天為ネット句会報2022年5月
※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。
また互選句は句稿番号順に並べております。
※一部インターネットで表示できる文字に置き換えております。ご了承ください。
ぎしぎしや廃坑跡の鉄路錆び 相沢 恵美子
「ぎしぎし」はタデ科の多年草。春の季語。廃坑跡に錆びた状態ではあるが、まだ鉄路が残っているのである。鉄路のまわりは雑草の生えるがままになっているのであろう。作者は雑草の代表として、ぎしぎしに焦点を当てた。「ぎしぎし」という音が面白く、雑草のはびこる感じも伝わってくる(傳)。
上五「ぎしぎしや」と中七下五との取合せが視覚的にも音の響きの点でも効果的。山口誓子の「夏草や汽罐車の車輪来て止る」を想起させる。(博行)
廃坑という寂れた人の営みと、ぎしぎしという勢いある自然の営みの対比が面白いと思いました。ぎしぎしという音にも惹かれました。(澄江)
立哉、道代
火の山の地霊噴き上げ野火走る 牧野 桂一
阿蘇の野焼きを詠んだ作であろうか。広い草原を走る野火の力強さを「地霊吹き上げ」と大きく歌い上げた。雄大な野焼きの光景が想像されてくる(傳)。
「霊噴き上げ」の措辞の力強さに圧倒されます。(はま子)
由紀子、礼子
囀りやバスを待つ間の丸太椅子 浅井 貞郎
最も春らしいのどかさを感じる光景です。丸太椅子とは・・山深い林業の盛んな土地のバス停でしょうか?(万記子)
丸太椅子の表現が効いている。長閑な里山の景が見えて来て季語も相応しいです。(相・恵美子)
「丸太椅子」の措辞により、次の便まで長い時間があるローカル線のバスを待つ作者が囀りに囲まれて至福の時間を過ごしている姿が目に浮かぶようだ。(博行)
「丸太椅子」から郊外の緑豊かな時間を楽しんでいる作者が見えてきます。(明)
紀美子
塩計ることなく母の夏料理 内村 恭子
家族の好みの味を心得ている母。手計りの塩加減で手早く整えてくれる愛情料理の自信を感じます(勢津子)
実感です (温子)
長年の勘でしょう。(順一)
博嗣
鎌倉や巡る五山の花吹雪 垣内 孝雄
由紀子、楓、旭、春野
大利根の雲を染めたる野焼かな 西脇 はま子
スケールの大きな句です、季語「野焼」が動かない、(貞郎)
雄大な景色に憧れを感じました (温子)
旭、玲子
江戸よりの酒舗累代の燕の巣 岡部 博行
博嗣、正治、玲奈
クローバの花や縄文遺跡群 染葉 三枝子
遺跡に広がる明るいクローバーの花。遺跡も甦るような春の息吹きですね。(ユリ子)
正治、悦子
夕闇は山から村へ花朧 児島 春野
夕闇は山から村に迫って来る。折しも今は花盛り、花朧に見えてくる。美しい景色を詠まれた。(芳彦)
春の夕暮の景を大きく捉えてます(智子)
礼子
向日葵やキーウの空は晴れぬまま 山根 眞五
紀美子、正明、玲奈
樹齢千年瀬戸の小島の楠若葉 井上 澄江
数百の島々がある瀬戸内海路を往来した異国の文化、その変遷を目撃した楠の若葉が光る。(茂喜)
樹齢千年の楠を見たいものです、季語「楠若葉」が効いています、(貞郎)
黎明(れいめい)も黄昏もよし薔薇の雨 松山 芳彦
薔薇は何にでも女王様ですね(みつ子)
その景を思い浮かべただけで薔薇の香りがするかのように思いました(律子)
朝駈けの葦毛のほてり春の雪 斎川 玲奈
旭
風光る入江の奥に天主堂 鈴木 楓
「入江の奥に風が光っている。それは天主堂があるからだ。」と詠まれたのだと思います。(芳彦)
花吹雪馬場の調教はじまりぬ 内村 恭子
玲奈
ハイヒール浜辺に置きて五月かな 合田 憲史
春寒しナウマンゾウの骨立てて 染葉 三枝子
寄書の掠れしボール春の虹 芥 ゆかり
蛙子のはや大物となる兆し 芥 ゆかり
ローファーの素足の光る夏来る 三好 万記子
沙羅の花森鷗外の花ごよみ 今井 温子
楓
たか女の墓ゆく禅寺の夕牡丹 原 道代
夏江
しんがりに桜の原種咲きにけり 土屋 香誉子
様々な桜が咲き次いで、最後に原種の桜が咲いたということで、今年一年の桜もまた、人々の心の中に様々な思い出を創ったことが想像できます。桜の原種に惹かれました。(桂一)
蝌蚪文字の憂国の楚辞陽炎へり 西脇 はま子
格調の高さを感じる(眞五)
蝌蚪文字が屈原を悼む涙とも思えます。甘言・虚言の闊歩する世は陽炎のよう。(博子)
古来から国や世界を憂える人はいたのだと思うと、人類の進歩のなさを痛感します。(春野)
那智子
飛花落花いつが余生と言はれても 牧野 桂一
全く同感です。 (光男)
なるほど。(手鞠)
素敵な人生ですね。ご立派です!(早・恵美子)
久丹子
理不尽な死の余りある桜散る 小髙 久丹子
ウクライナを見ていると本当にそう思う。(光男)
遠き異国では死の宣告が轟き、空も海も兵器の暴悪によって荒れた。故国では花が散っている。(茂喜)
鞦韆を漕ぐネクタイを締めたまま 金子 正治
この「ネクタイを締めたまま」の感覚が凄く解ります(美穂)
黒澤の「生きる」のシーンを思い出しました。子どものぶらんこは楽しげですが、大人のぶらんこは何か悩みがありそうです。(恭子)
ブランコとネクタイの組み合わせ。新入社員かな?定年間際かな?色々なシチュエーションを想像してしまいます。(手鞠)
「ネクタイを締めたまま」鞦韆を漕ぐ人は、どういう事情にある人なのか、いろんな思いが交錯します。(てつお)
ネクタイをしめたまま漕ぐ鞦韆。センサラリーマンの悲哀というより、微笑ましい遊び心は俳句の心でしょうか。(はま子)
取り合わせの対比が良いと思います。作者の気持ちが垣間見えてきます。(百り子)
万記子、尚
道草の女子学生やげんげ摘 髙橋 紀美子
良い風景ですね、季語「げんげ摘」が良いです、(貞郎)
葉桜になりて薄墨あふれさす 河野 伊葉
詩情あふれる句。(はま子)
卯の花を遺愛の壺に一枝かな 武井 悦子
卯の花は亡くなったかたとの大事な思い出がありそう。(佳久子)
みちのくの春や山吹紅枝垂 佐藤 博子
夏江
白鳥の翔つあかときの五頭五峰 斎川 玲奈
白鳥旅立ちの時、まだ闇の残る夜明け前の峰々の景が凛と美しい。(ゆかり)
白鳥が山越えをする壮大な光景が目に浮かびました。(道代)
下五の五頭五峰の連想が品格があり句全体を引き立てた。(伊葉)
玄海に浮かぶ小島のスイトピー 嶋田 夏江
尚
残業の日の頼りなき春ショール 森野 美穂
春ショールの本意を活かした現代版。気温の変化の大きな春先は、服の調節に困ります。気持ちがよくわかります。(恭子)
残業でちょっと疲労した身体をゆだねるには少々たよりない、暗さをとばし軽快にかわしたところがよい。(伊葉)
季語を活かそうとする俳句だと思いました。(順一)
匠子、尚、香誉子、万記子、久丹子
午後しづか鶯餅のみな売れぬ 明隅 礼子
作者は鶯餅を買えたのでしょうか。その日の分だけの小さな商いの老舗の様子が見えます。(恭子)
登校の列の無言につばくらめ てつお
無言なのは、コロナ対策なのか、あるいは新入生の緊張なのか・・いずれにしても軽やかな燕に救われる感じがします(美穂)
昭和の日都こんぶをキオスクに 三好 万記子
都こんぶ懐かしい!季語とピッタリですね(早・恵美子)
由紀子
コロン一滴愛情は惜しみなく 早川 恵美子
かつて香水のきつい国で仕事をしていた時も(眞五)
贈り物は大切に!その方への注ぐ愛情は・・・「惜しみなく」が素敵(憲史)
那智子
虚子笑ふなんじゃもんじゃの花盛 長濱 武夫
繊細かつにぎやかに咲く花はまるごと生かされました。(伊葉)
道代、匠子
名水を汲み入る沢や藤垂るる 阿部 旭
山の藤でしょうか、爽やかな空気や水音が聞えてきそうです。気持ち良いだろうなぁ・・(美穂)
立哉
禅寺に長き脚組む目借時 中川 手鞠
若者の座禅の様子をユーモラスに詠んでます(智子)
香誉子
万緑の丘に城跡ありて風 妹尾 茂喜
「風」がそこはかとなく語る。(孝雄)
青々とした自然の中で、城の歴史を想う作者を清々しく感じます。最後の「風」で一気に景が開けました。(澄江)
折りたたみ傘は新品春の雨 森野 美穂
外は春の雨。新品の折りたたみ傘を手に思案顔、此の位では、やはり濡れていこうですね。(玲子)
薫風やガラスの森の色小瓶 泰山木
「薫風」に色を感じる句。(孝雄)
つばくろや八百屋に揺れる吊るし笊 中村 光男
八百屋が吊した笊で生き生きとお金をやりとりする様子と、燕が元気に飛び回る様子が、よく合い、印象を深くしていると思います(眞登美)。
下町の八百屋さん、吊した笊の中には、おつりが入っている。燕も飛び交い、活気ある風景。(佳久子)
吊るし笊が懐かしいです(夏江)
店先の様子が手に取るよう見えます。(てつお)
史子
くれなゐの薔薇一本のプロポーズ 佐藤 律子
すっきり、はっきり、どっきりの3要素を備えた良い句です。心の籠った素敵なプロポーズなのでしょう。 (武夫)
情熱的!(憲史)
蜘蛛の糸揺れて煌めく蒼き空 片山 孝子
悦子
小綬鶏に呼び立てらるる湖畔道 榑林 匠子
チョットコイ!ですものね。散策楽しんでください(早・恵美子)
紀美子
無医村に開院のビラ燕来る 金子 正治
燕の到来と新しく病院が開かれるというニュースが重なった村の喜びが伝わります。(明)
無医村に燕来ると上下を繋げて読んで詩のある句です。燕来るが措辞に対し同調的に効いています。 (武夫)
明るいニュースを持ってきてくれましたね(憲史)
無医村に開院の喜びと燕が来た喜びが響き合っています。(てつお)
眞登美、香誉子、匠子
原人の背丈我ほどつくしんぼ 小栗 百り子
つくしんぼが背比べをしているように生えている様をユーモラスに描写しており、上五中七の措辞が大胆かつ新鮮。(博行)
季語つくしんぼから原人への親しみを感じている作者が見えてきます(明)
島唄の浸むる泥染海紅豆 竹田 正明
泥染とは大島紬の事かしら?場所.自然.時間.人間の営み全てから出来上がる泥染。そして俳句だと思います。(百り子)
史子
野菜苗植えて緑の風となり 片山 孝子
正明
花過ぎの神田明神恋みくじ 佐藤 律子
楓
ミイラ六つ博物館の目借時 泰山木
礼子
薔薇窓の雨の聖堂レクイエム 鈴木 楓
暗い薔薇窓の聖堂から、静かに鎮魂歌が聴こえてくるようです。(手鞠)
季語に中7、下5の表現が効いています。荘厳なレクイエムが聞こえてくるようです。(相・恵美子)
雨の薔薇窓は色を失う。レクイエムにふさわしいと思いました。(ユリ子)
みつ子
挿し木して余生に花の夢添ふる 荒川 勢津子
未来への希望に感動しました (温子)
ハイヒール捨てて久しや春の泥 森山 ユリ子
「舗道」より「泥道」への時の流れ。(孝雄))
清和かな朝勤行の声の張り 浅井 貞郎
「声の張り」がよかった。(佳久子)
メーデーの県道渡る牛の列 早川 恵美子
メーデーも年々変わってきましたが、そのことが「県道を渡る牛の列」にまでなってしまいました。これもまた、時代の現実ということでしょうか。(桂一)
牛もメーデーの列をなしているようです。俳諧味のある句です。(相・恵美子)
俳諧味を感じました。普通は労働者の列が来るメーデーにのんびりと県道を牛の列が渡っています。 (武夫)
人間サマの都合などお構いなく、のんびり道を横切る牛達が目に浮かびます。(春野)
立哉、玲子
住み古りて峡になほ住む日日草 山口 眞登美
住み慣れた峡谷に建てられた我が家に愛着を覚えて長く住み着いておられる。日日草を植え毎日を楽しんでおられる。姿が見えてくる。(芳彦)
春の土命のバトン実生苗 嶋田 夏江
風や鳥に運ばれた木の実の思わぬ実生に驚きます。春の土は命を繋いでくれる(勢津子)
死にやふのそれも生きやふ椿散る てつお
とても深い人生観。椿の散り様に己の生き様を考えます。(澄江)
トリセツの細かき文字や目借時 永井 玲子
本当にトリセツはわかりずらい。目借時という季語がピッタリだ。(光男)
トリセツと簡略化するのには慣れたものの内容はより丁寧になる一方で、その細かい文字の並びを見ているとついウトウト…よく分かります(律子)
縄文の北のまほらに青き踏む 荒木 那智子
縄文の薫りの中を散策してみたい(眞五)
縄文文化の花開いた地は、まさに北のまほら。遅い春の喜びが溢れています。(博子)
まほらの古語が効いている。世界文化遺産に登録された大地を誇らしく踏みしめている。(ゆかり)
久丹子、百り子
難解な数式の列蝌蚪の紐 中村 光男
蝌蚪の紐を難解な数式になぞらえたのはユニークで面白いと思いました。(ユリ子)
蝌蚪の紐は種類によって実に様々です。結構長い、変化に富んだものに、私も出合ったことがありますが、それを「難解な数式の列」というように表したのが奇抜で面白いと思います。(桂一)
数字や文字の並びを蝌蚪の紐のようだと捉えたところが面白い(智子)
眞登美、悦子、那智子
ありあわせの菜の夕餉や兼好忌 木村 史子
博嗣
北窓を開く放馬の嘶けり 熊谷 佳久子
放馬も大いに解放感を味わったのでしょう。(泰山木)
「放馬の嘶き」という措辞に、ようやく春になった喜びと賛歌を感じます。(博子)
露座仏の猫背労ふつばくらめ 石川 由紀子
露座仏の猫背?その言葉にまず驚き、仏の猫背になるほどのお働きを燕が労うというのが何とも面白く、仏に対する謝意もまた表れていていいと思いました(律子)
正明
閉山の村の校庭余花の雨 合田 智子
どんどん過疎化ですね余花の雨と合ってますね(みつ子)
村の鉱山が閉鎖され、学校も閉じられた。校庭に残った白い桜がいま雨に濡れている。(茂喜)
史子、正治
春惜む法話聞き入る小座布団 相沢 恵美子
寂聴さんがしのばれます。(泰山木)
燕来ぬと回覧板に書かれあり 明隅 礼子
伝達事項を事務的に羅列するだけでなく、季節を捉えたひと言を添えられた回覧板に発信者の人柄を感じます(勢津子)
春泥を兄の教への足運び 井上 澄江
ぬるぬるの泥濘にも歩き方のコツがある。兄の教へという大仰さも面白く、弟妹たちのたどたどしい足運びも見えてくる。(ゆかり)
兄の模範演技が微笑ましい。(泰山木)
公園の雀隠れに玩具箱 竹田 正明
誰かが忘れて行ったのかもしれません。(順一)
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