天為ネット句会報2022年12月

 

天為インターネット句会2022年12月分選句結果

 ※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。
  また互選句は句稿番号順に並べております。

  <福永法弘同人会会長選 特選句>

試験管の様子見にゆく霜柱               内村 恭子

結果が気になり、朝早くから霜柱を踏んで、実験室に出かけていく。 (法弘)

検査・実験をしておられるのかな。ひたむきな姿勢が伺えます。(孝雄)

非常に人物がよく見える句。試験管と霜柱の取り合わせもうまく呼応している。(ゆかり)

ムム、試験管で何を育てているのでしょうか。気になる一句。(志昴女)

博嗣

宮跡や恋争ひし山眠る                 佐藤 博子

たぶん、藤原京だろう。恋を争ったのは香具山、畝傍山、耳成山の大和三山。神代も古も、そして今も、男と女がいる限り恋の争いは絶えない(と、中大兄皇子は長歌に詠んだ)。(法弘)

  <福永法弘同人会会長選 入選句>

吉原は地図より消えて冬柳               西脇 はま子

かなり以前、東武線の駅名から「玉ノ井」というのが消える際の論争を思い出した。やはり遊郭は負の遺産ということか。しかし、吉原の名は消えても、「吉原大門」の名はバス停に残る。(法弘)

吉原大門へ行く道筋の柳並木。地名は地図から消えたけれど柳はまだ残り。しかし冬の柳は寂しく。(郁文)

今はなき吉原に冬柳がぴったり (典子)

季語の冬柳が効いていますね。(光男)

賑やかだった吉原は今はない。冬柳の季語がいいですね。(智子)

立哉、香誉子、手鞠

冬日影蕪村俳画の竹箒                 武井 典子

冬日影と竹箒という取り合わせが興趣をそそる。そして間を、蕪村の俳画が取り持っている。 (法弘)

楓 、芳彦、史子、手鞠、美穂

牛舎より白衣の上の皮ジャンバー            荒木 那智子

獣医さんか。 (法弘)

獣医さんの白い息が・・・母子とも元気ですか (美惠)

北海道でしょうか。皮ジャンパーで寒さが伝わってきます。(光男)

牛の出産を無事終えた獣医だろうか。獣医の吐く白い息と生まれたばかりの仔牛から立ち上る湯気が冬の日に煌く様が見えるようだ。(博行)

匠子

野良猫にはじめての冬来たりけり            上脇 立哉

鷹羽狩行に<まだ知らぬこの世の寒さ乳を欲る>があるが、大事に育てられるヒトと違って、おっぽり出された野良の子猫には、初めての冬の寒さは辛かろう。 (法弘)

厳しい冬を乗り越えられるだろうかと心配している気持ちが伝わってきます。(博美)

尚、香誉子

歩を延ばす知らぬ小路の冬ざくら            荒川 勢津子

一日一万歩が有馬先生の日課だった。足りないと、雨でも夜遅くても歩いておられた。旅先などで、見知らぬ路地を歩くのは、何かしらの発見があって面白い。冬ざくらを見つければそれだけで幸せ気分。 (法弘)

気が付けば白い小ぶりの冬桜、つい付いていきたくなります。(博美)

冬ざくらに誘われていつもの散歩道を少し寄り道もいいですね。(智子)

孝子

おでん酒頭上に響く山手線               金子 肇

新橋駅あたりのガード下か。サラリーマンの哀歓が漂う。 (法弘)

有楽町のガード下か。電車の通過する音に負けじと大きな声を張り上げ飲んだものだ。今も残る昭和の1頁。(郁文)

新橋のガードの下だろうか。懐かしい情景だ。新橋横浜間の鉄道開通百五十年へのオマージュになっている。(博行)

刈込みの庭師一服四温光                合田 智子

庭師の仕事はなかなかはかどらない。ちょっと剪っては眺め、そしてまたちょっと剪っては眺める。 (法弘)

史子、旭

藁塚や鳥海山を遠に見て                熊谷 佳久子

秋田県と山形県にまたがる鳥海山。収穫の終わった後の農村の風景。日本のふるさとがここにある。 (法弘)

眞登美、那智子

シーサーは口大にして神迎               今井 温子

口を大にはしているが、怖くはない。 (法弘)

陽子

空町の雲の低きに根深干す               染葉 三枝子

東京スカイツリーの中の店舗群を空町と呼ぶらしいが、この句の空町は、そことは違って、日本のどこかに昔からある空町という町だろう。名前から受ける印象と地に着いた生活感とのギャップが面白い。 (法弘)

道代

傷み初む冬の薔薇に王妃の名              てつお

さて、どんな名前だろう。マリー・アントワネットか、マリア・テレジアか。 (法弘)

心中の跡の石碑や紅葉散る               岡崎 志昴女

「冥土の飛脚」の舞台の一つ、新口村に最近行った。今は訪れる人はほとんどないが、忠兵衛と梅川の碑が立っている。忠兵衛二十四歳。梅川はまだ二十歳前。 (法弘)

 <互 選 句>

凩やトースト固きモーニング              森野 美穂

季語でトーストが固いことが強調され、作者が戸惑っている様子が感じられます。(相・恵美子)

立哉、日記、手鞠

校門の午後の閑けしクリスマス             田村 今日水

いつも賑やかな帰りの校門も今日はクリスマスを迎える。なんとなく、穏やかにゆったりとした心持ちを感じる校門です。(百り子)

朝のミサが終わったミッションスクール。降誕を祝うそれぞれの午後からの時間・・。(博子)

水子地蔵千体抱へ山眠る                石川 由紀子

日記、美穂、順一

河豚鍋に躙り寄りたる膝頭               たかほ

「踊り寄る」というのが河豚のうまさを知っている人の表現だと思った。(桂一)

月朱し沈没船のものがたり               斎川 玲奈

オホーツク海に沈んだ船は引き上げられたが、今も海底に人が残る。秋の月が悲しい。(茂喜)

立哉

歳月を待たぬさよなら芒散る              木村 史子

今日水

二冊目の断捨離の本神無月               野口 日記

神様が留守の間に断捨離をと思ったが、なかなか思い切れない。もう一冊本を読んで・・・。(肇)

野も山も歌枕なり古都時雨               日根 美惠

その通りと思う(眞五)

どこを切り取っても美しい街がある。それを「どこも歌枕」と表現したのが上手い。季語も風情を支える。(ゆかり)

詩歌の原風景。古都時雨を想像して美しい。(博子)

古都のしぐれはすべて詩。(ユリ子)

伊葉、由紀子、紀美子、史子、正明、百り子

笛の音にはじける舞や里神楽              井上 澄江

この時期は至る所で里神楽(眞五)

中七の形容詞「はじける」良いです。景が浮かびます。(たかほ)

春野、道代

埴輪兎尻にひびあり寒波来る              原 道代

尻のひびは発見ですね。季語が相応しいです。(相・恵美子)

埴輪の兎があるのですね。少々ユーモラスでもある尻の罅は寒波のせい? (典子)

風生まれ枯れ葉の滑る鏡池               荒川 勢津子

美穂

水やへは飛び石づたい石蕗の花             高島 郁文

伊葉

時雨るる夜エンドロールは最後まで           石川 由紀子

夏江

風立ちて北斗を磨く聖夜餐               早川 恵美子

中七の「北斗を磨く」がいいですね。(たかほ)

やはらかき雨音を聞く冬はじめ             嶋田 夏江

「冬はじめ」と「やはらかき雨」と合っているような感じはあります。「やはらかい」と聞えないかもしれません。(山口眞登美)

しとしとと降る雨音に雨の冷たさを感じたのでしょう。過ぎ行く秋を惜しみながらこれから来る冬の寒さへの静かな思いを感じます。(澄江)

正明

寒星のひとつを朗人星と決め              髙橋 紀美子

12月6日の空を仰ぐ。数ある星座の中のひときわ光るあの星を朗人星と決めた。(茂喜)

12月です。有馬先生の忌日です。見上げれば夜空には先生の星。(志昴女)

大気の澄む天空におられる朗人先生はいつまでも私達を見守っていて下さる。(憲史)

孝子

風吹くを待たずきらきら柳散る             土屋 尚

勢津子

冬青空航跡が描かれゆく                山口 眞登美

久丹子

朗人忌の天空統ぶる星一つ               早川 恵美子

玲奈

朗人忌や会いたきときはあの橋に            妹尾 茂喜

こんな橋を持っていたいです (美惠)

12月。どうしても亡き師に思いが行ってしまいます。(志昴女)

順一

銀杏羽を光らせ鴛鴦の身つくろひ            髙橋 紀美子

たかほ、尚、はま子

焼藷を妻につきあふ午後のお茶             金子 肇

作者が奥様を思いやる気持ちがよくわかります。季語の焼藷がより温かくしてくれます。(道代)

故郷の墓仕舞ひせむ烏瓜                井上 澄江

故郷の「墓仕舞」を決断なさった作者。烏瓜の佇まいが句を深める。(孝雄)

赤く鮮やかな烏瓜はいずれ忘れ去られる、墓仕舞いと響きあっています。 (博美)

夏江、勢津子

きらめいて昔に戻る冬の海               上脇 立哉

礼子

指呼一声して鉄道員(ぽっぽや)の冬帽子        合田 憲史

雪の中に立つ高倉健さんですね。(春野)

浅田次郎の小説、高倉健の映画のぽっぽやは、無人駅でも点呼をかかしません。北国のぽっぽやに冬帽子は必需品。 (典子)

裏高尾道すじ静かなめこ汁               高島 郁文

駅ピアノよりきよしこの夜クリスマス          中川 手鞠

「きよしこの夜」のピアノのメロディーに帰路を急ぐ人たちが癒しを感じている、そんなクリスマスの駅の風景が素敵です。(澄江)

久丹子、陽子

全身で冬至南瓜を切る夕べ               片山 孝子

南瓜を切るのには本当に力が要ります。「全身で」に実感があります。(肇)

玲子

紅葉きほふ風を誘ふや神楽笛              妹尾 茂喜

紀美子

冬の虻葉に止まれねば上昇し              石川 順一

「上昇」という言葉に、それが虻の意思でなくもはや身を風に任せている憐れさを感じる。(ゆかり)

春は蜜をたっぷり吸って重たげに飛ぶ虻。それに引き換え何と儚げなこと。(博子)

黒土に落ちるかひとつ雪蛍               土屋 香誉子

寂とした水墨画を見てゐるようです(早・恵美子)

天井に染のある宿薬喰                 宮川 陽子

近頃、田舎のオーベルジュのジビエも人気ですが、これはどちらかというとマタギ料理でしょうか。「染」が効いています。(恭子)

眞登美、那智子、礼子

酒醸す越の櫂唄冬銀河                 斎川 玲奈

「越の櫂唄」が聞こえて来るようです。(てつお)

楓、由紀子、真弓、那智子、三枝子、旭

空飛べぬ絨毯もあり寝転がる              芥 ゆかり

絨毯のデフォルトが空を飛べることである、と思わせるのが愉快です。(恭子)

笹鳴のこれより宮内庁管理               合田 憲史

鶯は全ての者を差別しません、たとえ宮内庁であっても。自然の自然たるゆえん。(桂一)

美しい声は、やはり厳重に管理された自然の中にあるようです。(恭子)

博嗣

濁声の糶場に響き河豚売らる              内村 恭子

「濁声」の一語が、その場の雰囲気を彷彿とさせます。(てつお)

冬の風物詩の河豚鍋。活気のある市場の景が見えます。(智子)

久丹子、玲奈

炉開の客となる帯ぽんと打つ              今井 温子

下五で、炉開きに出る緊張感が伝わってきます。(光男)

炉開の茶席に正客として招かれたのだろうか。気を引き締めている姿が浮かぶ。句またがりのリズムが作者の心の弾みと呼応している。(博行)

今日水、匠子

絨毯に犬と子のゐる平和かな              土屋 尚

平和のありがたさを思います(夏江)

平和の有難味をつくづく思います。(泰山木)

ウクライナの現実と比較して日本は、もっとあらゆる面で支援せねば!(憲史)

納屋薄日冬至南瓜の転がりぬ              片山 孝子

薄い日が差し込んでいて立派な形の南瓜が浮かびます。(伊葉)

それぞれや暮らしの色の冬灯              てつお

早く暮れる冬場は灯す時間も長く、また灯火の色合いもさまざま。それを暮らしの色と表現されているのがいいです(律子)

冬ざれの街ひつそりと脱皮する             小髙 久丹子

旧習や古い考え方から街がそしてそこに住む私達が少しづつ変化を!(憲史)

手のひらの包む時禱書冬はじめ             榑林 匠子

真弓

橋架けて御苑は深し石蕗あかり             河野 伊葉

博嗣

寺の朝冴ゆる音して竹箒                武井 典子

寒そうですが、気持ちの良い音。(春野)

山里の満を持したる冬構                児島 春野

厳しい冬を迎える覚悟を感じました。(泰山木)

今日水

ひょんの笛吹けば昭和の風の音             浅井 貞郎

ひょんの笛を吹いてみたら、懐かしい、そう風の音もこんなでした。昭和への作者の感慨です。(百り子)

芳彦、真弓

不登校青き木の実を転がして              牧野 桂一

青き木の実を転がす が不登校にぴったり (美惠)

登校できずに悶々としている子の心情を「青き木の実を転がして」が上手く捉えていて、その子の表情まで浮かびます。(てつお)

匠子、三枝子

歳晩や団十郎のひと睨み                泰山木

「団十郎のひと睨み」、睨みを利かせたい昨今ですね。(孝雄)

朴落葉しがらみすべて一枚に              佐藤 律子

人間関係のしがらみは大きな風呂敷が必要では?朴葉で事足りればありがたいところ。(郁文)

まとわりついたしがらみを朴落葉一枚に託してさらりと。(泰山木)

紀美子、順一

絹糸の抜く音さやか春著縫う              日根 美惠

中7が絹糸に相応しい表現です。春著も綺麗に仕上がった様子が感じられます。(相・恵美子)

玲子、玲奈

橋の石数へて渡る小春かな               阿部 旭

小春日和の日には、このように・・・心のゆとりが感じられた。(佳久子)

隕石の落とし子なるやかりんの実            中村 光男

確かに「かりんの実」には隕石の風格があります。いわれてみてなるほど(桂一)

春先の愛らしく咲くピンクの花からは想像もつかないかりんの実、隕石の落とし子とは面白いです(律子)

陽子

十二月恩師に捧ぐるレクイエム             松山 芳彦

恩師に捧げる鎮魂歌(眞五)

ひょとしてモーツアルトのレクイエムかな(貞郎)

ともにレクイエムを捧げたいと思います。(ユリ子)

先生への感謝の気持ちはますます深くなるばかりです。(澄江)

墨蹟に喝の一文字年の果て               泰山木

由紀子

銀杏散るゼウスの降らす金の雨             小栗 百り子

ゼウスが降らしているとの思いが伝わりました。(佳久子)

神様が降らす金の雨だったのですね。素敵です(早・恵美子)

芳彦

霊峰の富士に棚雲枯芒                 鈴木 楓

名画を見るような句ですね(貞郎)

わたしも先日、車窓より見とれました。棚雲を頂いて、白き富士は美しかった。(ユリ子)

天国の鍵の紋章冬北斗                 芥 ゆかり

言われてみると北斗星は鍵の形にも見える。それを「天国の鍵の紋章」と言い切った妙。(肇)

知らなかった!昇天する楽しみが増えました!(早・恵美子)

はま子

ふんはりと万の思ひ出師走来る             齋藤 みつ子

正明 、日記

籠り居の窓辺日毎のシクラメン             森山 ユリ子

窓辺のシクラメンが日毎に花を咲かせ籠り居に日々エールを送ってくれているかのよう(律子)

孝子

寒卵割つて弾める黄身ふたつ              相沢 恵美子

寒卵をこつこつと割った。何と黄身がふたつ、ラッキーとつぶやく。滋養を分け合おう。(茂喜)

黄身が二つも、とても元気の出る俳句でした。(佳久子)

いかにも美味しそうですね(貞郎)

玲子、礼子

寝返りてみても宿坊隙間風               熊谷 佳久子

香誉子、勢津子、三枝子、はま子

以上


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