天為ネット句会報2021年5月

 

天為インターネット句会2021年5月分選句結果

 ※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。
  また互選句は句稿番号順に並べております。
 ※一部インターネットで表示できる文字に置き換えております。ご了承ください。

   <日原 傳編集顧問選 特選句>

旅の地に曾良も果てたり月日貝           芥ゆかり

曽良は芭蕉の『おくのほそ道』の旅の随行者であり、『曾良随行日記』を残したことで知られる。その最期は幕府が諸国に派遣した巡見使の随員として筑紫に向かい、壱岐国勝本で宝永七年(一七一〇)五月二十二日に病死したとされる。思えば芭蕉も弟子の諷竹と洒堂の不和を取りなすために大坂に行き、その旅先で元禄七年(一六九四)十月十二日に亡くなった。「旅の地に曾良も果てたり」と感慨を述べた所以であろう。
「月日貝」は春の季語。殻の一枚は淡黄白色、もう一枚は紅紫色。それを月と太陽に見立てての命名という。月日貝の「月日」という言葉が『おくのほそ道』に記された旅の日々、あるいは『曾良随行日記』の日記体の記述を思わせるかたちで働いている(傳)。

由紀子、正明、手鞠

防人の島の入江の菫かな              熊谷佳久子

「防人」は古代の兵役の一つ。多くは東国から徴発されて北九州の守備に当たった。その大半は筑紫地域、大宰府、壱岐、対馬に配置されたという。掲句の「防人の島」とは対馬を指すのであろうか。あるいは壱岐を指すのであろうか。いずれにせよ、島の入江で見つけた「菫」の存在が、古代の防人たちの望郷の思いを象徴するように示されている(傳)。

恭子、礼子

  <日原 傳編集顧問選 入選句>

組み立てるやうに馬の仔立上がる          中村光男

産まれて間もない仔馬が、おぼつかないながら自力で立ち上がる景であろう。それを作者は組み立てるようにと写生した。 仔馬の命を活写している。(武夫)

組み立てるように、との表現の的確さに思わず頷きました。(ゆかり)

生まれてすぐの仔馬の様子が如実に伝わってくる。(はま子)

生れたばかりの仔馬の立ち上がる様子をテレビで見たことがありますが、まさにその通りでした。あの懸命な姿を思い出しました。(明)

立ち上がろうとする足を組み立てると見たところが良いと思います(百り子)

生まれたての馬の仔の様子が伝わりました。 (佳久子)

生まれたばかりの仔馬の立ち上がる姿を組み立てるとしたとろが新しい表現で、よく観察されていて良いと思う。(芳彦)

仔馬の立ち上がる様子を"組み立て"と表現しているのが面白い。(智子)

香誉子、紀美子、那智子、旭、恭子、夏江、尚、三枝子

碧落を見上げ風読む巣立鳥             斎川玲奈

碧落を広辞苑で引くと二つの意味があり、それをうまくいかしていると思いました。(秀平)

生き抜く姿を美しい調べで表現されていて、好きな一句でした。(博子)

今にも飛ぼうとしている健気な巣立鳥の姿が見えてきます。(相・恵美子)

張り詰めた光景が手に取るようです。(てつお)

巣立鳥を応援なさっている作者の温かい眼差しを感じます(早・恵美子)

芳生、万記子、正明

検温機人のごと立つ街薄暑             三好万記子

薄暑が合っていると思います(夏江)

今のことを上手く詠んでいます。(相・恵美子)

新型コロナの予防の為に検温機があらゆる場所に置かれている。まるで人が見張っているようだ。街は薄暑となっているのに、感染は一向に収まれない。(芳彦)

コロナ禍の街でよく経験することですね。人と会えないなか検温機が「人のごと」というのが面白いと思いました。(ユリ子)

由紀子、史子、勢津子

水に揺れ光に揺れて水草生ふ            中川手鞠

春の流れに映る日差しのきらめく感じがよく出ていると思います。(春野)

初夏の光あふれる水辺を思いました。(志昴女)

恭子、秀平、悦子

まほろばの四神の守る里の春            浅井貞郎

「まほろばの四神」ということで、以前住んでいた太宰府のことを懐かしく思い出しました。(桂一)

礼子、楓、温子

マリア堂の畳に座すや花の雨            原 道代

「マリア堂の畳」が醸し出す世界と「花の雨」との取り合わせ。味わい深いものがある。(孝雄)

以前に山陰を訪れた際、畳敷きの教会を訪ねたことがありました。季語「花の雨」が効いていると思います。(明)

立哉、日記

夏めくや水田の匂ひ広がりて            片山孝子

田園の中に暮らしているとこのような感覚から夏が始まっていくような。(伊葉)

情景が目に浮かびます。(てつお)

蓮如道湖より低き麦を刈る             今井温子

琵琶湖とか北陸の湖でしょう、折から麦の秋。昔のお上人様がふと通りかかるような。(志昴女)

匠子、那智子

風戦ぐトロイアの丘罌粟咲けり           鈴木 楓

トロイアの地には今を盛りと雛罌粟が咲いているその丘に風がそよいでいるという。行って見られたのか?雛罌粟の風に揺らぐ姿は優雅です。(芳彦)

紀美子、三枝子

漫ろゆく風の墨堤荷風の忌             鈴木 楓

芳生、悦子

ダックスフント信号を待つ日永かな         泰山木

胴長短足の犬との散歩が季語と相まって一層季節感が出ていると感じました。(憲史)

この後、よちよち歩いて信号を渡るのでしょうね。「日永」の幸せな景と時間。(博子)

花吹雪北鎮部隊ありし地の             中田秀平

花吹雪の景である。そうここは昔、旧陸軍の北海道守備の第七師団の跡地である。作者には思い出があるのである。 倒置法の「の」止めに余韻がある。(武夫)

葦毛馬の目に麦秋の空ありぬ            佐藤律子

旭、眞登美

夕薄暑白き聖母のシナゴーグ            松山芳彦

季語が句のイメージを掻き立ててくれていると思いました。(ゆかり)

葉桜や新渡戸稲造「架け橋」碑           荒木那智子

英文で武士道を書き、また世界の架け橋となった日本人(眞五)

若布干す夏は海水浴の浜              土屋尚

夏めくや里山に咲くジャカランダ          土屋香誉子

海霧深し纜太きロシア船              熊谷佳久子

子燕の一気に飛びて風の中             相沢恵美子

ゴンドラのこゑの遠のく目借時           早川恵美子


    <互 選 句>

新社員のメモ端正な走り書き            木村史子

走り書きまでも端正、肩に力の入る新社員らしいです。着目点が面白いです(律子)

黄蝶来て貧しき垣の耀へる             内藤芳生

立哉

降り出して蝌蚪を見てゐし子ら散りぬ        明隅礼子

夢中で見ていたのに急な雨・・子どもたちの動きが伝わって来るように感じます(美穂)

子供と蝌蚪の取り合わせが面白い、(貞郎)

史子

枇杷洗ふ琥珀色なる雫かな             室 明

枇杷の好きな人には、洗う雫を見ても唾が出てきそうです。琥珀色が食べ頃を表していていい。(桂一)

木から穫れたての新鮮な枇杷を思いました(美穂)

玲子、旭

山藤に雨打ちつける古道かな            河野伊葉

古道に咲く藤の花、雨が打ち付けるほど強いときを描いたのが新しいような気がしました。(眞登美)

山藤と雨と古道が雰囲気をよく表現していると思う。(ユリ子)

古道とのみ云っているので、想像が拡がる。(はま子)

香誉子、耕

項羽好き平家好き雛罌粟を愛ず           山根眞五

雛罌粟から虞美人の終焉などに思いを馳せる。英雄好みの方と思いました。(ユリ子)

歴史好きが花を愛でると言う新鮮さがいいと思いました。(順一)

半島の風を捕まへ春の鳶              長濱武夫

鳶が海風に乗ってゆったり優雅に飛んでいる様子が見えました。(道代)

鳶の飛ぶ姿に春の半島の雄大な感じが出ていると思います(百り子)

耕、泰山木

雨の道こぼれて赤き椿かな             阿部 旭

赤い椿の映える泥道(耕)

パンジーの花の中より髭の夫            永井玲子

きっと素敵な旦那様だったのでしょうね(早・恵美子)

日記

春愁や引越の荷のガムテープ            内村恭子

春愁とあるので、住み慣れた土地から引っ越すあろうか。あるいは、子供が独立するのであろうか、まさか熟年離婚の荷ではないだろう。とにかく作者は愁いているのである。きちんと写生のできた句である。(武夫)

立哉、史子、玲子

磯竃家路はあをき草の浪              早川恵美子

楓、尚

広報紙配る足取り夏近し              泰山木

道代

焼酎酌む昔年貢の残り麦              芥ゆかり

匠子

雨上がる土手に手をつく蕨取り           鉄谷 耕

日記

海亀の波間に消ゆる卯月かな            阿部 旭

産卵の大仕事を済ませた後の静かな海の景が浮かびます。(智子)

花冷えや天下乱れて羅城門             竹田正明

紀美子、礼子

髪梳いてより夏空に独り言             佐藤律子

女性の強さを感じる(光男)

フーテンの雲は流れて草の餅            石川由紀子

葛飾柴又の江戸川の土手の映像が浮かんで来て"草の餅"との相性がピッタリに感じました。(憲史)

霾や石垣だけの城の跡               森野美穂

石垣のみが残る城址。時間の長さと人間の営みのはかなさを思います。(志昴女)

霾の季語がどんな城だったか想像を掻き立てます。(智子)

どこのお城でしょう?霾の季語が石垣だけになった城の様子をよく物語っています(律子)

端正や折り畳まれて柿の葉鮓            室 明

眞五

囀りや手打うどんの茹加減             永井玲子

日常のひとこまにきっちりと自然をたたみ込まれた細やかで新鮮な句(伊葉)

手鞠、泰山木

産土神菜花明かりの畦をゆく            原 道代

何とも幻妙な趣に惹かれます。(てつお)

希望てふ花言葉なり芝桜              山根眞五

夏江、勢津子

新緑や師の笑み映ゆる濯川             野口日記

朗人先生はご逝去されても濯川は武蔵学園内を流れていますね(眞五)

空の碧山巓の白桃咲けり              内藤芳生

秀平

アールデコ旧宮邸や余花の雨            森山ユリ子

和洋折衷に余花の雨が降りしきる。(順一)

春月の今中天にあり石舞台             浅井貞郎

泰山木、悦子

大凧の太平洋を見て落ちず             小栗百り子

景の大きさ、風の強さ、そして凧の踏ん張りが最後の「落ちず」でびしっと決まりました。(ゆかり)

景がデッカクてカッコいい!(早・恵美子)

大凧が太平洋と勝負しているようで面白いです。(春野)

匠子、手鞠、香誉子、眞登美

濃く墨す一詩の朱印初燕              牧野桂一

書家は沢山いるでしょうが、蘇軾の墨書を連想しました。初燕の空のめでたさも・・。(博子)

こどもの日補助輪外し突進す            合田智子

いかにもこどもの日にふさわしい句です、(貞郎)

真つ白な小犬窓辺に聖五月             佐藤博子

「聖五月」には純白が似合う。窓辺の白い子犬、イエスを抱く聖母を想う。(孝雄)

季語が相応しく綺麗で可愛らしい犬の様子が見えてきます。(相・恵美子)

うんちくも添へて筍届きけり            てつお

ユーモアを感じました。「添へて」の表現もいいなと思いました(美穂)

嬉しい旬の到来物、メッセージではなくうんちくという言葉選びに思わずにんまりしました(律子)

どんなうんちくだったか知りたくなりました。(順一)

三枝子

胸中に黒きクレヨン春愁              明隅礼子

「春愁」と「胸中の黒いクレヨン」、俳句はまさに「詠み手」と「読み手」の共作である。(孝雄)

「春愁」という季語をこのような形で表現なさっていることに感服しました。(明)

万記子

分け入りて人住む家や緑さす            嶋田夏江

先に立つ新緑のひかり、人家が視界に入ったその安らぎとともにすべてを広がりのある光さすでまとめられている。(伊葉)

大和路に十二神将野藤かな             武井悦子

十二神将と野藤の取り合わせがいいですね(光男)

海亀を待つ御前崎伊良湖岬             榑林匠子

地名を入れた俳句は難しいのですが、ここでは、動くことのない二つの地名がとても良く効いていると思います。(桂一)

少年院の鳥類図鑑初燕               髙橋紀美子

万記子

蜘蛛の子の風の軽さよ掌              佐藤博子

温子

ビビンバを大いに混ぜてけふ立夏          内村恭子

生命力を感じる(光男)

新茶汲む夫の遺影にはなしかけ           齋藤みつ子

実感があります。(芳生)

さぞ仲の良い御夫婦であられたのでしょう。(春野)

青邨のぼたん朗人の牡丹かな            荒木那智子

牡丹の名句は沢山ありますが、私は青邨の「きしきしと」の句と朗人師の「天平の」の牡丹の俳句が好きです。 (佳久子) 

牡丹は花の王。両方の師にそれぞれの色、形、句の牡丹があるのだと思います。(百り子)

道代

花柚子の香にハミングの勝手口           てつお

香ある白い花に勝手口からのハミング!作者は何か良い事あったのでしょうか?(憲史)

縄文の環状列石蛇出づる              髙橋紀美子

縄文の環状列石の措辞に感銘しました。(はま子)

温子、正明、那智子

疫禍去らず無言車内のサングラス          岡崎志昴女

由紀子、玲子、勢津子

霾や元寇塁の彼方から               嶋田夏江

昔は蒙古襲来が、今は黄砂が降ってくる様子がよく分かりました。  (佳久子)

万緑や入れ歯なきこと誇りとし           西林喜代四

80代の女性で入歯の無い人を知っていますが、うらやましい季語「万緑」が効いています(貞郎)

以上

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