天為ネット句会報2020年7月

 

天為インターネット句会2020年7月分選句結果

(作者名の後ろの点は互選点)
 ※特選句、入選句及び互選句は高点句から順に、同点句は句稿番号順に並べました。
 ※一部インターネットで表示できる文字に置き換えております。ご了承ください。


   <日原 傳編集顧問選 特選句>

鱧食うてコンチキチンの音恋し         森野美穂

「コンチキチン」は祇園祭のお囃子の音。鱧料理を食べながら京都の祇園祭に思いを馳せているというのが普通の読みになるだろうが、今年の句とすると別の読みが出てくる。今年はコロナウイルス蔓延の影響で、祇園祭の山鉾巡行は中止になってしまった。疫災の除去を願ってはじまった祭礼が疫病の流布によって中止されるという皮肉。京都の街ではお囃子を練習する音さえ消えてしまった。それを嘆いた時事句になろうか(傳)。

巡行は中止となったけれども、疫病退散の神事にあやかる気持ちに共感です。鱧が効いていると思います。(博子)

勘六

こほり水百万遍に市立ちて           瀬尾柳匠

「百万遍」は京都府左京区にある知恩寺の異称。元弘元年(一三三一)の疫病流行時に知恩寺八世善阿上人が百万遍念仏を唱えたところ疫病が収まったことに由来するという。「百万遍」は寺の周辺地域の名称ともなっている。知恩寺の広い境内に立つ市で供される「こほり水」。「百万遍」と「こほり水」という言葉の出会いが面白い(傳)。

泰山木、耕

   <日原 傳編集顧問選 入選句>

半夏生せせらぎに沿ふ通学路          榑林匠子

とても爽やかな空気を感じる気持ちの良い句だと思いました。(美穂)       

郷愁を誘われます。(泰山木)

半夏生が咲き明るくなった通学路の様子が見えて来てよいです。(相・恵美子)

恭子、治美

雀の子朝の光を奪ひ合ふ            今井温子

雀の子の朝の元気が表されて、良いと思う(芳彦)

雀の子の可愛い躍動が、朝の光の中、一日の始まりの希望を感じさせる。(ユリ子)

立哉、孝子

母われを忘れ殻閉づ蝸牛            原 道代

私も経験しました。切ないです。お母様との時を大切にゆっくり過ごして下さい。(玲子)

似たような経験をした者には、身につまされるものがあります。(てつお)

玲奈、勘六

糸杉の天へ真っ直ぐ巣立鳥           永井玲子

巣立鳥の勢いよく飛んでゆく様子がよいです。(相・恵美子)

由紀子、勢津子

奥深き京の仕舞屋葭障子            室  明

芳生、眞登美、楓

坪庭を囲む町家の青簾             龍野ひろし

京の町屋の涼し気な風情がいいですね。(泰山木)

旭、香誉子

田沢湖の姫の伝説夕焼雲            竹田正明

悦子

塩梅をいふ母は亡し梅漬ける          てつお

母を懐かしみながら梅を漬ける、きっと美味しい梅が漬かるでしょう「貞郎」

夏の海地球岬の風が鳴る            妹尾茂喜

地球岬は地名ではなくこの星の、と解釈しました。(違っていたら御免なさい)爽やかで大きい風を詠んだと思いました。(志昴女)

梅雨清浄被爆マリアの眼の窪み         鈴木 楓

    <互選句>

黙るのも嘘のうちなり水中花          武井典子

はい、そうです。都合が悪い時は”ご推察にお任せします”間違っていても言わない、十分嘘つきです。(志昴女)

何か反論すれば又それ以上に・・・水中花がうまく言い当てたと思いました(みつ子)

立哉、勢津子、紀美子、玲奈、日記

通学の子に熟れてゆく青葡萄          てつお

やっと通学する毎日が戻り通学路には子らを見守るようにもう葡萄が熟れてゆく、いい景だと思いました(律子)

紀美子、茂喜、日記、尚

母の忌の月の小舟に盛る苺           早川恵美子

母の忌に月の小舟に苺を盛るなどやさしさが滲み出ていて、ロマンチック(芳彦)

きれいな句です。月の小舟に持った赤いイチゴ、美しい。天上界で母上がつまむでしょう。(志昴女)

母上が好きだった苺を月の小舟に盛って忌を修する、素晴らしい一句ですね「貞郎」

悦子、日記

斑猫のえやみの雨の闇深し           松山芳彦

疫病みをやさしく「えやみ」と表記し(涙を感じさせる)雨と繋げた処が佳い。上五と下五は「斑猫の闇深し」と繋がり、これだけでも詩になる。道をしへとも云う斑猫という季語には、作者の願いが感じられる。(武夫)

いまは闇が深くとも、雨はいつかは上がるでしょう。季語に希望を感じます。(博子)

世界中を恐怖に陥れている新コロナ、早く解決の道筋が見つかりますようにと祈るばかりです。「みちおしえ」を上手に使って時事俳句となさったことに共鳴しました。(明)

由紀子、正明

雨雲を四股に掴みてあめんぼう         浅井貞郎

水面の様子を雨雲と喩えたことで一句が生きたかと(柳匠)

中七の表現が面白いです。(相・恵美子)

道代、春野、匠子

水無月の沓脱石の凹みかな           室  明

炎暑の候の意味のない石、しかし、それが沓脱石であることから、その凹みにその沓脱石を踏んでいった人達を思うという句と読みました。(眞登美)

フォーカスを「の」で絞っていく様がいいなと思いました(耕)

史子、那智子、匠子

チェス置いて始まる島の夏時間         内村恭子

都会の喧騒を離れた喜びが感じられる。人気の少ない島だろう。そこにチェスの盤を置いて、ひとり過去の名対局を並べる。豊かな島の時間を迎える。作者の人柄がよく伝わって来る。(武夫)

のんびりとした避暑の時間始まり(ひろし)

遠い昔にあこがれてた外国映画のワンシーンを思いました(温子)

芳生

夏蝶に呼び止められて風になる         三好万記子

弱々しく風に舞う夏の蝶を見ていると、つい自分も風になったような気分になるのでしょうか。(てつお)

俳人ならではの素晴らしい感性 (温子)

勢津子、久丹子

代掻いて天平の塔近づける           内藤芳生

代田に映った塔であろうか、農耕民族の今も続く習いを「天平の塔近づける」で讃えている。(孝雄)

代掻きを終えた田に、はからずも塔の影が映っている。一仕事終えた人の喜びが見えてきます。(明)

玲奈、勘六

いっせいに海を向く墓夏来る          嶋田夏江

海に面した墓域の景であろうが、3・11やイースター島のモアイを思い浮かべる。(孝雄)

墓地の暗さがなく海の広がりの景が大きい。(ユリ子)

史子、礼子

一睡もせぬ草花の白夜かな           武井典子

正明、耕、尚、はま子

同伴の歩行訓練合歓の花            荒川勢津子

合歓の花のやさしい雰囲気と歩行訓練のリズムがよく会っていると思います(ユリ子)

悦子、尚

柿の花だれだれさんのおかあさん        長濱武夫

親しくお付き合いをしておられる幼稚園のお仲間でしょうか 微笑ましく思い頂きました (温子)

小さなお子さんとお母さんの会話が聞こえてくるよう。(匠子)

はま子

悪友は三人でよし夏料理            泰山木

皆集まりて一杯やりますか(ひろし)

程よい距離で楽しくお喋りですね。(春野)

草陰に小さき風呼ぶねじればな         阿部 旭

ねじりばなの捻れているのが風を呼ぶというのがいいと思いました。(典子)

みつ子、那智子

風死すや街にあふるる黒マスク         佐藤律子

黒マスクが、堪え難い暑さ、蒸し蒸し感をさらに強調。(手鞠)

史子、楓

青時雨真葛原の風の後             小髙久丹子

美しい調べだと思います。真葛原に涼しさも感じました。(博子)

きれいな季題を教えて頂きました。(春野)

治美

かな文字の金の恋文蛍の夜           石川由紀子

眞登美、紀美子、那智子

梅雨ごもりして寅さんの旅鞄          三好万記子

寅さんの旅鞄に託す自らの旅ごころ・・そんな風にも感じました。(美穂)

みつ子、香誉子

口をつく言葉ぴりりと夏大根          児島春野

夏大根は辛口で、それがまた良し(柳匠)

日常の一場面と夏大根の組み合わせがうまいと思いました。(典子)

孝子

蛍待つ蛍のにほひ沈下橋            原 道代

蛍待っていると蛍の匂ひがしてきたという沈下橋、蛍を待つ心が表現されて良いと思う。(芳彦)

四万十川の蛍幻想的な世界(ひろし)

万記子

天平の歴史小説茹小豆             木村史子

茹小豆の季語が抜群! (手鞠)

茂喜

二枚ほど夏のマスクを賜りぬ          鹿目勘六

コロナ禍に必要な夏のマスク、国より届く2枚のマスク、を「賜りぬ」と詠う作者の心情を思う。(孝雄)

時事的な話題ですが、ユーモアに解消する余裕がいいと思いました。(順一)

ひとり居のふるるゼリーとする会話       中川手鞠

ふるるゼリーの表現に、喜怒哀楽の受け答えを想像しておもしろく思いました(律子)

ユーモアとペーソスのある句。(典子)

大毛虫小毛虫進み交わらず           上脇立哉

恭子、香誉子

庭仕事終え一口の新茶かな           片山孝子

新茶の季節感と爽快感を感じます。(眞五)

仕事が労われほっと一息と言う感じがいいと思いました。(順一)

キリンレモン飲んで大暑の日差し受く      瀬尾柳匠

久丹子、万記子

無観客ナイターミット鳴りにけり        土屋尚

静けさの中、鳴るミット・・その音が感じられる句だと思いました。(美穂)

無観客の球場に響くミットの音は新たな感動を呼びますね、季語「ナイター」が動かない、(貞郎)

日照雨して梅雨の雫の光堂           浅井貞郎

通り雨が上がって、きらきらと雫を輝かせている光堂の姿が美しい。(明)

礼子

若冲の鶏鳴なりや梅雨の朝           武井悦子

礼子

さりげなくつまむ試食のさくらんぼ       垣内孝雄

試食は、小さな勇気が必要ですが、さくらんぼなら私もさりげなく手を出すでしょう。(眞五)

くるぶしの痩せて昼寝の父に似る        加茂智子

はま子

夏の雲八百枚の棚田かな            榑林匠子

八百枚という具体的な表現で、広々とした棚田の光景が目に浮かびます。(てつお)

街白夜寄木細工のボールペン          髙橋紀美子

治美

世界線無数に引かれ蝉生る           木村史子

四次元空間にプロットされる質点は、その速度に従い無数の線を描くらしい。抽象的な措辞を現実と結びつけるのは蝉生るという季語だ。世界線の無数を取り合せ、時空を超えた生命誕生の神秘と命の大切さを描き出している。(武夫)

円卓の上座下座や金魚鉢            明隅礼子

緊張して居る金魚を空想してしまいました。(順一)

十薬は地より五寸や谷の水           鉄谷耕

地より五寸ほどの十薬を谷の水が触れてゆく。癒やされます。(玲子)

三十年会えぬままなり星祭           齋藤みつ子

会いたいお相手はどなたでしょう?読み手によって、またその時の気分によっていかようにも解することのできる句だと思います(律子)

松の樹影や夏の霧               妹尾茂喜

正明

丸刈りのやうな夏野や雲の影          垣内孝雄

丸刈りの措辞が夏野をよく表している(柳匠)

北浜の川風青し夏衣              野口日記

エルメスのスカーフに馬夏走る         森山ユリ子

爽やかな夏の感じが出ている (光男)

六月の雨中に絵本カレンダー          窪田治美

立哉

囲炉裏ある英世生家の五月闇          鹿目勘六

五月闇が効いていると思う (光男)

夕景が綺麗ですよと西日席           泰山木

万記子

観覧車青水無月の月のそば           中川手鞠

由紀子

ポーカーの笑み隠さむとソーダ水        内村恭子

麻雀も良い手でテンパると人により癖があり、満面の笑み、煙草を付けるなど色々でなかなかポーカーフェイスと言う訳には行きません。(眞五)

形代にいの一番に夫の名を           西脇はま子

芳生

ドローンかと見ゆ天井の扇風機         佐々 宙

意外性のある比喩が面白い (光男)

喰みこぼす赤き実梅雨の半ばなる        山口眞登美

恭子

垂髪の平安美人桐の花             竹田正明

万緑や寺紋は平家揚羽蝶            荒木那智子

玲子

戻り梅雨どんでん返しのサスペンス       中村光男

孝子

梅雨晴間表情筋なき猫嗤ふ           佐藤律子

毎日続く鬱陶しい雨。その晴れ間に人知れずニッカリ嗤う猫。「嗤う」が気まぐれ猫の特性をよく捉えていると思います。(手鞠)

人立てばオブジェのやうに蟇          相沢恵美子

久丹子

杉戸絵の虎におびえる夏神楽          斎川玲奈

道代

梅雨籠り木椅子に沈む本の虫          鈴木 楓

道代

緑陰の余韻流るる生田川            松山芳彦

茂喜

以上

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