<対馬 康子 編集顧問選 特選句>
木の実落つ図書館にある授乳室 西脇はま子 (7点)
秋の陽射し降る図書館の静けさ、無垢な赤子を抱いて授乳する母親の柔らかい仕草。
人間の知の集約である図書館、そして本を読むという時間の何か崇高ささえ醸し出しています。(康子)
若い母親が乳飲み子を抱いて図書館にいる。家事育児で一日の時間の多くをつかいがちだが、母は知の楽しさを求めている。時がくれば熟して落ちる木の実のように、母の希望は子に伝えられる。母子はやがて図書館を出て林の小径を家路につく。(茂喜)
保育のための施設が社会に増えていくのはいいことですね。静かな図書館の中に子育ての授乳室があり、外は黄葉の中木の実の落ちる音もあります。内と外の対比が楽しい。(清文)
自然の溢れた中の図書館で、母子の持つ豊かな時間を詠われた素敵な一句だと思います。(博子)
天上へ熊手掲げて来る漢 荒川勢津子 (1点)
大きな熊手を肩に洋々と掲げて来る漢の力強さ。「天上へ」に独自さが出ています。
「星空へ」でなく、その上にある目に見えない天上界にいろいろな願いが託されているかのようです。(康子)
<対馬 康子 編集顧問選 入選句>
モモンガの風切る皮膜寒北斗 杉美春 (3点)
モモンガの飛んで行く様子が目に浮かんで来ます。(相・恵美子)
むささびとももんがとでは随分と大きさが違うようで、前者は「空飛ぶ座布団」、後者は「空飛ぶハンカチ」なんだそうです。ともに皮膜がありますが、寒北斗を上空に配するには小さなももんがの方がよい気がします。(清文)
小春日や南朝詠みし句碑開き 竹田正明 (2点)
私もその場面にいました。季語の小春日がいいですネ(麻実)
冬ざれや古墳の壁に四神の絵 浅井貞郎 (1点)
葦刈のはじまるうしろすがたかな 明隅礼子 (1点)
葦苅を見たいと思っていますが、いまだ実現しません。しかし、この句から、影絵のような幻想的な葦苅の光景が想像されます。(はま子)
毛糸編む生き物を食ふ話して 渡部有紀子 (1点)
凍蝶や口づけは死と隣合ふ 中川手鞠 (1点)
飛び回る力を失って地に墜ちた凍蝶。蜜を吸うことの出来なくなった口は地に垂れている。大地に感謝するように口付けする時は、蝶が死ぬ時だ。生と死は、生命あるものの定め、輪廻だ。(勘六)
子の髪のほのかに赫く冬に入る 米田清文 (1点)
人間も自然の中の一つ。草木が紅葉づるように、特に幼い子供は髪の毛が赤く感じられるのでしょう。子に対する深い愛情と詩心のある句です。(はま子)
鴨の嘴右左右右つつく 荒木那智子
いくたびも藺の泥を拭く畳替 土屋香誉子
<互選句>
点字譜や冬の銀河をなぞるごと 早川恵美子 (8点)
冬の銀河の手触りを想像してしまいました(律子)
点字譜を実際に触ったことはないのですが、感覚的に「冬の銀河をなぞる」という措辞がぴったりなのではないかと想像いたしました。(明)
ゴーギャンとゴッホの椅子や小鳥来る 佐藤武代 (6点)
仲良く暮らしていた短い月日を思わせる椅子。(ユリ子)
水鳥の翔つとき光砕きけり 荒木那智子 (6点)
光砕きけりが水鳥の飛翔の瞬間の水と光の鋭さをスローモーションのように表現して美しいと思いました。(泰子)
光を砕くという表現が詩的。(美春)
光を砕くという表現が素敵だと思いました(律子)
冬の水には鋭さがあるように感じます。「光を砕く」という措辞が効いていると思います。(明)
冬日溜め大地に石の呼吸音 關根文彦 (5点)
麗らかな小春の日を浴びて石が嬉しがって呼吸をしていると捉えられたのが気に入りました。(柳匠)
石の呼吸音、さてどんな音が聞こえたのか作者にしか判らない。そこにひかれました。(豊)
冬日をたっぷり浴びた大地では石もほっと暖かくまるで呼吸をしているようだと感じる作者の暖かな心が伝わってきます。(明)
幾たびも十を数へて柚子の風呂 松浦泰子 (5点)
気持ちよくて柚子湯から上がりたくない気持ちに思わず「あるある」と言いたくなりました。(柳匠)
普段は風呂から直ぐ出たがる子供だが、柚子湯では十までの数を繰り返しながら親と共に入っている。風邪をひかないように健やかに育つようにとの親の願いが込められている。(勘六)
冬紅葉百名山に洩れし山 小野恭子 (5点)
百名山でなくともこんなに紅葉がきれいですね(夏江)
研ぎ上げし出刃確かめて師走かな 阿部旭 (5点)
包丁も研ぎました、良く活躍してくれました、次はお節料理に精を出しましょうか。(孝子)
歳末の台所仕事のためには何と言っても包丁が気持ちよく切れなくてはいけません。(泰子)
膝に猫店番兼ねる日向ぼこ 岩川富江 (4点)
冬は猫が行火になっていいですね(みつ子)
最近は余り見慣れない風景でしょうが、郷愁を感じます(光男)
猫の可愛らしさがよく表れていると思います。(相・恵美子)
木曽街道昏き雪舞ふマリア仏 内藤芳生 (3点)
木曽街道から少し奥に入った御嵩にひっそりと暮らしたキリシタンの昏さが表されています(清文)
鈴の音を風が解き行く十夜寺 原 豊 (3点)
風が鈴の音を解くという表現で、十夜法要の様子が、よりポエジーに成って好きです (早・恵美子)
七五三男坂より登りゆく 明隅礼子 (3点)
むささびが月を横切る鎮守杜 中川手鞠 (3点)
むささびの姿が映像として眼に残りました。(豊)
「月を横切る」という表現が杜の静けさを感じさせる。(ユリ子)
水音のささめくほどに紙漉女 石川由紀子 (3点)
美しく漉き上げられた和紙が思い浮かびます。「さざめくほどに」の措辞が素晴らしいです。(はま子)
木鋏の音小気味よき小春かな 阿部旭 (3点)
頬杖の指先甘きみかんの香 満井久子 (3点)
みかんを食べて頬杖をついて、さて次は何をしようかなぁ・・と。(孝子)
美味しいみかんを召し上がったのか、満ちた気持ちも伝わります(律子)
トッポギもケバブも匂ふ酉の町 芥ゆかり (3点)
異国情緒も混じった日本の伝統風習の風景を上手く詠んでいると思う(光男)
現代の酉の市らしい光景。匂いもしてくる。(美春)
酉の市の猥雑とした人混みのなか、韓国もトルコもあるでよ~日本の神様もお許しくださいます。良い匂いが漂っています。世界中仲良し!(文)
北窓を塞ぎ並ぶるアンパンマン 髙橋紀美子 (3点)
アンパンマン可愛い(麻実)
枯木星ゆりかごの子はすやすやと 西脇はま子 (3点)
揺りかごに眠る赤子は家族の至宝である。人に自分の赤子時代の記憶はない。あるのは皆、赤子の睡眠を守ってくれた家族からの語り伝えだ。枯木の間に輝く星のように、母の口元に笑みが浮かび、視線は子の将来を見守っている。(茂喜)
考えるロダン落葉敷きつめて 森山ユリ子 (2点)
蜆蝶小春の日射ひろひ舞ふ 相沢恵美子 (2点)
季語小春を効かせて「日射ひろひ」がとても良いと思います。(貞郎)
老いてなお妻の手料理根深汁 阿部三雄 (2点)
奥様の御献身に対するご主人の感謝。存分にヒューマンな素敵な雰囲気が伝わって参ります。「根深汁」が揺るぎないお二人の信頼関係を、ちょっぴりシャイに暗示。(仁)
二周目は少し大声子の寒柝 髙橋紀美子 (2点)
繋がれし梟はみな不眠症 杉美春 (2点)
下五の不眠症・・・・・発想と言い切りに感心しました。(麻実)
火恋し声の掠るる蓄音機 渡部有紀子 (2点)
古いザーザーと針の雑音、低音のブルース~ならいいですね。サッチモなら定番すぎますか!(文)
お酉さまと言ひし母なり一の酉 安藤小夜子 (2点)
伝統に対するいとおしさが滲み出ている好句(光男)
息吐きて磨くガラスや冬めきぬ 佐藤博子 (2点)
日常の動作に季節をみている、生活者の視点がよい。(美春)
落葉踏み今日もリハビリ布の靴 満井久子 (2点)
加賀さまの赤門前や銀杏降る 土田栄一 (2点)
第3代第8代の東大総長浜尾新は銀杏並木の植林に力を入れた、東大元総長の有馬主宰の句「銀杏散る万巻の書の頁より」が思い出される、季語銀杏降るが効いています。(貞郎)
絵画的に美しい情景ですね (早・恵美子)
冬雲を浮かべ水底紅葉かな 室 明 (2点)
水面の冬雲と水底の紅葉、初冬の静かな景が浮かびます。(泰子)
ことごとく澄んで皇帝ダリアかな 上脇立哉 (2点)
人が世を去る山茶花の散り敷ける 關根文彦 (2点)
山茶花が真っ赤なベットなになって気持ちよさそう。私も最後は真っ赤のもみじの蒲団に寝ていきたい(みつ子)
人と花の厳とした有り様を思う。人は死んで影となり、好きだった山茶花の赤白の花の散りしく道をすすみ、異界の門をくぐり、やがて中空へのぼる。近しい人を見送った作者に悲しみの言葉が澎湃として湧き上がったのだろう。せつなくも美しい一句。(茂喜)
くわんおんになる霜月の大谷石 小野恭子 (2点)
大谷石は軽石凝灰岩、多孔質で柔らかく主に塀や蔵等の建築材に使われている。その石から観音様が彫り上げられた。同じ石材でも建材になるもの、仏になるものがある。霜月なるが故か。(勘六)
冬耕のひとに晩鐘名画めく 森山ユリ子 (2点)
「冬耕の人」と「晩鐘」の取り合わせが良いですね、情景が浮かんできます。(貞郎)
モンタンをバッハに換える十二月 小高久丹子 (2点)
枯葉からミサの曲とはずいぶんしゃれてますね(みつ子)
小春日や南朝詠みし句碑開き 竹田正明 (2点)
私もその場面にいました。季語の小春日がいいですネ(麻実)
雪来るか攻めて栗毛の胴震ひ 早川恵美子 (2点)
馬と言えば北海道、雪を迎える栗毛の胴震いいざ雪の季節へ挑む姿勢はもちろん競争に対しても攻める馬の勢い!下五が効いています。(文)
木枯しや無人駅舎の時刻表 原 豊 (2点)
ドラマの一カットのような時間と空間がそこに存在しているようです。ちょっぴりメランコリー仕立てに。まだまだ隅っこにポエムが転がっていそうな素敵な情景が浮かんで来ます。(仁)
ひとり飯背中にそつと夜寒乗る 上脇立哉 (1点)
ふっとした寂しさを醸し出されている措辞だと思いました。(博子)
寒雀見つけて欲しき隠れん坊 芥ゆかり (1点)
我が家の庭木にも寒雀が潜んでいるのを見かけるようになりました。それを隠れん坊で、かつ見つけて欲しがっていると捉えられたのがすごく良いと感じました。(柳匠)
寒くなるゴッホ黄色を重ねても 小橋柳絮 (1点)
寄道や母のみやげに烏瓜 佐藤武代 (1点)
母の土産に寄道して烏瓜をもらう。やさしい気持にほのぼのします。(ユリ子)
小春凪人形町の葛編み 松山芳彦 (1点)
寒月下りんと一天一格の画 妹尾茂喜 (1点)
中国画の機微を伝えているような格好の良い句!憧れます(早・恵美子)
井楼を埋めて千年紅葉散る 浅井貞郎 (1点)
人去りてたちまちにして猪の村 土屋尚 (1点)
行楽客の帰った山村はさぞかし猪で賑っていることでしょう。(相・恵美子)
冬天やミーアキャットら風を聴く 室 明 (1点)
男優のヒュージャックマンが、俳優養成学校で「ミーアキャット」に扮した経験を再現していました。まさにこんなイメージです。(博子)
石蕗の花厨を満たすカレーの香 石川由紀子 (1点)
心のゆとりが醸すほのぼのとした時間の流れを感受。カレー料理にして冒頭の「石蕗の花」が日頃の静逸な心の有り様を伝えております。充実した優雅な精神性こそ真に馳走と言えるかも知れません。(仁)
狐火や天下分け目の古戦場 内藤繁 (1点)
翁吹くハーモニカの音冬の廟 佐藤律子 (1点)
夫の名ではじまる墓誌や初の雪 安藤小夜子 (1点)
秋澄むや蜀山人の粋語録 和田仁 (1点)
スーパームーン曳き寄せ鳴けりすがれ虫 今井温子 (1点)
湯煙の棚引く山々秋の宿 片山孝子 (1点)
毛糸編む稚(やや)の真白きケープかな 根岸三恵子 (1点)
無為徒食師走の風の厳し過ぎ 内藤繁 (1点)
同じ境遇師走の風は、本当に厳しいですね。(豊)
人力車駆ける勤労感謝の日 鈴木楓 (1点)
以上
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