天為ネット句会報2022年9月
※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。
また互選句は句稿番号順に並べております。
稲の秋志功の天女つぶらかに 垣内 孝雄
棟方志功は青森出身。その作品には独自の力強さ、面白さがある。「吉祥天」「弁財天」など紅い頰をした豊満な女神の姿を数多く板画や肉筆画に残している。作者はそれに注目したのであろう。「つぶらか」とは、まるくてふっくらしたさま。稲の豊かなみのりをイメージさせる「稲の秋」という季語は色彩ゆたかで、力の溢れる志功の作品の背景にあるものを示すようなかたちで働いている(傳)。
棟方版画と季語の取り合わせが良い(隆夫)
頬が豊かな志功の天女。稲の秋がよかった。(佳久子)
たわわに実った稲の豊穣と志功の描く天女の豊満が響き合い、日本人の持つ土着的な自然観、生命観の琴線に触れる一句。(博行)
稲作の哀史を昇華するような志功の天女。生命力、豊穣への賛歌を感じました。(博子)
夏江、博嗣
白秋や剪紙を窓に四合院 鈴木 楓
「四合院」は中国北方の伝統的な住宅形式。「院子(ユアンズ)」と呼ばれる中庭を囲んで四方に住宅を配している。南面する「正房」は家長の居室、東側の「東廂房」・西側の「西廂房」はその他の家族の居室、「正房」に向かい合う南側の建物「倒座」は書斎や客室に使われることが一般である。現在は随分少なくなってしまったようだが、「胡同(フートン)」と呼ばれる狭い路地がある北京の古い町並みでよく見られた。「剪紙」は千年以上の伝統をもつ中国の切紙細工。作者は秋のとある日、四合院を訪れたのであろう。そして昔ながらの窓に飾られた「剪紙」に目をとめたのである。四合院の中庭に降り注ぐ光の明るさが感じられる作(傳)。
季語と剪紙の取り合わせが効いています。四合院の窓の剪紙が真紅に際立っている様子が見えてきます。(相・恵美子)
無花果やどこでも止まる島のバス 佐藤 博子
手を挙げると止まってくれるバス。旅に誘われる句。(孝雄)
潮風が吹くのんびりとした島の情景が、、、車を止めたところに熟した無花果が鈴なりに。(郁文)
住居の少ない様子が窺えます。(国勇)
いちじくに島の風情をゆだねている。特に~や・としたところがすばらしい。(伊葉)
どこでも止まるバスいいですね。発車を待ってくれるバスとか降りそびれた人に慌てて止まってくれるバス好きです。(万記子)
人情あふれる島ののどかな風景を思います。無花果が良いなあと思いました。(美穂)
小さな島の人々の温かい日常生活が見えてきます。(明)
小豆島で見た景が浮かびます。(智子)
道代、恭子
鬼の子のそつと顔出すでんでら野 竹田 正明
遠野の姥捨て山「デンデラ野」に鬼の子が顔を出したいう。私の子が顔出したような気がして。(芳彦)
姥捨て山に置いていかれた婆が気になっている鬼の子ですね。(博美)
でんでらの野の地名が効いている。(はま子)
もの悲しい父よ、父よの声、、、聞いたことはないけど(笑)
デンデラ野はおとぎ話に出る野原ですね、いかにも鬼の子がいそうです。(志昴女)
でんでら野に鬼の子がいても不思議ではないですね。そっと、というのがいいです(律子)
陽子、日記、礼子
羊羹を厚切りにして夜半の秋 泰山木
厚切りの羊羹と長い夜を過ごす(眞五)
直幸、史子、孝子
二匹出て五匹戻れり蟻の穴 明隅 礼子
蟻穴をじっと観察するゆとり。俳諧味のある句 (肇)
蟻の穴をよく見ている。よく注意すると身辺にはは詩が溢れている。(はま子)
手鞠
一の鳥居潜りてよりの涼しさよ 内村 恭子
神聖な所には澄んだ空気、涼やかな風が吹いていそうで大きな神社を思い浮かべました(律子)
香誉子、礼子
干柿や奈良井の宿の水ゆたか 熊谷 佳久子
「奈良井」という地名の醸し出す景観と「水ゆたか」の修辞の良さ。(孝雄)
日本の情緒を色濃く表現されています。(国勇)
眞登美
秋澄むや山河越えくる馬頭琴 佐藤 律子
陽子、由紀子、紀美子
夜半の庭闇深くして月近し 直幸
いつも見ているように思うのに何となく外に出て見上げたら月がとても近いように思えた、こんな近くでいいのか?みたいな、そんな景が浮かびます。(伊葉)
道代
表札のローマ字にある秋の影 山口 眞登美
お洒落なローマ字の表札に秋の気配を見つけました。(泰山木)
立哉
決算といふひと区切り新豆腐 泰山木
史子、香誉子
終戦日玉砂利をゆく靴の音 内村 恭子
玉砂利は天皇を想像させ、それを踏む音の響きは悲しみを伝えるようです(眞登美)。
天皇の言葉を跪いてラジオを聞いている情景が浮かびます。(博美)
富士裾野岳南鉄道花野行く 合田 憲史
楓
乗り捨てし三輪車にも秋日濃し 明隅 礼子
春野
法観寺の相輪光る秋夕焼け 河野 伊葉
あまたの戦の果てに焼け残った「八坂の塔」。京都ならではの光と色彩を感じます。(博子)
さびしさは芒のころの風のいろ 片山 孝子
秋冷を感じました(温子)
詩情を感じる句です(夏江)
芒が風になびく様を「風のいろ」と言い表したところが素晴らしいと思いました。(ユリ子)
万記子、恭子
温め酒敷居高きは昨日まで 早川 恵美子
博嗣
歩道橋手を振り合つて秋夕焼 森野 美穂
立哉、久丹子
優勝旗白河越えや天高し 山根 眞五
手鞠
名画座のポスター新た秋立ちぬ 岡部 博行
典子
木曽の秋山のけぶらふほどの雨 美惠
雨の強さの形容「山のけぶらふほど」が美しいです。(春野)
典子
響き合ふ汽笛と汽笛秋の航 三好 万記子
外国航路にでも発つ霧深い日の一景か。横浜港ではこんな情景をよく見かける。(郁文)
秋の海の気持ち良さを感じました。景色や音が浮かんで来ます。(美穂)
遠くからまるで呼応しているように聞こえてくる汽笛に、秋の涼しさと澄んだ空気を感じます。(澄江)
尚、旭、春野、陽子
受け流すことを巧みに京団扇 町田 博嗣
大人のお人 京団扇が効いています (美惠)
受け流す事は大切です。ここに京団扇を持ってきたこと面白い。(芳彦)
都の文化の一つかも。これがなかなかでいない現実があります。(桂一)
久丹子、紀美子
コロナ癒ゆベランダに朝顔燦と 齋藤 みつ子
勢津子
制服の二人の距離や花芙蓉 野口 日記
上五中七が象徴する思春期の淡い恋心と朝に咲き夕方にはしぼんでしまう芙蓉の儚さが響き合う。(博行)
制服の二人の距離から恋知り染めしころと思いきや、花芙蓉とは微妙。でもありなのかな?(玲子)
大文字妙法の字の消えしぶり 髙橋 紀美子
私もそんな気がしました(眞五)
きえしぶるが良いですね (温子)
五山の送り火が徐々に消えて行く。盆の名残りを惜しむように。(泰山木)
楓、由紀子、香誉子
鷺草の気高さゆえの脆さかな 宮川 陽子
孝子
千本の向日葵の熱浴ぶるかな 上脇 立哉
見渡す限りの向日葵の野の輝きには、圧倒されますね。(ユリ子)
終戦日晶子の詩を諳んじる 冨士原 博美
「君死にたまふことなかれ」終戦日にはなおさら浮かぶ晶子の詩。(佳久子)
命をかけた歌は、口から口へ伝えられて、いのちを伝えていきます。(桂一)
胡桃の音生命線に転がして 牧野 桂一
勢津子、博嗣、順一、典子
萩の花蹴散らし山の郵便車 森山 ユリ子
狭い山の道張り出す萩を蹴散らかして郵便車が走る。郵便車の使命感を思います。(百り子)
郵便車に蹴散らされる萩の花の姿が、万葉集の花の王者が貴族的な優美さを持つものに取って代わられていった詩歌の歴史における萩の栄枯盛衰に重なる。(博行)
山の地面に溢れんばかりにせり出して咲く萩。萩真っ盛りまさに秋の光景ですね。(伊葉)
咳払い大きくひとつ花梨熟る 合田 智子
百り子
虫聴きの丘に夕暮近づきぬ 芥 ゆかり
心弾ませて虫の声を待つ人々の様子が伝わってきます。(明)
千曲川遠く藤村の濁酒 土屋 尚
旭、正明
呼ぶ声にはいと応へる夏座敷 木村 史子
開け放された夏座敷よりの 爽やかなお返事が嬉しいです(温子)
酒好きの教師の刻む蔓茘枝 土屋 香誉子
立哉
新豆腐と聞けばまぶしき白さかな 児島 春野
恭子
右読みの看板の駅夏の雲 中村 光男
廃線化の中何とか駅舎だけは残って欲しい!夏の雲が応援している!(憲史)
空澄むや母には言へぬ嘘ひとつ 金子 正治
母に言えない嘘には人生の真実があります。(桂一)
遠富士や廻る地球の大夕焼 郁文
旭
秋水の葦に絡まりまた解(ほど)く 松山 芳彦
「絡まり解く」と流水を巧に表現(隆夫)
てつお
涼新たシフォンケーキに紅茶の香 野口 日記
シフォンケーキと紅茶秋らしいです(みつ子)
季節とケーキ紅茶の取り合わせが良い(眞五)
野辺山の星の綺羅増す野分あと 鈴木 楓
野辺山には電波天文台がある。一段と輝く星空(肇)
野分あとのすっきりした夜空。「の」の字が星のように瞬いています。(百り子)
「綺羅増す」の表現が素敵。満天にキラキラ輝く星々が見えるようです。(澄江)
野分あとの被害は目を覆うようであっても、空の星はより輝きを増し、被害者へのエールとなるかのよう…(律子)
直幸、那智子、紀美子
何もなきことの贅沢秋澄めり 佐藤 律子
空気が澄んで気温が下がり、見えるものが鮮やかで、音もはっきりとして、もう何も要らない。(茂喜)
身辺に何事も起こらない日々の生業がいかに貴重なことか。(泰山木)
秋澄む頃の実感です。四季を楽しめる国に生まれた幸せを感謝します。(明)
万記子
紐引けばベロ出すチョンマ唐辛子 牧野 桂一
童話「ベロ出しチョンマ」を巧く描いている(隆夫)
降り立ちて初秋の街の人となる てつお
何気ないのに秋を感じます (美惠)
詩的な句です。多分景色に魅了され予定外の場所に降りひとり詩人の気分で見知らぬ街を。(郁文)
映画やテレビの一齣の様な情景。初秋の街。旅愁が深まる美しい句。(はま子)
孝子
秋天へシンバルの一打鼓笛隊 三好 万記子
秋晴れのなか鼓笛隊がまさに動き出そうとしている。シンバルの一打が空に向かって大きく響く。景が目に見えるようだ。(光男)
鼓笛隊の明るい躍動感が、秋空の高さを際立たせますね。(ユリ子)
雨上がり待ちて一気に草むしり 片山 孝子
雨上がりの草むしりは、はかどります。(智子)
草ひばり庭に小さなビオトープ 郁文
小さな生態系のビオトープを訪れた草雲雀。もちろんフィリリという鳴き声もこの小さな世界の一部だ。(ゆかり)
日記
ひと月を病んで過ごして吾亦紅 森野 美穂
猛暑の中、コロナ自宅療養となった身には実感、共感。吾亦紅の柔らかさが心に沁みます。(博子)
日記
葡萄酒を注ぎ足す梨のコンポート 榑林 匠子
久丹子
天平の塔を押し上げ蓮の花 今井 温子
平赤絵さんの「五重塔ぺしゃんこに熨しあめんぼう」を想起させました。(国勇)
礼子
鳳仙花この先行き止まりの空 石川 由紀子
鳳仙花は大人になったらもう遊ばない花。この先行き止まりの空とは何とも複雑な心境です。(玲子)
放射能汚染の風評桃熟るる 荒川 勢津子
福島の桃はおいしいのですが、風評被害で売れ行きに影響が出ている。その無念さが伝わってくる。(光男)
襟足に来てゐる秋や今朝の風 岡部 博行
秋の訪れを襟足に感じたところがよいです。残暑の後の秋風を気持ちよく感じている作者が見えてきます。(相・恵美子)
那智子
僕一番と競ふ西瓜の種飛ばし 原 道代
種飛ばしは楽しそう!(智子)
立山や抱く連山稲の露 阿部 旭
楓、勢津子
比企谷のおさなの墓に雨の萩 佐藤 博子
鎌倉の埋もれた歴史が甦った。「雨の萩」が効果的。(憲史)
夏草や昔ベンツの駐車場 中村 光男
蕉翁の名句の現代版か (肇)
「夏草や」から夢のあとを連想させて上手い。昔は羽振りよかったのにね・・・という含みがある。(ゆかり)
木歩忌や非常対策回覧板 荒川 勢津子
順一
うつし世の闇にいざなふ虫のこゑ 垣内 孝雄
夏江
葡萄摘む銀の鋏の音髙し 永井 玲子
澄み切った秋空に響く。銀の鋏がよかった。(佳久子)
活けてよりさびしさの増す萩の花 斎川 玲奈
萩の花を庭や野山で見るときは、美しさの中に力強さを感じるのに、活けられた萩にはだんだんとさびしさを感じてしまう。繊細な感性に共感します。(澄江)
尚、眞登美
落雷や庭に大きな下駄の跡 永井 玲子
落雷後の庭に残った下駄跡はひとつの発見です。「大きな」にポイントがあります。(相・恵美子)
庭に出ていたら雷が落ちてきた。ビックリして座敷に飛び込んだ。その様子が大きな下駄の跡をいう言葉で上手く表されている。(光男)
無言館ほつほつ語る赤カンナ 金子 正治
無言の語り外はカンナが燃えるよう胸の内がカンナで言い表していそう(みつ子)
無言館 ほつほつ 赤カンナ どれも無言館 (美惠)
長野の無言館では、絵画を残して戦没した若者の吐息に花カンナの赤が寄り添っている。(茂喜)
戦没者の追悼施設でぼつぼつ語る、赤かんなの熱き思いが伝わってきます。(博美)
戦没画学生の見せたい絵とは?「赤カンナ」が語っている。「ほつほつ」と!(憲史)
由紀子
ごきかぶり視界の端に留守居の夜 宮川 陽子
ム、ム、出たな、、、、こっちが一人だと思って舐めるなよ!古新聞を丸めて、待ち構えてやる。(志昴女)
尚
月光や樹影は揺れて海に落つ 妹尾 茂喜
綺麗な句です。写生がよくできています。(芳彦)
天上はお花畑の咲きほこる 齋藤 みつ子
臨死経験者より「花畑を見た」と聞く。(孝雄)
正明
書き終へし写経一巻大西日 今井 温子
黙々と写経お疲れ様西日が疲れた様子が出ています(みつ子)
季語がいい。西方浄土を向く満願の顔を照らす入日。一巻を写経していた時間の経過も感じられる。(ゆかり)
てつお
九月来るこのメランコリー何処より 金子 肇
今まさにこんな心境です。ホントに何処から来るのでしょう。(玲子)
秋の日やフルーティストの深呼吸 榑林 匠子
フルーティストの演奏前の気持ちや澄んだ音色が秋の日に合っていると思いました。(美穂)
長き夜や若き父母ゐる家族写真 中川 手鞠
机上の家族写真を見ると、父母の微笑はわたしよりもはるかに若く、夜長は人生の鏡だと思う。(茂喜)
道代
仁王像の腕の毀れや小鳥来る 斎川 玲奈
史子、手鞠
秋気澄む木偶の首(かしら)の睨みかな 合田 憲史
那智子
農小屋の屋根より垂るる大南瓜 相沢 恵美子
カボチャは逞しい、場所を選ばず、姿も選ばず。飢えを助けてくれた時もあった有難い食べ物です。遊びには使いたくない。(志昴女)
てつお、順一
啄木の教へし学校赤とんぼ 荒木 那智子
正明、直幸
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