<福永法弘同人会会長選 特選句>
でんでら野星の数ほど犬ふぐり 荒木那智子 (4点)
姥捨てのみじめな伝説の場所を、地にいっぱいに咲く小さないぬふぐりの花々が荘厳し、悲しくも美しい物語に変えてしまったかのようだ。(法弘)
でんでら野に満ちる大自然からのやさしい贈物を感じます。夜には星々も見守ってくれるようです。(明)
厳しい自然を生きぬいた人間の歴史が、犬ふぐりの季語で昇華されていると感じました。(博子)
関節を鳴らし始むる年用意 内村恭子
<福永法弘同人会会長選 入選句>
花種蒔く母は大地をとんとんと 永井玲子 (5点)
花種に、そして大地に、何か語りかけているのだろう。(法弘)
「とんとん」と母が大地を叩くところに、しっかり芽が出ますようにと大地に種を託す母の気持ちがよく出ている。(典子)
花の種を蒔く母を見て、大地をとんとんは素晴らしい、母なればこそだと思います。(孝子)
中七下五から「種をやさしく育ててね」と大地に願う母上の心が伝わってきます。(明)
「良い花が咲くように。」とのことでしょうか。(智子)
下五から、お母様のきれいな花を望む心が窺えます。(春野)
針箱に母のルーペや針供養 荒川勢津子 (4点)
年を取って目が悪くなると、針に糸を通すのが一苦労だ。針箱の中に母のルーペを見つけて、母の苦労を思いやっている。今日はまさに針供養。(法弘)
針の穴に糸を通すためのルーペであろうか。母の健気な針仕事、そして「針供養」、母を懐かしむ。(孝雄)
煎餅の音や匂ひや冬籠 上脇立哉 (3点)
ゆったりした時間の流れる、川の流れでいえば、瀬ではなく淵に淀んでいる気分。二回使った「や」の響きが小気味よいですね。(法弘)
分かりますね~コタツムリしてると、口と手がさみしくなる。硬い煎餅のバリバリという音としょうゆ味、思い出します。(志昴女)
大旦絵文字顔文字着信す 瀬尾柳匠 (3点)
スマホでラインなどやっていると、文章を書くよりも絵文字、顔文字のほうが断然早くて、しかも思いをやや大げさに伝えることができる。かくして、年賀の挨拶も、メールで済ます。(法弘)
新年の「アケオメ」メール。それが文章ではなく絵文字顔文字のメッセージだったのである。客観描写に徹したことで、今の時代を十七音で鋭く切り取っている。(武夫)
シーバスの硝子の屋根の都鳥 石川由紀子 (2点)
隅田川クルーズの一幕。業平が乗れば、どんな和歌を詠んだことだろうか。(法弘)
「硝子の屋根」がよいと思った。白い都鳥が透き通るガラス屋根にとまっている風景は寒々とする。(ユリ子)
言問ふことも無く、ガラス越しにスマホで撮して送受信するのが現代の恋?・・などと想起しました。(博子)
気分屋の夫を連れ出す梅日和 永井玲子 (2点)
夫は気分屋。長年連れ添っているから、どう持ち掛ければ、上手く外に連れ出すことができるか、手順はすっかりわかっているはずなのだが、やはり少し緊張する。でも梅日和の今日は成功。(法弘)
梅見でホットしたい気持ちがよく出ています(みつ子)
マスク顔竪穴住居より出づる 中村光男 (2点)
せっかく縄文時代に思いを馳せていたのに、竪穴住居から出てきたのは、ひげもじゃの縄文人ではなく、マスクをした現代人だったのだ。微苦笑を催す軽いユーモア。(法弘)
縄文遺跡を訪ねた寒い日にマスクの見学者に出会ったのだろうか、あるいは自分のことか、ユーモアのある一情景。(典子)
襲ひくる名のなき病霾ぐもり 長濱武夫 (2点)
霾は大陸からやってくる黄砂のことだから、この病は今猛威を振るう、武漢発コロナウイルスによる肺炎だろう。かつて猛威を振るったSARS、MERSも同じコロナ型ウィルスで、発症時には名前がなかったが、後に命名された。今回もきっと名前を持つことになるのだろうが、今はまだ名無しの病。(法弘)
蓋開かぬ会津蒔絵の雑煮椀 佐藤博子 (1点)
ぴったり密着してなかなか蓋の取れない会津蒔絵の豪華な椀。お正月の華やかな様子が目に浮かぶ。(法弘)
陸奥の産金遺跡雪解川 竹田正明
かつて砂金採りで栄えたみちのくのどこかの町。今は見る影もなく寂れて、雪解けのきれいな水が川を流れるばかり。(法弘)
<互選句>
空を蹴り海へ一声寒稽古 高橋紀美子 (9点)
空を蹴りがすごくいいと思います(みつ子)
空へエイツ海へオウと気合いを入れて空手の寒稽古ですね、若い頃を思い出します、(貞郎)
張り詰めた、引き締まった空気が伝わってきます。(美穂)
カッコいい句ですね(早・恵美子)
高千穂の杉の千年日脚伸ぶ 武井典子 (6点)
高千穂の千年杉は丈高く鬱蒼と茂っていますが、日脚伸ぶの季語のあしらひで林間の明るさが戻ってくる様子が見えてきます(宙)
大寒の雪になれない雨が降る 鹿目勘六 (5点)
寒の雨には本当は雪で降りたかった、という雨自身の嘆きが感じられます。雨では皆に憎まれる、雪なら歓迎の向きもあるでしょうに。(志昴女)
「雪になれない雨」が良いですね。(智子)
春めくやいちご学科といふ話 中村光男 (5点)
宇都宮にある県農業大学校で「いちご学科」が新設されるそうですが、新しい題材を上手く句に表現したと思います。(相・恵美子)
「いちご王国」栃木県の農業大学校に新設されるそうですね。(智子)
耳遠き夫へ伝言息白し 今井温子 (5点)
外出でもするのか、夫への伝言「お父さん・・・」が、微笑ましく白い息とともに浮かぶ。(孝雄)
自分も難聴者なので身につまされた(柳匠)
夫に大声で話している様子が息白しで良く出ています。(孝子)
ぼろ市の動かぬ手回し計算機 高橋紀美子 (4点)
ぼろ市の手回し計算機。それだけで時代を感じさせる詩。(ユリ子)
「インテリアに使えるかも」と思案顔の客。昭和の頃の懐かしい光景が見えてきます(宙)
大粒の涙こぼす子春の星 室 明 (4点)
一心に泣いている子と春の星の組み合わせに、泣く子への愛情が感じられる暖かい句。(典子)
打つほどに星屑増ゆる夜番の柝 内藤芳生 (4点)
梶井基次郎の「冬の日」懐かしく読み返しました。夜番の拆、打つほどにが良いです。(玲子)
闇夜に寒柝がひびく時、星が呼応しているように感じる。星屑増ゆるのイメージが良いですね。(ユリ子)
寒柝を打つほどに星屑が増えていったと表現したところがよいと思います。星屑が輝いている様子が見えて来ます。(相・恵美子)
黒猫とベンチを分かつ春隣 相沢恵美子 (4点)
分かつ・・・という表現がいいと思いました。ほのぼのと温かい句です。(夏江)
分かつとはいえ遠慮しつつ座っているのは人に違いないと思いました(律子)
暦より飛びたつ日日や寒雀 染葉三枝子 (4点)
月日の巡りの速さを中七で表現し、寒雀に春も目の前ですよと告げているようです。(明)
日が経つ速さを飛び立つと詠まれ、その日々は季語の寒雀からぬくもりを感じました(律子)
雀の飛立つ様に月日の流れの速さを感じられたところよく分かります(早・恵美子)
「飛び立つ日々」と「寒雀」の措辞が響き合つて、暦の数字の一つ一つが寒雀となり大空に飛んでゆくようです。(はま子)
落葉焚く炎育てるやうに焚く 森野美穂 (3点)
炎を育てるようにやさしく焚く難しさ、木々に対する優しさも出ていると思います。(孝子)
育てられた炎を鑑賞する楽しみがあるのかもしれません。「焚く」の繰り返しが効果的かどうかは微妙ですが、大胆な試みだと思いました。(順一)
朝市や洗ひ上げたる根白草 室 明 (3点)
息白しひとかたまりの猫五匹 原 道代 (3点)
寒くってひと塊りに寄り合っている五匹の猫、思わず抱きしめたくなりました(律子)
啓蟄やヒエログリフの壁に穴 竹田正明 (3点)
ヒエログラフが描かれた壁に穴を発見した詠み手は、その日が啓蟄であったことを思い出した。ヒエログリフの文字には確かにスカラベの絵文字があるが、啓蟄とは無関係である。穴があるためだけの連想に俳諧味がある。(武夫)
ヒエログリフ・・何か不思議な世界を感じ惹かれました。(美穂)
「ヒエログリフの壁に穴」の表現が意外性があり良いと思います。(相・恵美子)
ゆずり葉や朱墨のにじむ納経帳 原 道代 (3点)
大寒の歓声子規の野球場 武井悦子 (3点)
晩年来湖にぽつんと浮寝鳥 早川恵美子 (3点)
己を表徴しているような(芳生)
晩年が来てしまった。湖に一つ浮いたまま寝る水鳥が涙にくれて寝る身ようだとしたならば、小生も同感であります。晩年は孤独です。(芳彦)
はてしなく泳ぐ白熊藍の海 土屋 尚 (3点)
温暖化の影響で北極の氷が少なくなって白熊も棲みにくくなってきた。その様子が浮かんでくる句だ。(光男)
どこまで泳げば氷塊に行く着くのか?海原の一点となる白熊に、生き抜いて欲しいとの願いを感じました。(博子)
人日や歯科検診の知らせ来て 内村恭子 (2点)
象さんが大好きと言ふ毛糸帽 西脇はま子 (2点)
毛糸帽の子どもが動物園に来たが、寒いので象さんはいない。象さんが大好きなのとつぶやいた、と読みました(眞登美)。
待ち人の刻止めゆけり春の雪 佐藤律子 (2点)
麻の葉の模様の産着冬日向 中川手鞠 (2点)
赤ちゃん健やかに育ちますように!(早・恵美子)
神島へ渡る朱の橋寒怒涛 中嶋昌夫 (2点)
島に神事のために神主が朱の橋を渡る景が見える。寒怒涛の白波の音の迫力と色の対比が自然で佳い。(武夫)
踏み石に残りし雨の寒九かな 山口眞登美 (2点)
踏み石に残っている雨を寒九の雨(豊作の兆)としたところが良い。(芳彦)
五大陸の友と握手の御慶かな 森山ユリ子 (2点)
五大陸に友を作り仲良くすることが平和への一番大切な事だと思います、季語御慶が効いています、(貞郎)
縞馬の蹄のさきの冬すみれ 西脇はま子 (2点)
冬菫の可憐さが際立って見えてくるようだ。 (光男)
蹄の先の冬すみれ。緊張感があるような感じがしました。(順一)
春浅し二月堂へと竹送り 中嶋昌夫 (2点)
霧氷咲く無音の朝の青き空 鈴木 楓 (2点)
まだ人影も見えない時刻の澄んだ空気を感じます。(春野)
霧氷咲く朝の青い空に音がしないという。冬の寒い景気が浮かんで来て同感である。(芳彦)
新海苔のぱりっと父の遺影かな 早川恵美子 (2点)
ぱりっとでいかにも美味しそうな句ができました(柳匠)
「新海苔のぱりつと」は亡きお父様に対する最高の美称。一切を省略したことで、大きな詩情と感動が生まれたように思います。(はま子)
雲雀野の空一枚の続きをり 長濱武夫 (1点)
「空一枚」という表現に広い広い景が浮かびました。(美穂)
ホットレモン啜るレトロの喫茶店 相沢恵美子 (1点)
崖に立つ孤高のマリア寒椿 石川由紀子 (1点)
焚火して足の速さを言ひ合ひぬ 明隅礼子 (1点)
焚火を囲んでの自慢話、目に見えるようです(柳匠)
十人の家族揃ひて御慶かな 阿部 旭 (1点)
今時十人家族は珍しい。皆揃えば御慶である。 (光男)
走り根や松にサクラに寒の雨 岡崎志昴女 (1点)
植物は動けないから「ここ」に生きる。走り根を持つこともある。中七の「松と桜に」が趣を添える。(孝雄)
又一行名簿に斜線冬銀河 荒川勢津子 (1点)
暇無しや掻いつ潜りつ鳰の笛 松山芳彦 (1点)
特急の過ぎゆく風や春近し 野口日記 (1点)
一月も夢のごとくに過ぎゆけり 鹿目勘六 (1点)
年を取ると時間が早く過ぎると言います。私にも一月は早く過ぎ去りました。感慨に共感です。(志昴女)
着ぶくれてマリア・カラスに惚けをり 森山ユリ子 (1点)
猫足の机に凭(もた)れ去年今年 佐々 宙 (1点)
普通は腹や背中が凭れると思うので、足がと言うとちょっとイメージしにくいのですが、いいと思いました。(順一)
初春にスマホスタンプ飛ぶ軽さ 片山孝子 (1点)
約束は違えてならぬ雪女 森野美穂 (1点)
酔い醒めの六腑に滲みる寒の水 児島春野 (1点)
熱々の鰭酒は五臓六腑に染み渡るが酔い覚めの冷たい水は更に気持ちが良くすっきりします、季語寒の水が良いです、(貞郎)
狼の消へて秩父の二月逝く 浅井貞郎 (1点)
「狼の-----」上五だけで金子兜汰のことを告げる腕前はたいしたもの。同氏を悼むのはすべての俳人の気持ちに通じています(宙)
冬木の芽ハローと答ふ糸電話 榑林匠子 (1点)
温泉へ行くべしと言ふ女正月 嶋田夏江 (1点)
幻の如き振袖冬木立 窪田治美 (1点)
火の気なき春帆楼の丸火鉢 斎川玲奈 (1点)
注連飾る令和二年のオリンピア 原 豊 (1点)
冬の富士化粧上手に輝きて 齋藤みつ子 (1点)
絵葉書などでお馴染みの崇高な雪の富士。作者は雪化粧が上手な美人にたとえいる。こんな親しみやすい富士山もまた佳し。(はま子)
冬木立塔婆を燃やす竈の火 土屋香誉子 (1点)
以上
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