天為ネット句会報2021年9月

 

天為インターネット句会2021年9月分選句結果

 ※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。
  また互選句は句稿番号順に並べております。
 ※一部インターネットで表示できる文字に置き換えております。ご了承ください。

   <日原 傳編集顧問選 特選句>

糸蜻蛉糸を結べる水の上               小栗百り子

「蜻蛉」はふつう秋の季語であるが、「糸蜻蛉(とうすみとんぼ)」や「川蜻蛉(おはぐろとんぼ)」は夏の季語になっている。掲句は水辺で交尾する糸蜻蛉の姿を詠んだ作であろう。雄と雌が繋がって一つになっている。輪になっていることもある。その姿を「糸を結べる」と優雅に言いとめた(傳)。

糸蜻蛉はよく水の上で見かけるが、その糸蜻蛉の雌雄が水の上で結ばれているというのである。自然の中ならではの美しい姿が描けている。(桂一)

中七の「糸を結べる」の修辞が秀逸。男女のつながりの俗信の「赤い糸」をも連想する。(孝雄)



秋の灯や魯迅と藤野先生と              荒木那智子

「藤野先生」という魯迅の短編小説がある。魯迅は日本に留学し、当初は医者になるつもりで仙台医学専門学校に学んでいた。そこで出会ったのが解剖学を担当する藤野先生。留学生であることを配慮して魯迅のノートに毎週添削を施してくれたこと、魯迅が学校をやめる時の悲しそうな様子など、藤野先生の思い出を魯迅は綴っている。秋灯のもとで、作者は二人の感動的な師弟関係に思いを馳せているのであろう(傳)。


  <日原 傳編集顧問選 入選句>

新豆腐ふたり暮しに戻りけり             長濱武夫

「新豆腐」の新しさは新婚時代の「二人暮らし」に戻ること。結婚し、子供を育て、そして二人の暮らし。(孝雄)

新婚時代に戻り、今後の二人三脚での平穏無事な歩みを応援します。(憲史)

夏休みが終わり、賑やかだった生活が過ぎ、また年末までの二人の静かな日々が戻ったことが実感されます。(酔猿)

季語の「新豆腐」が生きている。(てつお)

万記子・勢津子・尚

朝井汲むランプの宿の霧襖              合田憲史

ランプの灯しの山深い宿。朝は深い霧がかかる。さぞ井戸水も冷たいことでしょう。(志昴女)

季語「霧襖」によって句の情景が迫ってきます、素晴らしい句となりました、(貞郎)

霧襖のランプの宿、朝井汲むすがすがしさが眼の奥に残りました。。(豊)

朝霧の立ち込めるランプの宿で汲む水音は、さぞ澄明なことでしょう。(明)

芳彦・楓

子規の忌をもって風鈴仕舞けり            浅井貞郎

私は風鈴も子規もだ~~い好き!とは言い難いけれど、風流で粋?な暮らしぶり。(飛)

そうですね、このころでもう風鈴の風情はお仕舞。へちまだけがぶら下がる、、、、結句のけり、が効きますね。(志昴女)

風鈴を外すのは、子規の忌頃がいいですね。私もそうします。(はま子)

恭子・史子

早稲の風轆轤の壺をせりあげて            牧野桂一

実りの香りを運んで来た風がろくろを回しているようです。(典子)

季語が効いており轆轤を回している様子を上手く詠んでいます。(相・恵美子)

轆轤が回っている様子がうかがえる掲句です   (温子)

香豊かな風の中で、みるみる壺が誕生する情景が見えるようです。(明)

秋冷や銀の雨降る祇園町               熊谷佳久子

銀の雨と秋冷の季語がぴったりです。祇園町のしっとりした雰囲気がしのばれます。羨ましい句です。(志昴女)

「銀の雨祇降る祇園町」というフレーズに「秋冷」がよくマッチしていて詩情が通う。「銀の雨」が写生を越えた象徴の機能を果たしている。(桂一)

三枝子

ひぐらしや二冊重ねた母子手帳            石川由紀子

胎児が双子であることがわかり、頂いた二冊の「母子手帳」、出産を待つ時の流れが「ひぐらし」とともに過ぎてゆく。(孝雄)

二人のお子さんを育てられた母子手帳は理屈無しの大切な宝物です。(はま子)

立哉


ラフマニノフの半音階や銀河澄む           西脇はま子

どういう曲なのかは知識不足で解らないけど、ラフマニノフと銀河の組み合わせが面白い。(飛)

史子

夜の秋の小魚を煮る酢の匂              土屋香誉子

慎ましくも落ち着いた生活の様子が伝わってくる(光男)

道代

漢の世の白虎の瓦当花芙蓉              斎川玲奈

中七と季語がよく合っており格調の高い句です。(相・恵美子)

青瓢揺れて夕刊届きけり               明隅礼子

秋天や湊みなとに日和山               荒木那智子

金風や母につれだつ宝塚               垣内孝雄

有平棒トリコロールに秋の雨             森山ユリ子

かなたより水牛来たる星まつり            明隅礼子

山下りし僧の里坊水の秋               芥ゆかり

 <互 選 句>

膝小僧に畳目のあと水羊羹              木村史子

畳と水羊羹・・和の風景と、膝小僧が出ていることで体感も伝わるように思います。(美穂)

秋野行くわれはガリヴァー虫跳ねる          中川手鞠

虫の眼で見た人は、ガリバーに間違いない。(豊)

玲奈・三枝子

セミナリヨ跡に吊るされゐたる柿           室 明

恭子・眞登美

橋桁の島のバス停秋夕焼               合田智子

人々が上を通りすぎてゆく橋桁の島。そんな島の日常がしみじみと描かれている。(ゆかり)

本土との連絡船が着く桟橋まで乗り入れるバス、人に優しいですね。(春野)

乙女てふユングフラウや大氷河            山根眞五

アレッチ氷河を詠んだ句。二度行っているので、懐かしく拝見しました。(佳久子)

失ひしものを数へて天の川              森野美穂

星を見れば、真っ先に有馬先生のことを考えます。(手鞠)

星になられた方々を、偲ばれているのでしょうか。億年の中の今生・・身にしみます。(博子)

冥府では星になって私共を見守っていると言う。ありえないが信じたくなる(勢津子)

温子・玲奈・秀平

流星を拾ひて町の宝かな               土屋 尚

匠子

稲妻やいにしへ人は神を見し             土屋 尚

礼子

一人子のしりとり西瓜からすかな           榑林匠子

こういう風な素直なしりとりの句を作ればよかった!?(苦笑)(飛)

一人っ子の一人遊びは、いくつ続くのかしら?(智子)

足取りに日の暮れかかる秋遍路            てつお

日の暮れの早い秋、札所の閉門時間は十七時!急がないと(智子)

アッパッパ辻の祠に水足して             芥ゆかり

此の世相に明るくて健康的で良いですね(早・恵美子)

史子

日時計の影やはらかく秋茜              泰山木

やさしく美しい景だと思いました。 (典子)

香誉子・正治

零戦の大暑に錆びる掩体壕              牧野桂一

忘れてはいけない戦争の記憶のひとつ。 (典子)

美術展海の広ごる心地して              内村恭子

瀬戸小島珊瑚樹の実は赤くなり            合田智子

真っ青な海と空に囲まれた島、珊瑚樹の実の赤、色の取り合わせが素晴らしいです。(道代)

島での季節の移り変わりの感慨よく知っておられる島かも。(伊葉)

川波の光まみれの鮭のぼる              熊谷佳久子

光まみれがよい。鮭の鱗も水飛沫も勢いよく見えてくる。(ゆかり)

紀美子・那智子

子の重み膝にいただき盆参り             嶋田夏江

子の重みをいただくという表現が、先祖への畏敬の念をも引き出している。(ゆかり)

御家族、御親戚での、温かく和やかなお盆を感じます。(美穂)

香誉子・孝子・三枝子

葡萄熟れ遠山峨峨と甲斐の国             内藤芳生

金子兜太の愛した甲斐の山々(秩父の山々)を「遠山峨々と」表現した措辞が素晴らしい、(貞郎)

近景から遠景へ大きく広がる表現が、気持ちよい句です。(ユリ子)

正明・楓

疫病(えやみ)の世夢か現か問ふて秋          佐藤律子

孝子・芳生

露天湯にひとりとなりし虫の闇            長濱武夫

季語「虫の闇」が効いています、(貞郎)

虫の闇から一層静けさが増してくるように感じられます。(明)

夏江

落柿舎の色なき風を掴み取る             金子正治

既視感のない句。作者の俳句に向き合われる決意に敬意を表する。(武夫)

色なき風が落柿舎とマッチしていると思います(みつ子)

晩景の浅草六区秋つばめ               垣内孝雄

人出が減って少し寂しい浅草六区。また来春、燕たちが戻ってきますように。(手鞠)

鰯雲山羊飼ふ空の牛小屋に              土屋香誉子

人間界に疲れてきた昨今、こんな牧歌的句に癒され、鰯雲に山羊と牛と他の生き物を入れる突飛さが一つの詩情を生む飛躍となってます。(登美子)

匠子・由紀子

シャトルコック線上に落ち夏果つる          永井玲子

日記・芳生・那智子

初秋の御食つ国より鳴門鯛              室 明

道代

月欠けて骨皮となる薬漬               原 豊

正治

昼寝覚め足裏に残る砂の音              内村恭子

久丹子・礼子

口紅のケースの埃秋寂し               森野美穂

温子・香誉子

カステラの底のざらめや長崎忌            髙橋紀美子

眞五・恭子

老獪は世事なり鮭の鼻曲がり             中田秀平

「鮭の鼻曲がり」が良かったです。(手鞠)

鼻曲りの季語の斡旋が上手です(早・恵美子)

メフィストの甘き囁き黒葡萄             早川恵美子

黒葡萄に悪魔性が付与されて魅力が増したように思います。(順一)

中七の措辞と季語が相応しくメフィストのことを上手く句に仕立てています。(相・恵美子)

黒葡萄の色・・確かに甘くも妖しい感じの色かも、と思いました。(美穂)

由紀子・正明

生かされて今の幸せ曼珠沙華             齋藤みつ子

同感です(眞五)

上五中七はよく見るが、曼珠沙華を含め、作者の自然体の平常心が伝わって来た。(武夫)

生かされてという表現に生あることへの感謝が感じとられて、今を肯定的に生きる作者の姿が浮かびました(律子)

喜寿傘寿胡桃を握るテイ―タイム           鈴木 楓

くつろぎの時間もリハビリを頑張る様子がみえます(智子)

亡き母の手許にも胡桃がありました。(憲史)

勢津子

中宮寺さまは猫好き秋うらら             今井温子

あの微笑みに引き寄せられた猫たち?!心がほんわかとしてくる一句です。(博子)

半跏思惟像の膝に乗っていた猫をブログに載せた僧侶のことですか?秋麗らと大らかに受け止めて居られるのがホットして良いです。(玲子)

虫の音の石庭はるか一つ星              竹田正明

芳彦

つくつくし日の傾くにまだ間あり           山口眞登美

人生をしみじみと味わっている(光男)

今日が8日目の蝉なのでしょうか。結局、人間も夕暮れに向かって歩いているように思えます。(酔猿)

手花火を振り回し書くI love you          児島春野

かつての作者の姿なのか、目にした若者の姿なのか青春の1ページでしょうか(律子)

仔熊とも見えし黒犬秋暑し              児島春野

コロコロ可愛いけれど・・・景をあれこれ想像して微苦笑。楽しい一句です。(博子)

秀平・夏江・尚

貴婦人の持て来しオホーツクの鮭           中田秀平

「貴婦人」と「オホーツクの鮭」の取り合わせ、楽しい句ですね。(ユリ子)

海女のごと飛び込む子等の島残暑           原 道代

元気に飛び込む子ども達の声まで聞こえてきそうです(律子)

頼朝の妻は平氏や月夜茸               山根眞五

平氏を滅亡させての武家政権と猛毒があり夜に発光する月夜茸との関連性に日本の歴史的ダイナミズムを感じました。(登美子)

北条は平氏を名乗るのですね。青く光る月夜茸、ミステリアスで面白いです。(玲子)

歴史の一コマを観るようです。あれは夢だったのね~って感じかな?(早・恵美子)

礼子

高麗川は瀬音しづめて秋に入る            西脇はま子

「瀬音しづめて秋に入る」が実感があると思いました(眞登美)

春野

ひぐらしの耳に残りし夕厨              片山孝子

眞登美

長き夜や脳は誤作動するばかり            佐藤律子

脳の働きのさえてくる秋冷の時期、しかし、今年はケアレスミスが目立つ。それを現代を象徴する「誤作動」ととらえたところが面白い。(桂一)

脳が誤作動するばかりとは私の日々ですが、長い夜を持て余している様子につい笑ってしまいます。(玲子)

地球しか鳴く星の無き法師蝉             酔猿

鳴きつづける様を地球というスケールの大きい言葉で囲んだのでさらに生命力を感じる。(伊葉)

紀美子

十六夜の藍の灯かさね観覧車             佐藤博子

既視感のなさ、十六夜の藍の灯かさねという字配りを含めた巧みな流れ、下五の観覧車への捻りの効いた落とし込みの鮮やかさが良い。(武夫)

神様に愚痴をこぼせり芒原              野口日記

本当に何処にこのコロナの世を愚痴ろうかと嘆きます。神様だけが分かっているのかと(みつ子)

コロナの日々、愚痴ぐらいはーー良くわかります。誰もいない芒原でマスク外して叫んでみたいです。(万記子)

神様に愚痴をこぼすと言う表現が面白いので頂きました。(豊)

無が漂う情景のなか愚痴という現実のコントラストが妙趣。(伊葉)

軒に吊る玩具の車迎え盆               斎川玲奈

ミニカーの類でしょうか。職業車だったのかもしれません。(順一)

酔猿・正明・正治

遊具なき島の公園法師蝉               原 道代

匠子

鴎外忌きのふと過ぎて無縁坂             内藤芳生

那智子・久丹子

向日葵に老残といふ姿あり              上脇立哉

殊更に明るく輝いていた花だけに、「老残」という言葉を使いたくなりますね。一方、うなだれ、枯渇しかかった花も、取り合わせや角度を変えて活けるとまた新たな「美」を作り出せる。生け花の師匠である私の経験からも思います。(ユリ子)

向日葵の枯れる姿を自分にも照らし合わせているのでしょうか・・(孝子)

尚・紀美子

絵手紙の帰郷の知らせ鰯雲              三好万記子

絵手紙で知らせるいいですね(みつ子)

玲奈・立哉

青酢橘母の仕草で搾りけり              てつお

百り子

煌めくはわが師の星よ星月夜             中川手鞠

有馬先生を表徴しているような。(芳生)

私も星月夜の空を眺めては、煌めく師の星を探します。 (佳久子)

秀平・由紀子

持病ある子へ秋燈の明るさよ             武井典子

母の気持ちが「秋燈の明るさ」に良く表現されていると思います。(百り子)

日記

山盛りの枝豆の皿子規忌かな             髙橋紀美子

健啖家の子規に相応しい(眞五)

子規と枝豆は意外に新鮮な組み合わせ。メイン季語は子規忌なのでしょう。(順一)

食べてこその人生だった子規。もっともっと食べさせてあげたかったと思う。そう!山盛りで! (万記子)

俳句の友と子規のことを話しながら、いつの間にか山盛りの枝豆が残りすくなくなって・・・その場の雰囲気が伝わってきました。(佳久子)

立哉

合宿の朝の洗面きりぎりす              相沢恵美子

日記

秋燕の風を自在に遠ざかる              竹田正明

南に帰る燕の姿でしょうか、また来年ねと声を掛けたくなります。(春野)

久丹子

夜の秋使い慣れたる古かばん             河野伊葉

懐旧の情が伝わってくる(光男)

秋の夜’でなく’夜の秋’から始まることで人生の秋季節も強調、長年馴染んだ身近な古かばんこそ切実たる愛すべきモノ、日常の生活句としても万人に共感します。(登美子)

秋声を纏ひてくだるドナウ川             酔猿

「秋声を纏ひて」の措辞が良い。(てつお)

アルプススタンド越え来る校歌夏の果         石川由紀子

越え来るが良いと思います。季語が全て語っている感じです。(百り子)

甲子園の夏の高校野球が終わる頃、辺りにはもう秋の気配が漂う。(てつお)

夕風を猫に分かちて奈良団扇             今井温子

渋団扇と猫との関係が、夕風に溶け込んでいます。(憲史)

幸せな猫ちゃんと奈良団扇。心豊かな暮らしぶりが窺えます。(はま子)

放生会鳥発つ空のうす明り              染葉三枝子

空のうす明り・・・に希望と安らぎを覚えます(夏江)

蜩や門前町の夕明かり                永井玲子

芳彦

以上

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