<日原 傳 編集顧問選 特選句>
いつの間に金木犀の咲きにけり 嶋田夏江 (2点)
金木犀の花は花自体を愛でるような花ではない。漂ってくる芳香や地面に散り敷いた細かな花を目にして、花の咲いたことに気付く。「いつの間に」という導入から「咲きにけり」への展開、二つの措辞の間に感じられる「ずらし」の作用が金木犀の花に気付いた作者の驚きを示している(傳)。
木漏れ日の中にとどまり秋の蝶 和田 仁 (1点)
掲句の秋の蝶は木漏れ日の差す地面に止まっているのであろう。動きは緩慢で、その場を去ろうとはしない。「とどまり」という措辞によって秋の蝶らしさを言い止めた。俳句に詠むのは難しい「木漏れ日」をうまく一句の中に収めているところが手柄(傳)。
<日原 傳 編集顧問選 入選句>
一隅は健康診断文化祭 土屋香誉子 (5点)
文化祭の催しの一つに簡単な健康診断のコーナーがあるという現代の情景がおもしろい。(泰子)
秋深し燭の昏さの伎芸天 米田清文 (4点)
よく眼を利かした一句。季語の取合せの妙で奥行きを持たせました。(仁)
剥落の当麻曼荼羅秋の燭 髙橋紀美子 (4点)
当麻寺に伝わる浄土曼荼羅で、観無量寿経に基づいた阿弥陀浄土変相図。蓮糸で織ったという伝説が鎌倉時代からあるがひどく破損してしまった。秋の燭と詠んだところが秋らしくてよい。(芳彦)
水澄みてうつる人影すれちがふ 明隅礼子 (4点)
水がどれだけ澄んでいるのか、それを表すのにすれちがう人影がうつるほど、とした観察眼は凄いと思いました。(律子)
ロザリオの銀の黒ずみ竜の玉 石川由紀子 (2点)
対象の捉え方が繊細、且つ妙。「銀の黒ずみ」と「ロザリオ」「龍の玉」の取合せにより、陰影を巧みに表出。優美、高潔な一句として佳く響きます。(仁)
砂糖菓子七色に練り神の旅 杉 美春 (2点)
出穂揃ひ遠富士が嶺の仄白し 内藤芳生 (1点)
茸飯お焦げ分け合ふ夕餉かな 土田栄一 (1点)
瓢の実を見せに山より下りきたる 土屋 尚 (1点)
御手玉の音なつかしむ十三夜 西脇はま子 (1点)
銀杏の大粒小粒鬼子母神 鈴木 楓
秋没日ジャコメッティめく長き影 中川手鞠
<互選句>
薄墨の色を宿して冬牡丹 室 明 (7点)
一句の調べに繊細な詩心、揺るぎないロマンチシズムを感受。語彙の選択、取合せが巧み。天性の詩性を表出か。詩的核心が簡潔に素直に響いてきます。(仁)
すすき揺れ吾揺れトロッコ列車行く 高橋雪子 (6点)
秋の紅葉黒部のトロッコ列車を思い出しました、芒揺れが、素晴らしいですね。(貞郎)
世に古りし顔して秋の金魚かな 佐藤博子 (5点)
金魚がそんな顔するとは知らなかったなぁ~♪(志昴女)
柚子畑に峡の日差しの溢れをり 根岸三恵子 (5点)
柚子は南国高知・徳島・愛媛が産地の多くをなす。古来栽培されている柚子は白い花を地に置き、でこぼこ球形の香り高い実をつける。山峡の斜面に収穫する人影に晩秋の日がまぶしい。柚味噌を送ってくれた友人を思い出す。(茂喜)
炉開きや箱にそれぞれ真田紐 今井温子 (4点)
箱の大きさと、真田紐の色合で何が入っているのかわかるのでしょうね。楽しそうな景です。(博子)
手の甲にほくろがひとつ火恋し 杉 美春 (4点)
「ほくろ」に火の恋しさが凝縮されているような感覚。また、「火」と言って火とは別のものを恋しんでいるかと想像させられる。(清文)
金風や平家写経の文字なぞる 原 豊 (4点)
まるで秋の風が平家への鎮魂歌のようでもあるという句意だと解釈いたしました(柳匠)
シャンソンの夜はシナモン焼林檎 鈴木 楓 (4点)
酒倉の原酒の吐息秋深し 原 豊 (4点)
秋が深まるとともに醸される酒がフツフツと発酵して、馥郁たる薫りが蔵に満ちて来る。日本酒も良いが、ワインならもっと相応しい。(勘六)
柿をもぐ大極殿の裏住ひ 松浦泰子 (3点)
大極殿の裏にお住みになっているにしては庶民的なお暮しです。(志昴女)
伊賀盆地城を真中に天高し 浅井貞郎 (3点)
伊賀の上野は、芭蕉が生まれ藤堂良忠に仕えた所。上野は四方が山に囲まれ、その中に再建された城が秋空に聳えている。戦火に遭わなかった風景が広がっている。(勘六)
千年を待つ幼木や秋日濃し 松浦泰子 (3点)
緑の環境を守る地域の植樹活動が盛んである。天然記念物や公園の古木などいま千年の命をほこる樹木も、はじまりは幼木であった。植樹を終えた人びとの汗を秋日が輝かす。この活動を支援する樹木医のことも時に耳にする。(茂喜)
人形にお菓子分ける子ハロウィーン 中川手鞠 (3点)
ハロウィーンは年年盛んになりますがこんな優しい子が育っていくのですね、季語ハロウィーンは素晴らしい。(貞郎)
いしぶみのこゑを聴かむといぼむしり 荒木那智子 (3点)
かなの表記が効いていると思います。いしぶみにもいぼむしりにも命が宿った感じがします。(律子)
帰燕せり大和の古寺の欄間から 米田清文 (3点)
欄間から帰燕するという視点がユニークです。(芳生)
弾き手なきピアノの上の天の川 和田 仁 (3点)
弾き手なきピアノの上に天の川が見えるという寂しさが見えて来て良いと思う。(芳彦)
地球儀の天に凹みや銀河濃し 瀬尾柳匠 (3点)
まさしく冬の濃い銀河が地球儀の上にも降りて来たように思うほど、素敵な夜空~空想が広がる。(文)
八ツ橋の配られてゐる夜学かな 芥ゆかり (3点)
夜学生は八ツ橋を食べる機会は少ないのでしょう、その心配りが出ている良い句だと思います。(貞郎)
千枚の刈田に千のお松明 土屋香誉子 (3点)
この光景を何処かで見た気がします。苅田となった田に豊年のお礼夜空に映えるお松明、景が浮かびます。(文)
冬三日月クレオパトラの目鼻立ち 内藤 繁 (2点)
冬の三日月はくっきりと美しいと思ったことがあります。クレオパトラを連想したのですね。(ユリ子)
擂粉木のやさしきくの字菊香る 石川由紀子 (2点)
フクシマの闇に出を待つ十三夜 小野恭子 (2点)
眼裏に原発建屋秋刀魚焼く 小野恭子 (2点)
神無月だらりと絵馬の飾房 渡部有紀子 (2点)
黒サギのハロウィンの街に紛れけり 高橋雪子 (2点)
落葉掃くシジフォスのごと今日も掃く 鹿目勘六 (2点)
時節には、はずせない日課となる落葉掃き。それをシジフォスにまで思い馳せた所が面白いと思いました。(律子)
木舟にて翁西往く良夜かな 浅井貞郎 (2点)
コスモスの色を掬ひて風渡たる 山口美鈴 (2点)
やや寒の招かざる客糸を垂る 小高久丹子 (2点)
芋畑親子三代陽を浴びて 山口美鈴 (2点)
中天の鳥はほがらに竹の春 佐藤博子 (2点)
明るい景がよく表現されていると思います。(相・恵美子)
絶筆の一句読みゐる秋燈下 内藤芳生 (2点)
人生は一度限り、だれにも最後の一句がある。芭蕉は「枯野の夢」、子規は「糸瓜三句」、蛇笏は「一天自尊」、青邨は「願事日永」。井伏鱒二の唐詩選「勧酒」(于武陵)の名訳「さよならだけが人生だ」が胸にひびき、秋燈が澄みわたる。(茂喜)
身に入むや地震に肩欠くマリア像 森山ユリ子 (1点)
またここも空家となりて葛の花 江原 文 (1点)
地方で進む過疎化。櫛の歯が抜けるように人の住まない家が増えて行く。庭は草木が埋め、葛の蔓が家を覆い花を付ける。やるせない風景だ。(勘六)
写メールで来る江陵の望の月 小橋柳絮 (1点)
冬月に酒杯を重ね杜甫李白 内藤 繁 (1点)
当地には李白という地酒があるのですが名だたる詩人お二人と酒杯を重ねる気分です(柳匠)
櫨紅葉夕映えに彩極めけり 満井久子 (1点)
ファンタジー南瓜の馬車のバレリーナ 安藤小夜子 (1点)
神渡し山頂に立つ朱の祠 竹田正明 (1点)
干柿を食べて陸奥旅終わる 土田栄一 (1点)
夕すすき風を治めてをりにけり 瀬尾柳匠 (1点)
風に揺れる薄に主体性を持たせているところが面白いです。(明)
コウモリの形のクッキーハロウィーン 土屋 尚 (1点)
竜神は勾玉となり淵に入る 西脇はま子 (1点)
乗合の箸急かされて走り蕎麦 安藤小夜子 (1点)
石仏を染め転がりて秋夕陽 竹田正明 (1点)
秋蝶や移民船から恋の文 江原 文 (1点)
藻畳の一揺れ鮎を落しけり 早川恵美子 (1点)
一斉に揺れる吊革秋日和 中村光男 (1点)
つり革の揺れている様子が目に浮かびます。(相・恵美子)
秋寒やかみ合はぬこと多くあり 齋藤みつ子 (1点)
一叢の揺れにしりごみ芒原 満井久子 (1点)
一叢の揺れにしりごみしたという芒原の情景の心境は良く分かります。(芳彦)
黄落期過ぎし月日を振り返る 相沢恵美子 (1点)
灯と見しは子の掌中の林檎かな 明隅礼子 (1点)
霜降や長き傘の柄細く締め 渡部有紀子 (1点)
葛の花天は危ふく日を吊れる 關根文彦 (1点)
葛の花にそんな危うさの香りがあるとは思わなかった、、、季語の勉強になります。(志昴女)
以上
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