<日原 傳 編集顧問選 特選句>
雲水の畳一枚雪解風 中嶋昌夫 (5点)
「雲水」は行脚僧をいう。その修行のさまを詠じた作であろう。禅堂では一人につき畳一枚ほどの「単」と呼ばれるスペースが与えられ、そこで眠り、食事をし、坐禅をする。「起きて半畳、寝て一畳」という言葉がある。厳しい修行の場だけに春の到来は一層実感されることであろう(傳)。
遍歴修行する禅僧、「畳一枚」に集約し、冬の厳しい行から春の訪れを「雪解風」に雲水はゆく。(孝雄)
雲水の生活し、眠る場所は畳一枚の上なのであろうか。しばれる感覚のある雪解風が、雲水の生活の厳しさを表すと共に、未来への希望を現していて佳い。(武夫)
畳一枚の雲水と雪解風の取り合わせが絶妙。(ユリ子)
雲水の心身に、少しづつ温かさが見えてくるようです。(博子)
一瀑に拳突き出し寒稽古 かや和子 (1点)
空手の寒稽古であろうか。大勢集まり、滝の前で拳を突き出す動作を繰り返しているのである。「一瀑」という措辞から大きな滝であることが想像される。流れ落ちる水の勢いに挑むかのような気概をもっての稽古。「イチバク」という力強い音が寒稽古の厳しさと呼応するかたちで一句のなかでよく働いている(傳)。
<日原 傳 編集顧問選 入選句>
鳥一羽吹かれてゐたる余呉の春 内村恭子 (3点)
余呉湖の美しい景色が見えて良い句(芳彦)
一幅の景の様のような余呉湖の春ですね。 (宙)
斑雪若狭の寺の蔀かな 室 明 (2点)
若狭は雪深いところ。「蔀」で厳しい冬を、「斑雪」で春の兆しを詠っています。(孝雄)
若狭は神社仏閣の多い所、蔀と残雪の味わいの深い句ですね。(昌夫)
寒鴉銀座詳しき風情なる 小髙久丹子 (2点)
ことづての伝はらざりし春ゆふべ 明隅礼子 (2点)
どんな物語があったのでしょう?ことづて・・の措辞が魅力的です。(博子)
修羅落とす谺の去りて匂鳥 早川恵美子 (1点)
森林での伐採と、その運び出しが一段落したところへ、新鮮な鶯の初鳴きが聞こえてきて、とても明るい気持ちになった様子が見えてきます。(明)
墳山に迫る夕暮つくしんぼ 竹田正明 (1点)
み仏の大きてのひら春落葉 垣内孝雄 (1点)
春浅し椀の見込の梅の花 垣内孝雄 (1点)
うららけし京の老舗の洋食屋 森野美穂
ジャコメッティの痩する犬ゆく二月かな 高橋紀美子
胸中にあたたむ一句去年今年 内藤芳生
水温む小島の磯の忘れ潮 土田栄一
<互選句>
春星やわれも往古の星の屑 妹尾茂喜 (7点)
我も往古の星のくず 表現が上手いと思いました(和子)
野火はみな法の山向く近江かな 中嶋昌夫 (6点)
比叡山でしょうか、日常に溶け込んでいる信仰を感じます。(春野)
句の調子も良く歴史を感じさせ感心いたしました(早・恵美子)
桃の花町の飛地へ福祉バス 今井温子 (5点)
「桃の花」が活きている。飛地にある施設で楽しいご老人の集まりでもあるのかな。きっとお雛様が飾ってあることでしょう。(孝雄)
「桃の花」が福祉バスを待つ人の笑顔を誘っているよう。(宙)
心があたたかくなります。(智子)
ウイスキーボンボン三人官女にも 永井玲子 (5点)
白酒の代わりにウィスキーボンボン!さんざめいているひな祭りですね。(博子)
白梅や論語素読の学問所 西脇はま子 (5点)
足利学校を思い出します、白梅がさわやか(夏江)
旧藩校跡でしょうか。論語の素読とは単なる寺小屋ではない、由緒がありそうな学問所だと思いました。(順一)
たんぽぽや仔猫の眠る秘密基地 野口日記 (5点)
秘密基地をもってくるなどにくい。メルヘンチックでいいと思います。季語のたんぽぽが効いていると思います。(光男)
秘密基地に込められている思い良く解ります(和子)
子供たちが消えた後の秘密基地に仔猫が眠っている。作者はたんぽぽになりきって、秘密基地に眠る仔猫を照らしている。微笑ましさが伝わってくる句である。(武夫)
野良猫が子供たちの秘密基地に子を産んだ。子供たちが通って世話をしているのでしょうか。(明)
春光の水脈より鳥の発ちにけり 長濱武夫 (4点)
明るくやわらかな日差しの降る水脈より、今まさに鳥が去っていくという美しい景が浮かびました(律子)
光景が目に浮かびます。(智子)
春の光を受けて舞い立つ鳥の光景は美しい。水の輝きが見えるよう。(ユリ子)
大津絵を旧道に買ふ名残雪 内村恭子 (4点)
季語に大津絵と旧道がよく合っていて趣のある句であるとおもいます。(相・恵美子)
春の山仔牛の鼻は柵の外 中村光男 (4点)
春の気配を感じ、外に出て行きたい仔牛の様子が見えます。(春野)
あちこち動き回っている元気な仔牛の様子が上手く表現されているとおもいます。(相・恵美子)
日に日に大きくなる仔牛。何事にも興味津々の様子が見えて、何とも可愛らしい。(明)
かたかごは万葉の色群れ咲けり 森山ユリ子 (4点)
カタクリの花、形、色、葉の斑模様すべてが古代え誘う神秘てきで万葉の歌人達も好んで詠んだのでしょうか。(昌夫)
春の鴨大きく泳ぐ日なりけり 明隅礼子 (3点)
春の大らかな気配が感じられてとてもいいなと思いました。(美穂)
フルートの銀の調べの春の月 石川由紀子 (3点)
フルートの音色と月の色があってると思いました(みつ子)
私の友人に銀製のフルートを吹く人がいた、何度か聞いた事があるが春の朧月夜にフルートの音色はぴったりですね季語「春の月」が良い(貞郎)
チェンバロに春の陽射しが交差する 小髙久丹子 (3点)
チェンバロはピアノとは違う音色が春の陽射しとあってると思います(みつ子)
バロック音楽にチエンバロは欠かせない楽器です、その音色はキラキラしていて春の陽射しを感じさせます素晴らしい一句となりました、(貞郎)
チェンバロの楽曲と、春の陽射しが綾なす軽やかなイメージ。(ユリ子)
辿りつく卒寿の梅見空青し 土田栄一 (3点)
「卒寿の梅見」と「空青し」の取り合わせが素晴らしい(貞郎)
寝転べば土筆は高し空低し 上脇立哉 (3点)
同感!普段はわざわざ見上げないと見えない大空が迫ってきます。一方、周りの土筆の丈は意外と高いのです。(春野)
年の豆誰もをらざる部屋へ捲く 瀬尾柳匠 (3点)
もう誰も使っていない部屋にもつい年の豆を撒いてしまう、その瞬間に部屋の主が居ないことを改めて感じる、そんなお気持ちの句でしょうか(律子)
誰もいない部屋、人間はいなくても鬼はいたと確信したのかもしれません。(順一)
うかれ猫今度は黒が顔を出し 児島春野 (2点)
白猫の次は黒が、という情景がうかびます。(光男)
「今度は」と言われれば、前の猫はキジトラだったのか、アメリカンショートヘアーだったのだろうかと想像を逞しくできたのがよかったです。(順一)
外つ国の御供も持たぬ古雛かな 中川手鞠 (2点)
謡曲の皆一斉に春の声 かや和子 (2点)
子規庵の大き寄せ書桃の花 佐藤博子 (2点)
子規庵の句会寄せ書きに温かさが見えて良いと思う。(芳彦)
チューリップ死はあどけなき瞳を遺し 早川恵美子 (2点)
胸を衝かれる句ですね。(智子)
春泥の夜をいろいろのもの歩く 上脇立哉 (2点)
啓蟄のキヤンデイ缶の硬き蓋 鈴木 楓 (2点)
啓蟄を迎え、虫がぞろぞろ穴を出て来る時期なのに、キャンデイ缶の蓋は固く開かず、中のキャンデイは出てこない。この取り合せに俳諧味がある。(武夫)
鞦韆は魔女の箒の乗り心地 石川由紀子 (2点)
成る程!魔女の箒とは思いつかなかった!凄い!大好きです(早・恵美子)
北窓を開けて青墨磨りにけり 渡部有紀子 (2点)
地下街の途切れし所風光る 染葉三枝子 (2点)
暗い地下街途切れて、あぁ春だなぁと風光るが効いていると思います。(孝子)
春浅の身体が少し軽くなり 齋藤みつ子 (1点)
着ぶくれていた衣類も少し薄く成り、重かった体が軽くなる感じ良く分かります。(孝子)
みちのくの羽根は天鵞絨比内鶏 武井悦子 (1点)
古民家の土間に鋤鍬古ひひな 相沢恵美子 (1点)
パン種のパンの三寒四温かな 長濱藤樹 (1点)
日々違ふパンの膨らみを見つめるパン屋さんの横顔が・・・。(宙)
天摩するスカイツリーやつくづくし 内藤芳生 (1点)
スカイツリーの句は難しいと思いますが、上手く作られていますね。つくづくしを持ってきたのがいいと思います。(光男)
かたかごの咲く山里へ忘れもの 染葉三枝子 (1点)
春雪の花街の路地を女傘 鈴木 楓 (1点)
舞妓や芸鼓の色とりどりの華やかさを感じます。(昌夫)
弁財天に春きざす音水琴窟 原 道代 (1点)
水琴窟の音と春の取り合わせはいいなあと思います(みつ子)
二ン月の空へ胸反る鳩一羽 相沢恵美子 (1点)
蛇口より一滴の水春浅し 森野美穂 (1点)
一滴の水という表現に春がまだまだ浅いと感じられました(律子)
山荘の窓よりたらめ摘みゐたる 室 明 (1点)
南より春耕の地の色変はり 土屋香誉子 (1点)
春浅き秩父を後に兜太逝く 浅井貞郎 (1点)
手の温もりが忘れない思い出になりました(和子)
雪山の北面塞ぐ雁別れ 松山芳彦 (1点)
若草を銜へて猫の小宇宙 佐藤博子 (1点)
直ぐに若草を銜えている猫の様子が目に浮かびました。小宇宙の言葉が上手く使われているとおもいます。(相・恵美子)
あかぎれや先ずは真面目に生きてみる 加茂智子 (1点)
愛唱したい句と思えました。私自身を鼓舞する気持ちが芽生えた句でした。(美穂)
紋付のあどけなき所作春茶会 片山孝子 (1点)
猫の子の響きやはらか鼻濁音 佐藤律子 (1点)
民意問ふ住民投票てふ踏絵 鹿目勘六 (1点)
民意問ふを踏絵としたところ面白い。(芳彦)
春の雨深々と土黒きかな 土屋 尚 (1点)
冴返る住めば都と云ふ他郷 鹿目勘六 (1点)
卒業や兎の眼はなぜ赤い 中村光男 (1点)
兎さんも泣いているのね。素敵な一句です(早・恵美子)
春宵や川面に鳥の影一つ 阿部 旭 (1点)以上
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