<日原 傳編集顧問選 特選句>
通草よりひと雨遅れ郁子の花 榑林匠子
「通草と郁子はともにアケビ科の蔓性植物。似ている点が多いが、郁子は常緑の由。この句は「ひと雨遅れ」という措辞の使い方が巧みである。読み手に「通草の花」「雨」「郁子の花」の景を重層化して想起させるべく働いている(傳)。
通草と郁子の花時の違いを、次の雨が降る間と見極めた観察眼は見事です。(はま子)
観察眼が素晴らしいです(早・恵美子) ・恭子
籠城の令和二年の春惜しむ 佐藤博子
新型コロナウイルス蔓延下の心情を詠んだ句であろう。在宅を求められ、移動の自粛を余儀なくされる事態を「籠城」という比喩で示した。「令和二年」という措辞は時間軸のなかで現在を見つめる視座を提供している(傳)。
籠城とはよく云ったものである。確かにコロナウイルスに包囲され、STAY HOMEと云われ、令和二年の春は花見もできず、家居を強いられた。時事句は駄目と云われることも多いが、今の時代を詠むことも俳句だと思う。(武夫) ・勢津子
<日原 傳編集顧問選 入選句>
夏立てり甲斐の遠嶺を真帆として 早川恵美子
立夏の晴れ渡る秩父の嶺々が見えてきました。(明)
光景が目に浮かぶようです。(智子)
「遠嶺を真帆として」・・素敵な表現です。(博子) ・悦子・旭・紀美子・三枝子
春夕焼風になるまで子は走る 斎川玲奈
子供は風の子とはよく言ったもの今は自由に動けないので気の毒だけど(みつ子) ・手鞠・春野・三枝子・香誉子・温子
鉛筆の芯やはらかに芒種かな 西脇はま子
始め何故芒種なのだろうかと疑問に思った。鈍い私は三度目に読み返し、ようやく芒種が禾のある穀物を播く時を表す季語だと思いだした。なるほど鉛筆の芯やはらかにである。(武夫)
季語がよく合っており感覚的に詠んでいます。(相・恵美子) ・玲奈・温子
存へて今年の花を見てゐたり 内藤芳生
久丹子・那智子・勘六
遠嶺晴れ桃花耀ふ甲斐に入る 内藤芳生
遙かな山々、美しい桃の花、作者の清々しい気持ちがよく表われていると思いました。旅心を誘われますね。(ユリ子) ・楓・三枝子
法螺の音に出羽三山や若葉ふく 阿部 旭
雪深き出羽三山にも若葉!!初夏の到来の喜びがあふれています。(宙)
「法螺の音」と「出羽三山」の取り合わせが良い、季語「若葉ふく」が効いている、(貞郎) ・悦子
残雪や神と崇めし伯耆富士 瀬尾柳匠
霊峰富士に匹敵する山なのかもしれません、大山は。(順一)
はつなつや肥後は火の国水の国 室 明
夏近し縁の下より猫の顔 山口眞登美
みちのくに一目千本桜かな 山根眞五
<互選句>
よく笑ふ母娘でありし麦こがし 佐々 宙
幸せそうな母娘のすがたがみえる (光男)
この句に好感が持て戴いた。疑問なのは「ありし」という過去形である。もしかして、母娘のどちらか、あるいは二人とも亡くなられたのであろうか。そこが気になって仕方がない。(武夫)
麦こがしは笑うと上手く食べられない。それがまた可笑しいと笑う母娘が楽しそう。(匠子) ・由紀子・楓・眞登美・那智子・尚
長考の後の一手や春の雷 明隅礼子
囲碁或いは将棋の長考か?この一手は春雷のように切れ味のある妙手であったに違いない。(眞五)
考えた末に思いついた一手と音だけ不意に鳴る遠雷がよく響き合っていると考えます(柳匠)
一手と「春の雷」、将棋なら「王手」の一手だろう。(孝雄)
春雷と長考の一手がマッチングしていると思います。(孝子) ・玲奈・日記・治美
蒲公英はベースの印草野球 染葉三枝子
まさしく草野球らしいですね(みつ子)
春らしい目印を見つけて試合開始ですね。(春野)
いかにも草野球らしい。(匠子)
ベースの印とは考えましたね。(順一) ・恭子・手鞠
足音で分かる末っ子桜餅 野口日記
然もありなん、ですね。(眞五)
足音で解るんだから家族への想いの強さを感じます(柳匠) ・由紀子・芳生・茂喜
朧夜や古き口伝の子守唄 石川由紀子
眠りを誘う子守唄の、空気への境界のない溶け方とでもいうような感じが季語に添っていると思いました(耕)
朧夜・口伝・子守歌が相応じている句で、深みを感じる。(孝雄) ・芳生・楓・那智子
蚕豆のやうに子を乗す乳母車 染葉三枝子
幼子の艶々しさが目に浮かびます。莢に抱かれた蚕豆に譬えたところが何とも言えない。(哲雄)
立夏というキリリとした節気なのに、身を委ねるしかない己が無力さ。季語との対照を面白く拝読しました(耕)
蚕豆は御包みにくるまった嬰児そのもの。乳母車の中ですやすや眠っているのでしょう。(はま子) ・立哉
コロナ禍の里に燕の宙返り 竹田正明
燕の宙返りを見つめる作者のしみじみとした気持ちが良く出ています。(孝子)
籠もり生活の窮屈な日常の中、燕の自由奔放は憧れですね。(ユリ子) ・茂喜・夏江
老犬に歩調を合はせリラの径 中川手鞠
老犬を労わりながら散歩する様子が手に取るようです。「道」でなく「径」が良いと思います。(哲雄) ・道代・玲奈・治美
豆飯やゆふべの風に暑の兆 金山哲雄
豆飯とゆふべの風の関係に微妙なものを感じました(眞登美)。
こんな夕飯時が懐かしいです。豆飯に暑の兆が良いです。(玲子)
ちょうど豆飯をいただく頃に季節そのものの移ろいを感じる、同感です(律子) ・紀美子
湖風や網にきらめく初諸子 垣内孝雄
諸子の煌めいてゐる景色がみえる (光男)
とても綺麗な句ですね。(志昴女) ・芳生・立哉
ブランコの括られてゐるこどもの日 長濱武夫
コロナ禍の子供たちの心に深く思いを寄せる作者の心情が伝わります。(明) 勘六・尚・香誉子
常ならぬ世に咲く花の白さかな 鈴木 楓
コロナも自然なら白花も自然。文字通りの無常観を白という色が示しているように思いました(耕)
この時期、様々な白い花が目を楽しませてくれ、心洗われるが、コロナ禍の今年は特に「白さ」が目に沁みるとの作者に共感を覚えます。(明) ・恭子・治美
異人墓地名も薄れゐて花エリカ 森山ユリ子
季語の花エリカが効いている (光男)
エリカは別名ヒース、イギリスで咲いていたので、異人墓地は海外と思う。墓石の名は薄れているがエリカは昔と変わらずに咲いている。(芳彦) ・眞登美・礼子
クローバー介護施設の杭が建ち 今井温子
立哉・茂喜・勢津子・日記
混沌に身を委ねたる立夏かな 武井悦子
旭・紀美子・勢津子
乙張の少なき日日や更衣 佐藤律子
コロナウイルスの感染防止のために乙張のある生活ができなくなった毎日にせめて衣更えでもして気分を変えようという気持ちが分る。(芳彦)
コロナ禍の日々をめりはりの少ない日々とさらりを仰れることが素晴らしい余裕です!こちらテレの勉強で頭がパンクです(早・恵美子) ・久丹子
残る花懐紙に包む夕ごころ 早川恵美子
道代・日記・礼子
花すみれ風はおのずと低く吹き 加茂智子
おのずと低くが巧みです(柳匠) ・正明・尚
花筏かつて染物すすぐ川 荒木那智子
神田川の西早稲田の界隈も昔染め物工場がありました。友人宅もそうでした。(志昴女)
日本の懐かしい文化を思い出し、花筏に余情を感じました。(博子) ・玲子
春愁やつくづくカミュは偉大なり 土屋 尚
春愁のコロナウイルス渦はフランスの作家・アルベール・カミュが書いた小説「ペスト」を思い浮かべる。(芳彦)
本当にそのとおりですね。(智子) ・正明
蟻穴を出て人の声まだ知らず 明隅礼子
陽の中を歩く蟻のほんわかした詩情だと思いましたが、昨今の世情からシュールな世界をも想像しました。(博子) ・温子
アルバムに二十歳の自分シクラメン 瀬尾柳匠
アルバムを見ている情景の中のシクラメン・・そんな光景が浮かびました(美穂) ・手鞠
自転車の停まりしところ潮干狩 荒木那智子
うちの近くでは”車”ですが、潮干狩りにきていますね(夏江)
「自転車が停まっているけどなんだろう・・そうか!潮干狩り」そんな微笑みを感じる句・・いいなぁと思いました。(美穂)
待ちかねし筍出づといふ知らせ 榑林匠子
待ってましたとばかりに心躍る様が浮かびました(律子)
筍を今か今かと待つ気持ちが伝わってきました。(美穂)
陽炎や昔線路のありし道 中村光男
”昔線路”の人々の暮らしを忍んで----。(宙) ・由紀子
針仕事匂ひのこもる春時雨 窪田治美
絹、染料、こての匂い---心地よい香りですね。(宙) ・礼子
ぼうたんの咲いて散りゆく荒るる寺 小髙久丹子
荒れた寺に誰に知られることもなく散る花、ぼうたんという仮名表記にも惹かれます(律子) ・道代
花は葉にお地蔵さんもマスクかな 森山ユリ子
優しい人がお地蔵さんにマスクご時世での様子がよくわかる(みつ子)・玲子
さくら貝寄せては返す波に乗り 土田栄一
悦子
五月雨にコロナの猛威底知れず 松山芳彦
正明
雨音のふいと途絶えて春の雷 児島春野
「雨音」と「春の雷」の取り合わせが良い、中七の「ふいと途絶えて」の措辞が生きてくる、(貞郎)
春の夜父は機械につながれて 加茂智子
父君は集中治療室に入れられてコロナと闘って見えるのでしょう、一日も早いご回復を祈っています(貞郎)
手のひらのくるりくるくる花吹雪 永井玲子
花吹雪は華やかでもあり、もの悲しくもあります。(眞五)
あの子規も寝床で食べし柏餅 山根眞五
「あの」と言う言い方がユーモラスだと思いました。(順一)
江戸地図の坂に春雨絹の雨 鈴木 楓
江戸地図で探索でもしているのか、江戸・坂・雨の取り合わせが良い。(孝雄)
甲高きチンドン屋の笛春の昼 中村光男
物憂い春昼にチンドン屋の笛、という取り合わせが面白いですね。(ユリ子)
満開の藤揺れ伝言ゲームかな 室 明
匠子
ふるさとの風に応ふる豆の花 長濱武夫
孝子
積ん読の崩れて今は春の宵 上脇立哉
自粛の最中、崩れたのを契機に読み始められたのではと思います。(春野)
水平はどこまでも海初夏の空 齋藤みつ子
美しい句ですね。(智子)
生涯をお手伝ひさん花青木 土屋香誉子
主婦業はお手伝いさんなんだと気が付きました。また生涯お手伝いさんであることは健康の証であることも。諧謔のある句ですね。(はま子)
「疫病退散」看板も立て春茅の輪 児島春野
旭
蚕豆の花蝶となり羽搏けり 西脇はま子
蚕豆の花は正に蝶の飛んでいる姿です。(相・恵美子)
葉に戻る手揉新茶の針一本 石川由紀子
じッと観察しているとよくわかりますね。ゆっくりとお茶の葉が広がって一枚の葉に。新茶の季節です。(志昴女)
表札三枚女系の家に春暑し 岡崎志昴女
「表札三枚」の上五が抜群に良いと思います。(哲雄)
新コロナ日常を変へ四月尽 荒川勢津子
コロナウイルスの蔓延で生活が一変してしまったことを上手く詠んでいます。(相・恵美子)
今日の日の散歩で貰ふ春野菜 松山芳彦
香誉子
雲雀東風野に憩ふ人駈ける人 相沢恵美子
今の世相を気持ちよく表現していると思います(夏江)
デッサンに程よき傾ぎこの栄螺 内村恭子
良い絵ができますように!(早・恵美子)
春休み前も後ろも春休み 中川手鞠
久丹子
大学の池に蝌蚪群る今もまた 上脇立哉
勘六
以上
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