天為ネット句会報2022年4月
※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。
また互選句は句稿番号順に並べています。
※一部、インターネットで表示できる文字に置き換えています。
満願の笈摺を脱ぐ花の寺 石川 由紀子
笈摺は、背中に背負った荷物で着物の背が擦り切れないよう、着物の上に掛けた被い着。札所を巡り、最後の一つが花の寺。脱いだ笈摺は大事にとっておき、死出の旅路の際にもう一度着せ掛けてもらうのだろうか。なんにしても、旅が無事に終わってめでたし。(法弘)
お遍路の最後が花の寺だったなんて素敵。脱いだ笈摺に巡礼の満足感も疲れも温もりも感じられる。(ゆかり)
お四国さんお遍路さん 懐かしい故郷の景が浮かんで参りました(温子)
花の頃に満願したお遍路さん。笈摺を脱ぐその満足感が伝わります。良かったですね。(志昴女)
春の寺がまさにいきいきとしています。(伊葉)
手鞠、那智子、玲奈
スパイスの混ざり合ふ街三鬼の忌 芥 ゆかり
違う人種、異なる宗教、様々な年代、多様なジェンダー。そして民族固有の匂いとでもいうべきスパイスの香の混在。お互いを認め合ってこその平和。エキゾチックな風を漂わせていた三鬼に似合う町と言えば、日本では神戸。海外ならシンガポール。(法弘)
三鬼が戦時中に過ごした神戸の街の雰囲気が想像できます(泰山木)
多種のスパイスが鼻を衝く街。ニヒルでモダンな三鬼が向こうから歩いてきそうです。(玲子)
匠子、立哉
ゆるやかに曲がる川筋花菜風 小栗 百り子
かなりな下流で、大きく蛇行して、河原や中洲が広々とし、海も間近となってきた日本の川の河口付近には、菜の花が似合う。(法弘)
全体的にのんびりとした春の風景が、曲る川筋の川と菜の花で表現されていると思います(眞登美)
辺りに菜の花が咲き乱れる川の景色を思います。(春野)
緩やかな川筋には今は菜の花が覆っている。そこにそよ風が吹いている景色が見えてくる。(芳彦)
上五、中七の措辞が柔らかく穏やかな句です。季語が効いています。(相・恵美子)
正治、美穂、三枝子、澄江
花ミモザゆたかに活けて女性の日 森山 ユリ子
3月8日は国際女性デー。今まさにロシアの侵略を受けているウクライナでは、クリスマス、復活祭に次ぐ重要な祝日(ミモザの日)と位置付けられており、ミモザやチューリップの花を、男性が女性に贈る習慣がある。(法弘)
国際女性デーに花ミモザは相応しい花ですね(泰山木)
イタリアでは3月8日がミモザの日。男性から送られたミモザの花束。豊かに活けて、心も豊かになったことでしょう。(佳久子)
国際女性の日 沢山の沢山のミモザの花 明るい未来 素晴らしい掲句に感動です (温子)
ゆたかに活けてが、女性の日を強調していると思います。(百り子)
紀美子、楓
溜息もインコの言葉四月馬鹿 熊谷 佳久子
ため息なんかついてけしからんインコだと思ったが、よくよく考えてみると、そのインコにため息を教えたのは自分なのだと気づき、今度は自分がため息。四月馬鹿の季語がほど良くあっている。(法弘)
溜息も言葉?ホント?人間を観察しているインコ。インコを観察している人間。四月馬鹿ですね。(百り子)
インコの飼い主の日常化した溜息を想像しましたが、下五まで読むとなぁんだとはぐらかされた感じがして面白いです(律子)
あらまぁ!鸚哥も溜息つくのね。面白い!(早・恵美子)
やはらかき風がかぜよぶ花水木 垣内 孝雄
京都の三条通り、川端から蹴上にかけて、花水木の並木が美しい季節がやってきた。ひんやりとした尖りもすっかり抜け、柔らかくなった春の風。「風」と「かぜ」で表記を変えてあるのも工夫。(法弘)
場面は公園かなあと思いました。その人には風の質感が見えて居たのかもしれません(順一)
紀美子
残雪や国を逐はるる四百万 武井 典子
プーチンの狂気にウクライナの悲劇。雪は消えても、この恨みは末代まで残る。(法弘)
歴史は繰り返す。棄民の満州の歴史を思い、逃げずに国を守る大統領の困難は如何ばかりか・・。(博子)
雛の間に鳴りたる電話母を呼ぶ 明隅 礼子
盛り上がっていた雛祭りの気分が電話のベルで台無しに。「おかあさーん、電話。早く出てよ」とややトーン高く呼ぶ娘の声が聞こえる。(法弘)
はま子
永き日の壁打ちの音ききゐれり 木村 史子
春の日永に似合いの、テニスの壁打ちの単調なリズム。眠気を催す。(法弘)
啓蟄や聞き耳立つるおしら様 竹田 正明
おしら様は、主に東北地方で信仰されている家の神。家付き神だから外には出ないのだろう。だから余計に、外の世界が気になる。啓蟄。長い冬が終わり、いよいよ始まる春の気配に聞き耳を立てる。(法弘)
空海の墨の潤渇風光る 荒木 那智子
空海の「書」の潤渇と「風光る」との取り合わせのなせる深み。(孝雄)
立哉、眞五、万記子、玲奈、澄江
この空は世界をつなぐ鳥雲に 児島 春野
戦の世にあって様々なことを思わせる一句です。(万記子)
勢津子、日記
春雷や蕎麦屋長押の天狗面 中村 光男
由紀子
氏神の急な階花きぶし 荒川 勢津子
美穂
花冷のことりと閉づる柩かな 小栗 百り子
「ことりと閉づる」の修辞の良さと季語選択の良さ。(孝雄)
中七で最後のお別れをしている様子が。じめじめしてなくて、からりとした様子が伝わりました。(佳久子)
「ことりと閉づる」の表現がよいと思いました。(ユリ子)
眞五、礼子、三枝子、史子
夕桜ムンクの聴きし叫び声 野口 日記
夕桜とムンク合ってるようなムンクの悩みが聞こえそう(みつ子)
暴虐の鉄塊寄せ来春北風 岡部 博行
典子
春塵のきらきら午後の美術室 芥 ゆかり
春塵は普通嫌なものだが、日差しに輝いている。それが美術室というのがまたのどかでいい。(典子)
美術室のトルソーにかかる春塵の小さな光を思います。(ユリ子)
匠子
海棠のゐろに溺るる白昼夢 早川 恵美子
「睡れる花」ともいう海棠。どんな夢を見るのでしょうか?(智子)
蓬摘む万葉人の影いづこ 竹田 正明
季語が効いていて万葉時代をそのまま写し出しているような句に感じられます。(相・恵美子)
野火走る仙石原の闇追ひて 髙橋 紀美子
下五の「闇追ひて」が、すすき野焼きの猛々しい火の拡がりをうまく捉えています。(てつお)
永き日の市に選りたる硝子瓶 内村 恭子
暖かい日差しの中の骨董市の風景に癒されます(泰山木)
多目的の瓶でしょうか、春が来て時間をかけて探す楽しみ。(伊葉)
ゆっくりとお気に入りを品選び。「永き日」がいいですね(智子)
史子、眞登美
明治座へ母の匂ひの春ショール 金子 正治
明治座への観劇、他界なさったお母上もご一緒に。(孝雄)
お母さまとご一緒にお芝居見物 良い一日をお過ごしになられた事でしょう (温子)
嘗て、そのショールを着けていたお母さんも一緒に明治座へ出かけている気分かも知れません。(てつお)
花冷や砲火に煙るウクライナ てつお
美穂
川床の水面の影や陽炎ひぬ 阿部 旭
宮沢賢治の「やまなし」を思い出させる。影や陽炎を見ているのが、川の蟹のような。(典子)
悦子
春宵の哀し灯らぬ窓あれば 内村 恭子
なぜ窓が灯らぬのかいろいろな状況を考えてしまった。ひたひたと哀しみを共有する。春宵の力か。(ゆかり)
春の宵に明りの灯っていない人気のない家がある。万物の生気の息吹が感じられる春の宵であるだけに、その哀しさは一入だ。繊細な感性の句。(博行)
ものの芽のおのずからなる個性かな 小髙 久丹子
万記子
春の星小町式部の和歌比べ 佐藤 克之
恋多き式部・小町の和歌を比べ詠むひととき。春星の醸す空気感が柔らかい。(博子)
正明
花散るや母国逃るる人の列 妹尾 茂喜
日本の現実とウクライナの現実が重なる。(桂一)
季語が効いている、ウクライナでは罪のない多くの人の命が散っていった(貞郎)
つらね書く筆のひらがな春の雨 山口 眞登美
紙の上をすべるような滑らかな筆の動きと音が、音も無く降る春雨と呼応している。的確な比喩の句。(博行)
礼子、博嗣
春の海沖の小島の薄煙 石川 由紀子
瀬戸内海と思いたい、薄煙でさらに春の穏やかさが増す。(伊葉)
春野、正明
古着屋がまた一つ増え雛の町 西脇 はま子
観光地でしょうか。街に豪華なお雛様が飾られる一方で、雑貨屋さん、古着屋さんが繁盛する様子もよく分かります。(恭子)
古着と雛の町に、いくつも時を飛び越えて懐かしい。ここはどこですか?(玲子)
皇居のさくら世界の平和願ひをり 齋藤 みつ子
桜が平和を願って満開となった.(貞郎)
花守の今日は車を誘導す 土屋 尚
花守というちょっと古風な語感の季語と車の誘導という俗との組み合わせが絶妙で、あるある感満載。(ゆかり)
いつもは剪定など静かに仕事をしている花守が、花盛りの今日は人手が足りず、車の誘導係をお手伝い。面白い観点からお花見の様子を詠んだと思いました。(恭子)
そういう仕事もありますよね~頑張ってください、皆に良い思い出を残すのも花守の仕事の一つと思って。(志昴女)
なるほどです。花見時は花守さえ借り出される。花守の自慢げな姿が見えてきます。(玲子)
永き日の子に教はりし遊びかな 明隅 礼子
季語によって句に親の気持ちとゆとりを感じます。(百り子)
碑にひらがな文字や春の雨 相沢 恵美子
尚
木々芽ぐむ今少年に変声期 てつお
木々の芽ぐみに少年の成長が重なります、春ですね(夏江)
おとなへの第一歩でもある変声期を木々が芽ぐむ時に重ねて詠まれているのは素敵です(律子)
大人に成る一過程と季語が響き合ってます(早・恵美子)
玲奈、悦子
しゃぼん玉吹く手品師の後ろにも 牧野 桂一
場を盛り上げる、サポーターだったのかもしれません(順一)
戦場の原から消えて揚雲雀 児島 春野
由紀子
三月の半旗は哭す火よ水よ 岡部 博行
楓
弓弦鳴る静けさにゐて若柳 山口 眞登美
「弓弦鳴る静けさ」のリアリティーが肌に伝わってくる。(桂一)
弓弦の音が鳴っているのに静けさを感じるのは、厳かな神事だからでしょうか。若柳の青さによって更に清冽さが加わります。(恭子)
小糠雨木々の新芽に緑増す 片山 孝子
芳彦
襁褓の子尻餅つくや花吹雪 中川 手鞠
何とも愛らしいおむつの子。景が浮かびます(智子)
窓々の篝火草や帰港船 室 明
無事の帰港を待ち侘びる家々の何と多い事よ!その家々の窓に花が。”篝火”が言い得て妙(憲史)
春三日月忘れし夢の鍵の穴 森野 美穂
匠子、三枝子
古代朱の幡清明の風招く 今井 温子
ユリ子、日記
バスを追ふ桜吹雪となりにけり 佐藤 博子
立哉
菜の花の黄色が躍る万華鏡 井上 澄江
眞五、道代
春寒し医師より遠き診察椅子 三好 万記子
史子、紀美子
春泥や丸太を運ぶ馬の列 熊谷 佳久子
人を乗せない馬もあるのだと思いました(順一)
香誉子、那智子、礼子
ものの芽やひそかに巣くふミュータンス 木村 史子
勢津子
二二んが四二三が六と寒緩む 牧野 桂一
博嗣、道代
佐保姫の声きらきらと香具山へ 今井 温子
霞かかった香具山と佐保姫がいいですね(みつ子)
招かるる通りすがりの春の庭 榑林 匠子
香誉子
うぐひすの声うひうひし古希の朝 上脇 立哉
明けゆく林の中から春告鳥の声を聞き取った。70年目に入った人生に幸あれと聞こえる。(茂喜)
澄江
花言葉優美な女性てふ桜 山根 眞五
正治
北窓を開けば父の農事メモ 金子 正治
「花が咲いたら種をまけ」と亡き父のメモを見つけた。北窓の光が部屋いっぱいに明るい。(茂喜)
春を迎えた喜び。父の残してくれた大事なメモを取り出す感慨。さあ!田に畑に!(憲史)
日記、那智子、道代、はま子
君よりの便りきついぜ彼岸西風 岡崎 志昴女
きついぜという表現がパンチが効いていて寒気を含んだ彼岸西風とよく合っていると思います(律子)
香誉子
熊革の逆さに吊られ山桜 早川 恵美子
熊の革を逆さに吊るというところに現場感がある。山桜がそれをよく支えている。(桂一)
逆さに吊られている熊皮と季語がぴったりです。(相・恵美子)
星一つ香の方(え)尋ぬる輪丁花 松山 芳彦
輪丁花の芳香は夕闇の中でより強く感じられ、宵の明星に向かっていくような錯覚を覚える。感覚的で幻想的な句。(博行)
眠る子の長き睫毛に花ひとひら 中川 手鞠
春風が花の一片を運んできた。睫毛の黒・花の色・乳児の頬の色、寸景のやさしさをとらえた。(茂喜)
春の宵優しき嘘のつける人 森野 美穂
その嘘、優しい気持ちから来ているのでしょう。わかりますね。(光男)
楓、夏江
風問ふや問はれるままに風車 佐藤 律子
尚、手鞠、悦子、博嗣
山羊鳴きて谺となれり山桜 原 道代
のどかなゆったりとした風景そのものです。(光男)
水温むオランジュリーのモネの部屋 三好 万記子
モネの部屋から睡蓮の池が。水温むで春の兆しが感じられます。(佳久子)
寄り添ひし一匙の粥春ともし 泰山木
老いの介護なのでしょう。しみじみとした情景が浮かびます。(光男)
病人の介護であろう。一匙の粥を口に入れてやろうとしている。春ともしと下5で結んだところ病人に対する愛情が感ぜられる。早く良くなるといいですね。(芳彦)
正治、手鞠
児の摘みし土筆八本甘辛煮 榑林 匠子
こんなことがあったような、なかったような懐かしい気持ちになります(夏江)
八本うーんちょっと少ないけど子供が摘んだのだから甘辛に今晩の酒のつまみに(みつ子)
春耕や道産子深き蹄跡 相沢 恵美子
輓馬にぴったりな、どっしりした体躯の馬なのでしょう。(春野)
道産子の太く逞しい足!深き蹄跡が季語と相まって素晴らしい(憲史)
眞登美
春の月戦地に歌ふ第九かな 髙橋 紀美子
貞郎
春愁ふ戦禍逃れし民の列 阿部 旭
戦禍を逃れる、悲惨極まりないウクライナの人々を思うと、やりきれませんね。(てつお)
ウクライナの句の中で一句を選びました。花の春に心が寒くなる光景です。なぜ人類は戦をやめられないのか?(志昴女)
由紀子、勢津子
春がすみ倉の名をもつ山七つ 荒木 那智子
ネットで調べてしまいました!?(早・恵美子)
はま子
佐保姫の風にかわらけ投げにけり 井上 澄江
春の女神に何の願を掛けたのでしょうか?願掛けというより春の気配を楽しまれているよう。(博子)
正明、尚
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