天為ネット句会報2021年6月

 

天為インターネット句会2021年6月分選句結果

※特選句、入選句内の順番は互選点(選句者名を記載しています)、句稿番号の順。
 互選句は句稿番号順に並べております。
※一部インターネットで表示できる文字に置き換えております。ご了承ください。

<福永法弘同人会会長選 特選句>

梅雨寒や百年匂ふ正露丸             てつお

正露丸は確かに匂う。梅雨時の空気の流れの悪さがそれを助長する。が、それにしても、百年もとは実に大げさな句だ。楽しい。百年とちょっと前には、日本はロシアと戦争をしていた。正露丸はもともと、ロシアをやっつけようとの願いを込めて、「忠勇征露丸」または「征露丸」という旧称だった。百年とはそのことを暗に言っているのかもしれない。(法弘)

正露丸のにおいは本当に独特です。古い薬でも強く匂うから、百年前の包みを開けたら匂う!梅雨寒の季語にぴったりな匂いです。(志昴女)

ひんやり湿った空気感に正露丸が絶妙に合っています。「百年匂ふ」から旧家の土間のほの暗さも想像しました。(ゆかり)

旅行鞄に正露丸を入れていき密室状態の鞄の中で拡がった正露丸の強い匂いがずっと取れずにとても困ったことを思い出しました。共感です(律子)

『百年匂う』というのが「正露丸」ぴったりと合う。(桂一)

瓶を開けた時の、あの強烈な匂いを思い出しました。百年匂う正露丸・・大草屋が目に浮かびます。(博子)

正露丸から感じる時代背景に今だ、匂っている丸薬と梅雨寒が重なりました。(百り子)

勢津子、 立哉

足の小指の爪のいびつなかたち夏         木村史子

小指の爪はいびつな形をしている。靴の中の、それも端っこに無理やりねじり込まれているせいだろうか。夏は裸足になる機会が多いので、どうしても目に留まる。爪がいびつなように、この句のリズムも定型を外してわざといびつにしてある。(法弘)

<福永法弘同人会会長選 入選句>

品書きに大き墨文字初鰹            中川手鞠

<目には青葉山ほととぎす初鰹>(山口素堂)と江戸の初めに詠まれたように、初鰹は江戸の庶民が愛した初夏の代表的味覚だ。魚屋さんも季節の到来を喜び、うれしくてつい気合が入ったのだろう。品書きの文字がほかのどれよりも大きい。(法弘)

まさに食べたくなるような「初鰹」のお品書きですね。(孝雄)

当然 初鰹を食べられたのでしょう。羨ましいです。(佳久子)

初鰹を強調するための墨文字を大書することは効果的、直ぐ売り切れますよ、(貞郎)

大きな墨文字が初鰹の季節の味を引き立てます。(てつお)

初鰹の生命力と墨文字がよく合っていると思いました。(ユリ子)

旭、紀美子

先客はコロポックルや蕗の雨           熊谷佳久子

雨宿りに大きなラワン蕗の下に逃げ込んだら、先客がいた。それは、先住民の小人コロボックルだったという北海道で起こりそうなメルヘン。(法弘)

蕗の大きな葉の下でコロボックルが雨宿り、絵本の中に紛れ込んだようです(律子)

千島、北海道の伝説を思い出しつつ雨宿りをしているのがいい。(典子)

コロボックル伝説を踏まえた、季節にピッタリの句。(てつお)

大きな蕗の葉の下の雨宿りの景、メルヘンチックですね(智子)

三枝子、由紀子

柔らかな芯の鉛筆青葉潮             中川手鞠

青邨先生は柔らかい4Bの鉛筆を好まれたそうだ。青葉潮の季語が潮風の涼しい文人の書斎を彷彿とさせる。(法弘)

季語がよく響いている(桂一)

旭 、美穂、玲奈

病院の四角き窓や花は葉に            森野美穂

たしかに、病院の窓はたいがい四角だ。設計、建設コストが安上がりだからだろうか。花は葉にの季語が、癒えないままに時が過ぎてゆく焦りをうかがわせる。(法弘)

「四角な窓」を「花は葉に」と柔らかく受けとめているところがいい。(桂一)

夏江、尚

梅雨寒や家に畳の部屋一つ            大津英世

この頃は新建材で洋風の家が多く、外観ばかりではなくて内部も、畳の部屋は少ない。この句の家も、何室かあるうちで畳の部屋は一つしかないようだ。畳は、除湿器や加湿器を使わなくても、湿気の調整に役立つのだが、そんな先人の知恵も生かされなくなってきた。(法弘)

梅雨時の湿った静けさが伝わってきます。(明)

玲子、孝子

五位鷺が考えている梅雨に入る          岡崎志昴女

梅雨時の降り続く雨の中、じっとして動かない鷺。小魚を狙って気配を隠しているのだろうが、何か哲学的思索に耽っているようにも見えるから不思議だ。(法弘)

片足上げて、どうしようか迷っている様子が見えます。東京は梅雨入り前に猛暑ですね~鷺さんも皆様も身体に気を付けてね(早・恵美子)

久丹子

煩悩を断ちて真っ赤なアッパッパ         永井玲子

あれこれ思い悩んだところで、煩悩を断つことなどできやしない。ならいっそのこと、えいやあと真赤なアッパッパを頭からかぶったのだ。楽ちん、楽ちん。煩悩などたちどころに消える。(法弘)

「煩悩を断ちて」と重々しく詠み出し、完了の助動詞「つ」の連用切れで一呼吸置き、何と「真っ赤なアッパッパ」と詠んだ。その大胆さ、意外性に驚かされた。逆にどんな煩悩を断たれたのだろうかと考えさせられた。(武夫)

バルト海日の落ちていく藤寝椅子         武井典子

バルト海は北ヨーロッパに深々と切れ込んだ大きな海だ。その海に沈んでいく夕日を籐の寝椅子に横になって眺めているのである。サンクトペテルブルクのフィンランド湾辺りだったなら、退役したバルチック艦隊の元艦長といった風情。(法弘)

美穂

姿勢良き歩行器のひと虹立ちぬ          中村光男

術後のリハビリであろうか。歩行器で歩く。それも姿勢正しく。きっと、病気前には矍鑠と、颯爽と歩いておられたのだろう。虹立つの季語に希望が見える。(法弘)

日記

裏紙に読めぬメモの字梅雨寒し          中村光男

メモというのはゆっくり落ち着いて書くことはなく、たいがい慌てて走り書きなので字が汚い。何か大事なことだからメモしたはずなのに、それが読めない、思い出せない。梅雨寒の季語がそのイライラ気分を助長する。(法弘)

那智子

読み聞かすエリック絵本梅雨深し         鈴木  楓

先日亡くなったエリック・カールの「はらぺこあおむし」は世界的ベストセラーの絵本。梅雨の雨続きで外で遊べない子のために、読んであげている。(法弘)

<互選句>

はたた神大宮通り朱雀門             今井温子

地名が生きています!面白い!!(早・恵美子)

柔らかき光の町や枇杷熟るる           染葉三枝子

「柔らかきひかり」が枇杷の本質を射ていると思う。(光男)

さりげない句作りで生き生きとした枇杷の透明感のある白いひげまですけて見えるようです。(伊葉)

勢津子

叢雲の月蝕見しと青葉木菟            竹田正明

月は叢雲であったが月蝕を見たと青葉木菟が見たとしているところが面白い。(芳彦)

お天気任せの月蝕ですが青葉木菟はしかと見たという。童話のようでいて今回の月蝕も上手く表現されていると思います。(ゆかり)

礼子

デルヴォーの画布より昇る梅雨の月        西脇はま子

デルヴォーの絵と梅雨の月の取り合わせは思いがけず、ミスマッチの妙。(ユリ子)

麦の秋スーパームーンの皆既食          荒木那智子

勢津子

香母酢咲く豊後に島の物語            牧野桂一

黒南風やオランウータンの憂ひ顔         佐藤律子

黒南風が吹く日は何か心が落ち着きません。動物園のオランウータンもふるさとの仲間のことを思うのでしょうか。(志昴女)

オランウータンの様子が目に浮かびます。(泰山木)

オランウータンの顔が浮かびます。(百り子)

鍔広の夏の帽子の妻とゆく            上脇立哉

オードリーヘップバーンを彷彿させる奥様の装い。楽しくて素敵な句だと思います。(孝雄)

鍔広と夏帽子と、帽子が重複しているようですが、重ねて表現したところに、作者のやさしい眼差しと深い思いがあると思います(眞登美)

はま子

「元気け?」と声交わす夏自粛の日        片山孝子

おたがいに声かけが大切コロナに負けないように元気でやろう、(貞郎)

代田澄み白根三山影さやか 内藤芳生

代田澄み白根三山が影さやかであるとしたところ、光景を美しく詩っているいる。(芳彦)

澄んでいる代田と彼方に聳えている白根三山の雄大で綺麗な景が見えて来ます。(相・恵美子)

墜栗花雨上り框に父の下駄            永井玲子

まず中七下五の何気ない措辞にどっきり感がある。紐解く手掛かりは季語の墜栗花雨(栗の花を散らす雨=梅雨)だけ。共に鬱陶しさの感じれる季語と緊張感のある措辞が、ドラマの始まりを告げる。俳句自由な劇場仕立の句。(武夫)

季語の内容、字面と中七 下五の取り合わせが良いと思います(百り子)

薫風に友の気配の一周忌             荒川勢津子

芳生、道代

蜥蜴這ふ日暮れ眩しき地蔵堂           合田智子

史子

緑陰に師の気配ふとスニーカー          今井温子

スニーカーの前の’ふと’の順で足元のどきどき感に鮮やかな効果あります(登美子)

朝焼けて千の鏡の棚田かな            浅井貞郎

朝焼けて棚田が千の鏡の様に見えたという。美しい光景である。(芳彦)

何度でも見たい美しい情景。よく表現されていると思います。(ユリ子)

悦子

寝心地はとろろ昆布の登山小屋          中山登美子

立哉

一輪の薔薇の疲れに来る暮色           てつお

芳生、那智子

菖蒲田や庄屋土蔵の海鼠壁            小栗百り子

季語と庄屋土蔵の海鼠壁がとても相応しく穏やかで趣のある景が見えて来ます。(相・恵美子)

紀美子

参道に石楠花赤し鬼子母神            原 道代

様々な色があるシャクナゲですが、鬼子母神には赤が似合いますね。(春野)

更衣戸棚に母の出納帳              金子正治

戸棚に見つけたのは、母のへそくりでも日記でもない、出納帳。日々を笑って暮らしてくれた母親を思い出します。(玲子)

几帳面なお母さんの人柄が想像されます。(泰山木)

思わぬところから古い母親の物が出てくるなんてありますね(みつ子)

道代

夏草や追ひつけぬ汽車追ひかけて         森野美穂

夏草の生命力と中七が響き合って切なくなりました(早・恵美子)

礼子、香誉子、玲奈

円墳を静かに洗ふ緑雨かな            酔猿

「静かに洗ふ」に詩情があります。(泰山木)

緑に覆われ雨に洗われた円墳の美しいさまから歴史の深さまで感じられます。(明)

万記子、正明、尚、香誉子、温子、眞五

西日濃しかつて毒味に銀の匙           内村恭子

炎帝の威「西日」にアンティークふうの銀の匙、毒の交じる物語性感じます(登美子)

銀は大変異物に敏感だと聞きます。毒殺の確認にも銀のさじを使うとか薬の調合にも銀のさじを使うとか、色々聞きますね。(志昴女)

銀の匙という言葉から西洋の館、お毒味する執事の姿など次々と浮かび面白く読みました(律子)

眞登美、匠子

深吉野の万緑といふ静けさよ           室 明

深吉野の緑の景の素晴らしさが、目に浮かびます(智子)

さくらというこだわりをまったく捨てたところからの発想でスケールの大きい風景が広がります。(伊葉)

那智子、温子、恭子、楓

妻逝きてひとりの卓子郭公鳴く          内藤芳生

郭公の鳴き声が悲しく聞こえてきました。頑張ってください。(道代)

先生の友だち言葉クロッカス           芥ゆかり

クロッカスを句にあしらうセンスを評価したい。(孝雄)

火山島大きく育ち鰹潮              土屋 尚

「大きく育ち」が火山島と鰹潮の両方に響き合い、とても力強い光景となっていると思います。(ゆかり)

病めば目の利きゐる青葉若葉かな         山口眞登美

病んだ体に神経が張り巡らされ、生命感あふれる青葉若葉の色合いや葉脈の細部までもが普段とは違った強度で目に入ってくる、それを「目の利きゐる」と表現したところに感服しました。コロナ疲れなどでこんな風になっている人が沢山いる気がします。(秀平)

病めばと"青葉若葉"の対比から、快癒への強い意欲が感じられます。(憲史)

鎌倉の色を綴りて七変化             合田憲史

正治、正明、春野

子等集ふ五合炊きの豆の飯            染葉三枝子

巣立っていった子供達が、久しぶりに戻って来るのでしょうか。五合の豆の飯に母の嬉しさが伝わってきます。(手鞠)

悦子、紀美子

ウッドデッキ美美し蜥蜴の闊歩せる        垣内孝雄

「ウッドデッキ」と蜥蜴の取り合わせが面白い、夏の季語「蜥蜴」が効いている、(貞郎)

"蜥蜴の闊歩"、見てみたいですし何となく想像できますね。(憲史)

バカラ器に濃きあじさいの毬ひとつ        森山ユリ子

いま流行の毬だけ剪って浮かべているのでしょうか?素敵な取り合わせです。(博子)

お部屋が華やぎますね!(手鞠)

美穂

島唄に和する波音虹の橋             竹田正明

三枝子、温子

日の当たる石から石へ川蜻蛉           榑林匠子

川蜻蛉だけでは無くて石の存在感もあると思いました。(順一)

単純な風景がいいと思います(眞登美)

尚、香誉子、恭子

若葉雨音符は音の詩をかなで           三好万記子

季語が相応しく、音符を音の詩と詠んだところがよいです。(相・恵美子)

神楽坂横丁に消へる蛍かな            阿部 旭

蛍は、ご婦人でしょうか。早く、伊勢藤で白鷹の燗を飲みたいです。(酔猿)

徘徊に目的地あり姫女苑             野口日記

野原をうろつくことが目的地かもしれませんね。悲しいけど納得感のある句です。(光男)

徘徊する人には自分だけの目的があり、出会うのがどこにでもある花なのがいい。(典子)

ユーモラスだと思いました。吟行に出掛けたのでしょう。(順一)

”徘徊ですか?いや、散歩です。”・・・。(てつお)

由紀子

夏の風邪家人と一間隔てたる           牧野桂一

玲子

潮騒の天に響けり島薄暑             浅井貞郎

正治

巣篭りて古典を開く安居かな           酔猿

自粛の巣篭りで、古典をひもとく姿、まさに素晴らしい安居の世界ですね。(佳久子)

新緑の風新緑の絵筆かな             長濱武夫

史子、芳生

風見えて人なつかしき青簾            山口眞登美

恭子、秀平、孝子、礼子

花合歓や疫食む貘の深眠り            佐藤博子

早く漠に起きてもらいたいです。(典子)

万記子、匠子

予後四日洗車してゐる夏帽子           荒川勢津子

健康を取り戻している様子が伝わってきます。(光男)

どんな夏帽子かいろいろ愉しく想像、意欲的な飛躍に明るい希望が持てます(登美子)

ドライブを待ちわびていた心境が伝わります。(酔猿)

杉箸の柾目すんなり梅雨に入る          石川由紀子

削られた杉箸の柾目が効いています。(伊葉)

悦子、はま子

丸椅子を二つ並べて缶ビール           金子正治

独特な雰囲気が有ると思いました。缶ビールが美味そうで。(順一)

ビールが美味しいでしょうね(智子)

久丹子、酔猿、日記

老年の語学学習アスパラガス           木村史子

久丹子

日時計を残しメディチの夏館           内村恭子

フィレンツェを支配したメディチ家の夏館のひとつであろう。現在メディチ家の財宝の数々は、国宝として美術館に展示されているが、その夏館の庭には当時の日時計が残されているのであろう。焦点を日時計に絞って詠まれたことが成功している。(武夫)

メディチ家の往年の豪奢を彷彿させる、庭に残る日時計。(春野)

匠子

白亜紀のメタセコイアも若葉かな         小栗百り子

白亜紀と若葉の取り合わせが面白い(眞五)

はま子

忍冬の花金と銀雨もまた             岡崎志昴女

秀平

ムーミンの切手の手紙風薫る           三好万記子

フィンランドからきた手紙。風薫る季節、心も明るくなったひとときの様子が伝わりました。(佳久子)

風が連れてきてくれたようにすがすがしいですね(みつ子)

北欧(清々しい青葉の中)からのメルヘンチックなお手紙でしょうか?(憲史)

旭、立哉、日記、夏江

過疎村のシリコンバレー夏燕           原 道代

ハイテクと自然とのコラボは、まさに現代の景。季語によってエネルギッシュに変容する村の空気を感じました。(博子)

IT企業が村の活性化に一役かって、過疎村が明るくなったことを夏燕も喜んでいるようです。(明)

乙女らの嬌声駆ける青時雨            泰山木

正明

湯上りの珈琲牛乳夏はじめ            鈴木  楓

そんな時代に生きてきました。(眞五)

なぜ、湯上りだと珈琲牛乳が合うのでしょうか?でも飲みたくなりますね(みつ子)

下町の河童伝説梅雨滂沱             大津英世

三枝子

祭壇のイエスの一生青嵐             武井典子

睦まじく嫁姑じゃがいもの花           中田秀平

史子、孝子

ゆりの木の花高々と迎賓館            森山ユリ子

正治

十薬のクルス囁くほどに風            相沢恵美子

十薬の花の清楚さを感じます(夏江)

手鞠、由紀子、玲奈

以上

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