天為ネット句会報2022年3月
※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。
また互選句は句稿番号順に並べております。
※一部インターネットで表示できる文字に置き換えております。ご了承ください。
春耕や海に迫り出す千枚田 浅井 貞郎
海の見える千枚田の光景としては能登の輪島の白米千枚田が有名。掲句は、春の耕作が始まった千枚田の様子を俯瞰しているのであろう。「海に迫り出す」とまで言ったところ、小さな田がひしめき合い、幾重にも重なっているさまを言い当てている(傳)。
谷合にまた海にせり出す千枚田(眞五)
柔らかな光の中の農作業。海にせり出すような千枚田の様子が浮かびますね。(志昴女)
能登の「景」であろうか。春耕に対する意気込みが感じられる。(孝雄)
春光の能登の白米千枚田が思い浮かびます(泰山木)
国土の70%が山林である日本。ご先祖らのご苦労が偲ばれます。それだけに春の到来の喜びは一入です。(明)
海に迫り出すという表現で日本の美しい千枚田の景が浮かびました(律子)
海に迫り出す崖の上まで耕した千枚田は、祖先の生きた努力の証である。こうした努力の結果今日の我々の暮しがある。 (武夫)
史子、楓
鉢の水跳ね放題に春の鳥 上脇 立哉
庭にしつらえた手水鉢に小鳥が来ている情景を想像した。水を飲んだり、四方八方へ水を飛ばしたり、自由に振る舞っているのであろう。春の到来を喜ぶ様子が「跳ね放題に」という措辞から伝わってくる。「はち」「はねほうだい」「はる」とハ行音を連ねたところも春らしい感じを出す上で効果がある(傳)
春の訪れを喜ぶ鳥の姿が浮かんできます(貞郎)
旭、正治、美穂、正明
逆さまに絵本読む子や寒明くる 熊谷 佳久子
母と子の育児期の幸せ一杯の一齣。どんな絵本なのだろうか。平和であることの、ありがたさが身に染みる。(はま子)
子育て中の微笑ましい仕草ですね(智子)
寒が明けて活動が始まるのですが、そこで張り切っている子どもが絵本を読み始めます。その絵本か逆さまというのがとてもユーモラスで可愛いらしいです。季語がよく効いていると思います。(桂一)
寒明けの陽射しの中、えんこをして絵本を見ている幼子。いわさきちひろの世界が目の前に広がりました。(明)
楽しく心暖かくなる句ですね。季語がとても活きていると思いました。(道代)
立哉
自転車のすいと出てゆく春の朝 土屋 香誉子
自転車通勤でしょうか。「すいと」に慣れた乗り手とロードバイクの軽やかな様子が見えます。春の朝がぴったり。(恭子)
自転車で朝の登校か出勤時の様子が「すいと」という言葉で春の気分を出していると思う。(克之)
「すいと」がいかにも春らしいのびやかさ。(万記子)
新学期を迎えた女子高校生が乗った自転車がすいと門を出て、坂道を下って行く。すがすがしい春の朝の光景。ふと、戦場と化したウクライナの子供たちの澄んだ青い目が思い浮かんだ。(はま子)
モーツアルト的明るさの句ですね(早・恵美子)
洪鐘の一打に山の芽吹きかな 浅井 貞郎
鐘の音に一斉に芽吹いた山の様子が重なります。(百り子)
大きな洪鐘の一打が山の芽吹きを誘っているように感じられ、大きな景が見えてきます。(相・恵美子)
楓・紀美子・尚
涅槃図の裏より猫の鈴の音 西脇 はま子
涅槃図には登場しない猫が必死にアピールしているのでしょうか(律子)
「猫入」の涅槃図は少ないそうです(智子)
「不参の猫」の句を想います。鼠に謀られたとか諸説ありますが、涅槃の頃にはお釈迦様を偲んでいる猫。(博子)
由紀子、那智子
産院のレースの陽射し桃の花 三好 万記子
レースの陽射しに桃の花、もしか女の子が生まれたのでしょうか・・(孝子)
今にも赤ちゃんの泣き声が聞こえてきそうです(みつ子)
澄江、史子
大仏の背中の窓や春の風 髙橋 紀美子
春風駘蕩たる鎌倉大仏を思い起こします(泰山木)
狭い大仏の中、春の風はさぞ気持ちよかったことでしょう(夏江)
「大仏の背中の窓」というのは初めて知りました。このような発見も俳句の面白さの一つではないかと思います。(桂一)
勢津子
花ミモザ四部合唱の聖歌隊 合田 憲史
多数集まって花房を作り良い香りを放つミモザ。四部合唱の聖歌隊の作る和声の響きと重なり合う。(博行)
ミモザの純な明るさと聖歌隊の清らかな歌声が雰囲気を醸して、佳いと思いました。(ユリ子)
尚
山の神そして火の神畦を焼く 明隅 礼子
山の神・火の神への畏敬の念が感じられます(憲史)
自然の中の営みは、皆神様と関わっており、畦を焼く時もお祓いをして、火の神のお出ましを願う。「そして」がそのような姿を引き出してくれているように思います。(桂一)
畳みかけるような措辞に、神への敬虔な気持ちと感謝を表する景色を感じました。(博子)
猫柳ひかり散らして堰の水 除門 一喜
中七の措辞が上手いですね。(光男)
猫柳の柔らかなひかりから堰の水の勢いある光へ。中七が自然です。(ゆかり)
正明
日溜りに雀の遊ぶ立子の忌 三好 万記子
虚子と立子の俳句における師弟関係を垣間見る。(孝雄)
命日は3月3日。寂しい雛の日になったが、日溜まりに遊ぶ雀を見つける。きっと明るく暖かな日だったに違いない。(玲子)
手鞠
海鳴りの追ひ来る古道実朝忌 芥 ゆかり
立哉、那智子、礼子
総門の軋みつ開く深雪晴 今井 温子
立哉、眞登美
恋猫や船待つ島の浮桟橋 原 道代
澄江
薔薇の芽やモーツァルトの嬉遊曲 森山 ユリ子
紅梅や卑弥呼の噂残る里 竹田 正明
世に好きなもの卑弥呼のこと平家の落人伝説(眞五)
邪馬台国の九州説と畿内説を噂と捉えているのが妙味(智子)
梅の渡来は弥生時代との説もあるとか、卑弥呼には香り高い紅梅が似合いそうです。(春野)
纏向遺跡の事であろうかと思いました。(順一)
美穂
花種蒔く鳩の羽ばたき地に空に 山口 眞登美
香誉子
副反応かててくはへて花粉症 土屋 尚
オミクロン防止の注射をしたが腫れも熱もひかない。おまけに花粉症もある。憂鬱な春は長い。(茂喜)
夏江
永き日の口に延命十句かな 玉田 ゆたか
悦子
冴え返る日の楽しみは白き富士 児島 春野
勢津子
桜餅鳴き出しさうな形して 森野 美穂
桜餅が鳴き出しそうな形とはどんな形なのだろうと少しつぶれてしまったのかなと面白い言い方だと思いました(みつ子)
一刀に願ひ込めたる古都の雛 泰山木
古都では戦もあり疫病の流行も断ち切りたいこと(眞五)
右大臣「推し」てふことも雛飾る 内村 恭子
万記子
金鳳花大和に一言主の神 今井 温子
大和に一言主の神という事実の提示に対し、山野に咲く黄色の美しい花の取り合わせが佳く、金鳳花の文字も佳い。 (武夫)
道代、眞登美
三椏のつぼみ蜜色猫の耳 石川 由紀子
蕾に焦点をあてさらに猫耳の形や感度につなげている。蜜色が目に染みるよう。(伊葉)
猫の耳も密色と詠んだ所がよかった。(佳久子)
春風の耳にほやほやイヤリング 垣内 孝雄
匠子
よみがへる湾白く染め鰊群来 土屋 尚
鰊群来で染まっている綺麗な景が見えてきます。上五の措辞がかつての鰊群来を思い出させてくれます。(相・恵美子)
手鞠、正明
陽春や母に聞かせるハーモニカ 永井 玲子
季語の陽春が効いていますね。(光男)
下校後ハーモニカを取り出した子どもが習い立ての曲を得意げに吹いた。「どうだ」という顔。(茂喜)
戦争の子等の涙や冴返る 鈴木 楓
中7の「こらの涙や」に共感。独裁者の仕業が憎い(貞郎)
秀平
卒業し君の部屋には風の吹く 森野 美穂
親なら誰しも経験する安堵と喪失感。子の部屋が突然広々と。(万記子)
別れの唄が聞こえてくるような・・・(早・恵美子)
日記、道代
舫ひ綱鳴る春光の船だまり 原 道代
船溜まりの春の長閑な景色が見えてくる。(芳彦)
漁港の船溜まりにも春が来ました(泰山木)
少なからぬ風があり、春の明るさの中の船だまりは、春らしい景色と思います(眞登美)
水面に煌く光と舫ひ綱のゆるやかに鳴る音。眼前に春の長閑な景が広がる。(博行)
礼子、紀美子
春雷や抱擁交はす避難民 中村 光男
黒海北岸の国を思う。突然の戦雲急を告げ故国を共に離れた女・こどもが再会を果たした。(茂喜)
正治
搾乳の違はぬリズム草青む 牧野 桂一
リズム、青むの韻が効果的で、同じ作業でも春の深まりを感じながらノッている感じがします。(ゆかり)
牛の乳搾りの場面が目に浮かぶ。同じリズムの搾乳と牛の食料である草が青々とが好対照である。(克之)
上五中七の即物具象の事実の提示に対し、即き過ぎなほど近い季語「草青む」だが、既視感がなく、その通リと納得する句。 (武夫)
春の芽吹きと共に牛の乳の出の勢いも増しています。「違はぬリズム」が妙味(憲
紀美子、旭、那智子
凍返る戦車の前の老いひとり 長濱 武夫
ウクライナの侵略戦争を思い浮かべました。自分の命を捨てて戦車を止めようとする姿を思います。(志昴女)
数え切れない戦車、家を焼かれ家族をなくし呆然とする老人、誰か戦争を止めさせてくれ(貞郎)
手鞠、勢津子
饒舌な売り子の手振り春うらら 合田 智子
売り子があまりにも饒舌だと却って商品が怪しいと思うことがあります。そんなのをのんびり眺めているのも春のいい陽気だから。(恭子)
季語と内容が合っていると思いました。(順一)
史子
海神を揺り起こしてや春一番 岡部 博行
海神を揺り起こすような春一番が吹いたというところが面白い。(芳彦)
金堂の筆華一筋の雪解水 松山 芳彦
こころを静めて無心の世界に雪解水の季節感も湧き上がってきます。(伊葉)
セッションのコードに合はぬ恋の猫 早川 恵美子
久丹子
健やかな糞して仔馬跳ね走り 髙橋 紀美子
健やかな糞、なんとも可愛いです。仔馬よ早く大きくなあれ(玲子)
体内の状態を知るバロメータの糞。仔馬もその糞も健やかである。作者の暖か心が伝わってくる。(はま子)
元気な仔馬の様子が、春をいっそう明るく、晴れやかな感じにさせたと思います。(百り子)
「健やかな糞」は、人にも仔馬にも大切なもの。仔馬の喜びが手に取るようです。(てつお)
二月尽キックボードで飛ぶ地球 野口 日記
コロナと寒さで大変な2月でしたね。乗り切ったんだ!(早・恵美子)
不明朗な採点を物ともせず、最後の1本で優勝したスノーボーダーを想起しました。飛ぶ地球の措辞に、壮大な景を感じる。(博子)
孝子
日脚伸ぶ窓辺が『まる』のけふの場所 佐藤 律子
久丹子
春の日や坂の途中の焼鳥屋 野口 日記
うららかな春の陽気に誘われて出かけた散歩の帰り道、ふと目にとまる焼鳥屋。まだ日の高いうちにちょっと一杯ビールでも。春の気分に溢れた句。中七が効いている。(博行)
絵手紙の一筆啓上梅咲けり 森山 ユリ子
得意の絵手紙に梅が咲いたことを絵に一筆添えて友人に贈る。友人の笑顔が目に見えるようだ。(克之)
梅が咲いて鶯が聞こえてきたらまさに春ですね(みつ子)
悦子
野良猫の耳に囁く四温風 松山 芳彦
香誉子
雛の間の夜のひそひそ話かな 芥 ゆかり
女子ばかりでしょうか、家事を終えホットして小さな声で話している様子が微笑ましいと思います。(孝子)
美穂、尚
春山を蹴つてをりけり赤ん坊 荒木 那智子
元気いっぱいの赤ん坊を明るく捉えましたね。(てつお)
悦子、秀平
ベランダの十輪ほどの梅見酒 てつお
日記
裏高尾路肩に涅槃雪積まれ 荒川 勢津子
春の雪なのに路肩に積まれるほど降った。「裏」にリアリティがあります。(ゆかり)
由紀子
絵踏せぬ足パライソの階を 岡部 博行
由紀子
産土の社古りけり蕗の薹 井上 澄江
楓
海舟の墓なる碑文春の雨 中村 光男
碑文が春雨にしっとり濡れ味わい深い句に感じられます。(相・恵美子)
矢音軽しロビンフッドの森は春 内村 恭子
博嗣
花嫁は峠越へして山笑ふ 合田 憲史
遠い昔ののどかな風景を思います。(春野)
澄江
ゆるゆると歩く媼の冬帽子 嶋田 夏江
ゆるゆると歩く媼をよく見かけるが冬帽子をまだ被っている。ここを句したのが面白い。(芳彦)
「ゆるゆると歩く」の表現が冬帽子としっくりと来ます。(ユリ子)
人ごゑのまだ園にゐる春灯 山口 眞登美
暮れてしまってなお春を戸外で愉しむ様子が「人ごゑのまだ」と言ったことで、空気感がよく表れていると思います。(恭子)
ミモザ咲く風の社の水辺かな 佐藤 博子
手堅い写実だと思いました。(順一)
北開く十二年目の被災海 荒木 那智子
正治
天空の奥へ奥へと春の鷹 佐藤 博子
この春の鷹は、天空の先生に逢えたかしら? (佳久子)
秀平、礼子
透明な風の冷たき二月かな 上脇 立哉
夏江
坂の名と同じバス停梅の花 垣内 孝雄
昔からの由来ある名を大事にしているのですね。「梅の花」との取り合わせが妙味(憲史)
石段を数へつ上る梅の寺 榑林 匠子
春野
春菊や長所短所の紙一重 てつお
長所も短所も紙一重。傍から見ればそうですよね~(志昴女)
日記
山笑ふ音まろやかにブランデー 金子 正治
久丹子
向き変へて鶯餅に意志のあり 明隅 礼子
器に盛った鶯餅、向きを変えたら意志があるようにみえた。この鶯はこれから佳き声を聴かせてくれようとしているのか、はたまた、この場から飛び立とうとしているのか。面白いです。(玲子)
ヒヤシンス出窓に抜ける風やはら 合田 智子
旭、百り子
ぎいぎいと竹が竹打つ春疾風 小栗 百り子
香誉子
雨粒は海へ還れり鯨の歌 木村 史子
匠子
春立つやいやに明るき杉檜村 玉田 ゆたか
いやにと強調したところがひねりがあって効いています。(伊葉)
飯喰はず貌も洗はず地虫出づ 早川 恵美子
陽気に誘われて出てきてしまった地虫、準備が間に合わず?かな(律子)
博嗣
啓蟄ややわやわ開く農日記 片山 孝子
農日記を「やはやは開く」さまと「啓蟄」とが醸し出す世界。(孝雄)
これから忙しくなる農作業に思いを巡らせているのでしょう。(てつお)
草木瓜の花の笑みゐる多摩の里 室 明
春日に咲く草木瓜は、ほほえんでいるようい見えますね。(ユリ子)
亀虫の髭振ってゐる日の障子 斎川 玲奈
春の穏やかな様子が伝わってきます。(光男)
匠子
遠富士や武者絵の凧の乱高下 斎川 玲奈
乱高下の凧は、なんと武者絵の凧。人間社会を少し風刺している様。遠くに富士山の見える広々とした空間もよかった。(佳久子)
人気なき水晶峠雪解水 竹田 正明
山国の浅春の様子が見えてきました。文字「水」が二度現れて確実に春の訪れを感じさせてくれています。(明)
博嗣
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