世の中を毒づいてゐる銀竜草 長濱武夫
銀竜草は光合成をせず、生物の死体や排出物などの有機物から栄養をとる腐生植物だ。ユウレイタケとも呼ばれ、色も形も美しさとは無縁である。世に受け入れられず、世を呪い毒づいている人を時折見かけるが、かなり近いかもしれない。(法弘)
匠子
吾のなかの善をひきだす蓮かな 木村史子
人間は実に複雑だ。自分のことだって、いったいどんな人間なのか、簡単に言えるものではない。「私は裏表のない人間です」などと自分を一言で評する人に出くわすと、眉唾で警戒する。人間はそれぞれ多様な思いを抱え、いろんな表情を持ち、打算や意地があったりもするから実に厄介なのだ。そんな自分の中にある善の部分だけを、蓮の花は引き出してくれるという句。さすが、仏様がお乗りになる花だけのことはある。(法弘)
恭子
太陽からの光の差し具合によるのだろうが、高緯度地方の海の色は昏く、神秘的だ。(法弘)
白夜を享受した夏が終ろうとしており、心情的にも水の昏さが際立ちます。(ゆかり)
北の果ての地の、短い夏の終わりを思います。(春野)
北欧の短い夏が終わろうとしているのをフィヨルドの水の色の変化で見つけた。(泰山木)
北欧の夏は短くて、すぐ海が暮れてしまいますよね。雰囲気よく分かります(早・恵美子)
玲子
片隅に曼荼羅を売りラムネ売り 荒木那智子
どこの国の光景だろうか。まだ国民の多くが信仰心を持つ、素朴な、南の方の仏教国を思わせる。(法弘)
寺町の今は来る人もない土産物屋の様子だろうか、臨場感がある。(典子)
匠子、立哉
茄子の馬風に倒れて天を蹴り 明隅礼子
ひっくり返っただけなのだが、それを、天を蹴るとユーモラスに把握。(法弘)
飛、春野、久丹子
戦争の色は茶色や草いきれ 武井典子
中原中也。「幾時代かがありまして 茶色い戦争ありました」(法弘)
玲子、孝子、万記子
蘆原は雨の兆しや行行子 垣内孝雄
蘆原を我が物顔で飛び交っていた行々子だが、雨の兆しに戸惑っているようだ。蘆原が水没するほどの大雨でなければ良いが。 (法弘)
「葦原は雨の兆し」というところが、上手だと思います(眞登美)。
葭切の感じがよく出ています(早・恵美子)
紀美子
サングラス一人前の顔をして 児島春野
一人前の、それも、強い男になった気分。 (法弘)
大人になりたい年頃がよくあらわれています(みつ子)
子供がサングラスをかけると可愛いですよね季語「サングラス」が動かない、(貞郎)
神々の舞の猥らに一夜酒 牧野桂一
開けっぴろげでおおらかと普通は言うが、その実はやっぱり猥らな古代の神々の舞。一晩で醸した一夜酒(ひとよざけ)に酔いながら見る。 (法弘)
洋の東西を問わず酒にまつわる神様は沢山いますが、甘酒で我を忘れる神様もいたのでしょう。(泰山木)
夾竹桃機銃掃射に橋の下 松山芳彦
戦時下の、思い出したくもない思い出。(法弘)
打ち水をして去り難し子規墓前 浅井貞郎
子規の短い人生と成し遂げた業績を思うとき、様々な感慨がよぎり、去りがたい。(法弘)
短夜やあてられて答へられぬ夢 木村史子
きっと昔、そういう経験があったのだろう。あるいは、そうなることを潜在的に怖れて過ごした時期があったのかもしれない。短夜は眠りが浅いから、夢をよく見るし、よく覚えてもいる。 (法弘)
袋角のむらさき深む夕日影 髙橋紀美子
むらさき深むという形容によって袋角の神秘性がより増していると思います(律子)
秋まつり法被に鬼の一字かな 西脇はま子
粋で鯔背な秋祭りが待ち望まれる(眞五)
法被に鬼の一字’で神や死霊の怒りを解き、穢れを祓うための宗教的行為に映り、今の時代のコロナ禍にふさわしく思う。(登美子)
礼子
こころの闇ザワザワとなく羽抜鶏 齋藤みつ子
飛
夏椿思はぬ人の便りかな 榑林匠子
「便り」を手紙と読むか知らせと読むかで句の趣は変わる。「知らせ」と読むと夏椿とともに句が深まる。(孝雄)
椿のようにぽとりと郵便受けに落ちた便りはいいことだったのだろうか。(典子)
日記
額光る顎紐伸びる夏終る 合田智子
上五の言いきりの技巧で酷暑に耐えた疲労感が軽快(伊葉)
書に厭きし眼に卯の花の白揺れる 森山ユリ子
眞登美
南風や敦盛塚は海を向く てつお
悲しい若武者の最後、平家にはこうした雅な若者もおりました、、、海を見ながら、笛を奏でている姿を思いますね。(志昴女)
乗りたかった船が浮かんでいた海が見えるように、塚を立てた優しさ。(春野)
那智子
男梅雨阿蘇の山鳴押渡る 早川恵美子
激しく降る男梅雨の中、阿蘇の噴火前の山鳴りが遠くまで響いているのでしょう。男性的な季語と措辞との取り合せが佳いと思います。(武夫)
楓、秀平
浴衣着てまだ日の高き神社裏 泰山木
浴衣を着て外を歩く、少し気恥ずかしい感じがよくわかります。(手鞠)
神社裏に想像を逞しくする(眞五)
祭り前の裏描写で浴衣姿がさらにくっきり目に浮かびます(伊葉)
史子、立哉
讃美歌を小さく歌ふ墓参り 野口日記
追悼の心がしみじみと伝わって参りました (温子)
悼む気持ちに感じ入ります。宗派もそれぞれ、、手を繋ぐ世が来て欲しいものです。(博子)
共同墓地で静かに故人を偲んでいる景がみえます(智子)
恭子、 旭、香誉子、勢津子
夜の秋ひとつ増えたる原始星 青柳 飛
秋の気配を感じる夜空に生まれたての星をみつける、それだけでロマンを存分に感じます(律子)
「原子星」に季語がよく合っています。(手鞠)
三枝子
屋外で歌ふ少年夏の雨 森野美穂
その少年が濡れていたのかどうかも気になりました。(順一)
西日射す厨に母の割烹着 合田智子
この句を見て、ノスタルジックな気持ちになりました。(道代)
お母様への懐かしさが伝わってくる(光男)
故郷の銘水届く終戦日 酔猿
終戦日が良いと思います。季語によって句の奥行を感じました。(百り子)
那智子
下ろし金の目立ての音や涼新た 室 明
鋭利な鏨を使いひと目ずつ叩いて刃を掘り起こしていく音は新涼が相応しい。その音に刃の切れ味を感じます。(相・恵美子)
秀平、夏江、芳生、史子
働く背あまた祭の輪の外に 芥ゆかり
恭子
螢火の闇よりやみへそよゆけり 垣内孝雄
旭
おぼろげな墓石の文字油照 嶋田夏江
碑に刻まれた「文字」であろうか。「油照」にそのおぼろげな文字を読み取ろうとしている作者を想う。(孝雄)
孝子
父と子の揃ひの帽子富士詣 染葉三枝子
はま子
シタールの甘き音色や月涼し 佐藤律子
「甘き音色」がいいですね。季語の「月涼し」が効いています(光男)
北インドの撥弦楽器の甘い音色に月が涼しく感ぜられたとしたところ詩がある。(芳彦)
奈良の大寺での観月会において初めてその音色を聞き感じ入っ日を思い起こしました (温子)
正明
叩きゐる雨のきれいな露台かな 山口眞登美
お洒落なバルコニー!(早・恵美子)
礼子、香誉子
古代蓮数千年の見得を切り 山根眞五
「数千年の見得を切り」の表現がすばらしい。蓮の花が立ち上がる。(ユリ子)
悦子、日記
家持の海をまたぐや天の川 髙橋紀美子
由紀子
恐竜の太古の宙の銀河濃し 鈴木 楓
見たことはないですが、そのころの夜空の星の光は今より澄んで美しかったことでしょう。星の下には弱肉強食の世界が広がっていたとしても。(志昴女)
久丹子
のうぜんや真昼の農事試験場 河野伊葉
気を張った作業も、お昼は自由奔放な「のうぜん」に癒やされる。研究成果も上々?(博子)
史子
渦潮に伍して湧き立つ鷹柱 松山芳彦
この鷹柱は相当な上昇気流をとらえて飛びたったことでしょう(眞五)
海と空の大きな動的景を通して、自然界のエネルギーを見事に表現した句だと思います。(明)
痩せ牛に小太りの馬苧殻焚く 石川由紀子
痩せ牛と小太りの馬の措辞に俳諧味がある。丹精込めて胡瓜と茄子で牛と馬を作り祖先の霊を迎えている様子が感じられます。(相・恵美子)
もしかして家庭菜園の胡瓜と茄子でしょうか 個性のある馬と牛・・温かいユーモアを感じます(美穂)
農道の忘れし鎌に草茂る 片山孝子
草が茂ればこその鎌の存在感は大きい(伊葉)
尚
板戸絵の吉祥天女泉湧く 斎川玲奈
てつお
パソコンの立ち上がり得ぬ溽暑かな 土屋 尚
那智子
身を浄む滝千条の水煙 染葉三枝子
こちらまで身を浄められた感じ。夏ならではの景。(佳久子)
一病息災一刀に切る栗南瓜 鈴木 楓
お元気そう(匠子)
「一刀に」と力強く言ったところに日々をしっかり暮らそうという心構えを感じる。(典子)
温子、由紀子
早暁の禅寺覆ふ蝉の経 武井悦子
お寺の早暁、お勤めの読経。あら、蝉も読経に和しているようです。(志昴女)
蝉の経がいいですね。(佳久子)
一斉に始まった蝉声を「経」と捉えた点に共鳴しました。(明)
「蝉の経」がユーモラス。(手鞠)
尚、芳生
避暑の道歩みの友は鳥に風 児島春野
正明
尼寺の廚に届く茄子トマト 今井温子
眞登美
哭き笑う選手の顔のみな涼し 小髙久丹子
みな涼しと表現したところが良いと思います。作者の人柄を感じました。(百り子)
夕闇の風ひきよせて沙羅双樹 佐藤博子
沙羅双樹が夕闇の風を引き寄せているとしたところが良い。(芳彦)
てつお
打水や半音下がる夫の声 金子正治
ユーモラスですね。笑って仕舞った人がいたのかもしれません。(順一)
桂一
奥へ奥へ鎮守の杜の千の蝉 合田憲史
「奥へ奥へ」が神域の蝉しぐれの重層感を増しています。(ゆかり)
本当に奥に行くにつれて鎮守の杜の神秘さを伝えるように蝉の声も深まるように感じます(美穂)
道代
左手の受話器そのままビアグラス 金子正治
いつもながらの長い電話に喉の渇きを覚え、思わずビールグラスを。。。田舎の母からでしょうか?妻から(単身赴任中?)でしょうか?(憲史)
久丹子
就活生黙して出でぬ夏の朝 泰山木
立哉、勢津子、香誉子
園児等の列緑蔭にほどかれて 荒川勢津子
ほどかれて・・がうまい表現だと思います(夏江)
汗びっしょりの子供が日陰で一休みの様子が目に浮かびます(みつ子)
下五から園児らにむける作者の優しいまなざしを感じます。(明)
青い若葉の木陰で一斉に園児等が開放されます。「ほどかれて」の表現で、園児等の元気さが目に浮かびます。(憲史)
てつお、秀平、万記子、悦子
合歓咲いて夜空に赤きアンタレス 浅井貞郎
さそり座が見える頃の夏の季語「合歓咲いて」と取り合せ、合歓の花の紅と繋げた処が佳いと思いました。(武夫)
寝袋で語る哲学夏の露 野口日記
キャンプをしているのでしょうか?自然に囲まれた中寝袋で語らう人たちは詩人にもなり哲学者にもなり……(律子)
旭、礼子
出目金の眼の小さき憂ひかな 中村光男
何を憂へているのかな多分コロナの事でしょう、季語「出目金」が効いている、(貞郎)
悠々自適に泳いでいる出目金でも一匹毎に個性(眼の大小?等)がありその違い・個性等に、作者はご自分の現況と重ねられているのでしょうか?(憲史)
大夕焼海に浮かびし利尻富士 熊谷佳久子
海に浮かぶ利尻富士の雄大な景が眼に浮かびます(光男)
はま子
修復を終へし三尊堂涼し 小栗百り子
涼しい風が吹いてきて、ゆっくりと三尊と対峙している、心地良いひととき。(佳久子)
夏江、 勢津子
歯科治療七夕飾り見上げつつ 内村恭子
映像が浮かびます。季節の移り変わりの感覚を大事にされる心を忘れない歯科医院の方々を思います。(美穂)
桂一
稲光多摩横山をふたつ裂き 相沢恵美子
多摩の丘陵を二本の雷光が襲った瞬間。二つに裂いたのでなく二つ裂いたところに驚きがありました。(ゆかり)
いかにも稲光が光った景だと思います。(百り子)
月見草月無き夜を咲きとほす 土屋香誉子
月の出るころから咲き始めるという由来のある月見草が、月のない夜もひたむきに咲いているのが健気である。(泰山木)
紀美子
石仏の柔和な笑みや鳥帰る 内藤芳生
渡り鳥のこれからの長旅とその後の繁殖期に備えての応援する優しい気持ちにあふれてる。(登美子)
蝉しぐれ一山白き脚絆かな 合田憲史
悦子
ひたひほほ蚊に喰はれをり三分刈 榑林匠子
三枝子、孝子
丸窓開くバレー教室花芙蓉 永井玲子
バレー教室に丸窓の措辞がよい。丸窓にバレーを踊っている姿が見えて来るようです。(相・恵美子)
映画「Shall we ダンス?」で草刈民代さんが佇んでいた窓と丸窓がオーバーラップしました。(万記子)
合歓の花千の仏の眠る洞 熊谷佳久子
やさしい合歓の花に千の仏のやすらぎを感じます。(ユリ子)
桂一、日記
白牡丹浄土曼荼羅花手水 永井玲子
漢字だけで表しているのが曼荼羅絵のように思います(みつ子)
楓
退院日に感謝を記し星祭 原 道代
無事退院出来ておめでとう御座います、季語「星祭り」が良いですね、(貞郎)
コロナ禍の五輪声援家に満つ 小髙久丹子
正明
蛍火の文字飛び交ひし葦の闇 阿部 旭
道代、芳生、紀美子
かなかなや輪廻を語る尼法師 中村光男
蝉声のなか法話を聞く作者。「輪廻」と「蝉の声」が奥処へ誘う。(孝雄)
尼法師が輪廻転生を語っている。鳴いていかなかなの寿命と輪廻転生が絡み合って、上手に表現されていて良い。(芳彦)
石庭の波打ち際や蛇の衣 今井温子
由紀子、尚
掬ふ手の白く揺らめく噴井かな 中川手鞠
「白く揺らめく」が、水の中に手を入れているこの句では景を生き生きと写生している。既視感のない吹井の句。(武夫)
師は在らず西日の街の乾くこと 岡崎志昴女
西日の街の乾く’の表現が存在と不在の強烈な境界線の印象を与えてくれました。’乾く’がとてもいい。(登美子)
城壁に蔓伸び登る残暑かな 酔猿
蔓はどこまでも伸びます 元気です(智子)
ジャスミンの夕暮れ白き領主館 内村恭子
飛、はま子
晩夏光IOCを「お・も・て・な・し」 青柳 飛
オリンピック後のIOCと日本の状況によっては忘れられない一句となるかも。(博子)
夏霧の城壁隠しゆく疾さ 斎川玲奈
どんな城だったのか知りたく思いました。(順一)
四条から抜けて宵山疲れかな 芥ゆかり
祇園祭は豪華さに酔います(智子)
楓、春野、三枝子
漁夫の家に青のシャガール秋高し 中田秀平
漁夫とシャガールとの取り合わせが新鮮。「青」が効いている。(ユリ子)
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