天為ネット句会報2019年10月

 

天為インターネット句会2019年10月分選句結果

(作者名の後ろの点は互選点)
 ※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。また互選句は高点句から順に、同点句は句稿番号順に並べました。
 ※一部インターネットで表示できる文字に置き換えております。ご了承ください。

  <福永法弘同人会会長選 特選句>

草ひばり一番小さき母の靴           野口日記    (7点)

お母さんの靴ってこんなに小さいんだと気がついて、よくよく見ると、家族の中で一番小さい身体の母。長年苦労をかけ続けたせいかも。切なくも、でも可愛い。草ひばりも小さく可愛いい。(法弘)

「草ひばり」という季語の斡旋で可愛らしくお歳をとられたお母様の様子が眼に浮かびます。(光男)

お母さまへの愛おしさ なんと優しい目線でしょう (温子)

いつの間にか家族の中で一番小さくなってしまったお母様。いつ迄もお元気で。(春野)

季語の斡旋が上手です。お母様大切になさってね(早・恵美子)

秋高しマオリの村の間歇泉           鈴木 楓    (2点)

おおらかなマオリ族の島。秋天に向かって伸び上がる間歇泉に歓声を上げている姿が目に浮かぶ。(法弘)

南洋の青空に一直線に上がる湯水、何だかすかっとする句です。(春野)

  <福永法弘同人会会長選 入選句>

半壊の屋根の向かふに秋の虹          中川手鞠    (7点)

台風の猛威により半壊した家。折から懸かる秋の虹は、自然の前では人間は無力であるとの暗喩かも。(法弘)

被害に遭われた方を慰め見守っているかのような秋の虹、(貞郎)

千葉の被災地でしょうか。壊れた屋根にかかる虹が、殊のほか美しく見えて来ます。(ユリ子)

先日の台風禍の光景でしょうか。自然の残酷さ、秋の虹の儚さ、人間の無力さを思います。(明)

秋気満つ白鳳仏の指の先            高橋紀美子   (7点)

白鳳仏の特徴は、とにかく手が大きいこと。衆生を全て救うためだとか。秋気がまるで、その指先から立ち、辺りを包んでいるかのようのだ。(法弘)

法隆寺の百済観音のたおやかな指先が眼前に現れました。季語が効いていると思いました。(明)

端正な句ですね(智子)

いなびかりトランプの王横向きに        明隅礼子    (5点)

王様だって雷は怖い。(法弘)

トランプの王が横向きであると瞬間的に捉えたところが良いと思います。(恵美子)

いなびかりで照らされたトランプの王が横向きだった。そのことが作者の心に残った。この句はまさに心に残ったことを句にしている。(武夫)

てらてらと黒き残暑の中華鍋          上脇立哉    (5点)

油でてらてらの中華鍋に着目。残暑はいやがうえにも増す。(法弘)

てらてらとのオノマトペがよく効いています。(柳匠)

月天心マネキンの腕動き出す          内村恭子    (4点)

月光は魂のないモノに怪かしの命を与える魔力があるのかも。(法弘)

「マネキンの腕動き出す」というポエティックなことと月天心という季語の斡旋がいい。(光男)

月が天心にある頃、通りがかった店のマネキンの腕が突如動いた。人が動かしたのか、あるいは作者の錯覚か、それはどちらでもよい。作者はとにかくマネキンの腕が動いた驚愕を句にしたのである。(武夫)

もう一度聞き返せずに秋の風          森野美穂    (4点)

実はその一言を聞きそこねたのに、変に相槌を打ってしまったがために、聞き返すことが出来ない。秋の風は二人の間に生じた心の隙間を吹く。(法弘)

秋の風は何度も聞くことは無理秋らしい(みつ子)

若いころの恋でしょうか、聞きたくても聞けないもどかしさがよく描けていて好きだなあ。(柳匠)

親の最後の言葉だろうか、最愛の人だろうか。その最後のつぶやきがよく聞き取れぬままに亡くなられたのだろうか。作者の込みあげてくるせつなさが伝わって来る。むなしく吹く秋の風が非常に効いている。(武夫)

どんなシチュエーションなのでしょう・・?季語に物語を膨らませています(博子)

小鳥来る防災無線の人探し           石川由紀子   (2点)

長閑な農村。季語が小鳥来るなので、山で行方不明とかの大げさな人探しではなく、公民館のバザーの手伝いを募集する程度の軽い感じの人探しだろう。(法弘)

秋たけなわの里村に何が?中七下五からただならぬものを感じさせる一句。(明)

人麻呂の刑死の話露寒し            室 明     (2点)

人麻呂は水刑に処せられたという説がある。真偽定かではないが、ちょっと寒々とする話だ。(法弘)

柿本人麻呂の「いろは歌」の7文字目をタテに読むと「とがなしてしす」私は無実の罪で殺される」となります。季語露寒しが効いています。(貞郎)

小刻みに人と距離置く黄鶺鴒          早川恵美子   (2点)

人と人、人とモノ、人と動物、モノとモノ、それぞれに適度な距離が必要。黄鶺鴒は小刻みに動いて、自分と人との心地よい距離を保とうとしているのだ。賢い。(法弘)

臨場感があると思いました。(順一)

屋根裏の明りとり窓小鳥来る          土屋香誉子   (1点)

高原の山小屋風別荘の雰囲気。(法弘)

小さな明りとり窓に小鳥来るのを見たところが新しいと思いました(眞登美)

縄文人飾るピアスの良夜かな          阿部 旭    (1点)

縄文人は天変地異に左右される農耕ではなく、安定的な狩猟採集で暮らしていたので食べ物が豊かだったという説がある。衣食足りてお洒落を知るといったところか。満月だから夜が更けてもまだ明るく、人生を楽しめる。(法弘)

鉛筆をみな尖らせて夜なべかな         高橋紀美子   (1点)

さて、準備万端。何か大事な書き物をするのだろう。決意の程がしのばれる。(法弘)

紅玉は劉生描く麗子かな            武井悦子    (1点)

巧みな比喩の句。林檎の紅玉に岸田劉生の描くた麗子像を想起したのだ。(法弘)

霧の香や幣舞橋の四季の像           妹尾茂喜    (1点)

釧路川に架かる幣舞橋の名物は四季を表した裸身の女神像。霧に包まれた女神像はいぶせくも美しい。(法弘)

耳塚や五輪の塔に小鳥来る           中嶋昌夫   

戦功を示すために首の代わりに切り取った耳。残酷な話だが、小鳥が来ることによって少しだけ救われた感じがある。小鳥の声が耳に届いただろうか。(法弘)

  <互選句>

花束の中の静けさ吾亦紅            児島春野    (7点)

吾亦紅風情がありますね(みつ子)

吾亦紅の一輪がすべての花を静かに引き寄せ,秋の深まりを表現しました-------(宙)

野に置くのとは、また違った姿を見せる吾亦紅の魅力を感じました。(博子)

無患子の寺に虚子の碑草田男碑         鈴木 楓    (5点)

「無患子」「寺」「虚子」「草田男」と名詞が深い読みを誘う句である。しかも繋ぎの助詞が句をすっきり収めている。(孝雄)

どこかのお寺へ吟行なさったのでしょうか。先人の句碑・歌碑がたたずむ境内を思います。(志昴女)

二人の俳人界の重鎮と無患子の取り合わせに感服しました-----(宙)

具体的に寺を特定してみたくなりました。(順一)

長き夜のラフマニノフと酌み交す        早川恵美子   (4点)

おそらくピアノ協奏曲を聴きながらワインをとの「景」であろうが、作曲家と酌み交す感性に趣が伺える 。(孝雄)

革命亡命と祖国には帰る事なく亡くなったロシアうまれのラフマニノフ 穏やかな肖像画からは見られない人生の苦悩 傾けている杯にはウオッカ? (温子)

夜通しのラフマニノフは私には少し重すぎますが、とてもお好きだと言うことがよく表現されていると思いました。(ユリ子)

高原にパン焼くにほひ天高し          森山ユリ子   (4点)

高原の別荘地でしょうか、地粉のパン屋さんからいい匂いがしてきます。と想像してしまいました。(柳匠)

古簾捲いて余生のひと日果つ          内藤芳生    (3点)

かけのぼりたる朝顔の日々の色         山口眞登美   (3点)

「かけのぼり」と「日々の色」が朝顔の勢いや日々咲く様子を表していてとてもいいなと思いました。(美穂)

さやけしや神話の国の宇豆柱          長濱武夫    (3点)

神話が息づく出雲などを思いました。神社の大きな柱。妻側のウズ柱が大きかったなんてさぞ大きな神社でしょう。(志昴女)

山雲のしづかに渡る稲穂かな          内藤芳生    (3点)

傀儡師の荷に白装束ちちろ鳴く         内村恭子    (2点)

葉鶏頭の命のかぎり子規の庭          佐々 宙    (2点)

水引の花奔放に四ツ目垣            今井温子    (2点)

水引の花と四ツ目垣に合っており奔放に咲いている様子が見えて来ます。(相・恵美子)

陸奥の散居の村は稲穂波            原 豊     (2点)

散居の村、というのがいいですね。そこにも稲穂はしっかり実をつけ頭を垂れている、景が浮かびました(律子)

仏めく庭石の影蚯蚓鳴く            今井温子    (2点)

季語の「蚯蚓鳴く」がとても生きているように思いました。(美穂)

モネの絵の藁塚包む暮色かな          竹田正明    (2点)

秋の静けさと人の営みをキャッチしました------(宙)

鞍馬山紅葉縫ひゆくケーブルカー        森山ユリ子   (2点)

京都の紅葉に包まれている臨場感。心惹かれる句でした。(博子)

沢蟹の唐揚げ真赤里祭り            永井玲子    (2点)

ご馳走に沢蟹の唐揚げとは如何にも里祭りらしくよいと思います。(相・恵美子)

重陽を重ね重ねて八十路ゆく          山上 慧    (2点)

種袋命さざめく音立てて            瀬尾柳匠    (2点)

「命さざめく」という措辞に惹かれました。(光男)

満月の芯に烏帽子の岩が浮く          原 豊     (2点)

一服の絵を見るようです。デッサン力に脱帽!(早・恵美子)

美しい映像がくっきりと浮かんで来る句だと思いました。(美穂)

青梨に地球の重さありにけり          瀬尾柳匠    (2点)

清々しい句ですね(智子)

秋彼岸閼伽桶に汲む山清水           荒川勢津子   (2点)

秋の彼岸の清澄な空気が感じられます。(ユリ子)

ご先祖様の墓前へ山清水を供える、その心根をとても清々しく感じました(律子)

赤蜻蛉まほろば線の無人駅           佐藤博子    (2点)

最近は地方の鉄道は無人駅が多い。それでも”まほろば線”なんて素敵な名前で、行ってみたくなります。どんな空が広がっていたのでしょうか。(志昴女)

赤蜻蛉と無人駅の取り合わせが良い、万葉まほろば線の里の風景が浮かんできます、(貞郎)

川近くして一叢の萩の花            山口眞登美   (2点)

小鳥来る微分積分とく夫に           西脇はま子   (1点)

昔取った杵柄であろうか。仕事に疲れているにもかかわらず子供に教授する夫、「小鳥来る」が活きた句です。(孝雄)

こぼれ種子規庵よりの鶏頭花          榑林匠子    (1点)

子規庵に植えられた花のこぼれ種と表現され、鶏頭花の赤が一段とさやかに感じられました(律子)

トロ箱に魚尾のはみ出す秋旱          相沢恵美子   (1点)

秋の空捨ててしまつたゲーム機器        森野美穂    (1点)

新蕎麦や松本城下の辻に井戸          染葉三枝子   (1点)

風情がありますね(智子)

山頭火の墓前に供ふ古酒新酒          浅井貞郎    (1点)

言の葉の甦りくる夜長かな           佐藤律子    (1点)

風立てり高く遠きへ秋の蝶           嶋田夏江    (1点)

初鴨や今朝の岸辺に紛れをり          榑林匠子    (1点)

警戒か連呼ぶ声か四十雀            土屋香誉子   (1点)

特定できないもどかしさ。(順一)

八十路なりぽつぽつと行こ吾亦紅        齋藤みつ子   (1点)

百日紅母の静かに逝きにけり          垣内孝雄    (1点)

巨石積む色無き風の石舞台           中嶋昌夫    (1点)

白毫寺の古木の五色椿の実           原 道代    (1点)

間引き菜をまたも貰いて九月かな        加茂智子    (1点)

猿茸この道にまた辿り着く           明隅礼子    (1点)

秋立つや郵便受けを覗き見て          片山孝子    (1点)

遙かなる比叡や寂と秋の虹           室 明     (1点)

比叡と寂あってますね(みつ子)

見知らぬ人と言葉を交はす良夜かな       中川手鞠    (1点)

秋色はモスクの名残りアヤソフィア       小髙久丹子   (1点)

バッカスの大樽傾け後の月           石川由紀子   (1点)

樽ごと呑むのかな?凄いですね~!桁違いで好きです(早・恵美子)

以上

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