少し味は濃いめにして、元気に梅雨を乗り切りましょうか。(孝子)
斑猫や押して駄目なら引いてみな あさだ麻実 (1点)
非常口より麦秋の広ごれり 和田 仁 (1点)
立ち話通り過ぎたるかたつむり 小高久丹子 (1点)
燐光の宇宙の渚のえいの鰭 小橋柳絮 (1点)
冷奴弥生の土器に煮炊き痕 内藤 繁 (1点)
蝸牛甲斐駒ヶ嶽負ひゐたる 内藤芳生 (1点)
以上
![]() |
ホームへもどる | ![]() |
句会報へもどる |