天為ネット句会報2022年1月
※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。
また互選句は句稿番号順に並べております。
※一部インターネットで表示できる文字に置き換えております。ご了承ください。
漱石忌猫に欠伸をうつされて 牧野 桂一
猫はよく欠伸(あくび)をする。眠い時はもちろんだが、失敗をした時、食事の前など次の行動へ移ろうとする時などにもするようだ。その猫の欠伸を見て、人間の方も欠伸をした。それを「うつされて」と捉えたところが面白い。漱石は猫と繋がりの深い作家。そもそも漱石が最初に発表した小説は『吾輩は猫である』であった。小説の随所に記される滑稽な話は掲句の世界に通うところがある。「漱石忌」という季語が働いている所以である(傳)。「猫のあくび」が効いてます。(てつお)
漱石忌は12月9日ですね、猫を句材にして(欠伸をうつされて」の措辞が面白い(貞郎)
猫がしているのは本当に欠伸なのだろうか。家の猫も私の真ん前に来て、大欠伸をする。文豪夏目漱石先生の前でも猫は大欠伸をしたのでしょう。もしかして「吾輩は猫である」と大見栄を切っているのかも知れません。(はま子)
猫好きには解る情景です!(早・恵美子)
久丹子・温子・史子
職人の皺のよき顔みそか蕎麦 山口 眞登美
大晦日の蕎麦屋の光景であろう。歳のいった職人が年越しそばを食べている。顔に刻まれた皺はその職人の技術の確かさを示すかのように感じられたのであろう。その思いを「皺のよき顔」と言いとめた(傳)。
「皺のよき」という措辞で、生真面目で仕事一筋の職人の様子が浮かび上がってくる。(光男)
古いそば職人が減っていくなか職人の皺のよき顔としたところになんとも安堵感が込められているような。(伊葉)
老練な職人の気持ちが伝わってきます。みそか蕎麦が美味しさう。(百り子)
礼子
冬かもめ家業継ぐ子の遠目癖 てつお
既視感のない句。冬かもめが佳く。遠目癖も合っている。(武夫)
家業を継ぐことを決断した子の決意のようなもの、そして未来を見据えていることをも感じさせる句だと思います(律子)
家業を継ぐ決心、受け継ぐもの・・冬かもめが景を大きくしているように感じました(美穂)
尚・香誉子・礼子・久丹子
雪蛍やうやく解る父のこと 金子 正治
社会人として父親になり定年を迎える。父のことが思い当たるし分かるようになる。父と同じような道を歩んでいるのかも。父の思い出が浮遊する。(孝雄)
そういうこともあると思います。俳句自由に想像できる処が良いです。(武夫)
ひと昔前の父親像が浮かびます。口数の少なかった父親のことを今になって有難く思い出しております。(明)
父のことは本当に少しずつ理解していくものなのですよね。実感しております。共感致します。(美穂)
年を経て、多くを語らなかった父のことがやっと理解でき、その後悔と感謝の気持ちを詠まれたように思います(律子)
初場所や大川端の触れ太鼓 合田 智子
初場所の「景」を彷彿とさせる。(孝雄)
ずっと変わらない、威勢よく華やかな音色を思います。(春野)
手鞠・楓
骨董屋の大きな小人クリスマス 明隅 礼子
大きな小人のいい表し方が面白いと思います(みつ子)
博嗣
子の墓のとりどりの花小つごもり 荒川 勢津子
お子さんのお墓をとりどりの花で埋めている心穏やかな作者の様子が見えてきます。季語が効いています。(相・恵美子)
三枝子
盆栽の小枝繕ふ小春かな 阿部 旭
「小枝」に愛着を感じました。(順一)
香誉子
雪しまきサムトの婆のやつて来さう 荒木 那智子
「サムトの婆」がやってくると怖いことが起こるのだろう。カタカナの字面に怖さが増幅されるよう。(博子)
手鞠
神宿る島の木枯舟寄せず 牧野 桂一
春野湯のししてセーターを編む母の背な 嶋田 夏江
悦子瑞雲の富士をおろがむ初御空 鈴木 楓
「おろがむ」とは古語で拝むという意味ですね、如何にもお正月らしいおめでたい句です(貞郎)明兆の描く涅槃図猫も来て 松山 芳彦
猫が涅槃図に来ているというのが面白い。今年は虎ですが、虎も元を正せば猫と同族ですので、親しみもわいてきます。(桂一)あはははとたまの大口去年今年 小髙 久丹子
金鶏鳥銀鶏鳥と年迎へ 斎川 玲奈
人と肩触れ合う路地の初詣 土屋 香誉子
黒楽の寒月茶碗除夜の釜 髙橋 紀美子
木製のカードの温み降誕祭 佐藤 律子
伊勢海老の髭の長さよめでたさよ 中川 手鞠
髭の長さとめでたさは比例する感じ。「よ」の重複がめでたさも重複させている感じがします。(百り子)やはりお正月らしい句は心がほっこりします。立派な伊勢海老、よい一年となりますように・・(美穂)
医療センターの碑「照一隅」や去年今年 今井 温子
碑の言葉に昨今の実情を思い、感慨を深くする一句でした。人類がウィルスに耐えられますように・・(博子)
ひとはみな過客や寒夜神を恋ふ 森山 ユリ子
〈k〉音の連なりが、誰もが感じる「過客」と言う言葉の重みを一層深くしていると思います。(明)
温子
師は飛んで地球系より寒昴 岡崎 志昴女
「地球系より」という言葉が有馬先生の有馬先生らしいところをよく表現している。(桂一)
飛んでのいい表し方好きです(みつ子)
結晶の薄さ大きさ六花積む 土屋 尚
観察日記のような出だしから六花という雪の異称への美しい展開です。(ゆかり)五百羅漢新調されし毛糸帽 榑林 匠子
根気のいること(眞五)
深く信心されているのでしょう、沢山の像の一つ一つに暖かな毛糸帽。(春野)
羅漢様の赤色の毛絲帽子、信心深い人の手編みで新調されお正月を迎えた。一針一針に祈りを込めて編まれる姿が目に浮かびます(勢津子)
道代
膝毛布掴みて医師に受け答へ 町田 博嗣
信頼する医師の一語一語を留め的確に自身の様子を伝えるこの場面その緊張に共感します。(伊葉)
酷使した体力の機能を回復させたいと重要な検査結果を聞いている。ふるえは寒さだけのせいではない。(茂喜)
孝子・万記子
外郎や仄と紅差す春着の娘 早川 恵美子
外郎にも紅がさしているのでしょうか、華やかな気分になる句です(夏江)水鳥の連れてはなれぬ己が影 小栗 百り子
不動の鳥が魅力的に見えました。(順一)
正明
耳元の獅子の咆哮大寒波 長濱 武夫
獅子の咆哮を耳元で聞くと思わず身震いしてしまいますね。季語がぴったりです。(相・恵美子)
正治
回り来る帽子にコイン聖夜ミサ 染葉 三枝子
道代・玲子・澄江・紀美子小夜更けて第九を聴きに雪女 熊谷 佳久子
第九は理屈抜きに聴きたい(眞五)
伝説の雪の精は、ベートーベンの短調の曲とシラーの詩の大きさに魅かれ思わず会場に引き寄せられた。(茂喜)
なかなか文化的な雪女ですね。自分の隣にいつでも座っていそうですね。(桂一)
雪女も第九聞きたいのでしょう(みつ子)
小夜更けてから、第九を聴きに雪女が現れるなど、ユーモアがあり、面白い。(芳彦)
旭・温子
殻固き農高ブランド寒卵 石川 由紀子
”固き”に伝統ある農高で学ぶ気概を感じます(憲史)
「農高」が「農業高校」の略だと知らず検索してしまったけれど、色んな若者が色んな物を作っているんだ!(飛)
匠子・立哉
仁と礼こころに描き淑気満つ 山根 眞五
楓
宇宙より地球恋ふるや寅彦忌 武井 悦子
宇宙ステーションで年を越す人もいる昨今の句。先生かもしれない。寅彦忌が効いていると思います。(ゆかり)
師も友も連なりつくる冬星座 森山 ユリ子
立哉籾殻に昭和の匂ひ寒卵 佐藤 博子
確かに昔は卵は籾殻の中に入れて運んでいた。昭和の時代を彷彿させますね。(光男)
子供のころは卵は小屋の籾殻の中でした。大切に取り出していた記憶。そうか、昭和か!(志昴女)
今は、プラスチックケース。昭和を懐かしく回顧して。(佳久子)
忘れていた昭和の日常(典子)
卵が貴重で高値だった昭和の時代、取扱い注意でした(智子)
正治・尚・旭・悦子・孝子・手鞠・那智子
老いてこそ令和の心冬の梅 井上 澄江
冬梅のように清らに老いてゆく。美しいですね。(ユリ子)
令和の語源の意と, 老いて見えてくるものを季語に重ねているのがいい(典子)
始まりは楷書の美文字日記果つ 泰山木
何事も最初は気合が入りますが、一年通してそうとばかり行きません。中七がいいですね。(てつお)
笹鳴や店主の熾す蒸籠の火 野口 日記
眞登美齢にふと立ちすくみたる寒さかな 原 洋一
齢を取ると寒さに弱くなる。「ふと立ちすくみたる」という表現が上手い。(光男)
小綺麗に年をとりたやお正月 山根 眞五
小綺麗に年を重ねる。「気質」を感じる。(孝雄)
一昔前までは、「小奇麗に」とか、「小ざっぱり」とかという言葉をよく耳にした。断捨離をしてもしても小奇麗にならない我が家。叶うことなら小奇麗にして、お正月を迎えたいものです。(はま子)
室咲の花老犬の水の皿 木村 史子
静物画のような一句。花、皿と二つをぽんぽんと置き、もはや動きの鈍い老犬も静けさを添えています。(ゆかり)
花と水の皿このふたつを率直に浮かび上がらせた。思えばそれぞれ相通ずるものがありますね。(伊葉)
匠子・博嗣
人がたにくぼむベッドや開戦日 木村 史子
ベッドに残る窪みから、人の不在を感じ取り、先の戦争で失われた多数の命へ思いを馳せる作者の繊細な心が感じられる。(博行)
青き縄梅花に編むや年用意 佐藤 律子
紀美子
湯上りの桶にふやけた柚子八つ 芥 ゆかり
柚子風呂をたっぷり楽しんだ景がみえます(智子)
お役を果たしたふやけた柚子に着目されたのが何よりいいです!味わいのある面白い句だと思います(律子)
七千の故国の島や初夜明 妹尾 茂喜
日本の隅々まで万遍なく初日が昇りました(泰山木)
玲奈・澄江
煤払ひこんなところに銀の匙 青柳 飛
大掃除していると思わぬ探し物がみつかります(智子)
旭・眞登美
遠汽笛瀬戸胎動の淑気かな 合田 憲史
淑気に、遠汽笛がきっかけとなる「瀬戸胎動の」取り合せが新鮮でいいと思いました(眞登美)。
瀬戸内に活気ある正月が戻ってきそうな予感(泰山木)
瀬戸内海の港の、新しい年へと動き出す引き締まった気持ちが「胎動」で伝わる(典子)
尚
もてなしの社訓を掲げ年の宿 内村 恭子
宿の壁に額縁入りの社訓、しかも、もてなしとはとあった。一年のお疲れは取れましたか?(玲子)
史子
干大根土偶どつかり跨ぐやう 金子 正治
多産、五穀豊穣を祈って作られた土偶は上半身より下半身がどっしりとしている。干し大根がまるで土偶の逞しい足腰のように丸太を跨いでいる。面白い光景。(はま子)
秀平
大本堂縁下に干す大根かな 榑林 匠子
あ~記憶にあるな~古いお寺は本堂も床が高い、人が入るのも楽々。そこに沢庵用の大根を干した、、、いいですね!(志昴女)
香誉子
宇宙にて過ごす人いて去年今年 児島 春野
民間人宇宙旅行という新しい時代の始まりをさらりと句に。俳句らしさを感じました。(万記子)
科学の進歩は矢のように早い。夢があるけれど、変化についてゆくのは大変ですね。(ユリ子)
立哉・三枝子
皮削がれ白きが一つ浮く柚子湯 岡部 博行
家庭風呂でしょうか、皮は料理に使い白い実の方は柚子湯にと、自分にも経験が有り少し笑えました。(孝子)
朝焼けて秩父太鼓の淑気かな 浅井 貞郎
朝焼けて、秩父太鼓の音は格別であり、淑気を感じたのであろう。(芳彦)
奉納太鼓ですかね。勇壮かつ元気をもらえそう。(飛)
悦子
五時からはこども食堂クリスマス 芥 ゆかり
コロナ禍、子供たちへの暖かい心くばりが伝わります。(明)
仕事が終わる五時、仕事が始まる五時、母のいる子もいない子も皆揃って、なんと賑やかなクリスマス。この日の五時をどんなに待ちわびていたことでしょう。(玲子)
那智子・万記子・由紀子
鈴懸の実や冬青空に奏でさう 髙橋 紀美子
鈴懸の大きな茶色の実が、冬空にカラカラと鳴っていた。南フランスの街道を想いました。(ユリ子)
芳彦・秀平
剣玉の世界一周獏枕 中村 光男
”剣玉”を世界中に広めたいという夢!今年こそ(憲史)
剣玉の芸に世界一周って有りましたね。遊びを想い出しました流石!(早・恵美子)
ブルーライト横浜の夜マスクして 西脇 はま子
ジャズの街横浜に軽快なリズムが流れた(眞五)
久丹子
男の子泣くな海鼠を食べるまで 石川 順一
匠子
パン焼ける香のする厨レノンの忌 原 洋一
今日は十二月八日。パンの焼ける香にジョン・レノンのことを思う。彼も、子育てと家事に専念していたハウスハズバンドの時期に、パンを焼いていたのだなと。(博行)
ニューヨークに移り住んだジョンレノンが求めていたのは、実はこんなささやかな日常の幸せだったのではないか、と思わせるところが巧み。(恭子)
秀平
凍鷺の沈思黙考堰の音 今井 温子
正治
ふるさとは眼鏡のくもる雪景色 山口 眞登美
眼鏡が曇るで故郷を言い表せるのですね。凄い!(早・恵美子)
正明
峡深き無人駅舎は落葉なか 原 道代
楓・夏江
足袋行き来すやとりどりの盆栽を 町田 博嗣
盆栽村でしょうか。足袋に視点を当てたことで、着物で訪れた人々の賑わいや、盆栽の手入れをする職人さんのきびきびとした様子が見え、光景が広がります。(恭子)
片雲の茜に染みて風花す 荒川 勢津子
美しい光景ですね。(佳久子)
正明
青い目の人形の箱クリスマス 永井 玲子
元々家に有った物が発掘されたのかもしれません。(順一)
礼子
帆船を捕らへ氷湖の月細し 武井 典子
凍湖が帆船を捕えている措辞が巧みで月細しの季語が効いています。(相・恵美子)
闇にとどまる景色に細い月が、静まり返った冷たさを感じます。(百り子)
由紀子・紀美子
亡き妻の里に来て待つ初茜 中田 秀平
涙。どうか亡き方の分までも長生きしてください。(志昴女)
奥様への想いの強さが伝わります。(武夫)
例年、正月は奥様のお里で過ごされていたのでしょうか。奥様が亡くなられてもご存命中と同じようにお里の皆様とお正月を迎える人の絆の暖かさを感じました(勢津子)
奥様と一緒に見られたこともあったでしょう。(道代)
雪しまき番号見えぬ駐車場 森野 美穂
「雪しまき」で一瞬に景が立ち上がってきました。厳しい自然と共生してきた歴史を想像します。(博子)
博嗣
愛犬の威風堂堂初御空 三好 万記子
ゴールドレトリバーとかの大型犬かもしれないけれど、パグとかの小型犬が一丁前に「威風堂々」してるのかも、とニンマリ。(飛)
ルビコンをあつといふ間や絵双六 佐藤 博子
カエサルのごとく。(佳久子)
史子
仮名文字の多い番組去年今年 中村 光男
日本人の心を伝え合うのに長年、漢字・仮名が貢献してきたのに戦後の日本はカタカナ語に冒されている。(茂喜)
世の中の変わりようは驚くばかりです。昭和は遠くなりにけり(勢津子)
品書きに難き字のあり十二月 明隅 礼子
老舗蕎麦屋の品書きの難解な字を目にする十二月。しみじみとした喜びがみえます(憲史)
冬耕の天地返しの香りかな 長濱 武夫
中7の[天地返し]の措辞が良いですね(貞郎)
夏江・澄江
掛釘の顕になりて古暦 阿部 旭
壁に掛かった日めくりの暦が、師走ともなると残り少なくなる。紙よりも支える釘が目立つようになったことに注目し、月日の流れを感じるところがリアル。(恭子)
同じ景を句にしようとしたのですが、こんなに上手くいきませんでした。(てつお)
那智子
繋がれし空のボートや年歩む 相沢 恵美子
玲奈
雪螢たゆたひ透きとほる時間 岡部 博行
時間が透き通るとは幻想的です(泰山木)
厄災をチャンスと意訳日脚伸ぶ 小髙 久丹子
由紀子・玲奈
どの小屋もサンタが屋根にマーケット 小栗 百り子
三枝子
夕暮れのコートに包む今日の棘 野口 日記
今日一日にあった厭なことを思い出し、コートの襟を立てて夕暮の街を足早に歩く。「明日は別の日」と小声で唱えながら。(博行)
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