天為ネット句会報2022年10月

 

天為インターネット句会2022年10月分選句結果

 ※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。
  また互選句は句稿番号順に並べております。

  <福永法弘同人会会長選 特選句>

三日月や玉鋼生む奥出雲               冨士原 博美

尼子の遺臣山中鹿之助は「我に七難八苦を与えたまえ」と三日月に祈ったという。奥出雲は尼子の旧領であり、たたら製鉄による玉鋼の産地であり、鹿の角と三日月の兜が凛々しい山中鹿之助の活躍した地だ。(法弘)

玉鋼から鍛造される日本刀の鋭利さと三日月の角の鋭さが響きあう。取合せの妙。(博行)

八岐大蛇から草薙剣が現れた奥出雲の地。心的・美的に昇華された刀剣の原点ですね。季語も措辞も美しいです。(博子)

天高し笛吹川の聖牛                 土屋 尚

聖牛(ひじりうし)は蛇腹に石を詰め込む昔ながらの護岸工事の工法。コンクリートで塗り固めるのではなく、自然に優しい工法で、最近また見直されている。武田信玄が創案し、笛吹川での工事がその始まりとされる。天高しの季語が心地良い。(法弘)

  <福永法弘同人会会長選 入選句>

光年てふ星のまたたき朗人の忌             垣内 孝雄

もうすぐ、朗人先生の三回忌だ。(法弘)

心にしみる一句です。探す星がひとつ増えました。(博子)

紀美子、三枝子、勢津子、手鞠、百り子、澄江

地蔵会のお辞儀綺麗な床屋の子             たかほ

地蔵盆は子供のための行事だ。京都ではまだあちこちで行われている。床屋の子はきっと、襟足もきれいに刈上げているのだろう。 (法弘)

中7の表現が効いています。床屋の子なので髪型も綺麗に整っているように思われます。(相・恵美子)

香誉子、日記

穴多き縄文土偶の秋意かな               阿部 旭

縄文土偶穴を風が吹くと音がする。それを秋意と感じたのだ。「穴多き」という把握が鋭い。 (法弘)

穴の多い縄文の土偶に「秋思」といわれると急に親しみが湧いてくる。(桂一)

正明

夭折の幸恵の手記や鮭遡上               竹田 正明

知里幸恵はアイヌの少女。「アイヌ神謡集」一冊を残して夭折した。まるで、その本を著すためだけに神がこの世に遣わしたかのごとくに。そして今年も、アイヌの大地北海道の川を鮭が遡上する。 (法弘)

「アイヌ神謡集」知里幸恵19歳命がけの手記。鮭の遡上も壮絶です。(玲子)

日記

子規の忌や墓碑に「月給四十圓」            芥 ゆかり

今の価値に直すとどれくらいだろうと、つい思う。 (法弘)

玲子、道代

終活は遅遅とし釣瓶落としかな             金子 肇

終活。残されたものに迷惑をかけないという心遣いだが、遅々として進まない。なのに秋の落暉は早い。 (法弘)

正明 、久丹子

台風の夜も夜更かしを許されず             芥 ゆかり

布団に入ったとて、どうせ興奮して眠れないのに。 (法弘)

台風の夜は、木の雨戸を閉め切って廊下の水を拭くのが楽しいイベントでした。時代は変わったのでしょうか。ちょっと寂しいような。(恭子)

奉るものに俳句も秋例祭                榑林 匠子

しっかりと伝統の一角を支えている。 (法弘)

玲子

元興寺の浮図田の闇残る虫               河野 伊葉

元興寺は飛鳥時代に起源をもつ奈良でも屈指の古刹。昭和の終わり頃、庭園整備のため石仏・石塔を集めて作った庭が浮図田(ふとでん)。その数2500基余。それぞれの石仏・石塔は当初、様々な思いを込めて作られたのだろうが、今はそれを知る由もなく、虫が鳴く深い闇の中に眠る。 (法弘)

那智子

爽籟や剣鉾祀る粟田口                 佐藤 博子

秋風涼しい10月8日から15日まで、粟田神社の大祭が行われる。私はすぐ近くに住んでおり、剣鉾の響きには何とも言えぬ床しさを覚える。コロナ禍で2年間休止していたが、今年は3年ぶりに剣鉾と大灯呂の巡行、そして神輿渡御も復活する。(これを書いているのは10月7日) (法弘)

 <互 選 句>

平穏な日々莢隠元の筋を引く              中川 手鞠

句が簡潔で美しい(隆夫)

木皿行き渡らぬ子にも下り鮎              町田 博嗣

美穂

手折りたる草一本に秋思あり              明隅 礼子

季語「秋思」を巧く捉えている(隆夫)

弔鐘や薔薇窓よぎるロビンたち             斎川 玲奈

百り子

打水や身振り手振りの道案内              宮川 陽子

美穂

雄鶏の鶏冠が遊ぶ鶏頭花                松山 芳彦

鶏頭の咲いている中鶏冠が動き回っている。面白い情景が上手く描き出されている。 (光男)

居並ぶは素陶の狸草紅葉                今井 温子

旅に出会った土産物の狸であろうか、信楽の草紅葉を想う。(孝雄)

そぞろ寒手擦れの遠野物語               合田 智子

句またがりより「遠野物語」が強調され、「願わくはこれを語りて平地人を戦慄せしめよ」と。(国勇)

博嗣、史子、尚

溶岩且て炎なりしよ曼珠沙華              早川 恵美子

澄江、玲奈

秋霖に洗われてゐるペテロ像              森山 ユリ子

陽子

奉納の稲穂溢れて村歌舞伎               斎川 玲奈

汗の結晶の実りの稲穂。その喜びを村人達が折詰弁当に舌鼓みながら村歌舞伎を堪能している景が。(郁文)

季語が相応しく村歌舞伎の様子を上手く詠んでいます。(相・恵美子)

豊の秋。歌舞伎を演じる村人も喜ぶでしょう。(肇)

豊年を感謝しての村総出の村歌舞伎の景が見えます。(智子)

直幸、春野、礼子

木々の枝垂直に伸ぶ良夜かな              森野 美穂

うす暗い中の樹木に目をやれば幽玄にもつながる木々のすがた、その寂然たる景に引き込まれてゆくまさに秋の夜ですね。(伊葉)

芒野の白一色の雨後の朝                美惠

芒野の白一色としたところが美しい。雨後の朝と結んだところが良い。(芳彦)

曼珠沙華燃え立つメール転送す             荒川 勢津子

M音が心地良い響き。よく見る景(写真転送)を旨く句にしてます。(たかほ)

「燃え立つメール」が想像を絶する表現で思いが尽きない。(憲史)

「燃えたつメール」が印象的。功を奏していると思います。(ユリ子)

故郷の川に戻りて鮭撲たる               熊谷 佳久子

折角故郷にもどってきたのにそこで打たれて捕獲されてしまう。考えてみれば酷い、悲しいことですね。そういうことを思わされました。(光男)

尚、香誉子

花ほめてくれる人をり秋うらら             煎本 美知子

褒めてくれる人はうれしい。「秋うらら」ですね。(ユリ子)

秋澄めり月美しと訳す文                永井 玲子

秋の夜の空気を”月美し”と訳したのでしょうか。澄んだ夜空を思いますね。どんな言葉だったのかな。(志昴女)

ユーミンを口ずさむ母金木犀              野口 日記

はま子

リス走り来て右顧左眄木の実降る            森山 ユリ子

順一

居待月ほろ酔い気分で辿る道              児島 春野

山頭火を思い出しますね、季語も良いです(貞郎)

流星に山河は深き闇添はす               岡部 博行

陽子、手鞠、早・恵美子

そぞろ寒義理一遍の通夜の席              てつお

これぞまさに「そぞろ寒」という状況。(博行)

尼寺の名を冠に走り蕎麦                今井 温子

尼寺がいいですね。何という名前か気になります。(博嗣)

万葉の野は万葉の色草紅葉               合田 憲史

草紅葉の色を想像しています(夏江)

大らかに閑に謳っておられます(温子)

曹操の悪人面や菊人形                 中村 光男

曹操はどうしても悪玉と見做されがち。近年の再評価でそのうち温和顔の菊人形曹操も出てくるかも。(ゆかり)

曹操の菊人形とは珍しい。悪人面と感じてしまったのですね。(佳久子)

生身の人間よりもっとずっと悪人顔の曹操さん。(春野)

玲奈、旭、直幸、匠子、那智子、礼子

秋晴や水差しナポリ湾の青               荒木 那智子

秋晴れの空の青とナポリの海の青が呼応して、色彩が美しい。(ユリ子)

はま子

髪靡くツーリングの列秋の空              宮川 陽子

上5が効いていてツールリングの颯爽とした景が見えて来ます。(相・恵美子)

蜩や母の甘めの混ぜご飯                永井 玲子

真弓

萩こぼる対馬倭館に密書あり              内村 恭子

国境の島。「萩こぼる」と「密書」の取り合わせがその時代をあらゆる意味で深めている。(憲史)

立哉、夏江、真弓

ぶだう棚ベスビオ山の麓まで              荒木 那智子

田のなかの分校の鐘野わき晴              三好 万記子

美穂

秋風や玉の小櫛の物語                 松山 芳彦

早・恵美子

ひぐらしや介護の母にうす涙              郁文

介護を受けるお母様もつらいのでしょう。感謝の気持ちと共にその辛い気持ちがうす涙となっている。季語が効いていますね。(光男)

澄江、正明

甘柿の枝のたわわに去来の忌              髙橋 紀美子

眞登美、楓

天井の梁に部屋持つ秋蚕かな              須田 真弓

蚕飼いが盛んの頃は、家の中の利用できるところはみんな回小部屋になっていた。その歴史を天井の梁が語り継いでいる。(桂一)

立派な梁に、空調の利いた快適なお蚕さんのお部屋があるのでしょう。その中で、もぞもぞと動いているお蚕さんが想像できます。(郁文)

かなかなや最後のこゑの聞きとれず           小栗 百り子

礼子、道代、久丹子

雁鳴くや曹操の陣帆を連ね               劉 国勇

紀美子

菊日和修学旅行騒ぎ来る                直幸

立哉

島風の俄かにほてり鷹渡る               佐藤 博子

季語との因果はないのかもしれないが、鷹が渡っていくとき風が熱を持ったと感じた感覚が好き。(ゆかり)

風のほてりに鷹の飛翔が見える。(孝雄)

由紀子、順一

六朝の筆太二文字秋高し                相沢 恵美子

楷書で分かりやすくすっきりとした2文字が季語にピッタリです。(博美)

星月夜今宵の宿の道標                 合田 智子

きっとしっとりとした落ち着いた宿でしょう。(博美)

小兵よく大兵転がす草相撲               阿部 旭

柔良く豪を制すとは日本武道の極意です、なかなか良い句ですね、季語「草相撲」が効いています、(貞郎)

”転がす”の表現が明るい相撲を想起させます。(伊葉)

彼岸花紅白咲いてやや不吉               児島 春野

やや不吉、と下五をおさめたところが、紅白にしては意外性、彼岸花としては納得、ととれて面白いと思いました。(恭子)

香誉子

コスモスの庭のアフターヌーンティー          石川 由紀子

コスモスの庭を前に午後ティーを楽しんでいる。品よく”優美””上品”が醸し出されて”ピンク”と”白”のコスモスが浮きだっているよう。(憲史)

ハンドルの両側に飛ぶ芒原               泰山木

迫力が「ハンドル」の一言に集約。(国勇)

蔵書印の赤き父の名夜長し               髙橋 紀美子

本の目立つ蔵書印から、父のことを思い出し懐かしんでいる、しみじみとした句です。(山口眞登美)

お父様の朱印の残る蔵書大切になさって下さい(温子)

父上の蔵書に押された朱肉の印影から思い出されることは尽きない、そんな夜だったでしょうか(律子)

博美

白萩やほどよき風を引き寄せり             佐藤 律子

萩と風との絶妙な景です。(智子)

指先をひしとつかみし蜻蛉かな             大杉 鐵男

自然に溶けこんだ作者の姿。蜻蛉も安らいでいることでしょう。(博子)

桃吹くや長き貨車行く地平線              早川 恵美子

綿の実が破裂して白い綿が噴き出す。見渡せば天地の境を黒い貨車が音立てて通り過ぎる。(茂喜)

棉の開花と米の南部の景が旨くマッチしてます。(たかほ)

遠くに見える地平線に向かって 綿の実が開く広大な畑の中を長く連なった貨車が・・・    (美惠)

万記子、三枝子

曼珠沙華五百羅漢の赤き帽               小栗 百り子

500人の羅漢像、仏につかえた弟子500人の像。曼殊沙華の群生に赤帽の像を見つけた。(茂喜)

五百羅漢の赤い帽 季語ぴったりです   (美惠)

直幸

月鈴子鎌倉谷戸の闇深し                鈴木 楓

季語「鈴虫」と「鎌倉八戸の闇」の取合せの妙(隆夫)

紀美子

二歳児の大言壮語芋煮会                劉 国勇

どんな大言壮語を吐いたのか?(笑)楽しいですね。二歳の子どもが言うことは何でもいいな!!(志昴女)

日記、今日水

つい本音零れてしまう星月夜              冨士原 博美

あまりに美しい夜空に本音がポロリ!口も軽やかに。(智子)

万記子

秋海棠育てし人は雲の上                妹尾 茂喜

正岡子規の句に「病床に秋海棠を描きけり」があるが、ほんとに育てたのでしょう。(芳彦)

中休み席に置かれし秋扇                郁文

観劇の「景」であろうか。席をたたれた証としての秋扇、佇まいを感じる句。(孝雄)

史子、勢津子

みちのくといふは此処より猿酒             明隅 礼子

猿酒(ましらざけ)の季語がピタリ決まってます。(たかほ)

みちのくと猿酒のイメージはよく響きあっていると感じました。(万記子)

猿酒の季語が効いていると思います(早・恵美子)

みちのくのカナ表記、猿酒という季語が句により奥行きを感じさせると思いました(律子)

眞登美、三枝子、那智子

みほとけの思惟の指先ちさき秋             石川 由紀子

阿弥陀仏の思惟の指先に小さな秋を見付けたというところが面白い。(芳彦)

指先を詠まれた所がよかった。(佳久子)

史子、楓、はま子

鵙の声一泊二日の旅支度                榑林 匠子

鵙が鳴き始めるのころの空は深くきれいですね 旅心をそそります。旅は一泊二日が・・・   (美惠)

良き秋の日や鍵かけて確かめて             山口 眞登美

勢津子、今日水

仏像の画像診断水澄めり                内村 恭子

仏像を画像診断する時代になった。仏道の価値を見分ける角度がすっかり変わってしまった。(桂一)

玲奈

温度差のほどよき人と走り蕎麦             美惠

こんな人と食べる蕎麦は本当に美味。(眞五)

そば好き同士なのでしょうか。またさらに走りそばとは・・・共に初物を味わえる幸せ感が伝わってくるようです。(伊葉)

人間関係を温度差と表現したところが面白い。新そばが美味しそう。(肇)

今日水

まほろばの明日香の里や虫すだく            浅井 貞郎

夏江

山道に熟し人待つ柿の秋                片山 孝子

柿が赤くなると医者が青くなる。(眞五)

図書館は休みであった九月尽              石川 順一

匠子

釣果などさて置き今日の秋の空             てつお

自然の中で秋晴れの爽快感。(眞五)

ははあ、釣れなかったな、、、、やせ我慢だなぁ。でも天高し、ひっくり返って空を見よう!(志昴女)

秋空賛歌。負け惜しみが微笑ましい。(肇)

同感です。秋の空には心を広げる力がありますね。(春野)

澄み渡る秋空が作者の解き放たれ自足している心境を表象している。読んで心地よくなる句。(博行)

今日という日は釣りの成果より何より秋の空の気持ち良さが一番、そんな日はありますね。共鳴いたします(律子)

陽子

閉店の貼り紙「無念」牽牛花              泰山木

無念の二文字が全てを語っている。地元にも愛された店だったのだろう。(ゆかり)

どんな理由で閉店したのか。オーナーの惜しさがひしひしと伝わってきます。(郁文)

匠子

萩しだる社にカフェの長暖簾              佐藤 律子

博嗣

蕎麦の花こんなに群れてゐてしづか           岡部 博行

立哉、由紀子、久丹子

秋澄むや森の奥からブラームス             中村 光男

ブラームスの重々しい曲ではなく、澄み切った曲が聞こえてきたようす。いいですね。(佳久子)

順一

満月に絡繰り人形飛び出して              牧野 桂一

月の光の中に飛び出した人形の影が動き出す。満月の夜のメルヘンの世界(百り子)

秋鯖を煮付けに請ふる母の家              垣内 孝雄

コロナ禍ながら帰郷して、母の誕生日を祝う。今夜は何にする?と問う、鯖がいい!という。(茂喜)

友白髪あと幾たびの名月ぞ               嶋田 夏江

自分も含めての実感です、季語「名月」が効いています、(貞郎)

あと幾たび仲間と旅が吟行ができるのかと今の自分と重ねました。(道代)

砂糖黍かみかみ白き歯の来たる             土屋 尚

真弓

人類は絶滅危惧種おけら鳴く              竹田 正明

「核戦争で人類が絶滅する」と地の底から聞こえてくる。(国勇)

絶滅危惧種、というとウォーホールの連作を思い出しますが、自分達がその中に入ることになるとは。昨今の気候の荒さは地球からの警告でしょう。(恭子)

いつの日かそんな事になるのでしょうか(温子)

由紀子、手鞠

以上

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