天為ネット句会報2021年2月

 

天為インターネット句会2021年2月分選句結果

※特選句、入選句内の順番は互選点(選句者名を記載しています)、句稿番号の順。
 また互選句は句稿番号順に並べております。
※一部インターネットで表示できる文字に置き換えております。ご了承ください。

<福永法弘同人会会長選 特選句>

豆撒いて鬼の齢を訊く童            合田憲史

節分に齢の数だけ豆を食べると健康になるという。童は少ししか食べられないが、鬼役の爺様にはとても食べきれない数になる。年寄りを羨んでいるのだ。(法弘)

可愛らしい様子の、知りたがりやさんの姿が浮かびました(美穂)

豆撒きの後、年の数だけ豆を食べた幼き日を思い出しました。童の問いに鬼は何と答えたのでしょう?(律子)

手鞠・悦子

毛布抱く夜を壊さぬやうに抱く         森野美穂

良い夢を見ているのだろうか、それとも良き思い出に浸っているのだろうか。「夜を壊さぬやう」表現が見事。(法弘)

夜を壊さぬように・・の措辞に惹かれました(博子)

万記子・礼子

地に低き幸せありて寒牡丹           齋藤みつ子

<地の涯に倖せありと来しが雪>(細谷源二)とか、<山のあなたの空遠く「幸」住むと人のいふ>(カールブッセ)などと、幸せを遠くに求める詩人・俳人は多いが、「足元にあるんだよ、ほら、足元を見てごらん」と寒牡丹を指さす。(法弘)

恭子・楓


<福永法弘同人会会長選 入選句>

古書店の背表紙固き余寒かな          小髙久丹子

立派な装丁の本が並ぶ。客はいない。余寒の季語が合う。(法弘)

取り合わせがいいです(悠久)

由緒ある古書店でしょうか、懐かしい気分です。(泰山木)

古本の背表紙の固さに季語がピッタリ!(智子)

京の寺町通には古書店が立ち並び時間潰しに(ごめんなさい)店番のおじさんの目を気にしながら底冷えのする夕方襟を掻き合わせた日の事を思い起こしました  (温子)

那智子・玲奈・手鞠・史子

六地蔵揃うて赤きマスクかな          上脇立哉

コロナ以前なら赤い前垂れ。だがコロナ禍の今、お地蔵さまにもマスク。それも赤いマスク。赤は魔除けの色でもある。(法弘)

衆生の労苦からの脱却を願う「揃うて赤き」の表現が素晴らしい。(憲史)

勘六・香誉子・手鞠

如月の俳誌は薄し師の逝きし          鹿目勘六

「天為」2月号の薄さは身に沁みる。(法弘)

簡潔で分かりやすい、同じ思いです。俳誌表紙のありし日の有馬先生の写真にしばし見入っていました。(孝子)

志昴女・紀美子

三代のかしわ手揃ふ初御空           金子正治

一族の隆々たる栄え。(法弘)

かしわ手揃ふが初詣の景をよく表していると感じました(柳匠)

家族として、こうありたいと思います(美穂)

立哉

宝船次の港へ急ぎをり             瀬尾柳匠

もっとゆっくり我が家に、私の枕の下にとどまっていてくれればいいのに。サンタクロースでもあるまいに、急いで出ていくことはありません。(法弘)

使命感溢れる宝船ですね。面白い。(泰山木)

面白い把握!サンタクロースみたい!!(早・恵美子)

万記子

冴返る鴨居にのこる刀傷            荒木那智子

幕末の刃傷沙汰の跡であろうか。人切り包丁を下げて侍が歩き回っていた時代があったと思うとぞっとする。(法弘)

刀傷が一段と鋭く見える季節です。(春野)

あの窓は父の病室冬夕焼            垣内孝雄

病院へ父を見舞いに行く途中か、あるいは行った帰りか。いずれにせよ、様々な感慨がよぎる。冬夕焼けが切ない。(法弘)

短く淡い束の間の冬の夕焼けに父の病気回復を祈る作者の願いが良く込められていると思います。(憲史)

階段にトニーとマリア着ぶくれて        芥 ゆかり

「ウェストサイド物語」の主人公たちのように、若いころやんちゃした二人だが、今はいささか年を取り過ぎて無理がきかず、着ぶくれて、階段下にうずくまっている光景。悲哀と滑稽を感じる。(法弘)

ウェストサイドの若者も、寒さとコロナのせいで引き籠っているのでしょうか。(泰山木)

笑み返すリモート見舞ひ冬ぬくし        荒川勢津子

コロナ禍、すっかり定着したIT活用。現代風俗の活写。(法弘)

紫烟草舎閉ざす柴折戸春立ちぬ         鈴木 楓

紫烟草舎は詩人北原白秋が暮らした、小岩にある一軒家。今は記念館としてひっそりたたずんでいるが、そこにも着実に春はやってきた。(法弘)

透けるほど足裏の凍てて素心の間        芥 ゆかり

素心の間は、谷中にある朝倉彫塑館の二階の和室のこと。下の庭をゆったりとした気分で眺めることの出来る部屋だ。真冬の和室の凍てと冷たさから得た感覚を「透けるほど」と表現して、巧み。(法弘)

臘梅や人見ぬ畑に猫車             山口眞登美

猫車は杖替わり。畑仕事に老人がやってきたのだろうが、姿が見えない。どこかに座って、蝋梅の香を楽しんでいるのであればよいのだが。(法弘)

初天神土鈴の鷽の佳き音かな          永井玲子

良い年である予感。(法弘)


<互選句>

父の言いつけ四半世紀や潤目鰯         木村史子

玲奈

冬蝶哀しピカソに青の時代かな         瀬尾柳匠

冬の蝶の哀れさと青青の時代のピカソの哀愁がマッチしている (光男)

礼子

クリオネの舞けなげなりオホーツク       山根眞五

正明

冬うらら比叡の丘のゴッホの絵         斎川玲奈

茂喜

着ぶくれて異体字古語につまづきぬ       土屋香誉子

諧謔味があり洒落た句だと思います。(眞五)

着ぶくれて、季語をこのように詠むんでみたいものです。(玲子)

勘六・史子・玲奈

嘘つきの嘘の満ちをる霜柱           長濱武夫

現実も仮想世界も嘘つきがパワーアップ?霜柱に囲まれたシュールさに共感です。(博子)

日だまりの中なる老の梅見かな         工藤悠久

心地良いひとときですね。(佳久子)

晴着縫ふ一目一目に春を待つ          染葉三枝子

春には、慶事があるのでしょうか。娘のために裁縫する母の姿が目に浮かびます(酔猿)

道代・芳生・旭

猫の行く日暮れ尻尾に六つの花         山口眞登美

芳彦・典子

行く雁や雲一片を残しけり           浅井貞郎

雲一片を残し行く雁、やがてその雲も消えてゆく。(孝雄)

雲一片を置土産のようにして飛び去る雁、余韻があります(律子)

雲のひとかけらをお土産に置いて行ったという記述が、名残惜しい感じをよく出していると思いました(早・恵美子)

笹鳴きに逢ふ道深し崇徳陵           原 道代

崇徳院の流罪先での淋しさが中七から伝わります。(明)

陵の情景が見えるようです(早・恵美子)

香川県でしょうか。ただの歴史的感慨ではない、自己の来し方をも見つめる自省の念がうぐいすと出逢わせたのかもしれません。(順一)

墨の香に寒九の水の写経かな          武井悦子

言の葉の美しい流れを感じます。(眞五)

墨の香と「寒九の水」の清冽。取り合わせが美しい。(ユリ子)

芳彦・典子・治美

極月の師の遺言となるテレビ          鹿目勘六

偶然とはいえ、先生はご自分の志と業績をテレビで述べられ、それが遺言に……心打たれました。(ユリ子)

勢津子・久丹子・悦子

厄除は嵯峨ぜんざいと雪催ひ          斎川玲奈

はま子

寒椿白の矜持やココ・シャネル         森山ユリ子

正治

渡良瀬の春剥落の風化仏            松山芳彦

渡良瀬の春は、剥落の風化物だという断定が良い。また渡良瀬の風化仏と上五と下五を繋げて読めることも佳い。 (藤樹)

ゆったりと流れる渡良瀬川の瀬音 堤には菜の花や猫柳が光を集め その傍らには目鼻も定かでない石仏 詩情豊かな掲句 (温子)

茂喜

既読でも未読でもよし春隣           山根眞五

ふわっとした春の感じが伝わります(夏江)

ひらひらと新型コロナ鬼やらひ         竹田正明

典子

飛梅に刀白鞘の白拍子             松山芳彦

読み手に展がる「世界」、厳粛な思いがよぎる。(孝雄)

大寒や離れず歩く影法師            上脇立哉

寒い日に寄り添って歩く、親しい間柄を感じ、ホッコリします(美穂)

正治

面脱ぎし剣士は少女寒明くる          浅井貞郎

試合を了えた少女剣士の姿が鮮やかに浮かんでくる。寒明くるが上手い。(藤樹)

寒稽古後の充実した少女の様子が良く伺えます。(智子)

てつお・紀美子・尚

大寒やモノクロで撮る石畳           泰山木

硬質なものをあえてモノクロで撮る心情。寒さが際立ちます(ゆかり)

同じ景色もカラーとモノクロでは大違い、モノクロで撮ることで石畳の冷たさが増すように思います(律子)

久丹子

書を見ずひと日雲見る褞袍かな         内藤芳生

春野

春動くまず我が庭に花鋏            片山孝子

勢津子

笹鳴とせせらぎ森の二重奏           室 明

春の予感ですね(貞郎)

マトリョーシカ五人姉妹の淑気かな       西脇はま子

立哉

火渡りに靴下を脱ぎ春を待つ          原 道代

靴下を脱いで待つのが春、願いが叶いますように!(玲子)

名寄から雪の中から電話来る          金子正治

今年の大雪は北国では大変ですね。北海道の友人が思いやられます。(志昴女)

正明

冬菫寄せ植ゑられて美術館           窪田治美

美術館で見つけられた冬菫が素敵です。(佳久子)

銭湯の富士ぼんやりと夜半の春         内村恭子 

いい湯にすっかり癒やされてしまいます。(玲子)

湯気で霞んだ富士の絵を眺めながらゆったりとした気分で湯船に浸かっている作者の様子が見えて来てよいです。(相・恵美子)

香誉子・由紀子

氷柱とも見へぬつららの育ち初む        てつお

幼い「つらら」からりっぱな「氷柱」へと成長していく様を想像した点、作者の視線が細やかに感じられます。(憲史)

紀美子

立春や先ずは明るき色の服           片山孝子

立春を迎える喜びが素直に表されている (光男)

明るい服を出してみたのでしょうか、着てみたのでしょうか。前のめりの気持ちが楽しい句です(酔猿)

立春から「先ずは」と転換するのが見事だと思いました(眞登美)。

待ちわびた春の喜びが溢れている、(貞郎)

平明な表現だが、春の気持ちがぴったり。共感!(ユリ子)

久丹子

酒下げて二月礼者といふて来る         中村光男

今年の大雪は北国では大変ですね。北海道の友人が思いやられます。(志昴女)

「酒下げて」から訪問者と作者間の親しさが想像できます。(智子)

勘六

眉月の残る朝の梅一輪             石川由紀子

芳生・楓

ジョーカーは右端にあり夜の鏡         永井玲子

道代

寒雷や縄文土器の罅深む            熊谷佳久子

芳生・旭・温子

雪折や重き木魂の熊野路            早川恵美子

 中七から真冬の熊野路の厳しさが感じられます。(明)

雪折で重き木魂と表現したところがよいです。険しい熊野路の景に相応しい句です。(相・恵美子)

てつお

寒月のひかり失ふ師の訃報           内藤芳生

私の心も。(佳久子)月も光を失ったようだ、(貞郎)

御立派だった先生にふさわしい句だと思います。(孝子)

楓・治美・礼子

囀りのラピュタに滅びの呪文かな        佐藤博子

ラピュタファンとしてはこれは選ばなくては(柳匠)

丹田に聴く石棺の声寒昴            今井温子

季語の選択が適切と思います(悠久)

石棺の声を丹田に聞いているところがよいです。寒昴が効いています。(相・恵美子)

節分のぬかるみを来る禰宜の沓         荒木那智子

ぬかるみと言う具体的な状態が、儀礼的な行為とは全然関係がないゆえに一種の可笑しみを醸し出して居ると思いました。(順一)

正治・香誉子・てつお

湯気立てて声ひそやかに朗読会         木村史子

那智子

冴返る一音残し夜想曲             佐藤律子

治美

冴返るダム湖に潜む風の音           相沢恵美子

かってダムの底にあった村、人の暮し、「潜む風の音」がそこはかとなく語っている。(孝雄)

芳彦

カツカツと響く白杖寒の朝           石川由紀子

寒の朝にカツカツがとても良く響いていると思います。(孝子)

陸の世の混沌笑ふ海鼠かな           中村光男

陸上のコロナ禍の大混乱など海底にいる海鼠には与り知らぬこと。(眞五)

俳諧味があります(悠久)

剪定の大音量のラジオかな           長濱武夫

立哉

白侘助や静な母の七回忌            齋藤みつ子

白侘助がピッタリですね (光男)

冬送る恋は哀しと舞姫は            武井典子

そんな時代もありました。フローラの舞う春はすぐそこ・・・(博子)

そんな恋あたためていた初御空         岡崎志昴女

夏江

丁寧に箒目立てし初相撲            阿部 旭

夏江

読初の分厚き写し師の句集           佐藤律子

読み初めに師の句集を選ぶ、その選択に迷いはないと思いました。(順一)

悦子

アーケード撤去の途中冬日かな         森野美穂

私の近くの市場も無くなりました(酔猿)

恵方へと一歩一歩の万歩計           染葉三枝子

恭子

降る雪ぬくし柱暦の山頭火           三好万記子

下季節の移ろいに暦をめくれば今月は山頭火の句だったのですね(ゆかり)

由紀子 

下萌えてわが詩ごころのめざめけり       工藤悠久

史子

寒林に明りの透ける療養所           酔猿

昔の結核療養所はまさにこんな感じでした(眞登美)。

茂喜・万記子・尚

雪の粉をはたきて丸き伊吹山          児島春野

伊吹山は確かに丸い山容ですね(柳匠)

裸木や天掴まんと枝々伸ばす          中川手鞠

真登美

犬連れていつもどおりの破魔矢受く       嶋田夏江

勢津子

負けし子が畳みてゐたる絵双六         明隅礼子

「畳む」にリアリティがあります(ゆかり)

負けず嫌いな我が子が涙拭きつつ片づけていたのを思い出しました。(道代)

遊びなんだけどちょっぴり悔しい心が残りますね。(春野)

負けた子のさびしげな背中が見えるようです。(明)

はま子・尚

疫神と抗ふ構へ犬ふぐり            竹田正明

疫神と抗ふ構へという大変な覚悟と、可憐な犬ふぐりの取り合せが佳い。この時代、コロナに負けないよう激励される句。(藤樹)

はま子

真先に猫の踏みゆく絵踏みかな         西脇はま子

恭子・正明・由紀子・那智子

以上

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