天為ネット句会報2020年4月

 

天為インターネット句会2020年4月分選句結果

(作者名の後ろの点は互選点)
 ※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。また互選句は高点句から順に、同点句は句稿番号順に並べました。
 ※一部インターネットで表示できる文字に置き換えております。ご了承ください。

  <福永法弘同人会会長選 特選句>

三匹の距離近づかぬ恋の猫           永井玲子    (1点)

メス一匹とオス二匹。メスはどちらとも決めかね、オスは互いに牽制しあって身動き取れず。(法弘)

何開くるためぞ鍵持つ春の夢          上脇立哉

人生の岐路、選択に迷う幾つかの扉がある。手にしている鍵ははたしてどの世界へ通じる扉のものなのか、不安だがワクワクする夢でもある。(法弘)

履歴書を記す夫なり春北斗           野口日記

転職だろうか、履歴書を書いている夫。北斗星は古来、時刻の測定や航海の指針として重要視された星座だ。新しい世界へ踏み出そうとする夫。春の北斗七星が行くべき針路を正しく示し、祝福している。(法弘)

  <福永法弘同人会会長選 入選句>

猫の子の草餅ほどに柔らかく          西脇はま子   (12点)

巧みな例え。(法弘)

草餅が効いていますね  (光男)

柔らかい、もふもふの触感を思い起こさせられました(耕)

お彼岸に草餅を作ったので、この感じ分かります(夏江)

小さい猫の子はほんとに草餅のようですね!(宙)

猫の子の直喩がぴったり。草の香りも感じてくるようです(博子)

中七に共鳴しました。どちらの「柔らかさ」も誰もが幼い日に味わった感覚ですね。懐かしく思いました。(明)

壺焼やぐらり国家の傾けり           早川恵美子   (5点)

国家は、国土と国民と統治の3つを構成要素とする。今の日本は、国土も国民も厳然と存するから、ぐらりと傾いたのは統治能力か。コロナに試される有事の統治能力。「や」と「けり」の切れ字を二つ使うよりも、「や」は「の」で良いように思う。(法弘)

コロナ禍や籠もれば窓に初蝶来         森山ユリ子   (3点)

籠ってばかりで溜まったストレスを初蝶が癒してくれる。(法弘)

作者はコロナ禍の自宅に籠もりながらも窓辺に来た初蝶に感動している。自らの命を大切にしつつ、小さな命への感動も忘れない心のゆとり。見倣いたい。(武夫)

晩学や白木蓮を昏れ残し            佐々 宙    (3点)

幕末の儒学者・佐藤一斎の教えの一節に「老いて学べば死して朽ちず」というのがある。生涯学習の勧め。(法弘)

年を取ってから何かの講義を受けた帰り道、白木蓮が暮れ残っていた。句意に深みを感じました。(一斉)

澄み渡った早春の空は一点の穢れもなく 凛とした白木蓮と晩学に敬意を表します  (温子)

亀鳴くや電子辞書より亀のこゑ         長濱武夫    (2点)

便利な電子辞書だが、なんと亀の鳴き声まで載っているらしい。はたしてどんな声なのだろう。(法弘)

ナンセンスなおかしみのある句。電子辞書やネットに頼る現代人の様子も見えてくるように思います。(典子)

ラリックのつばさの女神春の色         武井悦子    (2点)

ラリックの女神の後ろ髪は翼のようになびく、というか、あれは髪の毛ではなく翼なのだ。春の色とは、早春の風光る感じの春色ということだろう。ならばいっそのこと、季語を風光るにする手もあるかも。(法弘)

美しい句ですね。(智子)

近道の屋敷墓抜け春田打つ           室 明     (2点)

屋敷墓に眠るのはご先祖。そのご先祖から代々受け継がれてきた田を打ちに出かけていく。<生きかはり死にかはりして打つ田かな>(鬼城)の句を思わせる。(法弘)

桔梗の寺紋に水のかげろへり          斎川玲奈    (2点)

桔梗は土岐源氏の家紋で、その一族に連なる明智光秀も使った。今年の大河ドラマはその謀反人光秀。本能寺の変の描き方次第では、名誉回復も夢ではない。(法弘)

風光る水辺グラビア撮影中           内村恭子    (1点)

妖精のような少女の肢体が目に浮かぶ。(法弘)

まばゆく明るい景が鮮明に感じられます。(相・恵美子)

春雪に東村山音頭聴く             荒川勢津子

志村けんの歌声はもう聞くことができない。「コロナが憎い」と加藤茶が言った。(法弘)

春光や先ずは野崎孝訳             加茂智子

サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』の邦訳は、野崎孝と村上春樹のどっちの方が優れているか。読み比べてみるしかあるまい。先ずは野崎孝訳より。中七の字足らずは何とかならないだろうか。(法弘)

花屑にひとひら桃の真紅            土屋香誉子

細かい観察眼。(法弘)

繋ぐのは小指と小指梅の花           森野美穂

島倉千代子が歌っていたなぁ。<小指と小指絡ませて あなたと見ていた星の夜> 幸せ確認のしぐさ。他の指ではつなぎ難い。(法弘)

アスリートの腿の太さや木の芽張る       中村光男

芽吹かんとする木の芽の張りと、自転車やスケートの選手などの太腿の充実。巧みな対比。(法弘)

  <互選句>

ふらここのまだ揺れ残る日暮れ時        児島春野    (8点)

日が暮れて子ども達は慌てて帰りふらここだけが揺れている、そんな景が浮かび、揺れが余韻として響きました(律子)

中7の「まだ揺れ残る」の措辞が良いです、夕方の子供の帰った後の公園の静けさが浮かんできます、(貞郎)

茂吉の忌ドイツインクのうすき黒        土屋 尚    (7点)

茂吉はドイツ留学したのでしたね。うすき黒がいいです。 (光男)

今だにハンドメイドのドイツインクがあり、その一押しがグレーだということを知りました(律子)

春泥をよけ損ねたるケンケンパ         今井温子    (6点)

子供の様子がうまく表現できてると思います(みつ子)

ケンケンパ!懐かしい昭和の景です(博子)

今の子供たちもケンケンパをするのでしょうか。泥にまみれて遊んだ頃がありました。。。(明)

傾ぎつつ汐入り川の蜆舟            荒木那智子   (5点)

景に風情があってよいです。(相・恵美子)

調べと景の美しい一句だと思いました(博子)

鳥帰る誰に問はるることもなく         佐藤律子    (4点)

「問はるる」は「訪はるる」の意と解しましたが、作者はなぜ後者を選ばなかったのかは計りかねますが、「鳥帰る」の季語により、一人暮らしの寂しさがひしひしと伝わってきました。(一斉)

鳥は自由でいいですね。国境もないし、検疫もない  (光男)

さようなら、また来年。お別れの挨拶もないですが毎年の事。淡々と。(志昴女)

鳥は自由に行き来していますね。(智子)

佳き色の布で縫いけり春マスク         野口日記    (4点)

読んでいてほっとします。(智子)

コロナ大変ですよね。マスク手作り偉いですね。下手の長糸で、作ってます。どうぞお身体に気を付けて、乗り切ってくださいね(早・恵美子)

春寒や大聖堂のピエタ像            森山ユリ子   (4点)

無駄のない気持ちの良い句。(孝雄)

ピエタそのものに加え、底冷えする聖堂やこだまする靴音もが季語でよく響いていると感じました。(耕)。

ピエタ像のように抱くことも許されない今のコロナ禍の現状を想いました(律子)

春陽を浴びてのたりの牧の牛          原 豊     (3点)

春の海ではなく、牧場で春の陽を浴びている牛。「のたり」で牛が気持ちよく日差し浴びている光景が浮かびます。 (典子)

落人の平家の塚やねこやなぎ          嶋田夏江    (3点)

やわらかなねこやなぎが平家の落人を暖かく包んでいるよう。(ユリ子)

祖谷のあたりでしょうか。猫柳が平家の無念を癒しているかのよう(宙)

ふくいくと膨らむ山河草の餅          染葉三枝子   (3点)

臭覚、視覚、味覚を織り込んだ春らしい句ですね。(孝雄)

草餅が柔らかくて美味しそうです(早・恵美子)

季語がよく合っています。(相・恵美子)

初蝶の白さばかりを思ひけり          明隅礼子    (3点)

初蝶との出会いを楽しむ思い。(孝雄)

初蝶の初々しい白さが目に浮かびます。(ユリ子)

見た初蝶は白かった。その白さの輝きが作者の頭を離れない。まさに俳句的切り取りである。(武夫)

天平の甍に持統桜かな             今井温子    (3点)

うららかや何も書かない日記帳         佐藤律子    (3点)

折々に掛け替える茶掛け 只今は (今日無事)コロナウイルスの終息を願い一日一日の恙ない事を祈りつつ 掲句に共感するものです (温子)

春風と歩く二千歩ポストまで          片山孝子    (3点)

ポストまで2000歩ちょっとありますが散歩と思って(みつ子)

山桜だんだん畑に一農婦            荒木那智子   (3点)

だんだん畑は一つ一つが狭いので、農婦が一人で面倒を見られるのでしょう。春になって畑にいることが増え、そこに山桜が咲いている。いい景色です。(眞登美)

春到来の農婦の喜びが伝わってきます(宙)

一幅の日本画を眺めている感覚です。山桜の薄桃色と一斉に芽吹き始めた段々畑の薄緑、農婦の紺絣がくっきりと浮かびます。(明)

地虫出づ笛の音響くハーメールン        竹田正明    (2点)

地虫出づ、とハーメールンの笛の音の取り合わせを楽しく感じました。(美穂)

日暮まで陽のさしてゐる彼岸道         山口眞登美   (2点)

お彼岸を大切に過ごされておられる・・そんな風に私には感じられました。(美穂)

花曇駅前書店しづもれる            室 明     (2点)

静かな、しんとした佇まいを感じます。花曇と書店の風景が浮かびます。(美穂)

草餅や夫の遺影は微笑みて           片山孝子    (2点)

馬放つ牧に朝日や木の芽時           柳 一斉    (2点)

鳶の笛音なく寄せる春の海           阿部 旭    (2点)

中七の「音なく寄せる」の措辞によって「鳶の笛」と「春の海」の取り合わせが見事に生かされている、(貞郎)

朧夜や綱渡りするハイヒール          森野美穂    (2点)

ハイヒールの女性はこれからどうするのだろうと想像を掻き立てられました。(典子)

憂きことも嬉しきことも弥生果つ        内藤芳生    (2点)

人生百年陽気に生きよと春の風         土田栄一    (2点)

春の風がこうならいいですね(みつ子)

平穏な日々の尊さなごり雪           荒川勢津子   (2点)

春の雪ひとひら時計動き出す          明隅礼子    (2点)

一片の春の雪が時計を動かした。そこに「詩」を感じました。(一斉)

時計の動が春の雪と交響して居ると思いました。(順一)

壺焼に弾む言の葉島の凪            染葉三枝子   (2点)

熱い壺焼に触れ指も言葉も弾む御様子、楽しそうです。(春野)

松島の松に降りつむ春の雪           西脇はま子   (2点)

朝粥に落とす卵や仏生会            柳 一斉    (2点)

四月八日は仏生会この日の朝粥に新鮮な卵を落とす、その黄身の艶やかさは釈迦の降誕を祝しているようです、(貞郎)

陽の差して桜隠しの透きとほる         土屋 尚    (1点)

自転車の衛士のスカートうららけし       佐藤博子    (1点)

自転車と衛士の取り合わせが春らしくて良いと思います。(ユリ子)

鉈彫の仏匂へり山躑躅             早川恵美子   (1点)

ケアマネに電話を入れる昼霞          窪田治美    (1点)

ケアーマネージャーに電話を入れると言う深刻な時に霞が。昼間の霞と言うのも独特だと思いました。(順一)

二度聞こえたり鶯のおさな声          上脇立哉    (1点)

ほろ酔ふて志野茶碗酒躑躅燃ゆ         原 道代    (1点)

ごほうびにそつと手に取る春苺         垣内孝雄    (1点)

優しいお母さん(おばあちゃま?)のお買い物。(春野)

アンデスの帽子似合ふ児燕来る         榑林匠子    (1点)

春潮の岸辺に鉄路沖に船            竹田正明    (1点)

コロナ禍の列島桜隠しかな           中川手鞠    (1点)

3月29日、列島に桜隠しの雪が降り積もった。コロナ禍で花見も自粛の昨今であるが、コロナ禍の「の」が中七、下五を包むように掛かり、雪だけではない桜隠しへと思いを広げている。(武夫)

パレットに黄色い絵具春日差          垣内孝雄    (1点)

夜桜や染め残したる大庇            鉄谷 耕    (1点)

染め残しの大庇とは想像の余地があり、夜桜を魅力的なものにしていると思いました。(順一)

蕾から初花となるまでの日々          鹿目勘六    (1点)

父母をらぬ卒業式に立ちにけり         土屋香誉子   (1点)

リラの花おらんださんが通る坂         斎川玲奈    (1点)

バタフライの唄が聞こえてくるような気がします(早・恵美子)

剣鋒に朝の光や落花舞ふ            浅井貞郎    (1点)

花吹雪電車の通る美容室            永井玲子    (1点)

雲一つ立つ坂の上菜の花忌           佐々 宙    (1点)

いにしへの人の遊びの相撲草          中川手鞠    (1点)

グラフィティ見事に地下道は朧         内村恭子    (1点)

達磨船潜る鉄橋江の春             鈴木 楓    (1点)

指先で触るる地獄のかまのふた         佐藤博子    (1点)

ウ~ン。地獄の釜の蓋を触る、のはちょっと怖いな~でも触ってみたいな~(志昴女)

春の雪中途半端な我のごと           山根眞五    (1点)

ウイルスに注意と受胎告知の日         小髙久丹子   (1点)

春北風や濤砕け散る親不知           阿部 旭    (1点)

石垣は伊賀の山中はなの風           妹尾茂喜    (1点)

朧夜の人工呼吸のラ音かな           長濱武夫    (1点)

これは少し不気味、、、、重症患者の人工呼吸器がラ音で動く病室に誰を見つめているのでしょうか。(志昴女)

以上

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