天為ネット句会報2022年7月

 

天為インターネット句会2022年7月分選句結果

 ※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。
  また互選句は句稿番号順に並べております。
 ※一部インターネットで表示できる文字に置き換えております。ご了承ください。

  <日原 傳編集顧問選 特選句>

廃坑に残る長屋や夏の月                熊谷 佳久子

鉱山や炭鉱が閉じられ、廃坑となった地。大勢の人たちが暮らした鉱山労働者のための長屋も空き家となって古びてゆくのであろう。夏の月あかりのもと、役割を終えた古き長屋に焦点を当て、かつての賑わいを想像させたところで哀れが出た(傳)。

季語の夏の月が効いていますね。(光男)

春野、那智子、旭

明日香へと夏期大学のバス連ね             今井 温子

「夏期大学」は夏に催される公開講座のようなものを指すのであろう。教室での座学の一方で、バスを連ねての現地学習を行なうのであろう。奈良県の明日香村は石舞台古墳、高松塚古墳、甘橿丘、飛鳥寺、岡寺などなど、古代につながる史跡に満ちている。「夏期大学」の学びの内容も古代史、万葉集などといったものが想像されてくる。その方向の読みに導くかたちで「明日香」という固有名詞が働いている(傳)。

  <日原 傳編集顧問選 入選句>

刀剣に仏涼しく刻まれて                小栗 百り子

刀剣に仏様が刻まれているのが面白い。(桂一)

祈りを込めて刀剣に刻まれた仏。涼しくの措辞に刀剣の冷たい煌めきも精神性も感じる。(ゆかり)

夏江、久丹子、那智子、真弓

夕焼も病院食も終はりけり               上脇 立哉

入院中の、持て余す長い夜の感じがよく出ています。(手鞠)

那智子、眞登美、尚、香誉子

黒深むついりの京の瓦屋根               児島 春野

芳彦、眞登美、尚、陽子

月山の麓で一夜紅の花                 原 道代

雄大なる月山そして、可憐な紅の花の取り合わせがよかった。(佳久子)

旅吟に飢えている。月山の麓で湯に浸かり明日は登るのであろうか。月山、夜、紅の花と美しい言葉でまとまった一句。(ゆかり)

玲子

愛されしロシアの歌よ五月闇              岡部 博行

ダークダックスの唄うロシア民謡が懐かしく思い出されます。一刻も早く無謀な戦争が終わることを祈るばかりです。(明)

万記子

まづ大樹仰ぎて根津の茅の輪かな            室 明

恭子、玲奈

人形町角の葛籠屋梅雨灯す               鈴木 楓

梅雨の灯に朱漆や黒漆の葛籠が浮かび上がる美しい光景です。「人形町の角」は作者の的確な把握です。(はま子)

香誉子

踏切のもう鳴らぬ夜や花みかん             明隅 礼子

瀬戸内の海岸線を想います。(伊葉)

音無き沿線のみかん畑。廃線と花みかんが寂しい夜ですね(憲史)

父の文届きそれから梅雨長し              永井 玲子

父上からのお手紙ですか。嬉しいものですね。長い梅雨の間も繰り返し読んであげてください。(志昴女)

匠子

ああここが父母の里青胡桃               宮川 陽子

恭子

薄雲に淡く紅刷く白夜光                武井 典子

旅先でカーテンを引いて眠った夜もありました。白夜を愛おしむ美しい一句です。(博子)

逝きし子の倍の浮世の端居かな             荒川 勢津子

何ともお慰めする言葉がありません。辛い人の世ですが、どうか生き延びてください。(志昴女)

ナイターのピッチャー毫も影持たず           土屋 香誉子

言われてみるとその通りです。発見の句。(肇)

疫の世の風鈴の音や路地の奥              竹田 正明

コロナ禍の収まらぬ世の中、散歩で路地裏に回ると風鈴の音が響いてきた。思わず聴き入る。(茂喜)

草登りきって天道虫飛べり               土屋 尚


潮の香の無人駅前月見草                井上 澄江


本殿の錠鎖されあり大南風               山口 眞登美


潮入の河口に浮かぶ海月かな              金子 肇


鮎を焼くこつこつ節の節回し              牧野 桂一

 <互 選 句>

結婚式エンドレスなり白夜光              齋藤 みつ子

「白夜の結婚式」は暮れることなく、エンドレスに幸せが続きますね。(ユリ子)

青葉闇羽根ペンを持つ沙翁かな             熊谷 佳久子

羽根ペンが生きています。(伊葉)

博嗣

枝蛙絡繰芝居の幕の間                 榑林 匠子

季語がとても相応しく枝蛙も一緒に演じているような錯覚にとらわれます。(相・恵美子)

坂道の多き街なり夏来る                森野 美穂

夏来るという季感が、坂道の多い街であることに気がつかせる、という絶妙な取り合わせと思います(眞登美)。

夏の上り坂は、少し辛い。でも坂の上で夏の雲、夏の海見るのも一興・・かな。(博子)

典子


夏至巡るテオティワカンの朝陽かな           山根 眞五

典子

神紋の花の金色梅雨の星                荒木 那智子

由紀子

茄子漬を先付とせる小料理屋              垣内 孝雄

色鮮やかな茄子で食欲をそそり、これからの夏料理に期待大ですね。(佳久子)

お通しの一品で大体その店を推し量る。旬の茄子漬けは美味(眞五)

勢津子

青田風千枚渡り天に入る                合田 憲史

日本の美しい原風景(眞五)

風が天に入るで収まるところに収まってとても句全体に安定感があります。(伊葉)

一面に広がる青田の風景が目に浮かぶようです。(てつお)

「千枚田」の景であろうが、下五の「天に入る」の修辞の冴え。(孝雄)

能登半島の千枚田を渡る青田風。大きな景を想像しました。(明)

気持ちの良い情景ですね。(春野)

三枝子、万記子、澄江、克之

貸店の小さき貼り紙合歓の花              小栗 百り子

小さな貼り紙と合歓の花の取り合わせが良いと思いました。(ユリ子)

真弓

梅雨晴や千草さざめき光りあふ             岡部 博行

澄江、克之、万記子

引揚の住宅残る蚊喰鳥                 土屋 香誉子

立哉

会へぬひと会ひたきひとや梅雨に入る          中村 光男

籠もっている感じが梅雨に入るにあらわれていると思います(夏江)

未だコロナ禍収束の兆しは見えず・・会いたい方々にも会いにいけない日々です。梅雨の重苦しい空気も悲しい気持ちに拍車をかけます。(美穂)

礼子

大波や高い高いの裸の子                泰山木

道代、史子

小禽の鳴いて鉾建てしかと終ゆ             河野 伊葉

「しかと」に鉾町衆の心意気を感じる。鳥の声に鉾の高さも表現された。(ゆかり)

頬杖のスターバックス夕焼けて             三好 万記子

ガラスに面したカウンターの一人席。頬杖、夕焼け・・・アンニュイな感じが伝わってきます。(手鞠)

梅雨の月飛び出しさうな狛兎              竹田 正明

「飛び出しそうな狛兎」ということで、とても大きな満月が見えてきます。(桂一)

玲子、紀美子

節榑の掌が花を売る巴里祭               早川恵美子

ソーダ水を飲んでいた老婆かしらん。巴里祭はロマンチック・・と思っていた昔が懐かしい。(博子)

枇杷よ枇杷異国に生きて枇杷恋し            中川 手鞠

芭蕉の松島の句を思い出しましたが、異国に有って日本主義的なものを恋うのは横光利一だけではないと思います。異土にて客死せんともああ日本よと言った感じでしょうか(順一)

木下闇風に見得切る弁慶像               鈴木 楓

「風に見得切る」がいいです。(肇)

中七句が素敵です。(春野)

哀しみの瞳の子等よ夏の月               野口 日記

子供達には平和な未来を見つめて欲しい(智子)

勢津子

萬緑や蒼穹萬里天翔る                 山根 眞五

壮大で気持ちがたかぶる句。下五の「天翔る」が効果的。(孝雄)

五位鷺の黒き声して夜の運河              芥 ゆかり

尚、三枝子

蝉の羽(は)の青き狩衣月次祭             斎川 玲奈

夏物の蝉の羽のような狩衣。高貴な感じがします。祭も格調高いのでしょうか。(百り子)

住職の替はりし寺の梅熟す               山口 眞登美

日記

猫もまた身の置き所なき猛暑              西脇 はま子

櫂音に湖の小鮎の走りをり               中村 光男

琵琶湖の小鮎、櫂音にも反応して動く様はとても美しい景だと思います(律子)

礼子

初蝉や天寿を生きるもの同士              てつお

蝉の声、鳴いているのは雄で2週間の命だ。人もいつか命を閉じる。生きるもの同士の哀歓。(茂喜)

自分と?の生き様を考えると同じあとどのくらいをと思うのは皆同じ清く正しく生き抜きましょう(みつ子)

天から授かった命が愛おしいですね。(泰山木)

日記、陽子、真弓

寺町の緑濃くなる白日傘                内村 恭子

寺町の絵画のような静かな佇まいを感じます。(泰山木)

中7と下5で寺町のしっとりとした景を生み出しています。(相・恵美子)

江戸の名残の寺町。緑に染まった白日傘をさした佳人。奥ゆかしく涼しげな光景です。(はま子)

史子

法螺貝を吹き客を呼ぶ鮎飯屋              西脇 はま子

修験者がいるような山深い渓流沿いだろうか、鮎飯屋のある周囲の情景が目に浮かぶ。鮎料理と法螺貝の音の取り合せが新鮮。(博行)

捩花や二重螺旋のさざえ堂               石川 由紀子

捩花の季語があいます(智子)

田に落つる水音猛し大夕焼               宮川 陽子

孝子、正治

聞き流す術も覚へて冷さうめん             てつお

熟練夫婦の技でしょうか。(泰山木)

喉越しの良い「冷さうめん」。嫌味の一つ二つも同様にアッサリと聞き流しましょう(憲史)

流しそうめんと相まって・・人間味のある御句に惹かれ、いただきました。(美穂)

「冷さうめん」が効いています。さらりつるりと聞き流して・・・。私も時々そうしていたら、夫に「耳が遠くなったの?」と言われてしまいました(笑)(手鞠)

夫婦一緒に過ごしているとお互いに一言多くなってしまいますね。季語の冷そうめんがとっても良いと思いました。(道代)

玲奈

山寺に底見えぬ井戸時鳥                井上 澄江

典子

うるほひてしなやかに這ふなめくじり          木村 史子

紀美子、香誉子

決断を延ばし延ばしに百日紅              中川 手鞠

百日紅がすっかり散るころにはきっと帰るなどと約束したのかしら、百日紅は次次と、いつまでも咲き続けます。微妙ですね。(玲子)

季語が効いています。(肇)

余り決断を出したくない気持ちがよく分かる句ですね(みつ子)

由紀子、正治、匠子

緑青の風鐸揺らす遠花火                金子 正治

博嗣

一山を神籬として清水湧く               斎川 玲奈

素敵な静けさをお詠みになった句ですね。清水の清冽な飛沫が見えるようです。(志昴女)

山全体を神籬とするとは何と豊かで清らかな清水であることか。自然そのものを神聖なものとする日本人の持つ感性に響く。(博行)

神垣と季語の清水に感銘を受けました  (温子)

楓、芳彦

蔦茂る丸や四角や画家の窓               森山 ユリ子

礼子、立哉、博嗣、日記

遠き日の母との会話水中花               合田 憲史

単なる思い出では無く、母との会話を想起して居る過程に水中花。水中花が遠き日の母との会話を象徴して、具体的な内容は読者の想像にゆだねる、その姿勢に良さを感じました。(順一)

孝子、正治、道代

舟虫に逃げ遅れたるもののなし             上脇 立哉

確かに!群れをなして動く舟虫は逃げる時も隊をなして行動していますね(律子)

久丹子

昼寝の子飛び出す絵本腹に乗せ             今井 温子

微笑ましい情景ですね。元気に育ってもらいたいものです。(光男)

「飛び出す絵本」で、昼寝の子の年齢や寝姿まで想像できます。(てつお)

お気に入りの絵本を手に夢の中、景が見えます(智子)

由紀子

老鶯や石にも秘めし過去のあり             染葉 三枝子

何を秘めたるか 石の黙   (温子)


鴨川の風も一品夏料理                 泰山木

鴨川の風、シーズンですね!(眞五)

風も御馳走の一つ。それも鴨川の風。京の老舗の贅を尽くした夏料理が思われます。(はま子)

わあ、これは是非食してみたいです。涼しげな光景に思いを馳せます。(美穂)

澄江、立哉、克之、楓、三枝子、史子

由比ヶ浜はどこまでも空汗を拭く            金子 正治

広々とした夏の海の景を中七の措辞と下五の季語が的確に描出している。太陽の光、波の音、潮の香、海風、足裏の熱い砂といったものが五感を刺激する。(博行)

桜桃忌街を流れる川明り                荒木 那智子

入水自殺した太宰治なので、街中を流れる川を見ての感慨ですね。(佳久子)

蝸牛身振り手振りの子の話               榑林 匠子

「身振り手振り」で、蝸牛との体験を全身で喜んでいる子どもの姿が見えてくる。(桂一)

孝子、久丹子

夜濯を終へて星見る癖となり              須田 真弓

一日が終わり星を見ながらやれやれと思う作者の毎日の生活のひとこまが、見えました。(百り子)

見えてゐて帰れぬ家や大夕立              明隅 礼子

恭子、玲奈

薫風や楓の羽のほのと紅                染葉 三枝子

風薫る5月楓の花が翼果に変わります。緑色豊かな中、ほのかな紅色の翼果は、とても美しいと思います。(百り子)

匠子

定年の医師を見送る礼文草               妹尾 茂喜

放映された礼文島の診療所の医師と患者さんとの物語。無駄がなく簡潔に詠われている。(孝雄)

礼文島で唯一の常勤医が退職とニュースで知りました。医師を見送っている礼文草がとても相応しいです。(相・恵美子)

辺境の地で長い間住民の健康を支えてくれた医師との別れをささやかな草花も惜しんでいるとの思いが伝わります。(明)

「礼文草」で地名も分かり、長く島の医療に尽くされた医師への感謝の気持ちが充分に伝わります。(てつお)

離島の方々の命の支えであった医師とのお別れを思うと感無量 (温子)

夏江、勢津子、陽子

一つだと損した気分さくらんぼ             児島 春野

同感です。甘ければなおのこと、です(律子)

青田風マスクを棄つる深呼吸              松山 芳彦

爽快感溢れる光景。棄て切ってしまいたい!(憲史)

東屋のちぎり絵褪せて額の花              町田 博嗣

芳彦

父逝きぬ父の日詠みし特選句              岡崎 志昴女

俳句を好む父上が逝った。先日の父の日句会では特選を得て、よろこびも束の間のことだった。(茂喜)

特選句がよく効いて、お父さまとのへの愛情と悲しみが伝わってきました。(ユリ子)

北斎の赤富士凜と雲の果て               浅井 貞郎

北斎の赤富士はりんとして好きですね(みつ子)



「おはよう」と少年走る夏休み             片山 孝子

元気で素直な少年の様子が見えます。(光男)

夏掛けの心許なき軽さかな               相沢 恵美子

夏帽子出世稲荷に手を合はせ              三好 万記子

いい句だと思いました(順一)

即身仏拝む湯殿山のほととぎす             原 道代

紀美子

以上

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